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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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15/20

15 クレイトン⑥ 既に僕たちは不利だな

 わっと盛り上がる会場。

 数多の視線に心臓が跳ね上がった気がした。


 その声色はどこか歪で、十一番隊を迎えてくれるのは新入生だけ。

 上級生の中には野次にも似た声を上げる者が大勢いた。


 「あ、なんかメガネ変わった?」

 目ざといアーシェが尋ねてきた。視線を一身に浴びながらも彼女は気にせずストレッチしながら、こちらの変化を指摘してきた。


 シルバーフレームの眼鏡から戦闘用のゴーグル型眼鏡を装着した僕にも、もう緊張はない。


 「なんかカッケェなソレ」

 羨ましそうに見上げるカルロ。


 いや、かけないに越したことはないだろう、眼鏡なんて。


 気にすることなく、試合前の礼にメアリィを伴って向かう。

 すでに向こうには六番隊の二人が待っていた。


 「やぁ、弟くん」

 「僕はただのクレイトンです。会長は関係ありません」

 「あら意外。昨日はあんなに元気だったのにえらく大人しいわね。得意の愛想を振りまきなさいよ」

 「そちらこそよく口が回りますねぇ。今からやるのは試合ですよぉ? 討論会や講演会かなにかと勘違いされていませんかぁ?」


 早くも火花を飛ばしあうメアリィと六番隊のカーラ。

 よかった、いつもみたいに口の回る彼女に戻ってくれたようだ。


 「フラッグルール、十一番隊が攻め手(オフェンス)、そちらの敗北条件は隊長である君のバリア値がゼロにあること。これでいいんだね?」

 「はい、こちらの要望を受けて頂きありがとうございます」

 「いやいや当然だって。オレ達は先輩だからな」


 そのいかにも優しい目つきの奥には、嘲りと確かな闘志がありありと宿っていた。

 カーラ程露骨ではないが、このケイトという男も十一番隊に対し、良い感情は抱いていなかった。


 では始める、両隊位置に着きたまえ。

 審判役の教官はクレイトン達を諫めることなく、淡々と仕事をこなした。


 ひょっとしたら、試合前のこういったやり取りは珍しいものじゃないのかもしれない。


 この屋外フィールドには実況席もあるらしい。

 スピーカーから聞こえてくる勢いのある声が、両隊のメンバーをエンターテインメント溢れる紹介をしていく。


 が、そんなものは聞く必要はない。


 「地図を叩き込みはしたが、うん。地形の把握から既に僕たちは不利だな」

 「たりめーだろ。だから攻めんだよ」


 カルロは飛行脚(ジェットブーツ)を復元しながらそのフィット感を確かめていた。


 広がるグラウンドには雑木林を植えた森林ゾーンや、山地と高低差を想定した断崖ゾーン、足場の悪い沼地ゾーンや遮蔽物の多い石柱群ゾーンが詰め込まれている。


 「作戦は覚えているか?」と質問を投げかける。


 「私とヴォルテラが突っ込んで囮、ノルンとメアリィの攪乱、クレイトンがその隙にフラッグを狙う振りをして」とアーシェ。

 「カルロが取る」ヴォルテラが締め、

 「いいとこ取りですねぇ。羨ましいなぁ」メアリィが茶々を入れ、

 「オレは主役以外務まんねぇオトコだからな」カルロが大きく腕を組んだ。


 それぞれで言葉を引き継ぎながら作戦を確認していく。

 特化端末(イグドラ)を最大限まで活かせる手段を取りたかったが、実験はうまくいっていない。


 なにより不確定要素がたくさん詰まっている。そんなものをアテにした作戦は組めなかった。


 「まずは向こうの前衛の壁を取っ払う、もしくは穴をあけるくらいは二人にやってもらう訳だが」


 防御側の定石として、アタッカーを前に敷き相手側のアタッカーを凌ぐ。

 フラッグルールの場合、六番隊はこれまでの戦績から手堅い作戦を利用してきた。

 それは変わらないだろう。


 「何人来ようが蹴散らせばいい」


 ヴォルテラは事もなげに言った。

 本当にそう信じているのだろう。溢れ出す自信がこれほど頼りになるとは。


 特化端末(イグドラ)からアーマーを起動して愛用のトンファー、ブレイサーⅢをしっかりと握り込んだ。


 両隊の準備を確認した審判が、音だけを鳴らす拳銃を空に構えた。

 会場のざわつきが一瞬だけ止み、沈黙が生まれる。



 雷管が弾け、火蓋が切って落とされた。



 わっと湧く歓声に耳をやられながら十一番隊は飛び出す。

 カルロだけ別方向に走るのを見送りながら、ヴォルテラを先頭にして平地ゾーンを駆け抜けた。


 両手でも抱えられない太さの木が乱立し、腰あたりまである茂みが至る所を埋め尽くす。

 僕達が森林ゾーンに足を踏み入れた瞬間だった。


 「やられた」


 勢いよく立ち止まったヴォルテラが槍を構えた。

 何事かと思ったが、首筋にぞわりとした寒気が襲ってきた。


 次いで反応したアーシェが「来るよ!」と叫ぶ。


 生体系PA(フォトンアーツ)疾流(ドライブ)

 青白いフォトンを体に纏わせた高速移動が、木々や茂みの間からからこちらに向かってきたのだ。


 とっさにトンファーを構えるが遅かった。

 体全体に走る痛みに膝をつきかける。メアリィの悲鳴と、アーシェの奮起する声が聞こえてきた。


 「守備側(ディフェンス)が攻めちゃダメってルールはねぇからな」


 六番隊は8人でその内の3人、全員が近接用の(セイバー)やダガーなどを持っていた。

 十一番隊は進軍すらも拒まれ、あっという間に出鼻を挫かれてしまったのだ。


 「悪いね新人君。洗礼ってわけじゃないけど倒れていってよ」

 爽やかに女性隊員が言ってのける。ダガーを器用にくるくると回しながら笑っていた。


 観客の盛り上がりがひどく煩かった。


 が、向こうの一番大柄な男が明らかに顔を歪めていた。


 「オイ油断すんな。その留学生やべぇぞ」


 何を言っているのかと思ったが、すぐに分かった。


 見れば先頭のヴォルテラは膝をつくどころか、体の調子を確かめるように首を鳴らしている。

 知らぬ間に脇で抱えていたノルンを降ろしながら、ふむ、と納得の声をあげた。


 「してやられたが好都合。クレイトン、皆を連れて先に行け」

 「な、なにを言っているんだ?」


 事態を飲み込めていない僕を見て、ヴォルテラはアーシェの肩を軽く叩いた。

 目配せらしいことをした後、目の前の4人に向き直った。


 「オッケ、後から合流ね」


 さっと立ち上がった彼女は、まだ膝を突いていた僕とメアリィを叩き起こし、飛び出した。


 反射でそれについていくが、彼らが逃がすわけがない。

 しかし、両者の間に割って入った赤槍がそれを阻んだ。


 「先にコイツを仕留めるぞ!」

 「はぁ? んなの分かれて追えば」

 「馬鹿か!? そんなんで対処できるヤツじゃないぞこの一年は!」


 後ろで聞こえてくる怒号。

 3人がかりだというのにどこか焦りを含んだ六番隊とは対照的に、ヴォルテラは静かに槍を構えたのだった。


 森林ゾーンを抜けながら、ノルンが説明をしてくれた。


 「あのひと、わたしを抱えて全部防ぎ切った」

 「うへぇ、やっぱりそうだったかぁ」


 目に見えないほどの速さ、いやこれは言い過ぎか。

 奇襲のせいで対応が遅れてしまったが、あらかじめ来るのならクレイトンは対応が出来たはずだ。


 問題はなにより、心の弱さだ。

 彼の一言で意識を切り替えられておけば要らぬダメージを負うこともなかっただろう。

 アーシェにはそれが出来ていた訳だし。


 情けない声を上げているが、彼女の反応は中々のものだった。


 「ヴォルテラが抑えてくれていて、カルロはカウントしないから4対5。いけるかな?」


 アーシェはついさっきの奇襲で減ったバリア値を確認する為に特化端末を叩こうとするが、僕が制す。


 このゴーグル型眼鏡は分識眼鏡(クリアー・グラス)といい、戦闘用端末と連動して稼働する補助具だ。

 クレイトンの意識に合わせ勝手に検索機能やセンサー反応をやってくれる。


 彼女らの残りバリア値の把握はすぐに済む。


 ノルンは無傷、アーシェは7割、メアリィが4割。

 ちなみに僕の残りバリア値は6割だ。


 六番隊の奇襲がどれくらいの成果を期待していたのかは分からないが、かなり削られてしまった。


 なんて幸先の悪さだ。皆に聞こえないようごちながら、再び駆けだした。

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