17 クレイトン⑧ 良い経験になりました
戦いの火蓋が切られた。
三方向から曲刀、短刀、細剣が迫るが、その動きは狙い通りだった。
フォトンを走らせながら、地面を大きく削る足捌きで回る。
放出系PA、展波。
高速回転とトンファーを覆う盾状のフォトンは、そのままカウンターを三人に叩き込んだ。
「メアリィ!」
合図を送り、彼女は一目散に後ろへ飛び出した。
彼女はフォトンギアを展開し、アルーダ社製長銃リドルフィンⅡ(グレーモデル)を抱え、かなりの距離を取ってから構え銃爪を引いた。
錬成系PA、碧立。
放つは二射。
それは六番隊を狙うフォトン弾ではなく、こちらに影響を与える射撃ではなかった。
錬成系は、放出よりも更に具体的な効果を発揮し、実体を生む。
その分設定するPAの容量を圧迫するし、なにより精密な操作を問われる分センスが要る。
故にほとんどの攻性フォニマーはアタッカーやシューターで占め、オブジェクターと呼ばれる錬成系を得意とする者は、どこの団体でも重宝される。
碧立は初弾と次弾の間を線で結び、壁を形成する。
突如生まれた障害物に、受け流された六番隊は虚を突かれる。
そして、その間を疾流で駆けぬけた。
「とめろぉ!」
ケイトの制止の叫びに反応したのはキーンだった。
壁を段差にして大きく跳びあがり、そのままフラッグへ向かったクレイトンに飛びかかってきた。
そこまで上手くはいかないよな。
短刀を防ぐも突き飛ばされ、大きくフラッグから逸れてしまう。キーンはそのまま目にもとまらぬ速さで肉薄し、何度も短刀を振り抜いて来る。
キーン・セイロス。機動力に優れた六番隊の中でもトップクラスの機動力を誇っている。
生体系に特化した典型的なスピード型といえる。
きっと彼はその速さにクレイトンが追いつけないと思っているのだろう。
速さは大きな武器だが、守りに徹すればどうにかなるのだ。
カルロほどハチャメチャな動きでもないので……そこまでの脅威ではない。
「こんのぉ!」
苛立ちをそのまま短刀に込めているが、そちらの武器は一つだ。
フェイントに蹴りを加えてこようが、本命は刃なので流すのは造作ない。地に足をつけた状態でひたすらにトンファーで受け、流すことに専念する。
立ち上がったケイトが、素早い足捌きを見せながら接近してきた。彼の戦績や得意な戦いの運び方は熟知している。
来るのは放出系PA、閃夕穿。
切っ先から鋭く放たれる高速のフォトンによる刺突。これは防ごうとは思わず、避ければいい。
大きく横っ飛びすれば先ほどまで居た場所に瞬速のフォトンが過ぎていった。
「とっととくたばれ!」
這うような軌道で向かって来るカーラの曲刀。刀身がまっすぐではなく、加えて体捌きが蛇の様な動きに惑わされてしまい一撃もらってしまう。
腹を打つ刃が酷い痛みを訴える。バリア値が減少した。
問題はカーラだ。素早い動きはそうだが、直線的でない独特の動きは慣れるのに時間がかかる。
立ち止まって防ぐのではなく、こちらから接近する。
顔をしかめながら曲刀を振るってくるが、苦し紛れの剣は簡単に弾いた。
こちらからは攻撃しないが、カーラにも攻めさせない。
過去の記録で彼女が敗北を喫した相手は、こんな戦法を使っていたのだ。常に肉薄しておけば彼女は取るに足らない。
迫るキーンはとにかくよく見て防ぎ、
視界の端でケイトが動けばカーラに飛び出し、接近と同時に刺突のフォトンを交わして曲刀を封じる。
僕を中心にした前衛達は徐々にフラッグゾーンから、森林ゾーンを跨ぎ始める。
この図を作るのに幾度か攻撃を受けたが、もう攻撃を受けることは無い。
腕に痺れが蓄積されつつあったが、ちょうどというタイミングで放たれるメアリィの射撃が六番隊の連携を崩す。
……ジリ貧だ。もうバリア値が枯渇しそうになっていた。
このまましぶとく彼らは攻撃を重ね、クレイトンを仕留めようとするだろう。
「いけっ」
小さく、指示を出した。
初めはメアリィにも警戒していたが、一桁を切ったバリア値に六番隊は狙いをクレイトンだけに定めた。
故に、彼女が動きやすくなったのだ。
長銃を抱えながら駆けだす彼女に三人が血相を変えていた。
「いかすかぁ!」
叫んだのはカーラ。血走るほどの目つきでメアリィを捉え、彼女は瞬く間に距離を詰めた。
生体系は苦手なメアリィはあっという間に追いつかれ、脇腹に曲刀が叩き込まれる。
安全装置として刃引きされてある刀剣は、どんなに勢いをつけてもフォトンアーマーを貫けはしない。
しかし痛みは何も変わらないのだ。
太い木に叩きつけて悶えるメアリィを、カーラは嗜虐の目つきで見降ろしていた。
「そんな思いついたような小細工、通用すると思ってた?」
「これが実力差だよ」
閃夕穿が放たれようとした。メアリィも僕も限界だった。
……笑いを堪えるのにも、限界はある。
試合終了を告げるサイレンがけたたましく鳴り響いた。
「はぁ!?」
一斉に彼らはフラッグの方を見た。
それは、ちょうど空を駆けるカルロがフラッグをへし折っていた姿だった。
「やりぃ! 本日のMVP、カルロ様だぜぇ!」
いっやほぉう! とフラッグ片手に宙を飛び回り、観客席にアピールする我らがお子様は、拍手と歓声を一身に受けていた。
「まぁ、あんな速いのがいるなんて思いませんよね」
絶句する六番隊には申し訳ないが、謝る気はない。
散々舐められた態度を取ってきた相手に、わざわざ頭を下げるなんてごめんだ。
いや、あえてやってみるか?
「今回はどうもありがとうございました。良い経験になりました」
慇懃無礼というのは、こういうので合っているのだろうか?
敗者に鞭打つなんて高潔さから最も遠い行いだが、もう取り繕ったところで意味はない。
意地の悪いクレイトンは既に知られているのだから。
「……るか」
ぶつぶつと震えるケイトが、聞き取れないような小さな声で何かを言った。
握り締めている細剣がカチリという機械音を立てた気がした。
「認め、られるか!」
急に声を荒げたケイトを中心に、衝撃波のようなものが発せられた。
近くにいたキーンはもちろん、クレイトンまでも吹き飛び後方にあった木に叩きつけられる。
呼吸困難になりかけ、えづいてしまうが、脅威は去ってはいない。
眼前に迫る切っ先に、地面を転がって避ける。
カンという謎の高音が何なのか、ぐらつく視界の中で見たのは刀身が半分ほどしかない細剣だった。
僕がぶつかった木に、細剣が深々と突き刺さっていたのだ。
これは、アーマーで防ぎきれるものなのか?
いや待て、既に試合は終わっているだろう?
この男は一体なにをしているんだ?
「ケイト! おまえ何を……」
「止めるな! これは仕方のないことなんだ。出過ぎた杭を打っているだけで、平均を保とうとしているだけの、正しい行いなんだ!」
「馬鹿かテメェ! もう試合終わってんだぞ!」
立ち上がったキーンが叫ぶが、ケイトはよく分からないことを宣うだけ。
こちらに細剣を何度も振るって来る。
その威力が、先ほどまでのものは遊びなんじゃないかと思わせる強さで、まさかコレって。
暴徒鎮圧モードを解いたのか?
いや、細剣からフォトンが漏れ出て空気中に散っていくなんて、通常じゃありえない。
違法パーツでも組んでいて、制御しきれないフォトンが垂れ流しになっているのか?
先日の事件が過る。
アーシェとカルロが相対した、異常なまでのフォトン量の向上。
この状況、同じなんじゃないか?
冷静であろうと、理性でこの先の展開を予想する。
他の攻性フォニマーの生徒が出張ってこれを止めようとすれば、間違いない。
死人が出る。
以前とは練度がまるで違う、優秀な生徒が暴走したのだから。
冷や汗が止まらない。
意味がまったくない戦いが、強制的に始まろうとしていた。




