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インサイドバーカー~謎のテスト部隊に選ばれちゃって、共同生活まで強いられて~  作者: 火山 竜之介


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12/21

12 クレイトン③ ずっとアイドルでいるのは大変だろう

 「お前が隊長なのか」

 「悪いですか?」


 書類提出だなんて時代遅れの文化だ。

 生徒会長ともあろう方が端末(アクト)を持っていない訳がない。


 生徒会長……(ハミルトン)は受け取った紙を一瞥してからこちらを見た。


 「いや。我が弟ながら鼻が高いと言っているだけだ。私に武芸の才がない代わりに、お前には濃く受け継がれたみたいだ」


 嬉しい、ね。


 鼻持ちならない態度でそう言うが……これが彼の本心なのだ。

 嫉妬や悔しさよりも先に他人への称賛がやって来る。


 僕なら自分にないものを相手と比べ妬んでしまう。

 隠そうとしても強すぎる思いが顔を強張らせるのだ。


 その点、彼は隠せている。器の差を見せつけられているみたいで、どうしようもなく嫌になる。


 「とはいえ君たちは新設部隊、出会ったばかりの仲だ。

 本来なら起こりえないことだが隊長の変更は受け付けている。もし不具合があるならすぐに申請したまえ」


 そうならないようにはするさ。

 無言を貫く僕の顔を見て、兄は満足気だった。


 「メアリィ・フォンドブリゼ君。弟は気難しい所が多くてね、支えてあげてほしい」

 「お任せくださぁい。片時も傍を離れませんわ」

 「けっこう。これでルア家も安泰だな」


 なんだろう。どうして僕の周りには事を大きくしようとする人ばかりなんだろうか。


 「ありえません。君も乗らなくていいから」

 「えぇ、メアリィ本気だよぉ?」


 あぁもう頭が痛い。

 さっきまで僕に説教染みたことを言っていた癖に、どうしてこう切り替えられる? 


 「これ以上用がなければ、僕らはもう行きますが」

 「あぁ、少し待ってくれ。そろそろ来る時間帯だ」


 誰が?


 そう問うまでの暇もなく生徒会室の扉がノックされる。

 入ってきたのは見覚えのある二人組だった。


 「ケイト・グランツ。入ります」

 「失礼します」


 数日前に十一番隊を訪れたグループの代表、即ち六番隊の隊長と副隊長だった。


 手前の癖毛な男が隊長のケイト。

 身長はクレイトンとそう変わらず、神経質そうな顔は……そのまま鏡を見ているような気がしてくる。


 もう一人の女生徒は身長がそれなりに高く、すらっとした印象の理知的な人だった。

 カーラ・ニアン・トンプソンだったか。

 短い赤毛はカルロ程ではないが、よく目立つ。


 「対抗試合前の取り決めでね。攻め手と守り手とか、諸々の打ち合わせをしてもらう必要があるのさ」


 「そういうのはもっと早くに言ってください」


 分かっているならアーシェやヴォルテラと相談していた。


 いきなり心臓が跳ね上がる思いだったが、そこは身内の前である。

 嫌でも身は引き締まる。


 「会長の弟だっけ? これはやりづらいなぁ」


 ケイトは最上級生の4年だ。当然ながらこちらに対して気安い口調で話してくる。

 しかし、嘲りが見え隠れしているのはすぐに見て取れた。


 「彼が十一番隊なのは本当に偶然なのさ。

 説明はしただろう? 新設の部隊が出来るがテスターという面の強い、改革の一つだと」

 「よかった。では叩きのめしても問題ない、と?」


 対してカーラの方は明らかに軽視してきた。

 カチンとは来るが、ここで怒鳴るなんて自分の弱さを露呈するようなものだ。

 

 冷静に対処しなくては。


 「あぁ。君たちの不満は分かっているつもりだよ。試合という形式なら誰も意義は唱えられないさ、存分にやりたまえ」


 満足したように薄く笑うカーラだった。

 

 ここにカルロやヴォルテラがいなくて助かった。

 彼らならこの場で戦いに発展しそうだったからだ。


 「あらぁ、会長は六番隊贔屓ですかぁ?」


 だからここでメアリィが食いつくとは思いもしなかった。

 突然水を向けられたハミルトンは、どこか嬉しそうにそれを聞いていた。


 「実力差がはっきりしてるから。贔屓じゃなくて当然の考察よ」

 「わぁ、戦う前から勝った気でいるなんてよほど自信があるんですねぇ」


 棘のある言い方にこちらの方が引きつりそうだった。


 「そういえばぁ、卒業した先輩がもういないから隊の構成はどこも変わっているんでしたね。

 でしたら納得ですねぇ。目の上のたんこぶがいなくなった訳ですから安心して天狗になれますもの」


 息もつかせない煽りにぎょっとさせられる。

 話し方がいつも通りの猫撫で声で、後ろで手を組んでいる可愛らしいポーズなのが殊更怖かった。


 「言ってくれるわね。もう少し大人しかったら手心は加えてあげたけど」

 「あらぁ? 試合に持ち込むために吹っ掛けてきたのはそちらでしたよねぇ? わざわざこちらに訪ねてまで仕掛けてきたんですからぁ」


 頬に手を当ててメアリィはお淑やかに(見た目だけは)して、頬を引きつらせるカーラに言葉を浴びせる。


 「きっと新人潰しをしたかったんでしょうけどぉ、その小狡いやり方が既に底の浅さを現わしているっていうかぁ。なんていうかぁ、余裕感出されても薄っぺらいですねぇ」


 畳みかける毒にカーラだけでなく、隊長のケイトも怒る寸前だったと思う。

 手が腰の剣帯に伸び駆けているのを必死に自制しようとしているのが、ありありと見えた。


 怒りによって体内のフォトンが渦巻き、目や呼気に自然と漏れ出している。

 最上級生ということもあり、勝手に発生してしまう余剰分のフォトンでも圧力を感じる。


 ……よく君は舌戦を繰り広げられるな。


 感心して彼女の方を見る。

 と、そこでメアリィのポーズがずっと固まっているように感じた。


 後ろで組んでいる手が固く結ばれ、微かに震えている。


 ……ひょっとして、君は。


 「まぁその辺にしとこうぜ。どうせ結果は明日になったら分かるんだしよ」


 間に入った隊長のケイトもなんとか怒気を押さえていたと思う。

 ここはまぁ、僕が出張らなくてはいけないか。


 メアリィを背中に隠しつつ、あくまで隊長同士の話に持って行かなくては。


 「よろしければそちらの希望するルールでやりましょうか? 先輩を立てるのも僕らの役目ですし」

 「君も涼しい顔して言うねぇ」


 メアリィの言い方を真似して挑発してみたが、面白いくらいに効果てきめんだった。


 「君たちの好きにするといい。ぐうの音もでないよう真っ向から叩きのめしてやるさ」


 もう話すことは無いといわんばかりに彼らは踵を返し、扉に当てつけるように荒々しく生徒会室を出ていった。


 嵐が去ったと内心でほっとしていたが、小さな拍手の音によってまた引き戻される。


 「うん。攻性フォニマー同士の会話はそれだけで怖いね。導火線に火が付きそうな感覚というのは、こういうことを言うのかな?」


 今日初めて、ハミルトンが動揺を見せた。


 「さすがに生徒会室で爆発させる輩はナンバーズ部隊にいるとは思えませんが」

 「どうかな? これは私の抱いている偏見なのだが、強い者ほどその事に誇りを抱き、譲れないという思いが固いと思うのだが」


 間違ってはいない。

 そして、そんな血気盛んな者ばかりではないという反対意見もある。


 結局、「その人次第」というつまらない結論に至るだろう。


 「まぁいいか。向こうがルールの全権を委ねてくれたので、好きにするといい。今日の八時までにどうするか送ってくれたまえ」


 それから、とハミルトンは区切ってメアリィの方に視線を向けた。


 「しっかり労ってやれ」


 胸に手を当てているメアリィは、珍しく笑っていなかった。





 僕達は生徒会室を後にして、さっきの二人と合流しないようにゆっくり攻性科棟に戻った。

 途中で中庭のベンチで飲み物を買って休む、と絶対に鉢合わせないように徹底した。


 アーシェに、ルールは何がいいか意見を聞いておいてくれという旨のメッセージを送った後、メアリィに買ったばかりの缶飲料を渡す。


 「君があんなに相手を言う人だとは思わなかった」


 温かいミルクティーを受け取った彼女は、それを両手で包み心を落ち着かせようとしていた。


 「普段あんなこと言わないから緊張しちゃった」

 「演技、で片付けていいんだよな?」

 「もっちろん。メアリィ、ホントはもっと女の子らしいんだから」


 なんてわざとらしく言っているが、彼女は間違いなく無理をしていた。


 生徒会室でクレイトンが呼び掛けるまで彼女はずっと表情を固めたままで、一切動こうとはしなかった。


 「君に騙されているクラスの男子が可哀想だ」


 彼女の横に腰かけながら缶コーヒーに口をつける。

 彼女の計算され尽くした可愛い角度にやられているクラスメイトを思い出しした。


 彼らはメアリィがあんな舌戦を繰り広げられるだなんて思いもしないだろう。


 「騙してません。夢を与えているだけです」

 「僕としては、今の普通の君の方がずっと接しやすいけどな」


 え? と珍しくぽかんとした表情を浮かべるメアリィ。


 「喋り方。いつもみたいな取り繕った感じじゃなくて、毒気がある方が楽っていうか」

 「そんなの全然可愛くないもん。男子はあぁいうの好きだし」

 「そりゃあ一定数は好みかもしれないが、同じくらい女子から敵を作ると思うぞ?」


 陰口とまではいかないが、クラスメイトが彼女を誘っているときに他の女子が面白くなさそうにメアリィを睨んでいるのを目撃した。


 「別に気にしないし」


 そのことを伝えても、彼女は意外には思っていなかったようで。

 むしろ当然だよという顔だ。


 「何も言ってこない腰抜けたちにあたしは譲らない。あたしのことを可愛いって応援してくれる人の方が何倍も大事」


 自分の味方の方が大事、か。

 確かに割り切っている答えだ。

 そういうのを聞かせてあげた方が、よっぽど彼らも喜びそうだが。


 「でもずっとアイドルでいるのは大変だろう。僕といる時くらい、その飾らない性格でもいいんじゃないかな?」


 何気ない提案のつもりだったが、彼女は面食らった顔をしてこちらを見つめている。



 「それって、「オレ以外禁止」的な?」



 玩具を見つけた時の様な、純粋ながらも悪意に満ちた笑みを浮かべるメアリィ。

 なんのことかと会話を振り返ってみて……


 あ、しまった。


 「違う! 僕はあくまで」

 「さっきも六番隊から守ってくれたもんねぇ。ひょっとしてぇ、もしかしてぇ?」


 そしてまた脈絡もなく腕に抱きついて来る。

 距離が近かったせいか彼女の密着を躱すことが出来なかったが……

 

 これはマズイ、変な噂が立ってもおかしくないぞ。


 「いつも明るい女の子に素っ気なくされたほうが「特別感」でるもんねぇ。意外とクレイトンくんそっち方面も博識~?」


 あぁもう、どうしてこうなるかなぁ。

 さっきまで冷めた顔をしていたのに、それも嘘だったのかと思うくらい今はご機嫌だ。


 というか、口が滑った。


 十一番隊の時くらいは素でいたら?

 という旨を言ったつもりだったのに、変にカッコつけたせいで思いっきり弄られてしまった。


 だが、彼女が怖がっていたのは本当なのだ。

 そういう意味ではいつも通りにしてあげられて良かったと思う。



 ……もちろん、口にはしないが。

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