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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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18 クレイトン⑨ 特別になれるチャンスかもしれない

 「剣を戻せ! 負けたんだオレたちは。舐めていた新入生に作戦を練られ、負けた。それだけなんだ。ケイト、お前それでも名家の端くれか!?」


 飛び出してきた隊員(キーン)が短刀で、自隊の隊長(ケイト)に肉薄する。


 しかし、数回切り結んだだけで彼は吹き飛ばされ、連続して放たれる閃夕穿(ナーガ)に成す術なく、鮮血を飛び散らせた。


 血? あの出血量は訓練でも試合でもありえない。

 地面に水溜りが出来る程の血って、それはもう。


 「殺す気なんですか? 仲間でしょう?」

 「君が抵抗するからだ、だからキーンが傷ついている。

 分からないか? 君が早くあぁなってくれれば、あいつが痛い思いをすることはなかったんだぞ!? 分かるか? 全てがおまえのせいなんだ! どれもこれも、おまえが悪いんだ」


 支離滅裂に責任の所在をクレイトンにぶつけるこの男に、寒気がした。

 目なんか血走って、口の端は不自然なほど釣りあがっている。


 同じだ。

 この間の女生徒が引き起こした、異常なフォトン量上昇による陶酔。

 攻撃性を含むフォトンの過剰供給により、凶暴性を明らかに増しているのだ。


 「勝負はもうついたでしょ! なにやってんのケイト!」

 「違うよカーラ。生きるか死ぬかが本来の戦いだろう? だからほら? 早く隊長を殺さないとさぁ!」


 迫る刺突はさっきよりも数段速い。

 頬をかすった刃から温かいものが流れ落ちるのが、余計に背中を強張らせた。


 さっき吹き飛ばされたのでアーマー残量はゼロ。

 つまり、何を食らっても痛みはもちろん傷を負う。頭に当たればそれこそ即死。


 死ぬかもしれない。

 足場が断崖に立たされたような頼りないものに思えた。

 

 ケイトが吠え、口元から溢れる抑えきれない唾液が恐怖を煽る。

 殺人鬼に襲われているような錯覚すらあった。


 こちらに放たれる発砲音にケイトは一瞬だけ視線をやった。


 彼は振り向きざまに細剣を振り、メアリィの弾丸を切り払ったのだ。

 目の前で行われた神業に目を剥いてしまう。


 「そうかそうか、シューターを先に狙うのは定石だよ。そうだそうだ」


 血走った目が離れていた彼女に向かった。凄まじい轟音を立てた後、瞬く間に距離を詰めたケイトの放つ刺突が、間に割り込んだカーラに突き刺さった。


 「今よ、なんとかしなさい!」


 痛みに叫び出しそうなカーラが、喉を焼きつかせながら僕を呼んだ。

 反射的に飛び出し、がら空きの背に向かって回転をつけたトンファーを振りかぶる。


 しかし、また異常な速さで反応され、その細い刀身で阻まれてしまう。

 どういうことだ? 防御に全く向かない細剣(レイピア)が、武器破壊にも適しているトンファーを払いのけた、だと?


 素早い切り払いに戦闘服が裂け、クレイトンから幾つも赤い血が飛び散る。

 ぎりぎりの後退で致命傷を避けたが……この男は、ここまで強かったか?


 さっきまで対応できていた六番隊隊長はもういない。


 今ここにいるのは、異常なフォトンを振りまく殺人鬼だ。

 殺されるかもしれないという恐怖と緊張が、背中を強張らせた。


 と同時に、思ってしまった。


 凶悪な犯罪者を制圧する。

 幼い時に考えた状況と、とてもよく似ていないか、これ?


 すとんと、腹に落ちる感覚が心地よかった。


 「メアリィ。これは僕にとってチャンスかもしれない」


 正義の象徴(トンファー)を構えなおす。


 重心は真ん中で、体を半身にして攻撃が当たる面積は最小に。そして視線だけは逸らさず、真っ向から相手を見据える。


 「悪漢を捕える市民の味方に、特別になれるチャンスかもしれない」


 来いと、顎で挑発。


 血の上った男は驚くほど簡単に釣られ、踏み込んできた。

 数度の切り払いに、突きの連続に素早い切り払い。

 そのどれもが速く、一撃一撃にヒヤリとさせられる。

 

 しかし、そんな悪意だけの攻撃にトンファーは壊れやしない。


 僕が耐えられる分だけ応えてくれる。

 足捌きだけを意識して、とにかく彼女達から離れるために戦場を深い森に移していく。


 こちらの反撃は一向に当たりはしないが、どれも防ぎきっているので、溜まるのは疲労だけだった。


 じっと観察した結果、この男の癖は掴めた。

 いや、元から変わっていなかった。


 映像で見た通り、攻撃のパターンが彼の中で決まっている。

 止めの刺突か斬撃を浴びせる為に、素早い攻撃を重ねるのだ。


 溜めの瞬間さえ見れば躱せる。

 格段に速くなったからといって、それは変わりはしない。


 致命傷だけを避け続けるこちらの戦法に、痺れを切らした男が対応して戦法を変えた。


 彼は急にその場に留まった。こちらが下がっていたことで両者の間に距離が開く。

 互いに踏みだせばすぐに縮まる距離だが、お互いの武器は届かない距離。


 そこを踏みこえればまた始まる。


 時間は稼げば稼ぐ程僕には有利なのだ。

 他の六番隊が彼を止めようとするだろうし、十一番隊……恐らく一番強いであろうヴォルテラが助けに来てくれるから。


 そんな考えを痣笑うように、男はフォトンを収束させて深く構えた。


 来る。


 予想通り放たれた突きは充填されたフォトンが乗っかっており、そのまま空気を押し退けて脇腹を掠めた。

 

 痛みに視界がちかちかするが、まだ終わってはいなかった。


 連続突き。その動き自体は細剣使いならば当然の技だ。

 しかし、閃夕穿(ナーガ)は凝縮させたフォトンを一点にして放つ、溜めのあるPA(フォトンアーツ)なのだ。


 連続して放つためには威力を抑えなければならないが、これは全力ではないか?

 それが銃撃のように放たれるなんて想像できるか?


 すぐにでもフォトンが枯渇する悪手だが、一向に止む気配はない。

 守りきれずに左のトンファーが吹き飛ばされ、左足を撃ち抜いた。


 痛みで意識がもっていかれそうになるが、そうしたら永眠することになる。

 なんとかフォトンの流れを呼んで流しながら、思考を働かせる。


 今この場において、ソレは適用されないのか?

 扱いきれない過剰供給のフォトンを、全力を連射することで釣り合いを取っている、のか?


 笑えない。

 そんなの武器(フォトンギア)の性能差じゃないか。

 散々彼に実力がどうの言われたのに、結局はそんな他所の理由で僕は敗れるのか?


 冗談じゃない。

 そんなので死んでたまるか。

 絶対に生き延びてやる。


 そんな藁にでも縋る思いが視界を広げた。

 端からこちらに向かって走る、揺れる金髪に、何かを引き寄せられた。


 左手を掲げた。


 同時に突き上げられた特化端末が光り、そして無機質に音声を告げた。



 『拡張連携(クロスオーバー)起動(オン)



 一秒にも満たない、隙間ともいえるほんの僅かな合間。

 広がった間隔を埋めるような電子の情報に混じり、呼吸と熱、汗と匂い、思考と思考が交錯する。



 叱られるあたし。気に入らない叔母が一挙手一投足を注意し、動きづらいドレスをはためかせてやって来る。平手打ちを我慢して受けたのを数えなくなったのは、何回目だったか?


 褒められる僕。手放しで喜ばれるのが気持ち悪く、次第に大きくなってくる重圧から何回も逃げたくなった。ただ、真っ向からそれを乗り越える兄に負けたくないから、ひたすら歯を食いしばった。


 追想する互いの記憶に、わずかな困惑はあった。でも、不快感はなかった。なんだろうか。知りたがっていたことだから、だろうか。


 作戦、覚えてるか?

 もちろん。使えるかもって言ってたのはあなたでしょ?


 頭の片隅に流れる記憶の奔流とは別に、視線だけで通話しているような錯覚が訪れる。

 だが、錯覚ではないことは知っている。既にコレを終えた二人の話を、僕達は聞いている。


 長銃のレバーが切り替わり、放たれる高圧縮したフォトン弾は、銃身から離れた瞬間から効果を生む。ケイトがその接近に気づかないハズはなかったが、その種類までは分かるまい。


 錬成系PA、零鎗(ルシン)


 一瞬でフォトンエネルギーはプログラミング通りの形と性質に変貌していく。


 弾丸は氷柱石と形を変え、冷気を帯びた。

 しかし、所詮はまっすぐ飛ぶだけの風変わりなだけの弾丸。先ほどの神業をケイトは繰り返した。


 真っ向から放たれる閃夕穿(ナーガ)が、零鎗(ルシン)を中心から貫き、その熱で溶かしながら突破する。


 零鎗(ルシン)は氷。熱に弱いのは当然だ。

 先から溶かされていき、形を失った水分が辺り一帯に飛び散った。

 

 そのほとんどはケイトが頭から被ることになるが、こちらまで水溜りにする程の量に、目論見の成功を予感する。



 やっぱり、特別になりたいの?

 ずっとそうさ、僕はずっと特別に憧れていたよ。



 僕はもう立たない。全身に送っていたフォトンをトンファーに充填させ、勢いよく振り下ろした。


 放出系PA、紫抗衝(ラグナ)

 宿すは紫電。

 フォトンを電気に変換させ、帯電した打撃を繰り出す技。


 合金(フォトンギア)同士のぶつかり合いを前提にして打ち合い、相手の意識を奪う技。

 武器より外に放出しようとすれば別の技になり難易度が跳ね上がる技。


 水溜りに叩き込まれた紫電は、全身に水を被ったケイトに一瞬で繋がり、その体を電撃が支配した。

 フォトンギアによるダメージや、アーマーを関係なく透過する衝撃に抗えるはずもない。


 電源が切れたようにケイトは倒れた。

 炎のように揺らめいていたフォトンも失せ、嘘のように静かだった。

 

 ここが周りから見えづらい森林ゾーンで良かった。もし広場なら観客がパニックに陥っていたかもしれない。


 「クレイトン君!」

 長銃を元に戻したメアリィがこちらに駆け寄って来る。


 さっきまでの全能感や共鳴は既に感じられなくなり、剥き出しになっていた感情はもう自分だけのものだった。


 足が片方使えなくなっていて、バランスを崩しそうになった。

 しかし、彼女が抱き留めてくれたおかげでもう大丈夫だ。


 倒れたのは十一番隊(僕ら)じゃない。六番隊(彼ら)なのだから。

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