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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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26 ヴォルテラ⑦ 早く追いつかなくてはな

 ……少しだけ時間を(さかのぼ)る。


 エントランスから入るような馬鹿はしない。

 とはいえ外壁を越えていけば即座に警報が鳴るだろう。


 なので、裏口からこっそり侵入しようと思ったところで、アーシェから連絡がきた。

 

 ……まさか怒鳴られるとは。

 カルロとの件で彼女が無鉄砲に飛び出す人種なのだと思っていたから……それを咎める発言に言葉を失ってしまった。


 15階から飛び降りた奴が何を言うのか、時間があれば言い返しただろうな。


 ぞろぞろと集まった覆面の黒服たちを前に、通話を切り愛槍を手に宿す。


 流れ出すフォトンを全身に、ラボの中に突入した。

 潜入は殴り込みへと変更され、迫る凶刃を弾き返した。


 「ちょこまか動きやがって」

 「逃げんじゃねぇ!」


 一撃も貰わず、あと一歩というところで疾流(ドライブ)刹眼(ルコン)で相手を一瞬だけ撒く。


 生体系PA(フォトンアーツ)は放出系PAと違い、発動した後もフォトンが体内で循環し、また武装に還元される。

 俺のような典型的な生体系を得意とするアタッカーは、それだけ長期戦に向いている。


 放出系PAによる飛び道具を使った戦法がアルマでは主流だ。徹底して躱すことに集中すれば、相手は勝手に消耗していく。


 しかし、それだけが余裕の理由ではない。


 奴らからは、洗練された技術の冴えを感じないのだ。

 こちらを狙う刃が頼りなげで「殺す」という覚悟が決定的に欠けている。


 なんだったら、先日の六番隊の彼らの方が強かった。


 人間大の太いパイプを駆けあがり、手すりから手すりへと飛び回る。

 時には壁を蹴り、獣を真似た縦横無尽の移動に翻弄される黒服たちの姿を見て、確信する。


 こいつら、正規の兵士や傭兵じゃない。

 もしやと思い、あえて刃を躱さずに接近し組み伏せた。吠える男の覆面を剥ぎ取った。


 「てめぇ、離しやがれ!」


 その男は体も小さく、同じくらい顔も幼かった。


 歳相応の肉体と声変わりしたての若者が、必死にドスの利いた声を出していたのだ。

 顔に見覚えはないが、きっと同世代だ。


 俺と、組み伏せた少年を取り囲む黒服たちを眺める。

 この者とそこまで変わらない印象だ。


 「お前達、学院の生徒だろう?」


 覆面越しで目からしか表情を伺えないにも関わらず、分かり易いくらいに動揺していた。

 組み伏せた黒服、いや生徒を踏みつけながら俺は槍を軽く払う。


 「同窓なら話は早い。消えろ、この俺が数に物を言わせて勝てる相手だと思っているのか?」


 暴徒鎮圧(スタン)モードを解くということは、木剣や稽古用の槍から殺人の道具に切り変わるのことを意味する。

 訓練を積んだ兵士でも人に武器を向けるのは、それなりの胆力、そしてそれを乗り越えるための訓練が要る。


 本当に人を殺せる状況に陥ることで、人はその力に恐怖する。

 それを乗り越えていない者の刃に、この俺が後れを取ることは無い。


 威圧してみたが、黒服の中に分かり易いくらい怒りに満ちた者がいた。


 大柄な男と、油断ならない只住まいの女が前に出る。

 明らかに練度の違う二人だ。組み伏せた男を蹴り出しながら退かし、ゆっくり構える。


 きっとナンバーズ部隊の中でも最上位の二人だ。


 学院の模範というクレイトンの言葉が空々しい。思いっきり悪事に手を染めているじゃないか。


 溜息を洩らした後、周囲が固唾を飲むような緊迫感に包まれる。


 男は、武器を止められる補強されたグローブ。手甲とでもいうのか、格闘術に特化したアタッカー。

 その後ろでおもむろに長銃(ライフル)を構えたシューターの女。


 僅かに視線を見合わせた二人を見て、その慣れたタイミングに懸念が生まれる。


 男のもう一歩が火蓋となり、その接近で切って落とされた。

 こちらと変わらない大きさの拳骨が弾丸のように迫るのを慌てて躱す。


 速い。


 拳がすぐ後方にあった壁を殴りつけた瞬間に、激しいフォトンのうねりが発生した。

 予感にそのまま従い飛び退くと、爆発のPA(フォトンアーツ)が発動した。


 しかし、逃走の先に迫るフォトン弾の連射。


 かなり無理な体勢でなんとか躱すが、男の方が回り込んで再び拳を振るう。

 こちらは(レド・ガー)の腹で防ぐが、大きく突き飛ばされた。


 抜群の連携に息を巻く。恐らくこの二人、同じ隊で長年肩を並べている。

 男の動きに合わせて放たれるフォトン弾は、前に見たアーシェとカルロの拡張連携機能(クロスオーバー・システム)を思い起こさせた。


 迫る拳の乱打から逃れる為、すぐ後ろの壁を蹴り上げて空中へ。

 飛び出したパイプを掴んで更に遠くへ跳び、今度は高所の手すりを足場にして跳ね回る。


 疾流(ドライブ)で複雑な動きをすれば捉えられまい。

 カルロを意識した三次元的な動きを模倣し、更に加速し大きく手すりを踏みつけた。

 突然の接近に女シューターが目を剥いた。


 反応が遅い。

 あらゆるものを取っ払う為、幼少から鍛錬に鍛錬を重ねた槍の一閃を放つ。


 しかし、認識が甘かった。


 顔をしかめる程の金切り音が響く。

 合金同士のぶつかり合い。こちらの狙いを呼んだ男の手甲がぎりぎりで間に合い、男のしたり顔が覆面越しでも伺い知れた。


 「狙え!」

 女シューターの号令が響いた。


 背中に刺さる敵意にハッとし、攻勢を無理やり守勢に移す。


 槍を引きながら疾流で再び逃走。

 迫るフォトン弾が背中を掠り肝を冷やしたが、これはまずい。


 入学式の日に三人組に喧嘩を吹っ掛けられた時、

 授業で同学年と組み手をしていた時、

 六番隊の高速アタッカーと対峙した時、

 どれもたいした脅威でないと判断し、実際どうにか出来たのだ。


 そして、知らない内に見くびっていた。

 彼らは取るに足らない学生で、歯牙にもかける必要のない存在だとみなし、どこか突き放していた。


 それがこうだ。

 フォトンの弾幕にただ身を翻し、連携を組んだアタッカーに肉薄され歯噛みしている。

 最初は押していたはずの形勢が向こうに傾きだした。


 「お前たち、油断するなよ」

 

 リーダーの男の視線は依然厳しい。

 勝ち筋を見出した上で浮つかないよう周りを制し、静かにフォトンを練り上げている。


 20人を越える手下を率いている姿は、いっぱしの戦士だった。


 『考え無しに、武器を片手に突っ込むのがナギン族の誉れなの?』


 闘争の何を知っているのかと思ったその言葉に、笑いがこみ上げてきた。

 

 ……くくっ、こんなの天狗もいいところだ。

 

 時間をかけてコイツらをぶちのめしたとしてそれで、ノルンがもし手の届かない所へ向かえば?

 後悔はささくれとなり、二度と拭い去れない影を心に落とすだろう。


 ならば、流儀にこだわっている場合ではない。

 「音声認証、解除」


 決して聞き間違いのないようはっきりと告げる。

 特化端末(イグドラ)の液晶が光ったのを確認し、拳を上に突き上げる。


 「照明弾、射出」

 特化端末が無機質な声で命令を復唱。

 撃ちだされる圧縮されたフォトン弾は、決して俺では構築できないPAを発揮する。


 ラボの明かりは、夜の帳を押し退ける程に眩しい。

 しかしそんなものが可愛くみえる程の閃光と高音が、辺り一帯を貫いた。


 戦況が一瞬だけ固まった。


 今の行動が何を引き起こしたのか、上空で留まり続ける光源に顔をしかめたのは一人や二人ではない。


 焦って攻めてきたアタッカーの(セイバー)を穂先で流し、払う動作で足払いをかけ壁に叩きつけた。


 そして生まれる硬直。

 シューターの銃口がこちらを向いて離れないが、それでも僅かな時間が生まれた。

 異音が耳に入るくらいの余裕がやっと出来た。


 「早かったな」


 次の瞬間、視界の端から端へ一瞬を赤い何かが横切った。


 目で捉えきれなかった何人かがその疾走に呑まれ、その場に倒れ伏した。


 「お、手こずってんじゃん?」

 「やかましい」


 足元の武装を光らせて宙に浮き、そいつは勝気な目を爛々と輝かせてこちらを見降ろした。


 「さしもの大型留学生ルーキーも、この数じゃ形無しか?」


 そう言ってカルロは一呼吸、集中するための沈黙を作り出した。

 俺達を囲む黒服たちがどうするか、指示が伝わるまでの数秒の間だった。


 放出系PA、火央遊天(アリ・プレスト)

 たった一つだけ組み込まれた専用のPAとカルロの才覚が、その僅かな間を潜り抜け、横断した。


 目でも追えないスピード。

 アーシェと対峙した時よりも正確に、圧縮されたフォトンが瞬時の加速を生み、群がる黒服たちの後頭部を蹴り倒した。


 「アンタが大立ち回りしてる間に、じゃじゃ馬達がもう忍び込んでるぜ?」

 「そうか」


 一番乗りしたはずが囮になってしまったか。

 ノルンを助けにと焦って行動したのに、何をやっているんだ俺はと、気持ちが沈んでしまいそうだ。


 「なら、早く追いつかなくてはな」


 残りはなんとかカルロの強襲を凌いだ数人と、リーダー格の二人。


 彼らはあっという間に倒れた味方を見て、信じられない物を見る目つきでこちらを睨んでいる。


 まぁ、余裕だろう。もう俺は一人じゃない。

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