19 クレイトン⑩ かなり異常なヤツだ
「おや。穴が空いたと聞いたが、本当にたいしたことなさそうだね」
「腕もすぐにくっつけられる時代だから、おかしくないよ」
病室に、ハミルトン・ルア・ソレル……僕の兄であり、生徒会長がやって来た。
「対抗試合でここまでの怪我をした生徒はいない、と聞いたぞ」
「へぇ、僕が初か」
「……やはり理解出来ないな。何故笑っていられるんだい?」
「攻性フォニマーは、そういう血気盛んな生き物だからだよ」
珍しく青い顔の兄に、何故だか得意気になる。
攻性フォニマーが大きな傷を負うのはそう珍しいことではない。
発展した医学の手に掛かれば、設備と環境さえあれば死ぬ直前だろうと復活が出来るとまで言われている。
両足を切断されても復活し、現場に義足をつけて活躍する攻性フォニマーも、広い世界にはいるものだ。
「わたしには考えつかない世界だ」
結局は、その一言に尽きる。
戦士とそうでない者は、根本的に相容れないのが現代なのだ。
さて、説明しなくては。
アクシデントもあったが十一番隊の作戦は見事にハマり、初戦は見事白星を上げる事ができた。
応援に来てくれたクラスメイト達が企画してくれた祝勝会には、多くの新入生がこぞって参加し労い大いに盛り上がった、らしい。
そりゃあそうだろう。行けていないのだから。
唯一大きな負傷をした僕はそのまま担架で運ばれ、近くの病院に緊急搬送された。
六番隊のキーンは無事だろうか? 彼こそ最もダメージを負った人間だったが……
入院なんて初めてでほんの少し興奮していたのだが、実際体験してみるとたいしたことはない。
むしろ暇と言ってもいい。
考える時間だけはあったので、今日あったこと、というか最近あったことを思い返していた。
共同生活で感じていた喧しさは、僕にとってそのまま賑やかさに変換されていた。
決して口にしないが、こうして一人の時間が増えていれば何もせず、ただ考え込む時間が増えていた気がする。考えなくてもいいはずの心配事に頭を悩ませて、勝手に塞ぎこんでしまっていたと思う。
そう考えていると、来客だ。
現れたのが兄だ、説明終わり。
「説明してくれるか? 何が原因だったのか」
ハミルトンに説明を求めてきた。
いつもの微笑は鳴りを潜め、置いてあったパイプ椅子に腰かけた。
彼もある程度は聞いていると思うが、当事者に聞くのが一番だと思ったのだろう。
異常なフォトン量、変貌、凶暴化、見境が無くなっていたこと。
僕で分かる範囲で、ケイトに起こったことを話した。
「ケイト隊長の装備を押収し、調べてくれないか?
恐らく違法パーツが組み込まれていたはずだ。それもかなり異常なヤツだ」
事のあらまし、というほど事情を知りはしない。
だが、彼は顎に手を置いて真剣な面持ちで、怜悧な視線をこちらから外すことは無かった。
「フォトンの過剰供給とお前は言ったね。……なんでもフォトンギアは、階級によってジェネレーターが違うんだろう?」
例えばクレイトンの旋棍(ブレイサーⅢ)はCグレード。
自分で言うのもなんだが、学生は最低のEグレードでも全く問題はない。
未熟なフォニマーは供給されるフォトンの量に耐え切れず不調をきたすこともあるし、コントロールできない力は周りにも害を及ぼす。
Cグレードは国の一般兵が所持する物と変わらない。
フォトンのコントロールや浸透率はこれでも十分といえる。
まぁカルロやヴォルテラの武器はBで、歴戦の攻性フォニマーでないと扱えないモノだから、少し不満であるが。
ハミルトンは端末からあるデータを出し、僕にも見せてくれた。
それは、数日前にアーシェとカルロが戦った女生徒のフォトンギアを押収した物のグラフらしい。
「彼女の短剣型フォトンギアはEグレード。習いたての攻性フォニマーほとんどがそれくらいの階級だが、中身はそうではなかった。なんでも規定の5倍以上の出力が出ていたそうだ。
守性科長曰く、各国で五本指に入るフォニマーが扱う様なAグレードのジェネレーターと、そう変わらない出力を出していたそうだ」
ぞっとする事実だった。
その場で相対していたアーシェとカルロは、よくそんな化け物フォトンギアを相手にしたなと関心する。
「解析はまだだが、ケイトの物も似たような数値だろうと踏んでいる」
それが僕の足に穴をあけた訳だ。納得の威力である。
「違法パーツは、そこまで簡単に手に入るものなんですか?」
「どうだろうか。一時的な強化が見込めるのなら、手を伸ばす者は多そうだが」
確かに、それを制御できるのなら僕だって欲しい。
しかし、その前提には「副作用がなければ」という文句がつくことになるが。
「二人の容体は?」
「お前よりも軽症なはずだが、どういう訳か目を覚まさない。大きすぎる力の代償といったところかな?」
肩をすくめて言うが、その顔は真剣そのもの。
ハミルトンは窓から見える茜色に目をやり、静かに拳を握りしめていた。
「クレイトン。まだ少し先の話になるが、十一番隊に直接依頼をすることがあるだろう。
ナンバーズ部隊としての実力は今日示された。誰も異を唱えはしない」
その時、また話そう。彼はそう言って病室を後にしようとした。
今更だが……この病室が個室なのは、こういう会話をする前提だったのだろうか?
大きな犬の尻尾を踏みつけたような、そんな感覚に近い。
知らず知らずのうちに何かに巻き込まれようとしている。だが、あまり不快ではなかった。
お前の様に戦えたら。
去り際に、そう聞こえた気がした。
足早に去っていく後ろ姿は知っているはずなのに、見知らぬ人の様に見えた。
「はーいクレイトン君、元気?」
……唐突に現れた女生徒に、感慨とかそういうのが全て持っていかれてしまった。
「良い部屋じゃん? さすが隊長様」
クラスメイトがぞろぞろと部屋に入ってきた。なんだなんだ、これは一体何事か。
「お見舞いきたよー」
「つっても元気そうじゃん。何日くらい入院すんの?」
騒がしい声に揉まれたせいで、あぁもう考えがまとまらない。
しかし、心地の良い喧騒だ。
ナースの方が注意に来ないか心配になる煩さだったが、こういうのは初めてだった。
小一時間の間、弄られたり、褒められたり、微かにケイトの件が見えていた者の言及は躱していると、今度は彼らがやって来た。
「おっすー、ってなんじゃこの人数!?」
「お、十一番隊じゃん!」
ドアのけたたましく開け放つカルロと、それに続く皆は苦笑いでクレイトンの個室に入って来る。
「わぁ、ヴォ、ヴォルテラ君だぁ」
「アーシェちゃん、間近で見ると背高っ」
「ノルンちゃん? へぇホントに子どもみたい」
待て君たち、これ以上うるさくしたらホントにマズイんだが。
そんな心配を誰も組んでくれることなく、結局ナース長という偉い方が僕の部屋まで押しかけてくるのだった。
そして、何故か僕が説教を受けるのだった。……なんでだ。




