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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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8 アーシェ⑤ クロスオーバー、オン

 「ナニ考えてんだボケ! 死ぬかと思ったわ!」

 「私ひとりも支えられないの?」

 「んなもん余裕だわ!」

 「じゃあもういいでしょ!」


 敷地内を駆けながら言い合いを繰り広げる私たち。

 高所から飛び降りたせいでまだ心臓がバクバクと鳴っているが、気にはしない。


 ……昔、あんたは正義感の塊だと友達に称されたことがあった。

 衛士団(ガーディアン)を目指してみたらと、訓練を応援してくれるようになった母に勧められた。


 衛士団(ガーディアン)

 アルマの内外を取り仕切る政府軍だ。アルマに住む攻性フォニマーの半数はそこを目指す。

 年に数回はある淀鉱生物(グローダー)の襲撃を退け、日夜テロリストや悪漢から市民を救う正義の味方。


 いまいちピンとはこないが、その未来を想像して期待を膨らませたのは一度や二度じゃない。


 だから、出会った直後に隣の男が目指すと言った時には困惑した。

 こいつと将来同じ職に就くのかと、そんな未来を想像してゾッとした。


 だが、私に対してつく悪態とは別に、彼は一切の不満を吐かずに駆けている。

 一般生徒の危機と聞いた瞬間にはこちらに向ける敵意が消え失せ、助けるマインドに切り変わった。



 それを見たから、私もすぐに切り変わったのだ。



 「なんであんた、衛士団(ガーディアン)目指してんの?」

 「はぁ? カッケェからに決まってんじゃん!」


 鬱陶しそうにしながらも、彼の声は明るい。


 「死にかけのオレの村を救ってくれたんだぜ? あの日から、オレの夢はたった一つよ!」


 夕日に晒される赤い目。照り付ける赤さに負けない熱が、そこには込められていた。


 「この国で一番の衛士になる。そして、二度と村に悪党が来ねぇようにしてやるんだ!」


 小さな子どもそっくりの、いや見た目は完全に子どもか。

 青臭いというか夢見がちというか……しかし、飛甲脚(ジェットブーツ)があるとはいえ、15Fから飛び降りた行動力は本物。


 全く偽らない夢があったのだ。眩しいものがすぐ隣にある。

 確かな軸のない自分とは違う、確固たる在り方。


 でも、だからどうした。


 「あんたじゃ無理よ。馬鹿だし荷が重いわ」

 「んだとぉ!?」


 心の奥底からあふれ出る情熱が、こんなちゃらんぽらんになど負けるはずがないんだから。


 「だって私の方が強かったし」

 「まだ勝負ついてなかったろ!」

 「いいや、あのまま私が押さえ込んで倒してた」


 なんだろう、顔を見るのも嫌だったはずだが今は普通に話せている。

 いや、普通というか言い合いなんだけど、



 「コレ終わったら再戦じゃデカ女!」

 「言ったわね、今度こそ叩き潰したげるわ!」



 いわば、指先に刺さっていた棘が抜けた感覚。

 もう私は、この男に穿った見方はしないだろう。


 騒ぎを抱えながら騒ぎに駆け付ける二人。

 3Fの奥に位置するそこは机と教室が置いてあるだけの寂しい空間だ、本来なら立ち寄らない場所だ。


 自分達と同じ一年生がそんな教室の床に転がされており、

 そんな彼らを嬲るように上級生が足蹴にし、

 中心人物らしい女生徒が一人の男子を椅子にして座っていた。


 「おい、なに一年ボコってんだ。恥ずかしくねぇのか?」


 攻性科を示す剣帯を全員が着けていることに、少し安心する。

 攻性フォニマーが一般人に危害を加えるということは重罪であり、それはアルマリン教導学院でも変わらない。


 「急に出てきてほざいてんじゃねぇよ、誰だてめぇ」

 「関係ねぇヤツが出しゃばんな」


 明らかにこちらを蔑視している。倒れている生徒たちを踏みつけながらの恰好で、本当にここは名門校なのか疑わしくなってくる。


 視線を少しだけ周りにやる。

 野次馬から外れるように教員が隠れているのを見て、頭の痛くなる思いがした。

 たとえ一般人で彼らには敵わなくても、注意を促すくらいは出来るだろうに。



 それだけ、攻性フォニマーは危険なのだということ。

 この現状が、一般人から逸脱していることを証明していた。



 「自分たちは十一番隊です。生徒会長からの要請で、この騒ぎを止めにやって来たのですが」


 「勘違いすんな。これは両者同意の決闘みたいなモンで、誰だろうと罰せられる謂われはねぇんだよ。校則読んでねぇのか」


 事情を知らないのでとやかくは言えないが、攻性フォニマーには決闘という制度がある。

 これは学院でもあるアルマリンでも採用されており、手続きを踏むことで攻性科同士の試合を行うことができる。


 「順序が前後しちまうのはよくあることだ。そんなので目くじら立ててたらこの先やってけねぇぞ?」


 いかにもな理論だ。

 ルールを一々守っていたら柔軟な対処が、的な言って煙に巻きたいつもりだろう。


 「勝負はもうついてますよね。それなら」

 「勝負ついたんなら早よ帰れ。敗者に鞭打って楽しいんかテメェら」


 穏便に話を進める事は、今のカルロの発言で完全にできなくなってしまった。

 歯牙にもかけられていなかったアーシェ達は、今の一瞬で標的に認定されてしまった。


 「馬鹿、なんでそんな風に言うかな?」

 「テメェの言いたいこと代弁しただけだわ。キレる一歩手前のクセして我慢すんなよ?」


 ……まさか、カルロに見透かされてしまうとは。


 「そういやお前ら、さっき面白いこと言ってたな。十一番隊って?」

 「アタシら差し置いて誰がナンバーズ入りしたのか気になってたけど、まさかこんなヤツらな訳?」


 心外だわ、と言わんばかりに中心の女生徒が立ちあがる。


 「生徒会長もナニ考えてんだっつーの。一年に立場を与えたらつけあがるって、分かんねぇモンかなぁ?」


 げらげらと下卑た笑いを浮かべ、明らかにこちらを見下げる会話が繰り広げられる。

 実は慎重に事を運ぶつもりだったのだ。


 せめてヴォルテラ達を待とうと、本当に思っていたんだ。


 「ペラペラ言ってねぇで来いよ、先輩サマ。今なら人数的にオレら不利っすよ。

 ……あ、そっか。二人でも怖いんスね。これは気づかなくてすんません、もっと先輩サマを立てるべきでしたわ、たっはー」


 急に饒舌に話し出すカルロに、もういいやと捨て鉢な気分になる。


 「オレ一人でどうぞ?」


 ウィンクまでしてみせるカルロに、余裕を持っていた上級生が我慢の限界を迎えた。


 「調子乗ってんじゃねぇぞコラ」

 「二度とアタシらに歯向かえねぇようにしてやるよ」



 その言葉を皮切りに、一斉にフォトンギアが展開される。



 どうなるか固唾をのんでいた野次馬の生徒が一斉に距離を開けた。

 「へっ」と笑い飛ばしてカルロも飛甲脚を展開させるが、もう状況は変わらないだろう。


 「連携は期待しないでよ。あんたが私に合わせるなら、考えてあげるけど」

 「馬鹿言え」


 手に宿る片手剣(スラッシュⅠ)、片手銃(スウィフトⅡ)は、私にとって馴染み深い物。

 何度も調整をして、納得いく長さや重さにしてきた、相棒同然の武装。


 全員が武装展開を済ませ、端末からアーマーを起動させた。


 「君たち、巻き込みたくないから下がってて」

 倒れていた同級生に告げ、構えた。


 相手は五人。

 どちらかが三人を相手にしなくてはならないが、それは問題ない。


 「先輩方、いつでもどうぞ」

 「テメェも大概だな」


 その直後、二人が向かって来た。

 反りのある剣を持った男に、打ち合いに強い棍棒を持った大男だ。


 冷静にレバーを切り替え、発砲する。

 放出系PA、爆矢(ショット)


 拡散するフォトン弾だ。打てる弾数が少ない代わりに、威力と近距離の命中率を上げたソレは、狭い教室内で容易には躱せない。


 バリア値を大幅に削りながら、無理な体勢で突っ込んでくる二人。

 左右を挟んで迫る相手に片手剣(スラッシュⅠ)で対応していく。

 頭に血の上った相手の攻撃ほどいなしやすいものはない。


 隙をついて通常フォトン弾を撃ちこんでいく。


 「ほらほらほらぁ、息巻いてた割にヘボじゃねぇか!」


 教室の壁や天井をありとあらゆる角度で跳ねながら、三人を手玉に取るカルロ。人数差に関わらず押されていることに、彼らもPAを発動させる。


 「ちょこまかすんなぁ!」

 放出系PA、破石(ブレイク)

 武器の表面を覆っていたフォトンが一点に集まり、眩い光を放ち始める。

 高威力の攻撃を繰り出すための基本技だ。その効果を知らない者はいない。


 まともに打ち合えばこちらの武器が壊される。

 先ほどよりも下がり気味に立ち回るが、そこでこの場所の狭さを思い知る。


 「おい、こっち来んな!」

 「あんたが場所とりすぎなのよ!」


 教室を半分にして戦っていたが、こちらがカルロの領域に入ってしまったのだ。

 元々カルロは縦横無尽にかく乱と攻撃をするせいで私の範囲は狭かったのだが……そのせいで高速移動するカルロとぶつかりそうになってしまう。


 「他所見してんじゃねぇぞ!」


 リーダー格の女生徒が大振りのナイフを構え、鋭く接近してくる。

 そのあまりにも愚直な突撃に、何かの思惑があるように見えた。


 こちらをきつく睨むようにも見えたが、どうにも視線が合わない。


 残弾数を気にせず、接近するなと警告のフォトン弾を連発する。

 そして、後ろから真横から接近する剣を同じく剣で受け流す。


 こちらに生まれる足元の隙は、分かり易く作ったものだ。

 地を這う棍棒はイメージ通りの軌道で迫ってきた。


 大きく天井すれすれにまで飛び上がり、無理な体勢から再び銃爪を引く。


 爆矢(ショット)

 背中を至近距離から撃たれた棍棒の生徒は、驚愕の顔のまま床に倒れ伏す。

 体表を薄く纏っていたアーマーが効力を失い、切れかけの電球のように点滅した。


 受け身を取りながら着地し、一旦距離を取る。

 三人の連携をなんとか突破し、加えて一人を撃破。


 「このっ、クソ女が」

 完全に不意を突いたと思っていたのだろう。一人がやられるのを呆然と見ていたリーダーが、憎々し気にこちらを睨んだ。


 「はい完封! なに、そっちまだ終わってねぇのかよ」

 気がつけばカルロは二人を倒していた。

 残りはこちらの分の二人で、互角にまで持ち込んでいたこの状況。


 「私の方が一人多かったから」

 「はっ、負け惜しみー」


 決して軽口ではない。だが彼らにとってそうは映らないだろう。



 「やっと追いついた、ってなんなんだこの状況!」

 「わぁ、大惨事だぁ」

 「おっせぇぞ」



 廊下を走ってきたらしい十一番隊が、荒れに荒れた教室を見て目を丸くしていた。


 彼らからしたら、これは敵の敵の増援だ。

 男子の方は固まり、リーダーは頬を引きつらせていた。



 「なんで、なんでなのよぉ!」



 リーダーが怒りの形相でナイフの柄を押し込んだ。

 さっきまで供給されていたフォトン量を大きく上回る出力に、その場の全員が凍りつく。


 「ぽっと出の新入生如きが。アタシたちが、どんだけ努力してきたと思ってんのよ」


 どういう機構を組んでいたかは知らないが、触れればアーマーごと突き破りかねない程の出力に、ナイフの刀身が霞んで見えた。


 「コレ、暴徒鎮圧(スタン)モード解いただけじゃねぇだろ。どうする気だよ?」

 刃の先はカルロに向いていた。彼はとっさに膝を軽く曲げていて、いつでも動けるような体勢をとっていた。


 「ふざけんじゃないわよ!」

 ヒステリックな叫びと共に振り抜かれるナイフが、振動しながらフォトンを射出する。

 

 放出系PA、剣穿(エッジ)だ。誰でも知っているポピュラーな技が、誰も見たことない威力を持って放たれる。


 カルロは余裕で躱す。飛甲脚を以ってすれば躱すのは難しいことではない。

 だが、放たれたフォトンはどこにいくのか。


 「逃げてぇ!」


 空き教室の壁にぶつかったエネルギーは当然、破壊を生む。

 壁や窓がまとめて木っ端微塵にし、中庭に向かって破片が飛び散った。

 爆風が消えた後、校舎の骨組みが剝き出しになっている光景に寒気が走った。


 「は、ハハハッ! なんだよいけんじゃんアタシ! コレがありゃアタシだってナンバーズにも……」


 喉を震わせ、歓喜の声を上げるリーダー。

 血走った目でナイフを見つめ、引きつった笑みを浮かべながら外にいたクレイトン達に叫ぶ。


 「入ってきたら、ソイツらに撃ち込む」

 そいつらとは、先ほど彼女たちが足蹴にしていた生徒たちだ。

 教室の外で様子を伺っていた彼らだが、壁が取っ払われたことで再び標的になってしまった。


 「やめろ、それは使うなって……」

 「ハァ? ここから快進撃だろうが頭おかしいんかテメェ!」


 仲間の一人が必死に止めるが、彼女はお構いなしに笑っていた。

 なにこれ、フォトンの過剰供給でおかしくなったってこと?


 ていうか、さっきより増してない?

 刀身が見えない程のフォトンなんてありえない。規定を大きく上回ったフォトンを、どうやってコントロールするというのか。


 「赤毛とポニテ、まずはテメェらからだ」

 嫌な予感に従って飛び退くと、足元で爆発が起こった。


 振り抜いた先で剣穿(エッジ)が炸裂し、破片が視界を遮った。

 今度はカルロだ。彼はどういう訳か飛ぼうとせず、私と同じようにその足で駆け抜けて躱す。


 「ほらほらぁ、なにが息巻いてただぁ? 逃げ回るだけかアァン?」


 声を上げて笑うのは、誰にだってある。

 だが、エモノを持った状態でそんな精神状態なんて、明らかに普通じゃない。

 よく見れば彼女の目が充血しているし、鼻からドロッとした赤い物が流れているではないか。


 止めなくては。神経が悲鳴をあげているのだ。


 このままあのナイフを持ったままなら、彼女はタダでは済まない。

 しかし、絶え間なく撃ち込まれる剣穿(エッジ)の壁にどうすることもできなくなってしまっていた。


 数メートルという距離が遠い。

 いつの間にか隣り合って躱していたカルロが、汗を拭いながら小さくこぼした。


 「あと一回だ」


 何を言っているのか。彼の視線が足元の飛甲脚に落ちた。

 よく見れば輝きを保っていたブーツの出力が落ちているではないか。


 「あのニヤケ面に膝蹴りかましてやる」


 怒りに染まったカルロだったが、違和に気づく。

 だったらそのまま突っ走る方がカルロらしいのに、何故こちらに伝えるのか?


 そして、思いついた。この小さな男が何を望んでいるのか。


 「……私とあんたで出来る訳ないでしょ」

 「オレだって好き好んでてめぇとは組みたくねぇ。でもな」


 彼の視線が、危険に晒されている生徒たちに向けられた。


 「仲良くくたばるか、アァ?」


 これまで悪ガキにしか見えなかった彼の目は、正義に燃える警官のようだった。


 「「誰が」」


 女の戯言は吐き捨てた。

 怒りだなんだに惑わされている場合ではないのだ。


 知っていた。似たような思いが、自分もそうさせるから。

 素早く(セイバー)を基礎状態に戻し、床に放った。


 入力は同時。

 まだ何回もやっていない特化端末の入力は、驚くほど揃っていた。



 『拡張連携(クロスオーバー)起動(オン)



 それは、不思議な感覚。


 (たすき)を託すような、最高のパスを通すような、視線の交錯のような、赤い糸のような、はたまたそのどれにも当てはまらない何かが、心に沸き上がった。


 私でありカルロ。

 オレでありアーシェ。


 特化端末(イグドラ)を媒介にして両者を繋ぐ光の線が、自分とは全く違う思考パターンが生まれるも、それが当然のような感覚があった。


 レバーを切り替えながら発砲。反射を生む跳条(スプリガー)の残弾は三発。

 脚に溜めたフォトンが神経を満たした。高速の火央遊天(アリ・プレスト)はたった一度。

 まずはごまかしの横っ飛び。ホワイトボードに着弾したバネを存分に使って跳ねる。

 次は真反対。掃除用具入れのロッカーを踏みつければ、弾性が足の自由を一瞬だけ奪うも、始め以上の加速を生む。

 最後は天井。リーダーの真上。戦闘を前提に作られていない校舎は脆く、小さめの足型がめり込んでしまったが、それ以上の弾みが生まれた。



 こんなんでオレを知った気でいるなよ。

 そっちこそ私を従えたつもりにならないでよ。



 互いに馴れあうつもりはない。

 だが、合わせなくてはならなかった。

 自分達以外の誰かが傷つくなんて、耐えられなかったから。


 姿を見失う速度で放たれた膝蹴りは、かつてない程の威力だったという。

 アーマーどころか意識すら刈り取った一撃に、この事件は収束した。



 やるつもりはなかった。

 でも、これだけのコンビネーションはそうそう起こらない。

 だから思、わずのことだ。だから……



 絶対私からじゃない。

 ふざけんな、オレなワケねぇだろ。


 高く上げた手と手が、乾いた高音を叩き出した。


 歓声と称賛の拍手が聞こえる。


 最高だ。なに言ってんの、気味悪いわ。

 言わずとも伝わる何かが、胸をざわつかせたのだった。

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