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はじめましての旦那様


 落ち着いた壁色が部屋の格式の高さを語る。

 城に迎え入れられたばかりのアルマは、仄かなサンダルウッドの香りの中で、初対面の、先日自分の夫になったばかりの男に睨まれていた。


 静かな執務室に感情の薄い男の声がよく通る。


「………神殿で男と睦みあっていたらしいな」


 重厚なデスクの向こうから、プラチナブロンドの下の灰色の目が値踏みするようにこちらを見ている。眉間に皺を寄せる男に、アルマは顔だけは真面目に頷く。


「はい。睦んでました」

「その恋人―――ラウル・ハーガーとの関係は、清算できているのか」

「ラウルは恋人じゃありません。友人です」

「あなたは友人とそういう関係を持つ類か」

「そうでもないんですけど。処女でなくなればワンチャン破談にならないかと思いまして」


 悪びれもせず見返すアルマに男は眉間の皺を深くした。変わらぬ冷ややかな口調が質疑を続ける。


「私の贈った婚約指輪を売り払ったとか」

「はい。他の結納の品も、このドレス以外は売ってしまいました」


 こつ、と机を叩いた形の良い指には、アルマが売り払ったものとペアらしき蒼玉の指輪が嵌っている。この地域の鉱山から採れる蒼玉は色が強く、アルマに贈られたものも大層良い値段で売れた。


 革張りのデスクチェアに背を預けた男は、姿勢よく起立したままのアルマに事務的に確認事項を述べる。


「……あなたが何を思っていようが、婚姻誓約に署名した以上、私の妻として領のために働いてもらう」

「はい」

「我が領は豊かではない。できる限りの希望は叶えるつもりだが、今はこれ以上あなたに渡せるものはない」

「はい」


「本来なら今日から寝室を共にするはずだったが………子どもの父親が分からないようでは困る。暫く延期する」

「はい」

「あなたがラウル・ハーガーの子を宿していた場合は、使用人として養育する」

「はい。ありがとうございます」

「私は甥のクリストファーを養子にしている。この家はクリスが継ぐ。あなたが私の子を産んでも嫡男とはならない」

「はい」


「我が領に、あなたは必要だ。どれだけ男遊びをしても無駄だと理解してほしい」


「はい。もうしません」


 アルマの言葉を信じたのかどうか、男はひとつ溜め息をついた。


「…………なにか、言いたいことがあれば聞く」

「特にありません」

「そうか。

 私は明日から一週間ほど不在にする。細かい話は戻ってからにしよう。

 長旅で疲れただろう、今日はもう休むといい。他の者には明日執事のイェンスが面通しする。部屋は用意してある。何かあればメイドか護衛騎士に言え」


 そう言って男は立ち上がり、扉を閉めて執務室を出た。


 一人残されたアルマは、閉じられた扉を見つめてひとりごちた。



「………やばいくらいのイケメンだわぁ」




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