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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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16 クレイトン⑦ みすみす手放すバカはいませんって

 「シューターがいる! 隠れろ!」


 さっと手近にあった壁や石柱に身を潜める。ノルン、アーシェとメアリィは肩を入れ合うようにして壁を背にする。


 木々と茂みを抜けた先は、塔のように大きな柱がいくつも経っている石柱群ゾーン。

 それ以外にも遮蔽物になる木組みのバリケードや鋼鉄製のフェンスなど、癖のあるステージにやって来た。


 視線を感じたのだ。

 先ほどの奇襲がクレイトンの危機感を跳ね上げ、飛来する攻撃をいち早く察知させた。

 素早く振り払ったトンファーがフォトン弾を打ち払った。


 「六番隊のシューターは一人だが、地形が悪すぎる」

 「守る側が傾斜の上ってズルくない!?」


 分識眼鏡(クリアー・グラス)は味方の数値は割り出すことは出来る。

 プログラミングしてあるからヴォルテラやカルロの位置をすぐに把握できるが、相手側には当然適用はされない。


 正規軍ならハッキングでもして割り出そうとするだろうが、こういう対抗試合でそれは禁止されている。


 「迂回するか?」


 屋外フィールドの各ゾーンは、均等の広さではない。

 森林ゾーンが両陣の近くにあり、その面積は半分を占める。

 迂回する一番近いルートは足場の悪い沼地ゾーンで、開けてはいるがすぐに敵陣の森林ゾーンに差し掛かる。


 馬鹿正直に突っ込むよりは身を隠すことができるだろう。


 「カルロの位置が割られる。それでもいいなら」

 ノルンの指摘に気づかされる。


 彼は隠密で敵陣で進んでもらっている。森林ゾーンを利用して、だ。

 もし僕達がそちらに向かえば六番隊の目は確実にそちらを向き、彼が見つかってしまう。


 「作戦、ぱぁになっちゃうねぇ」


 それは出来ない。彼の機動力は十一番隊の最高の飛び道具なのだ、簡単には手放せない。


 「バラバラに移動して的を散らすか?」

 「クレイトンくんが優先的に狙われるから、ナシ」

 「うん。メアリィもシューターだからぁ、あなただけを狙うと思うなぁ」


 他に何かないかと頭を巡らせていると、六番隊シューターの次弾が放たれた。

 それはゆっくり僕達の頭上を通過したかと思ったが、空中で停止する。


 放出系PA、雨条群(フォルスター)

 フォトン弾は花火のように拡散し、辺りを覆うように降り注いだ。


 今度は反応が出来なかった。

 呆然と降り注ぐ光を受け入れてしまいそうになって、目の前をノルンの髪が横切った。


 風変わりなフォトンギア製の手袋をはめ、彼女は空に向かって大きく両手を掲げる。

 張っていた網を持ち上げるような奇妙な動きだった。


 事前に聞いていたし、彼女が何を出来るかは把握していたつもりだ。

 ただ、本当に数えられる回数しか僕らは互いの力を知らなかった。


 彼女の手袋の先、銀にもグレーにも見える大きな爪から、青白いラインが生まれた。

 ワイヤーに似た鋼の糸が空に向かい、大きく光を放つ。


 放出系PA、展波(バリア)

 これは基礎的なPAだが、玄人も好んで扱う防御の技だ。

 武器に通常よりも多量のフォトンを流し、外に放出することで簡易の盾を作る。


 だが、これは傘だ。

 鋼線(ワイヤー)はノルンの頭上を傘の石突きに見立て、降り注ぐフォトンを弾いたのだ。


 「わたしが引き受ける。のは?」


 彼女はなんでもないように言いのけた。

 いまだ彼女のバリア値は変動していなかった。


 次に迫るフォトン弾は目で追うことは出来なかったが、彼女の指先に合わせて動いた鋼線が、それの軌道を弾いた。


 「ノルン、すごっ。これなら」


 突破できると思った矢先だった。アーシェの言葉を遮るように、接近する影。

 疾流(ドライブ)で高速接近し、刃をノルンに叩き込もうとする六番隊のアタッカーが、大きく振りかぶる。

 

 「させない!」


 とっさに彼女の壁になったアーシェが、同じくセイバー(スラッシュⅠ)で盾となった。

 何合か打ち合ったあいながら彼女が叫んだ。


 「ノルン連れて追いかける、先行って!」

 「ちゃんとまもって」

 「なんで上から!?」


 二人の漫才を聞く分には余裕が見えるが、ノルンは作戦立案時に自分で言っていた。

 アタッカーに肉薄されると集中を切らす、鋼線はろくに扱えなくなる、と。


 それならば、もう行くしかない。


 メアリィと視線が合い互いに頷いた。

 降り注ぐフォトン弾を全てノルンに任せ、二人で石柱群ゾーンを横断する。


 「あたし、もう足手まといだよ」

 

 バリア値が半分以下のメアリィが、自嘲するように笑った。


 「六番隊のシューターは1人。あとは全員アタッカーだから、3人アタッカーがフラッグ前で待ってる訳で」


 笑いが出てくる。確か残りは最上級生じゃなかったか?

 1年が数の不利を抱えて勝てるか? あぁ、勝てるビジョンが浮かばない。


 「あーあ。諦めたい」

 「正直だな」


 本当に彼女はそう思っている気がした。

 打算的な性格が顔を出して、走るのさえ止めてしまいそうだった。


 ただ、駆ける。


 「支えようとしたはずが、逆になってしまった」

 「あたし達がメインとか、ほんとままならない。また性悪モードにならないと」


 今から、散々罵り合った面々と顔を合わせてしまうのだ。瞳の輝きがまた控えめになりそうだったが、あまり心配はしていない。


 「元から君は性悪女だ」

 「ひっど、自分は優等生だって思ってんの?」

 「入試一位が優等生じゃなくてどうする?」


 本当の作戦だと、敵陣に乗り込むのはヴォルテラとアーシェだった。

 それが、たいしたとりえのない僕ら二人に変わってしまうとは。


 まったくしてやられた。


 「ガリ勉の間違いでしょ?」

 「そうだったな。ビッチめ」


 あーあ、一月前の僕は女性にこんなことを言っていたか?

 決して悪口は言わず、陰でもなるべく喋らず人畜無害を貫いていたというのに。


 石柱群ゾーンはとっくに抜け、相手側の森林ゾーンもあっさり抜けた。

 見上げるほど大きな台座の上に旗手が持つような大きなフラッグが刺さっており、そして立ち塞がるのは……



 既にフォトンギアを展開しているケイト(隊長)カーラ(副隊長)


 あと、六番隊の中でも最も軽快な動きをするという小柄な隊員。キーンという名前だったはずだ。

 短刀(ダガー)を構え無言でこちらを見据えている。


 2対3、か。つくづく不利だな。


 「ん、お前らが来んのか」

 「好都合。徹底的にボコれるわね」

 「あらあら。相変わらず下品ですこと」

 「わかったわかった、そのツラ歪ませてやるから、もうちょい待ってなよ」


 カーラは曲刀(セイバー)を構え、今すぐに飛び出そうとしていた。

 しかし、咳払いするケイトの意図を組み口を閉じた。


 「どうだろうか十一番隊、公衆リンチにしない代わりに、ソレで手を打たないか?」

 言って彼はクレイトンの左手、正確には特化端末を得物(レイピア)で差した。


 「テスター権限をおれたちに譲れ。そして十一番隊とかいう、ふざけた隊を君たちで終わらせろ」

 「そこまで新入生がナンバーズ部隊なのが嫌なんですか?」

 「当然だ」


 ケイトの声色が一段厳しいものに変わる。


 「オレたちが必死こいて先輩らの目に留まるよう立ち回り、惜しまず努力してきてやっと手に入れたこの場所を……お前たちは適正っていう訳の分からない、詳しくも説明されない理由でのうのうと手にしている。これが、怒らずにいられるか!?」


 爽やかな人だと初見では思った。

 それ以上に気難しそうな性分が顔に現れている人で、クレイトンは人知れず親近感を覚えていた。


 しかし、感情を剥き出しにして怒りをぶつけてくる彼に、もうそんな親近感はない。


 「急に会長に呼ばれた時は、なんなんだコレ。僕に見合った場所じゃないぞ、とは思いました。

 先輩方になんて目で見られるか、いつか入ってやるとは思っていましたが、あまりに早すぎて戸惑いました。辞退しようかと思ってました」


 名前も知らない人に睨まれるのが嫌で、僕は本心から目を逸らした。

 心に沸いた気持ちを認めたくなくて模範振ろうとしたのだ。


 「でも何が第一か考えた時、それはあっさり決まりました」


 だから、そんな模範は捨てよう。

 僕を縛る家はこの場にはない。

 「これまで」と「これから」を問う者の声は、聞こえないのだから。


 「こんな美味し過ぎるチャンス、みすみす手放すバカはいませんって」

 だから、こんな僕と同じくらいみみっちい者に負けるのは、許せない。


 「勝ちますよ。僕らが」

 「こいつ、ボコるぞ」


 瞬間、迫る。僕らの戦いが始まった。


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