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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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22 ヴォルテラ⑤ その辺りって電波悪いのか?

 「なんていうか、普通に対応するんだね」

 「経験済みだからな。大会に勝ち進めば自然と慣れるさ」


 同級生にやたらと呼び掛けられるが、最低限の対応をして進む。


 アーシェは慣れていないらしく、照れるような申し訳なさそうな顔をしていた。

 とはいえ彼女も大げさに言うだけでそこまで嫌そうにはしていなかった。


 彼女の才覚なら少なからず騒がれていた気もする。

 そういえば、とアーシェが何かを思いつく。悪戯っ子のような顔は珍しい。


 「貴方のそういう昔の話って全然知らないなぁ。私ばっかり見透かされてる感じがして、ずるいかも」

 「知りたいか?」

 「うん。教えて?」


 珍しく小首を傾げての上目遣い。

 何も言わずにじっとしてみる。

 

 わずかな沈黙が流れるが、しばらく見つめているとアーシェは取り繕うように目を逸らした。


 ひょっとして、メアリィの仕草を真似たのか?


 馴れないことをして恥ずかしかったのか、彼女の歩調が少しだけ早くなった。


 「これが済んだらな」


 生徒会室の扉を前にそう言った。

 肩が震えていたが、それが笑っていたからなのかは分からない。

 後ろ姿でよく分からなかった。


 「失礼します」

 ノックした後、名を告げてしばし待つ。


 いかにも頭の良さそうな声に通され、学校には似つかわしくない絨毯を進んだ。

 室内には生徒会長(ハミルトン)のほかに守性科長(レミィ)もいた。


 「疲れているところをすまないね」

 「いえ、何の御用でしょうか?」


 さっきまで歳相応にはにかんでいたアーシェの顔がきりりと引き締まる。

 反対にこちらは押し黙る。

 何か意見を求められない限り、俺の話すことはない。


 それにしても、生徒会室というのは貴賓室も兼ねているのだろうか?

 表彰状や盾だけでなく、鹿らしき剝製が飾ってあるし、よく分からなくなってきた。


 「クレイトンから聞いていると思うが、例の調査が済んだところだ。ひいてはこの話、十一番隊に聞いてもらう必要があると思ってね」


 あぁ言っていたな。

 カルロ、アーシェ、クレイトン、メアリィが相対したという異常なフォトンギア。


 いまいちピンとこないが、精神を暴走させてしまう程のフォトン供給とは……身の毛もよだつ代物だ。


 「チキータ・ユベル。ケイト・グランツ両名のフォトンギアの解析結果よ。公表は出来ませんので、ここで見るだけにしてちょうだいね」


 前者の名前は初耳だが、アーシェが対峙した方の女生徒なのだろう。

 そちらは気にせず、彼女の端末で拡大されるデータを見る。


 表示されている物は四つ。


 「左が二人の持つ本来のフォトンギアのデータ。

 アルーダ社製短剣(ダガー)ハウ・トル。

 ガルム社製細剣(レイピア)スティングⅡ。

 グリップやブレードを扱いやすいようにカスタマイズしてあるけど、()()はメーカーで出回っているものと大差ないわ」


 外見と強調したのは、それぞれのデータを見比べてほしいからということだろう。

 俺は数字を見ると途端に眠くなる性質があるが、フォトンギアの数値ならばそんなことはない。


 見たところ、フォトン収束の速さを上げている。

 ブレード外にフォトンを放出しやすいように回路を弄っていたりしている。


 興味深かったのはケイト(六番隊の隊長だったはずだ)の武装だ。


 専用の放熱装置(ラジエーター)を搭載することによって、PA(フォトンアーツ)を連続発動する際のラグを落としている。


 これはPA(フォトンアーツ)を常に発動しながら立ち回るアタッカーに多い傾向だ。

 きっとカルロの飛甲脚(ジェットブーツ)にも、似たような物が搭載されているのだろう。


 「これは……凄いですね」

 アーシェの苦笑い。前述の細かい仕様はあくまで使用者のクセを見たに過ぎない。

 

 それら二つの横に表示されているデータの一点を見て、遅れてヴォルテラもその異常さを目の当たりにする。


 「供給量ざっと5・5倍、ですか。ケイト隊長は7倍って」

 グラフの中で一つだけ突出している項目を見る。


 まるで商品コマーシャルの比較画像のようだ。

 細かい数字を見ていたアーシェは、きっと自分が戦った生徒を思い出しているのだろう。


 「ヴォルテラ君。君から見てこの武装はどうかね?」

 「異常の一言に尽きるかと」


 ジェネレーターは、フォトンギアの核である。


 素人は、小型車や従順な馬に乗ることができない。

 スポーツカーやサラブレッドの競走馬に駆れるのは、上級者だけだ。


 ひとえに難易度が違うのだ。攻性フォニマーの武装にも同じことが言える。


 「わざわざあなた達に説明することではないけど、フォトン浸透率の高さが武装のグレードを決めると言っていいわ。これは鍛錬によって強化は出来るけど、そう簡単にはいかないのよね?」

 

 守性科長レミィの確認のような質問。

 視線は当然こちらに向けられる。今度はアーシェが答えた。


 「フォトンを得る時、体内は麻薬を取り込んでいるのとほとんど変わらない状態になります。

 それの急激な摂取に耐えられる人種を攻性フォニマーと呼びますが、いくら独自の進化を遂げても元は人間。……限界は必ずあります」


 フォトンを単純なエネルギーそのものと考えても、結局それに耐えきれる容器……つまり強靭な肉体が必要なのだ。

 

 ただのパンクで済めばそれでいいが、そうでないから先の二人は暴走した。

 それも他人を巻き込むという最悪の形で、だ。


 「違法パーツの出所は?

 私達のフォトンギアは持ち込みですが、それでも入学時に守性科に提出して判をもらった物です。どこでそんな……」


 と言いながらアーシェが、あっと何かに気づいた。


 守性科長が額を押さえているが、一体どういうことだ?


 「我が学院にいるということだね。レミィの目をかいくぐって守性科の者が件のジェネレーターを手に入れ、そして生徒に組み込んだ。時にアーシェ君」


 生徒会室に話を振られた彼女の背筋が、ぴんと伸びた。


 「ユベル3年生が暴走する前の話を聞きたい。フォトンギアが異常を見せてから彼女の言動が過激になったのか、それとも」

 「彼女はフォトンギアを任意で暴走させていました。覚えがあります」


 先回りして彼女は答えた。

 ユベル、というのは教室で争った生徒の名だった筈だ。


 俺には分からないことだが、ここまで断言するのならきっとそうなのだろう。

 生徒会長は腕を組んで何かを考えていたが、それもすぐだった。


 「守性科が勝手にパーツを組み込んだ線はこれで完全に潰えたね。まぁそっちの線は初めから捨てていたが」

 「攻性科の生徒が守性科に頼んだ、というのが妥当ね」

 「あの、それなら二人のフォトンギアを担当している守性科の生徒を調べれば、話は済みますよね? 私たちが呼ばれた理由が、その」


 ……場違い感が否めない。


 アーシェは関係者だから話に関わっていけるが、俺にはもっと呼ばれた理由が分からなくなってきた。


 「あぁすまない。実はもうある程度捜査は進んでいるんだ。その生徒たちの取り調べは済んでいて、調査結果が君たちテスターに関係があるのさ」


 テスター? ということは特化端末(イグドラ)のことになるのだろうか?

 俺の視線に気づいた生徒会長が、それではないよと首を振る。



 「君たち十一番隊は、その出自や経歴を含めての選抜なんだ。特化端末の開発費用を工面したルア家、研究のための資料や資材の提供はフォンドブリゼ家に、といった具合にね」



 ……この話、聞かなかったことにするか。

 クレイトンとメアリィには、間違っても漏れないようにしなければ。


 「ヴォルテラ君はガーランドでの公式大会の経歴から。君が攻性科で学ぶことはほとんどないことは把握している」


 謙遜はしない。先日のナンバーズ部隊との闘いでそれは理解した。

 アーシェの驚く顔が印象的だった。


 「君からは純粋な戦闘技術を期待している。これまで通り、存分に力を発揮してくれ」

 

 頷く。俺の家柄はたいした話にはならないので、そこは安心する。


 「アーシェ君は特化端末(イグドラ)のテスター第一候補だった。君ほど適性の高い生徒は最上級性を探しても存在しなかった」


 アーシェのなんともいえない顔。同じ立場になって考えて見ると複雑かもしれない。


 「その適性、具体的には?」


 俺の方で詳しい説明を求めると、彼は意外そうな顔でこちらを見てきた。

 その反応はどこか興味深そうで、妙に楽し気だった。


 「拡張連携機能(クロスオーバー・システム)の説明は既に何回か説明したね? 覚えているかな?」


 あまり。

 俺の記憶力を察したアーシェが半目で睨んできた。


 まったく以心伝心で頼もしいな、お恥ずかしい。


 「フォトンは人それぞれ流れている性質が違うのは分かるでしょ?

 その周波数や波長の差をフォトン係数といって、フォトンギアはそれぞれ係数を変えているから、その人専用の武装になるの。それは分かる?」


 もちろんだ。

 攻性フォニマーたるもの、技師にわざわざ係数を測ってもらう手間はかけられない。

 自分の数値はよく覚えている。


 「拡張連携(クロスオーバー)はね、一時的にその係数を統一化するの。

 特化端末(イグドラ)が起動者同士の係数を読み込んで、すり寄せる。

 同じ係数になった起動者は扱うフォトンの質が一時的に同一になるから、専用のギアを共有出来るようになる。その性質を利用して発案したのが拡張連携機能(クロスオーバーシステム)

 共有したフォトンを見えない糸状にして繋げて、意思の伝達を可能にさせたのを更に、浸透率を強制的に上げさせたのが……」

 「アーシェ。恥ずかしいから、後で頼む」


 ノリノリな辺り、彼女は説明好きなのかもしれない。

 段々と得意気になる姿は俺が当事者じゃなければ微笑ましい。


 「で、アーシェさんはフォトン浸透率が凄まじい。第一に発現したのが君だったのは、おおむね予想通りだったわ」

 「その、あまりイメージがつきにくいんですが」

 「浸透率の高さは、如何にフォトンに身を委ねられるかだ。左右で係数の異なる武装を扱ってきたブリックリンは、知らない内にその度数を上げていた」


 二丁持ち(ダブルアーム)のこだわりが彼女の適正を跳ね上げたのか。それは理解した。


 「カルロはフォトンの操作精度が図抜けている。

 特化端末とは別件で、あの少年には最新鋭の飛甲脚(ジェットブーツ)のテスターもしてもらっているの」


 やはりあの武装、最新装備だったか。

 通りであんなにカッコよかった訳だ。


 足先という最もフォトンの通いにくい部分に集める芸当は当初から凄いと思っていた。

 これは伝えてもいいことかもしれない。



 「そしてノルン君は、最大フォトン許容量の多さだ。

 本人から聞いたかな? 彼女はその特異な経歴故に、一般兵のおよそ十倍の許容量を有している」



 絶句した。


 それはすなわち攻性フォニマーの伸び代を意味する。

 その驚きの情報に思わずアーシェと顔を見合わせてしまった。


 「彼女の武装は最高峰の攻性フォニマーでも持つことが出来ない、AA(ダブルエー)グレード相当だそうだ。なんでも製作には恐ろしいコストがかかっている。

 とても13歳の少女が持てる代物ではないと、守性科で奇声をあげた者もいた」

 「ハミルトン!」


 唐突に咳払いをする守性科長(レミィ)に事情は察せられたが、それはどうでもいい。


 「彼女の出自は極めて特殊だ。彼女はれっきとしたアルマ人だが」

 「待ってくれ」


 続けざまに話そうとする生徒会長に、俺の方で待ったをかける。


 「その話、ノルンの生まれや秘密に関係ありますか?」

 「そうだね。プライバシーに関することだ」

 「資質や適性の話はともかく、ノルンの身の上を会長から聞くのは筋が違う」


 こんな不意打ちで彼女の秘密に触れるなんて、あってはならない。


 「大事な話だよ」

 「なら俺は外に出ています。アーシェ、何をすればいいかの段階に話が進んだら呼んでくれ」


 勝手な事を言っている自覚はあるが、彼女の了承なしにそんな話は聞けない。


 アーシェの制止も聞かずに生徒会室を後にする。


 本人から話したがらない事情を、第三者に暴かれていい道理はない。

 本人が話すタイミングまで待つ。それが歳上の男……兄の役割だ。


 生徒会室は通常授業が行われない棟に位置している。

 休日ともなればこの辺りは誰も通らない。


 ……何が言いたいかというと、急に独りになったなと実感していた。

 

 アーシェに申し訳ないことをしたなと思う反面、考える事はやはりノルンの事だった。


 第一印象は、感情の起伏が少ない少女。

 特化端末の講習と、隊内の訓練でそれは徐々に変わり、見た目よりも達観している少女に変わった。


 先日の六番隊との試合で相手シューターの相手を引き受けようとした事も合わせて、冷静さを備えていることも理解した。



 不思議な子、でいいのか?



 自分でも呑気な考えだなと苦笑していると、左手が急に振動した。


 何事かとひとりパニックに陥ってしまったが、なんてことはない。

 特化端末が着信を拾っただけだった。


 間違えないよう慎重に端末を操作する。

 すると、噂をすればというのか、ノルンからの着信だった。

 タップして通話を繋げると、控えめな少女の声が聞こえてきた。

 

 「話し合い、終わった?」


 なんと答えればいいのか。

 ぼちぼちだと曖昧に答えるも、ふぅんと素っ気ない返事。

 その辺りはどうでもよかったらしい。


 「その、前に話してくれた、ハンバーグのお店なんだけど」


 寮から通学路とは反対方向にある、雰囲気の良い肉料理の店を見つけたとノルンに話した。

 彼女は食い入るようにそれを聞いてくれたが……


 ふむ、なるほど。


 「行くか?」

 「うん」


 ノルンの即答に笑みがこぼれる。

 ナンバーズ部隊の特典の一つである報奨金もあり、ヴォルテラ達の懐は温かい。

 

 卒業までに、この街の旨い店を制覇する密かな野望の先行きは明るかった。

 

 しかし、後ろの部屋で繰り広げられているのは他ならない彼女の話だ。

 

 確約できないお誘いに頭を悩ませていると……


 「ノルン、その辺りって電波悪いのか?」

  端末から聞こえてくる通話音に、おかしな音が混じったのに気がついた。


 五大国アルマの郊外でそんなことが起こるのかと怪訝に思っていると、通話先の音声が次第にノイズまみれになっていく。



 砂嵐と通信でもしているのかという錯覚のあと、つんざくような高音が響いた。



 この音には覚えがある。

 隊内の訓練でメアリィが、六番隊のシューターが響かせていた、あの音。


 長銃(ライフル)を炸裂させる音に酷似していた。俺は駆けだした。


 「武装展開(リベレーション)


 嫌な予感が、どうか当たりませんように。

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