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6 ヴォルテラ② あぁクリームがぁ!!

 寝ぼけていたノルンを揺さぶって起こし、いびきをかいていたカルロを叩き起こし、登校する。


 早くからやっているパン屋で気に入った物を買い漁り、授業の合間の楽しみにする。


 朝の授業は座学のみ。


 俺は肉体派だ。

 入学試験もぎりぎりだったとは自覚しているし、授業を聞き逃すことは中間試験で恐ろしい結果になると早くから分かっていた。


 幸いクレイトンは成績優秀者だ。


 頼み込めば教えてくれるだろう。頼りきりは嫌なので真面目には受けるが。


 「衛政五国(エイセイゴコク)の成り立ちはシンプルだ。

 200年前に外界に突然生まれたとされる異形、『淀鉱生物(グローダー)』の危機を乗り切った国がそのまま、五大国として発展を続けてきた」


 白髪頭の教師が、自身の左腕の端末(アクト)を操作しながら解説をする。


 彼の操作はこちらの開いていた映像教材とリンクしており、説明文に赤の傍線が勝手に引かれる。


 あぁ、びっくりした。

 俺は田舎育ち故に機械には弱いのだ。


 最新機材である特化端末(イグドラ)のテストを頼まれた時には、実は緊張しすぎて言葉も出なかった。


 分からない内容が多すぎて、生徒会長との対面時には無言を貫くしかなかったのだ。


 「我が国アルマやレクソートでは内閣制度であるのに対し、王政であるガーランドとカスターネ、大統領制であるマドゥなど、その色は大きく違う。これは国の成り立ちによって発展の遂げ方が様々だったからに他ならないが……」


 内閣、大統領。

 試験の為に学んだことではあるが、ピンとはこない。


 ガーランドを治めるルダマリア王の武勇は、攻性フォニマーにとって英雄譚のようなものなので簡単に覚えられるのだが。


 一番強い者がトップでは駄目なのだろうか? 俺の考えは前時代的なのだろうか?


 「では件のガーランドからの留学生に質問だ。ヴォルテラ、国王の退位によって行われる選定の儀をなんという?」

 「統竜閣議(トウリュウカクギ)

 「正解だ」


 質問の内容が故郷寄りで助かった。

 これでカスターネとかの質問になればお手上げだ。


 「では続けてヴォルテラ。ガーランドでは各部族の長が王になる機会が統竜閣議(トウリュウカクギ)であるのに対し、公爵位を持つ者でしか参加資格を得られない、カスターネで行われる選定式をなんという?」


 早速来たか。

 しかし慌てたところで意味はない。冷静に考えればいいのだ。


 開いていたページはガーランドについての記載がされている。

 画面をタップしながら次の頁に進むが、なるほど見当たらん。


 試しに目次の項に飛んでみるが、戻り過ぎて教材そのものを閉じてしまった。


 開くのには時間がかかる。設定だけでも操作に迷うのだ。

 他の生徒の時間をこれ以上奪うのも忍びない。


 ならここは潔く。


 「教えてください」

 「何故そんなに自信満々でいられるんだね?!」


 クラスメイトの笑いを押し殺す声が聞こえてきた。

 見れば半数以上が顔を覆ったり唇を噛んだりと、吹き出さないように努力していた。


 赤っ恥なのは言うまでもなかった。


 ちなみに答えは「白廷総選挙(ハクテイソウセンキョ)」だそうだ。

 調べておくことが、日に日に増えていくな。






 反対に、午後の授業は自信満々でいられた。


 アルマリン教導学院では学科毎に別れて行われる。

 我ら攻性科は当然実技、訓練の時間という訳だ。


 とはいえ、基礎の基礎の段階から行われる授業は退屈だった。

 部族の中だけでなく、ガーランドで頻繁に行われる武芸大会に何度も出場してきた身だ。


 優勝したこともあった。


 だからまぁ、ざっくり言うと退屈だった。

 反復できることは良いことなので真面目にはやったが、緊張感に欠ける訓練、いや授業だった。


 「でもね、攻性フォニマーの訓練を初めて受ける人もいるんだよ?」


 アーシェからそれを聞いて、随分と面食らったものだ。


 「武の民って呼ばれてるガーランドでは珍しいでしょ?

 アルマは他の国ほど淀鉱生物の被害が多くないの。衛政五国の中心に位置する国だから流通が盛んで、経済と技術によって発展した国なの」


 彼女の説明に、お国柄という単語が浮かんだ。


 ガーランドで攻性フォニマーに生まれたなら、箸やフォークと同じくらいに剣を持つ。

 彼女たちアルマ人、いや和の民は剣の代わりにペンを持つということか。


 小さなカルチャーショックを受けながらも時間は進む。



 そして放課後、十一番隊に与えられた訓練室の強化ガラスを背にして、俺はノルンと肩を並べていた。


 授業の訓練では喝采を浴びるほどではなかったが、我ら十一番隊は各分野でぶっちぎりの成果を見せた。


 当然だという思いもあったが、僅かなプレッシャーもあったのだ。


 あいつらは本当に強いのか?

 そういう視線は叩き潰すに限るが、自分から喧嘩を売るのは恰好がつかない。


 まだ基礎の段階ということで組み手が行われたが、その証明が出来て俺としては満足だった。


 そして、それを感じていたのは自分だけではなかった。

 隣に腰かけるノルンもガチガチに緊張していたのを見ている。


 まぁ、今は気の抜けた顔をしているが。


 「ドーナツ食うか?」

 ぐいっと食い入るように顔を向けてきた。


 どうやら彼女はかなり食い意地が張っているらしい。


 故郷の3番目の妹を思い出す。


 「プレーン、チョコレート、中にクリームが入ってるのと、イチゴのクリームが入ったやつがあるが」

 「イチゴ」


 包装紙にご希望のドーナツをくるんで手渡す。

 小さな両手でそれをお上品に受け取り、これまた小さい口でパクリ。


 「んふー」


 ご満悦だ。


 会った時は全く喋ろうとしなかったノルンだが、食事が絡むと彼女はかなりグイグイ来る。


 あまりに美味しそうに食べるので、自分の分だけでなく彼女のドーナツもわざわざ買ってきたのだ。


 とはいえこれは俺の楽しみだ。

 イチゴが取られたのは残念だが、2番目に狙っていたチョコレートを一口。

 ビターな味わいで元々の甘さがより強調された工夫だった。これは美味い。


 「君たち、訓練前になにを食べているんだ」

 クレイトンが苦言をこぼしにきた。


 店を見つけた時からの楽しみにしていたのだ、邪魔をしないでほしい。


 「欲しいなら素直になれ」

 「違う。僕は甘いモノは苦手だ」


 な、なんと勿体ない。

 五味の内の一つを味わえないとは、文字通り二割分の損をしているじゃないか。


 ノルンも同じことを思っていたみたいで、


 「かわいそう」


 「久しぶりに喋ったと思ったら、なんてことを言うんだ」

 呆れた様子のクレイトンだが、決して怒っているわけではない。


 むしろ彼の後ろで行われようとしている本日のメインイベントに、気を揉んでいるように見えた。


 「あの二人を止めてくれないか?」

 当然、アーシェとカルロである。


 メアリィのおかげで先延ばしにできた喧嘩が、ようやく今その時を迎えたという訳だ。


 両者睨みあいながらストレッチをしているが刺々しい雰囲気に、さしものメアリィも困り顔。


 だが、純粋な疑問があった。

「なんで止める必要がある?」


 「なんでって、無意味じゃないか。僕らは同じ隊のいわば仲間だ。六番隊との試合が迫っているというのに仲間割れなんかしてる場合じゃないぞ」

 「俺には分からんが、そんな焦るものか?」

 「当然だ。勝負なんだぞ? わざわざ負ける方を選ぶつもりはない!」


 意外にも大きな声が返ってきて、隣のノルンがびくっとした。


 優等生的な考えが多いクレイトンのことだ、「勝敗よりも得られる物がある」的なことを言うと思っていたが。


 「仲間内でも白黒つけとかなきゃいけない事、あると思うがな」


 2個目のドーナツ、クリームを取ろうとしてノルンがじっと見つめてくる。

 これは……そういうことか。プレーンも掴み、どっちが食べたいと選ばせる。


 ……あぁクリームがぁ!!

 くそぅ、今日だけだからな。


 嬉しそうにされたら、こっちも何も言えなくなってしまうじゃないか。


 「始まるな」


 クレイトンは審判らしく、準備オッケーだと息巻く二人の間に入っていく。



 「ようやくテメェを合法的にしばけるぜ」

 「返り討ちにしてやるわよ」



 僥倖だ。

 仲間の実力を知れる、良いチャンスだ。

ヴォルテラ「それぞれの国のことは、ひとまず置いておくか」

クレイトン「オイ」



※そういうのがあるんだな、くらいに思っていてください

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