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僕の腕の中でお眠り


 三日後。

 祈祷を終えて無理矢理夕食を詰め込み、早々に床についたアルマは、夜更けに最悪な気分で目を覚ました。


 吐き気とともに目覚め、なんとか寝返りをうって身体を俯向けにする。そのままベッドの中で夕食を吐き戻した。


 目が回る。

 胃の中にはもう何もないのに、何かを拒むように身体は嘔吐き続け、胃の底がぎりぎりと痛む。吐瀉物があまり臭くないので、おそらく胃が仕事をしていない。


 ひたすら耐えていると、だんだん吐き気が収まる。ぜいぜいと濁った呼吸を整えながら、なんとか上半身を持ち上げる。サイドテーブルに腕を伸ばして、手拭いを掴む。涙と鼻水と吐瀉物でぐちゃぐちゃの顔を震える手で拭った。


 ちょっとそんな予感がして用意してもらっていた桶が、活躍の場を失ってサイドテーブルの上で所在無さ気に鎮座している。シーツがびちゃびちゃだ。


 ―――このまま、寝るの、嫌だなぁ……


 誰かに片付けてほしいが、メイドを呼んでほしいと誰かに頼むことすら億劫だ。一刻も早く頭を枕に沈めたかった。


 ふと、ジグルドの寝室へ続く扉が目に入る。


 扉の向こうにいるきれいなベッドが、アルマを待っている気がする。


 よたよたと歩いて扉を開ける。目の前に佇む大きなベッドが、アルマを抱きしめるために両手を広げていた。整えられた枕たちがこっちへおいでと手招きしている。

 掛け布団の下に潜り込むと、柔らかな洗いたてのシーツが、優しく睡眠の許可をくれた。


 ほんのりと良い香りのする枕に頭を預ける。慣れ親しんだ中央神殿の祈祷室の香りに似ている。ゆっくりと眠気が戻ってくる。


 やっと人心地ついたアルマの耳に、反対側の扉の向こうから話し声が聞こえてきた。

 ジグルドとマークの声だ。

 扉が薄い。部屋と廊下を隔てる扉はそんなことないので、これは夫婦が扉越しに会話できるようにしているのだろう。


「ジグ。アルマ様に少し休むように言ってくれ。無理しているように見える」

「お前がそう判断したならお前が言え」

「俺が言ったって聞かないんだよ。今週だけのことだって」

「本人がやれると言うならやらせろ。今後の祈祷に影響がないかだけ確認しておけ」

「お前なぁ………」


 マークの呆れた溜め息。


「優しくしろよ。嫁さんだぞ。そんなだから夜も拒まれるんだよ」

「中央神殿に、祈祷の能力以外は問わないと言って譲り受けた祈祷師だ。私はアルマに祈祷以外のことは期待しない」

「そんなこと言ってたらずっとこのままだぞ。お前、子どもを作らない気か」

「祈祷は精神状態に左右されると聞いている。アルマが望まないなら作らない。別に、女に困ってるわけでもない」


 まあ、そらそうでしょうね。


 半分寝ている頭でアルマは相槌をうつ。


 ジグルドは超絶イケメンなので寧ろ女の方から群がってくるだろう。領主なのだから、その気になれば領内では食べ放題のはずだ。好きな女の子は大事に囲っているし、恋人を自称する馴染みの美人娼婦もいる。

 今後長く一緒に過ごすであろうジグルドが、アルマに手を出す気がないらしいのは嬉しい。良好な職場環境だ。


 アルマはあまり男が好きではない。それまで親切にしてくれた相手でも、性的な目で見られると急に相手が気持ち悪い生き物に見える。女は好きな男か良い男にしか盛らないのに、なんで男ってアルマ程度の女にまで見境なく盛るのだろう。種まき本能というやつか。


 ジグルドは夫なのでアルマの身体をどうしようと構わないが、触られなくて済むならそれが一番良い。


 アルマは中央神殿でもたまに無茶をしていた。自分の限界は概ね把握している。ジグルドの言う通り、あと二、三日この状況でも死にはしない。

 祈祷師として真面目に勤務していれば夜の相手を免除されるというのなら、ますますやる気が出るというものである。




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