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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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28 アーシェ⑩ 道徳心とかないの?

 何を言ってもこの男……攻性科長(ジルク)は止まらないだろう。

 責任感と努力で攻性科のトップになった男だと、生徒会長(ハミルトン)は説明してくれた。


 誰にとっても誇らしかったはずの好漢は、革命家のように手段を講じない男となった。

 だから、聞きたいことは少しだ。


 「どうして違法パーツに頼るんですか?」

 「俺は特化端末(イグドラ)ではなく洸現武装(ティルファング)に希望を見た。お前達のような特異な素養を持たない者が、志一つで変えられるその強さに、アルマリンの未来を見た」


 ヴォルテラに少し似た硬い話し方だった。

 かつての攻性フォニマーは武人でもあり、今でも有名な武芸の家系はその在り方を重んじているのだとか。


 彼の家柄は聞いていないが、相応に良家なのだろう。


 洸現武装(ティルファング)ってなに……?

 まぁ、きっと違法パーツを組み込んだフォトンギアだと思うが、今はいい。


 「お前達にこそ聞こう。これからのアルマリンに未来があるように思えるか?」


 思想家のような発言だった。

 一語一語が仰々しく、何かに囚われているようだった。


 「衛政五国の中心、和のアルマは物流と交易、そして各国を繋ぐ橋渡しの国だった。流通を握り、各国の文化や技術を押し上げた先人達には頭が上がらない。

 だが、そんな時代はとうに過ぎた。

 アルマを介さず独自のルートで流通する今の時代、必要なのは武力だ。口先などではない、他を黙らせる力はいつの時代も必要なのだ。

 淀鉱生物(グローダー)に対抗する手段としてではない、発言するための力、意思を貫く力には……」


 熱を帯びていく彼の想いは、さながら演説。

 自分に酔っているのかと思ったが、彼の目は真剣そのもの。

 ブルーの瞳からは、かんかんに熱せられた鉄の様な熱さが宿っている。


 それを、一発の銃声が遮った。


 長銃の放ったフォトン弾がジルクの頬を掠めていった。

 ぎりぎりで躱されたことに、すぐ後ろから舌打ちとため息の音が聞こえてきた。


 それはメアリィなのだが……その可憐な顔には似合わない双眸で、ジルクを睨みつけていた。


 「きっと貴方の背負っているモノは大きくて、多くの人に託された崇高なモノなんでしょうね。

 いつか、そんな貴方のような立派できらきらした人間になれたらな、と幼い頃なら思っていたのでしょう。ですが……」


 次弾射出。


 素早く躱すジルクの身のこなしから、攻性科長らしく洗練された鍛錬の成果が透けて見えた。


 「押し潰される程の思いなんて絶対要らない。はた迷惑極まりないエゴに、よくもあたし達に巻き込んでくれたわね」


 愛嬌の塊みたいな彼女が、聞いたことのない冷たい声色ではっきりと言い切った。

 戸惑ってしまったが、どういう訳かクレイトンはくつくつと笑っていた。


 「僕はきっとジルク先輩側だったと思います。

 ルア家の次男、責任を負うことの意味を先輩程ではないにせよ、人並み以上に感じていました。

 でも僕らはもちろん先輩も、まだ学生だった。学ぶ立場の人間はそんなことをするべきじゃなかった。

 貴方の間違いは、矜持を義務と結び付けてしまったことだ。

 先輩はまず、自分の薄暗い心の欲を見つめることだった」


 兄も含めて、ですけど。

 そう締めくくったクレイトンが、一瞬誰か分からなかった。


 出会った頃の気真面目さは抜けてはいない。

 だが、気難しそうだった目つきは穏やかで、無垢な子どものように見えた。


 すると隣にいたメアリィがどことなく誇らしげに笑って、え?

 どういうこと? この二人、どういう関係だったっけ?


 隊内の色恋……? 深く尋ねたくなった。


 浮つきかけた心を落ち着かせる為に、私も何か言ってやろうと続こうとして……

 しかし、だ。

 数えきれない葛藤を経ただろうこの人に、わたしが伝えられることはあるのか?


 いや、無駄に終わる。

 この程度で止まるなら、彼は罪を犯した時に歩みを止めただろう。そんな不要な事に割く労力はそれこそ無駄だ。


 だから言うのはこれだけ。

 「本当にソレが、ジルクさんのしたい事だったんですか?」


 俯瞰するようなブルーの目に、ほんの僅かな怒りが垣間見えた。


 知ったことを抜かすな、とか思っているんだろう。

 それを聞かされた所で、私が矛を収めることはない。


 だからここまでだ。


 「通してもらいますよ」


 武装展開(リベレーション)

 手に宿った愛剣(セイバー)愛銃(ハンドピストル)から種類の違うフォトンが流れ込んでくる。


 この違和をすり合わせ、一つの紐に組み上げる感覚が、私の前準備。

 既に復元しているメアリィの横で、クレイトンも開錠言語を唱えトンファー(ブレイサーⅢ)を構えた。


 「思いあがったな、ルーキー」

 フォトンギアを復元。二丁一対のブラックフレームの片手銃(ハンドピストル)が手に宿った。

 

 銃身部分が分厚く、グリップ部分に取り付けられた手護(ナックルガード)は刀剣類のように頑丈そうだった。


 アルーダ社製片手銃、マグ・ソード。

 前述の要素がなければすぐに気がついただろう、接近戦でも対応できるコンセプトと聞いて、私の武装の候補に挙がった代物だ。



 「限定超渦(イクシード)起動(オン)



 知らない開錠言語の後、胸を圧迫するプレッシャーが押し寄せた。


 ジルクを中心に、爆発が起こったのかと錯覚するほどのフォトンが生み出されていた。

 常軌を逸するフォトン量は、離れている私たちの前髪を揺らすほど。


 瞬間、姿がかき消えた。

 忽然と視界からいなくなったのだ。

 

 上だ、というクレイトンの助けがなければ、迫る弾丸は躱せなかっただろう。


 「止めてみろ、生徒会長(ハミルトン)の手先」


 アーシェ達の間を裂いて降り立つジルク。

 双銃の照準がこちらを定め、感じたことのない意思が飛んできた。


 殺意だ。


 怒りに染まった短絡的な衝動ではない。

 冷静に障害を取り除く無機質な感情、決意による揺ぎ無い心の行き先。


 それが今、私たちに向けられている。


 咄嗟に後ろに飛びながら発砲し、ジルクの射線と重なる。

 フォトンは打ち消し合うことなく飲み込まれ、連射されたエネルギーが這うように迫ってきた。


 クレイトンが吠えながら飛び出した。

 旋回を加えたトンファーの猛威を、ジルクは冷静に双銃で受け止め、流した。


 あの風変わりな銃身は盾でもあった。

 合金のぶつかる音がけたたましく鳴り、何合も何合も武器の応酬が繰り広げられる。


 しかし均衡は長く続かなかった。一撃に乗せられたフォトン量が桁違いで、単純に押されていっている。


 そして不意をつくジルクの素早い足刀が、クレイトンの頬を掠めた。

 わずかな虚を突かれた隙をつき、至近距離で放たれるフォトン弾に堪えきれず、クレイトンも大きく下がった。


 次は、誰だ。


 ジルクの視線が後衛のメアリィに向いた。

 彼女だけでなく、前衛二人にも悪寒が走った。


 咄嗟に放ったメアリィの碧立(ダグス)の二射が、壁を形成した。

 しかしジルクの姿はまた消え、彼女の頭上にあった。


 私達ですら反応するのがやっとだったのだ。メアリィでは、無理だ。


 放出系PA(フォトンアーツ)爆矢(ショット)

 アーシェも使うPAだが威力も範囲も格段に上のソレが、逃げ場がない程の拡散フォトン弾が降り注いだ。


 (届けっ!)


 無理な体勢で飛び出しながらPAを発動。(セイバー)の銃爪を引きつつ素早く払った。

 風撫(スラード)の衝撃波が何割かを逸らしたが、全ては流せなかった。


 「っっぅう!」

 アーマーが稼働しているとはいえ、メアリィの痛みは相当だろう。


 続けざまに銃身や蹴りが彼女に襲い掛かるが、すぐにクレイトンが割って入った。

 再び轟音が連続する。

 だがその応酬はさっきも見た。結果もまた、同じだった。


 時間にしてみれば一分もかからないような開幕だった。

 再び距離が開くが、この数手で既に届きそうにない展開が垣間見えた。


 カルロの速さ、メアリィの射撃、クレイトンの接近戦。

 どれか一つでも脅威になりえる素養を、同時に相手している気分だった。

 

 この間相手にした六番隊のアタッカーが、随分可愛く思えた。


 「いま、本当に暴走してるんですか?」


 肩で息をするクレイトンの疑問はもっともだ。

 フォトンの過剰摂取による興奮は、度々使用者の言動をおかしくしていたのだが……この男は至って冷静だった。正常にしか見えない。


 「俺も、テスターだ。単に慣れた、だけのこと」


 詰まり気味の反応に確信する。

 先に暴走した生徒と同じように、彼は無理をしている。


 「限定超渦(イクシード)でしたっけ? それ時限ですよね、どれだけ()つんですか?」


 扱いきれないフォトンは持て余すどころか毒になりえるのだ。

 副作用に慣れたとしても根本的な解決はしていないはず。


 違法パーツは破滅をもたらす。それは実力者でも変わらない。

 揺さぶりも兼ねての発言だが、ジルクは黙ったまま銃口を再び向けてきた。


 もう、会話すらもままならないのだとしたら?


 「クレイトン、根性見せよう。メアリィ、極力引いて援護、以上」

 『了解』


 雑な指示だが、二人には伝わった。

 時間をかけていられない状況だが、勝つ手段は持久戦だ。


 気合を入れるための声を上げようとして、



 「そこまでにしておいてくれ」



 この場に、全く知らない人間の声がした。

 戦いの空気を乱したその男は白衣に鋭角的な眼鏡を掛けた、いかにも学者然とした風体の壮年だった。


 「博士。どう、して、出てきたんです?」

 つっかえたように話すジルクはその壮年、博士を睨む。


 フォトンの弾幕と蹴撃が止んだことに少しだけ安堵しつつ、再び頭を回す。

 

 「ノルンはどこ?」


 きっとこいつが諸悪の根源だ。

 白衣の壮年が鬱陶しげにこちらを見ているが、諦めるな。

 引き出さねば、彼女(ノルン)に手は届かない。


 「外で暴れている二人ならともかく、あまり君たちには興味をそそられないが、ふむ」


 すると、彼の言葉を遮るように開かれたドアの開閉音が無機質に響く。

 覚えのある小さな体が、ジルク以上に朧気にやって来た。


 ダークブルーの髪が揺れ、肩を上下させ、息も絶え絶えといった様子で、


 「ノルン!」


 大きな声で呼び掛けた。反応が乏しいのは普段からだが、明らかにいつもと違う様子に寒気がした。

 なにより、ヘッドギアみたいな銀色の装置をつけていては、正常とは言い難い。


 「出てきてしまったか、まぁ、いい。どうせならテストでもしよう」


 声を弾ませて壮年は端末(アクト)を操った。

 それに合わせてノルンのフォトンギアが勝手に復元され、合金製の手袋に灰銀の爪先が宿る。


 「こんな小さな女の子を実験体だなんて、道徳心とかないの?」

 「同胞(アルマ人)になら躊躇したかもな。だが、外界人になど何の憐憫も湧くものか」


 彼女の事情を知った上で何かの実験体にして、そして一切悪びれることはない。

 ジルクには少し同情心があったが、こちらは皆無だった。


 「やれ」


 素早い端末操作の後、ノルンの腕がおもむろに持ち上がり青白く光った。

 爪先に格納されていた鋼線が飛び出し、残光を置き去りにして飛びかかった。



 全く警戒をしていなかったジルクの全身を、串刺しにする。

 


 「は?」


 身構えていた私達が呆気に取られ、

 まったく事態を把握できていないジルクが、そのまま倒れた。

 

 声を上げることも出来ず、ただ呆然と。


 「君以上の素体が見つかってしまったからね。どうもすまない」

 取ってつけたような謝罪には何も込もっておらず、感慨の一つもなかった。


 「貴様、よく、も」

 そのまま言葉を残せず、ただ感情だけを吐いたジルクが意識を失う。


 こちらが反撃一つ出来なかった攻性科の代表の殺意の視線は、決してこの博士には届かなかった。


 「本当、同情しますよ」

 クレイトンの一言が私たちの感情を物語っていた。


 何かを成しえたかった男の末路がこれだなんて……なんて報われない。


 仮に私たちがその鬼畜博士に何を言っても、戯言と捉えられ、まったく相手にされないのだろう。

 ジルクの無念は、誰にも果たせない。


 ……同情は、彼も喜ばないだろう。今、やるべきことは。


 「ノルンをどうしたんですか?」

 「洸現武装(ティルファング)の実験に付き合ってもらっているだけさ。彼女ほどフォトンに耐えられる攻性フォニマーには出会ったことがないからね」

 「頭の装置は?」

 「言う事を聞いてもらうための、まぁ首輪みたいなものだよ。無理やり改造するには彼女の素養は希少過ぎる。大切に扱わないとね」


 そのまま鵜吞みにするのもどうかと思うが、疑った所で意味はない。


 「メアリィ、PAと通常弾でとにかくノルンの気を逸らして。クレイトンは……」


 言いながら特化端末(イグドラ)を声音認識モードに切り替えた。

 

 たぶん、恐ろしいことが起こる。対策をしなくては。



 「ノルンの装置を解除。とにかく走り回って!」


 気合裂帛の中に指示を紛れ込ませた。どうか聞いてて、ヴォルテラ!

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