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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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14/21

14 クレイトン⑤ 君とならそれが出来そうな気がする

 あぁ落ちつかない。

 渡された戦闘服のサイズはしっかり合っているはずなのに。


 そんな些細な感触が気になるくらいに緊張していた。


 当日。


 攻性科の対抗試合はアルマリン教導学院でかなり人気のあるイベントで、新設部隊の初試合となればその興奮はなかなか盛況を見せていた。


 クラスメイトが観に行くと言っていた。チケットが取れるかどうか心配とも言っていた。

 そんなことを言われれば、緊張は増すばかりだ。


 「や、やる気出てきたぞぉ」

 しっかり者のアーシェが緊張で顔を青くしていた。

 さっきからトイレの周りを行ったり来たりと見ているこっちが落ち着かない。


 「すわったら?」

 対照的にお茶をちびちび飲むノルンは、普段と変わらないマイペースさを保っていた。

 保温水筒の中身はきっとヴォルテラが用意したものだろう。聞かなくても分かる。


 「お、来てんなアイツら!」

 フィールド内に入り、客席の湧きに全身で応えるカルロは流石だった。

 今も観客席に手を振っており、緊張どころかいつもより二割増しでうるさくなっていた。


 「うぅ」

 ベンチの端で小さくなっているのはメアリィだった。アーシェの方が可愛く映るくらいに青くなっていて、手を震わせていた。

 意外、ではないか。昨日の顔合わせでも同じ様子だったし。

 

 声を掛けようと思っていると、雷鳴の様な歓声が響く。


 なにごとかと控室から顔を覗かせると、十一番隊とは反対方向の控室、つまり六番隊がフィールドに足を踏み入れていた。


 先頭のケイト隊長が颯爽と歩く側で、淑やかに手を振るカーラが様になっていた。

 後ろに続くメンバーも緊張はしておらず、慣れた様子で歩いてきた。


 あれを見ると、どうしたってこっちが頼りなくなってしまう。

 僕だって今すぐトイレに駆け込みたいくらい緊張している。


 こういう本番が昔から嫌いだった。

 この入学試験だってずっと腹痛と戦っていたのだ。


 「おいおいアイツら来たぞ? オレらもとっとと出てアピろうぜー?」


 帰ってきたカルロが騒ぎ立てる。

 一体どこで張り合おうとしているんだ。集合時間までどうして大人しく待てないのか。


 「一人で行きなさいよ。まだ時間じゃないし」

 「んだよノリ悪ぃな。あ、さてはビビってんだろ」

 「びびってないし!」


 また始まった。

 まぁ、きっとカルロなりに発破をかけているのだろう。

 アーシェがそう受け取るかは分からないが。


 「びびってんだろー」

 「え!? ノルンまで煽って来るの!?」


 無表情で言ってのけたノルンには驚いた。

 彼女なりのフォロー、でいいのだろうか? 最近彼女が分からなくなってきた。


 すると客席が再び盛り上がった。

 フィールド内を見られるモニターに映ったのは、既にフォトンギアを展開している六番隊の面々だった。


 「おい、あいつら剣なんか振ってアピってんじゃねーか! 舐めやがって、今から行って度肝抜かせたる!」

 「あんた飛び回るでしょ。また消耗してガス欠になったら許さないからね」

 「馬鹿野郎、かまさねぇでどうすんだ!」


 仲間同士で軽い打ち合いをしているが、その動きは無駄に飛び跳ねたり大げさに動き回ったりと、実用的には見えない動きだった。


 たぶん、カルロの言う通りパフォーマンスに近いものかもしれない。


 この辺りは全員新入生の僕達には疎かった。

 試合前から作られている空気に呑まれかけていて、知らない内に呼吸が浅くなっていた。


 「やっぱり、あたしじゃ」


 カルロとアーシェの騒ぎ声に消えかけてしまったが、メアリィの声は僕にははっきりと届いていた。

 だめだ、彼女は誰よりやられかけている。


 こういう時、なんて声をかければ。

 大丈夫か、心配ない、とかだろうか?

 そんな言葉で不安を取り除くことができるのか?


 僕は隊長だ。こういう時は仲間を鼓舞するものだろう?


 なのに、何も思いつかない。腹の中にあるむかむかが上がってきている気がして、言葉すら出そうにないのに、どうやって?


 「つーかヴォルテラどこ行った?」


 そういえば、カルロとは違う意味で緊張とは無縁そうな彼の姿がない。

 この狭い控室でそれすら気づかないなんて、どれだけ視野狭窄に陥っているんだ僕は。


 「ん」

 ノルンがモニターを指差す。


 すると今度は別の意味で客席が湧きたった。


 待ってましたという期待の拍手ではない。

 アイドルやモデルを目にした時の女性に起こる、黄色い歓声。


 こちらの控室側から姿を現す黒髪の美丈夫。


 彼は邪魔にならないように髪を後ろで結いながら……その姿がまた艶やかで、凛とした雰囲気がモニター越しに伝わってきていた。


 ヴォルテラは軽くストレッチをしながらフォトンギアを抜き出し、展開。

 彼の手に収まったのは長いリーチが特徴の槍だった。


 トルネオ社製の長槍(スピア)レド・ガー(レッドモデル)。深紅の槍はとてもシンプルな造りで、よく彼には似合っていた。


 彼の長い手足を越える長さのソレを器用に回しながら、ゆっくり両手で包み込むように構えた。

 静かに目を閉じ息を整える姿に、女生徒の感嘆のため息が漏れたのは想像に難くない。


 大音声の中で彼は動いた。

 シンプル過ぎる突きを三度、無駄のないスマートな動きだった。

 大きく薙いだと思えば力強い動きで空気を切り裂いた。ヴォルテラの動きは段々と躍動的になっていく。


 点から線、線から点という切り返し、首元で回ったかと思えば左右の手で瞬時に入れ替わる。

 嵐のように放たれる刃と針のように鋭い刺突。


 六番隊のパフォーマンスが大衆的と例えるなら、彼のは演舞だ。

 そこに集約された技術はどこにも媚びは存在せず、研鑽のみを得物に込めていたのだ。

 いつの間にか六番隊の動きが止まり、会場中がヴォルテラに注目していた。



 黄色い声援すらも消え、全ての視線が彼に注がれていた。



 彼は緩やかに舞うのを終え、一礼した。

 時間にして数分の出来事だったはずなのに、凝縮された何かがそこにはあった。

 

 割れんばかりの歓声と拍手が送られ、今のがメインイベントなのでは疑うほどの盛り上がりを見せたのだった。



 六番隊を完全に食ったヴォルテラは、何事もなかったように控室に戻ってきた。

 額を拭う姿はこれ以上ないくらい様になっていて、流れる汗は煌めく光の粒のようだった。


 「オイオイオイ、なんて事してくれちゃったのよオイ!」

 いの一番に駆け寄ったのはカルロの差し出すハイタッチに彼は応じる。


 「くぅ、オレが行くつもりだったのによぉ」

 「なら次の機会は任す」

 「たりめーだよ! 欠片もオメェにゃ出番はやらん!」


 カルロは悔しがりながらも、確かにヴォルテラを称えていた。

 もっと怒りをぶつけるかと思っていたが、なんというか意外だった。

 

 ヴォルテラはあまり気にした様子もなく、僕達に向き直った。


 「行くぞ」


 たった、それだけ。

 自慢げな調子が見え隠れしていたが、それは明らかに僕らを鼓舞するものだった。

 

 俺達だって負けてないと暗に言われたみたいだった。


 「よぉし、もういいや! 緊張なんてアホみたいだ!」


 頬をぴしゃりと叩き大きな声を出して立ち上がったのはアーシェ。

 青かった顔は喜色満面に変わっており、活力に満ちていた。


 そんなにも変わるかとこちらが心配になるレベルで彼女は沸き立っていた。


 「どうせなるようにしかならないんだもの。こんな初陣でビビってたらこれから先心臓がいくつあっても足りないわ」

 「わかりやすー」

 「お黙りノルン! もうビビりの私はいないんだから!」


 アーシェはぼそりとこぼすノルンの手を引っ張って鷹揚に歩き出す。

 その動きにもう迷いはなかった。すれ違いざまにヴォルテラとハイタッチをしながら、彼女はフィールドに向かっていく。


 「十一番隊、行こう!」

 「やっと調子戻ったな」

 「お陰様で!」

 「待てコラ、オレを置いていくんじゃねぇ!」


 それに続くメンバー。騒々しく、頼もしい背中が遠のいていった。

 ぽつんと残ったのはメアリィと僕。

 暴風の過ぎ去った後のようにこの場には静寂が訪れていた。


 「一つ思ったことがある」

 え? こちらを見上げるメアリィ。

 彼女はずっと俯いていたのでイマイチさっきのを見ていなかったようだ。


 まぁ、その方がやりやすいからいいんだが。


 「僕はやはり十一番隊に選ばれるべきではなかったよ。

 肝心な時に震えあがって、発破をかけられても抑えこんでしまって、ちっとも情熱を向けることが出来ない。同じように震えていた彼女を見て、少しだけ安心していたくらいだからな」


 それは、と口ごもる彼女の気持ちは痛い程分かる。だが、思い違いをしていた。


 「アーシェは燃え上がった。カルロは悔しがった。ノルンはずっと何も変わらない心臓を持っていて、ヴォルテラは僕よりもずっと高い場所にいた。でも、それでいいかなって思ってしまった」


 考えなくても知っていた。

 気負うのは何かを期待しているからで、常に何かを背負おうとして、それが当たり前になっていたのだ。


 「僕は特別じゃない。前提にそうやって置いておけば、こんなに心が軽やかになるなんて知らなかったよ。だから、気負いの必要は全くないんだよ」


 行こう、と彼女の肩を叩く。

 そろそろ時間だ、彼らを待たすのは忍びない。


 「特別な彼らを支えよう。メアリィ、君とならそれが出来そうな気がする」


 根底に似たものが流れている彼女になら、この言葉は伝わるはずだ。

 びっくりして目を大きくしていたが、彼女はクレイトンの隣に駆け寄ってきた。


 緊張がゼロかは分からない。だが、目に力は宿った。

 「初陣だね」


 彼女の指し出した手に応じる。


 叩き合う乾いた手の音は、聞こえてくる歓声に飲み込まれた。

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