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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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21 ヴォルテラ④ 野山を駆けまわってきたからな

 「あなたは遊びに行かないの?」


 六番隊との対抗試合が終わって数日が経った。


 初めて学院にやって来た休日。

 羽を伸ばす生徒は大勢いた。

 

 街に繰り出す者、趣味に打ち込む者……連れだって遊びに行く約束をする者の声を聞いて、ふとアーシェに尋ねた。

 

 すると、冒頭のように返ってきた。


 遊び。

 思いつくのは釣りやボール遊びか。

 故郷でやっていた遊びを挙げると彼女は興味深そうに頷く。


 「カフェに行って、友だちと喋ったりは?」

 しない。都会にチェーン店はあったらしいが、集落の周りにそんな洒落たものはなかった。


 「ショッピングは? 夏の新作を買いに行ったりとか」

 服か。ウチは特に妹たちがファッションにうるさく、遠出をすることが多かった自分に、雑誌を買ってきてとせがんできたのを思い出す。


 「まぁ、最低限あれば気にしなかった」

 これは少しの見栄。


 服にはあまり興味がなく、母や妹たちにもっと着飾れと幾度となく口にされた。


 当時は本当に気にしなかったのだが、彼女と話しているともっと気にしていればなと後悔に気持ちが湧き出る。


 お互い制服姿というのに救われた。

 ……休日だというのに学校に二人して居るのには理由がある。

 

 無論デートではない。アーシェの方は毛ほども思っていないだろう。

 生徒会長に呼ばれれば、俺だってそんな気は起きない。


 「隊長就任して、もう直接お声がかかるとはな」

 「勘弁してほしいよ、もぅ」


 休む予定だったのにと愚痴るアーシェ。

 寮内では降ろしていることが多い栗色の毛は凛々しく後ろで纏められ、尾のようにぴこぴこと揺れる。


 「どこかに行く予定だったのか?」


 彼女は首を振った。

 単に休日を邪魔されたのがお気に召さなかっただけらしい。

 

 少し前を歩く彼女の背が、こころなしか曲がっていた気がした。


 校舎が見えてきた。

 アルマリン教導学院は名門だが改築を重ねているそうで、古めかしさはどこにもない。


 植樹があるにも関わらず、大抵のデザインが鋭角的だった。


 「そういう訳じゃないけどさ、一週間の疲れが、ね。あんな大舞台初めてだったし」


 対抗試合での彼女を思い出す。


 試合前……見るからに緊張していたが始まる頃には吹っ切っていた。

 内容的にも活躍していたし、縮こまってもいなかった。

 そういう気疲れをするタイプには思っていなかったので、意外だ。


 「ヴォルテラはガーランドの大会にも出てたんでしょ?

 落ち着いてたし、前にやってくれた演舞? すっごくカッコ良かったもんね」


 後ろを振り返りながら、彼女のどこにも含む物のない笑みが向けられた。

 屈託のない前向きな性格が生むアーシェの笑顔は、ちょうど春に咲く花を連想させる。


 「私一番びびってたのに、乗せられちゃったもん」


 わざと悔しそうな顔をしてアーシェはおどけていた。

 しかし、あどけなさの裏にある負けん気はカルロとの件で知っている。


 その悔しさはきっと本物だろう、それでいい。


 「じきに慣れる。追々だな」

 「あっ、上から目線かぁ?」

 「まぁな」


 伊達に幼少期から槍を叩き込まれてはいない。

 女子にしては大きな手がびしびしと肩を叩いてくるが、もちろん加減されているので痛くはない。


 「ただ強さの基準は人それぞれだ。例えば昨日の試合でも言える事だが」

 カルロの機動力はもちろん、メアリィの設定次第で如何様にもPAを決められる変則性は、ヴォルテラにはないものだ。


 しかし、大事なのは武装(フォトンギア)に頼った性能ではない。

 彼女の平手をいなしながら、後日に見た試合の映像を思い出す。


 「クレイトンの防御は見事だった。

 俺も三人倒したが、明らかにあいつが相手した三人の方が上手だった」


 旋棍(トンファー)という武装は故郷でも何回か見たが、彼らは要塞の如き防御力で他を寄せつけなかった。クレイトンもそれに近しい、守りを重視している戦い方。


 自分とは対照的な、じっと耐えて勝機を掴む戦法。


 「俺がメアリィをぶちのめすのは簡単だ。だが彼女が狙撃でも仕掛けてきたら、俺にはどうすることもできん」

 「人それぞれってこと?」


 頷く。


 ちょうど校門をくぐると創立者の銅像が見えてきた。

 その足元には剪定されたばかりの花畑が広がっていた。


 「ソレと一緒だ。香りを好む者もいれば、季節の移ろいを感じる為に育てる者もいる」


 淡い色、鮮やかな色と様々な種類の花弁が風に揺れる。

 帰路の度に連想していた物を見つけ、近くに寄って薄ピンクと白のグラデーション目を引く花弁に触れる。


 「アーシェはチューリップ。花弁だけじゃなく、長くまっすぐな茎も含めてお前にぴったりだ」

 オレンジ色のものがなくて残念だ。彼女に一番合う色だと思ったのに。


 彼女の方を振り返ると、両手で口許を隠して、元々大きな目をひとまわり大きくさせて驚いていた。

 うん、やっぱりアーシェのこういう反応は可愛らしい。


 「その、ガーランド人って、みんなこうなの?」


 さて、どうだか。そんな曖昧な聞き方じゃ答えられない。

 まぁ今日はこの辺にしておこう。


 別に口説きたくて花に触れた訳ではないのだ。


 他のメンバーにも連想させる花はある。


 真っ赤なアマリリスはカルロ。

 熱さに強くハッキリとした色の花弁は、あの好戦的な少年を想像させる。

 もちろん、あの逆立った赤毛も含めて。


 メアリィはキリ。

 見た目や普段の振る舞いは派手だが、彼女の隠すひたむきさと、そこはかとなく見える気品さは、あの薄紫の花弁とよく合っている。


 白のシュウメイギクはクレイトンだ。

 強い耐寒性を備え、年中見られることが出来る。

 積み重ねることを苦に思わない彼にはぴったりだろう。


 ちなみにノルンはオジキソウ。

 繊細さと内に秘めた鋭敏さ、彼女の見え隠れする深い事情は、触れ難い花弁のようだった。


 ……話は逸れたが、要は花の種類と同じくらい強さにも種類がある、と言いたかったのだ。


 「く、くわしいね。その、私よりも」

 「野山を駆けまわってきたからな」


 大概の花なら分かるつもりだ。


 しかし微妙な違和感を覚える。

 春の花がほとんどだが、シュウメイギクが咲いているというのは変だ。


 あれは秋の花で、今の季節ならもう少し控えめにしていると思うのだが。


 「そりゃ、あれでしょ」


 アーシェの指差したのは空。

 いや、空と地の間を挟むものがもう一枚あったか。


 「遮断フィルター。あれのおかげでアルマは気候があんまり変わらないから」


 空一つとっても、故郷ではないと感じられる。

 ガーランドは寒暖差が激しく、遮断フィルターのみでは抑えられない気温差がある。


 温暖なアルマと違って当たり前か。


 「でも貴方って素敵だね。花壇なんて、あって当たり前のものって思ってたから」


 陽射しと、ほんの少し離れているせいで彼女の顔はあまり見えなかった。

 快晴と花を前にして、どこか陰のある表情。


 分かるのは、それだけ。


 俺達はまだ、内面を理解出来る程の繋がりはないのだ。

 上着を脱ぎたくなる温かさなのに、今だけはどこか肌寒かった。


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