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2 アーシェ② 新入生だけのナンバーズ部隊、ねぇ

 「あの、何かの間違いでしょうか?」


  大企業の応接室かと見紛う豪勢な一室。

 生徒会室という学院の権威は調度品で固められ、靴越しで分かる良質な絨毯で一面を覆っていた。


 口に出た疑問は、至極当然の物だ。


 ピカピカの新入生たる自分に与えられるものは、ガイダンスやカリキュラムとか、あいさつとか肩慣らしに似た初歩的な物ではないのか?


 「これは間違いではない。異例だとは思うが、これは新入生たる君たちにとって大きなチャンスだ」


 答えてくれたのは生徒会長。

 眉目秀麗をそのまま形にしたような、線の細い男だ。


 「はいはい質問!」

 この学院で最も偉い者に対する口調ではない。


 早くも制服を着崩している少年が元気よく手を挙げた。


 「許可しよう」

 「なんでオレらなの? こう見えてオレ、頭悪いんだけど」


 ツンツンに逆立った髪は絨毯と遜色ないほどに赤く。理知に富んでいるようには見えない。

 ついでに敬語も使えない言葉遣いだ。こう見なくても、どう見ても頭が悪そうだった。


 「それは知っている。君たちを選んだのは成績ではなく偏に適正の高さだ。喜びたまえ、筆記はそれほど考慮していない」

 「あざぁす!」


 生徒会室が震える程の大音量に、ついびくっとしてしまった。


 というか筆記試験は目も当てられない程なのか。清々しい程の快活さだった。


 「はぁい、質問いいですかぁ?」

 間延びした声は、金髪ボブカットの小動物的な可愛さを持つ女生徒。


 制服の形を変える大きな膨らみを含め、男子の視線を集めること間違いなしだろう。


 別に、これっぽっちも羨ましくない。


 「テスト生って聞きましたけどぉ、具体的には何をするんですかぁ?」

 「うむ、君たちには実験に付き合ってもらう事になるだろう。それ以外にも実地任務や、本来新入生にはないカリキュラムをこなしてもらうことになる」


 「待ってください」

 口を挟んだのはいかにも真面目そうな生徒。


 新入生で唯一壇上に立ち代表挨拶をしていたのが印象に残っている。


 キリっとした顔つき、灰色髪の爽やかな刈り上げ、シルバーフレームの眼鏡から、彼がどういう性格なのかを映し出す。


 「どうした我が弟? 私はこちらの可憐な生徒の質問に答えているのだが?」

 「他の生徒と同様に呼んでいただけませんか、会長」


 眼鏡の彼が憎々し気に生徒会長を睨んだ。

 同じ灰色の髪や、声の高さなどがよく似ている。


 言われずともピンときていたが、やっぱり兄弟なんだねこの二人って。


 「それで、どういう選考基準で選ばれたのでしょうか? 僕らより優秀な上級生を選べば話は早いでしょう?」

 「君たち以上に適性の高い生徒がいなかった。それだけだよ」


 今年の新入生は特に優秀だ。

 君たちはその中でも指折りさ。


 そう言われれば悪い気はしないが、弟くんは不満げだった。


 「後ろの君たちは、何かあるかね?」

 生徒会長が指したのは、アーシェ達から少し離れてそれを聞いていた二人だった。


 「特には」

 短く答えたのは大柄な生徒だった。長い黒髪にうんと高い背は……まぁ、(ヴォルテラ)だ。割愛しておくとして……


 言っておくなら、煌びやかな宝石よりも甲冑の似合う男らしさ、という美辞麗句を送ろう。


 「ない、です」

 同じくらい短く答えたのは小さな少女だった。隣に立つ美丈夫のせいで余計にそう見えた。


 ダークブルーの髪は短く、邪魔にならないように切り揃えられている。

 成熟しきっていないあどけない顔、玉のような白い肌、痩せ気味にも見える体はアーシェ達と比べ、随分と幼く見える。


 本当に年齢が下かもしれない。


 「詳しいことは追々分かっていくだろうし、その都度答えていくつもりだ。

 とにかく君たちはまず、新たな環境に慣れることから始めていってほしい」


 生徒会長がすらすらと話していく。

 完全に質問がないわけではいが、ちゃんとしたフォローがあるのなら問題ないだろう。


 「君たちには特例として()()()()()()所持の許可と、専用訓練室を用意している。

 有事の際には出動してもらうし、学外での任務も優先的に受けてもらう。そのための訓練として役立ててくれ」


 たまたま近くにいた自分が、会長からデータチップを渡される。

 詳しいことはこれを見ればいいそうだ。


 「では早速向かいたまえ、十一番隊。この学院の新たな規範よ」


 新入生が規範とは、どうなんだろう?






 ということがあったのが、始まり。

 それに嘆いて友人にデカ女呼ばわりされたのが、数時間前。


 ひと悶着あって、隣の美丈夫ヴォルテラと一緒に帰路につき、個室でくつろいでいるのが今だ。



 「あっ、着替えないと」

 制服を皺にしてはいけないと部屋着に……いや、ちょっと待って。

 これからほぼ初対面の男たちと会うというのに、野暮ったいジャージでいいの?


 白の襟付きシャツに紺のロングパンツという、少しかっちり目の恰好に落ち着く。


 春先にはまだ薄着過ぎるが、空調は全部屋で効いているので問題はない。

 髪も解かず、ポニーテールのままで共有スペースに向かう。


 大きなダイニングキッチンとテーブル。

 皮張りの大ソファ。

 大きな液晶テレビ。

 部屋の隅にはデスクトップ型の端末と専用の机。

 空調設備はもちろん完備されていて、外にも出られるベランダが備え付けされている。


 各自の部屋があるうえでこれなのだから、凄い設備である。


 さて、わたしと既に知り合っているヴォルテラを除いて四人。

 

 「おせぇぞ、ウンコか」

 まず一人目、赤毛の少年カルロ。


 違います。

 仮にそうでも絶対に頷かない。


 カルロはタンクトップにハーフパンツという、常夏かと勘違いする格好だった。逆立った赤毛、小さな体躯、どうみても生意気盛りの悪ガキにしか見えない。


 二人目、メアリィ。

 金髪、猫撫で声、胸の大きい女子。


 「あらぁ……足が長くていいですね。モデルみたい」


 彼女はフリル付きのタイトなシャツを着ていた……あんたもタンクトップか。


 ていうか、その生足を晒したミニスカートは何?!

 胸元ぱっつんぱっつんだし、あざといわぁ。


 三人目、クレイトン。

 生徒会長の弟、眼鏡の男子。


 「19:00前には集まれと言っただろ」

 いや二分前だからセーフでしょ。


 彼はシャツの上から羽織ったカーディガンに、シンプルな黒いパンツ。こちらはイメージ通りの優等生的な恰好だった。


 四人目、ノルン。

 口数の少ない幼女。


 彼女はちらりとこちらを見ただけで無言。持っているマグカップでちびちびやっている。


 ていうか、なんで制服姿?


 多少毛色は違っても、友達数人で集まれば雰囲気は寄るものだ。


 賑やかなグループ、大人しいグループ、個性的なグループ……色は似るものなのに、こうも雰囲気の違う面子でこれからやっていくのかぁ。


 「新入生だけのナンバーズ部隊、ねぇ」


 学園の代表。

 話にしか知らないが、毎年多くの生徒がその資格を得る為にもがいているものを、一日で、か。


 「なんで選ばれたか、わかる人いる?」


 詳しい説明は明日、生徒会長の方からあるという。

 まずは親睦を深めたまえと……いや、目的も理由もモヤっとしたままで話せ、とか……


 「そういえばぁ、クレイトン君ってぇ、あの生徒会長の弟さんでしょう?」

 「そうだが?」


 あざと女子(メアリィ)が一石を投じる。眼鏡男子(クレイトン)はその内容に、見るからに嫌そうな顔をして頷いた。


 「十一番隊の話は、あらかじめ聞いたりしなかったのぉ?」

 「ない。僕だって初耳で驚いたさ」


 眼鏡の下の顔が曇った。身内の話は嫌らしい。


 「なにか共通点があったりするんでしょうかぁ?」

 「オレは入学前に個別でテスト受けさせられたぜ?」


 テスト? 私やあざと女子(メアリィ)眼鏡男子(クレイトン)が訝し気な目になる。


 「それは……全員がやる測定器の話ではなくて?」

 「ちっげぇわ。新武器? なんかコードついたヤツ使わされたんだよ」


 ソファを占領して伸びていたツンツン赤毛(カルロ)が言うも、私には心当たりがない。

 こいつだけ……? とも考えられる。


 むくむくと沸き上がった嫌な感情。そして謎がまったく解き明かされない不快さ……


 「ま、オレ様が特別ってだけの話っぽいな?」

 にやりと笑うカルロ。


 「ま、気にすんな! オレ様は近い内に衛士団(ガーディアン)でエースになる男……格が違って当たり前だ!」

 「あんたがそんな超エリート部隊に就職するなんて、微塵も想像つかないわ」

 「あぁん?!」


 衛士団(ガーディアン)と言われれば、黙ってはいられない。


 それにしたって腹立たしい。さて、どう言い返してやろうか考えていると、ふわっと部屋に広がるいい匂いが……


 「飯だぞ、こっち来い」


 それまで離れて作業していた留学生(ヴォルテラ)が戻ってきた。

 

 「今日は時間無いから、出来合いだが……」


 と言いつつ、彼は帰りしに寄ったスーパーでさっと材料を買って、手早くサラダとスープを作ってくれていた。


 時間がなかったのでオードブル盛り合わせと付け合わせのパンも買っていたが(もちろん割り勘である)それでも十分である。

 

 「今度からはしっかり作る」

 「いや、ほんとにご苦労様だよ」


 鶏の出汁が利いたスープには数種の豆が入っており、素朴ながら味わい深い。

 サラダは一般的なトマトやレタスなんかだが、このドレッシングは知らない。胡麻がベースだと思うが、数種の香辛料でクセのあるものに仕上がっている。


 「おいし~。毎日でもたべたいなぁ」


 ちゃっかりとヴォルテラの隣の席を陣取ったあざと女(メアリィ)が、上目遣いにそんなことを言っている。


 彼の高い視点からしたら、その強調された胸が嫌でも目に入りそうだが、


 「任せろ」

 ウィンナーや揚げ物にフォークを伸ばす彼は、色気よりも食い気だそうだ。


 作ることは了承したが、ほとんど生返事。

 不満げなメアリィだったが、見ている分には面白かった。


 「僕は料理に詳しくはないが、食べたことがない味だ。なんというドレッシングだい?」

 「タヒーニィ。故郷の料理だ」

 「すまない、君はどこ出身なんだ?」


 ピンと来ていない眼鏡男子(クレイトン)だったが、それは私もだ。

 メアリィも首を捻っているし、そもそもツンツン赤毛(カルロ)は聞いてすらいない。

 無口少女(ノルン)は、あ。食べてはいるがじっと彼を見つめている。

 興味はあったみたいだ。


 「ガーランドの端にある小さな村だ。多くの部族が隣り合って暮らす集落で、俺はナギン族という部族の生まれだ」


 食事を囲めば、こうして穏やかに会話が出来るというものだ。

 ずっと一歩引いていたヴォルテラだったが、彼から話してくれるようになった。


 食事は偉大である。


 不安なことは、これから考えればいいのだ。


 お腹が満たされれば心も満たされる。

 不思議だなぁ……


衛士団(ガーディアン)とは……

アルマ……この国での攻性フォニマー軍の、更にエリート組織。

雑誌なんかにも取り上げられるスターも多い。


アーシェはミーハーなので、自分も注目されたいと思ってます。

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