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1 アーシェ① だから褒めないで!

お初の方は初めまして。


「オルクスロッド」「彼方に暁を」

から読んでいただいて、こちらにも目を通してくれた方はお久しぶりです。


三作目です。

今度はガラッと変えてみて、似非SFを書いてみました。

明るくポップに、また新たに始めていきます。


投稿頻度がまちまちなるかもしれませんが、こちらもしっかり完結させる所存です。

どうぞ、よろしくお願いします。

 「うわ、ほんとにバッジついてんじゃん」

 「うわってなによ!」


 燦然(さんぜん)と輝く金バッジ。

 一等賞の色、子どもの頃から欲しくてたまらなかった色。


 それが初めて、嬉しくない色に変わった日だった。


 「我が校きってのエリートの証……ナンバーズ部隊の証、ねぇ。」

 「……言いたいことは、はっきり言いなさいよ」

 「……大丈夫?」

 「んなわけないでしょ」


 頭を抱えてへたれこむ私。なんだなんだと周囲が視線をやるが、今の私にはまったく気にならない。


 入学式だと勇み、せっかく気合を入れたポニーテールが空回りしている気分だ。

 栗色の髪は決して良い質とはいえないし、()()ばかりで傷んでいることは確実で……それでも、せっかく新しい環境になったんだから、ちょっと張り切っただけなのに。


 「なんでこうなるかなぁ!!」

 「そりゃあ、アンタの経歴を嘘偽りなく書いたら、そうなるわ」


 うぐっと、痛い所をつかれる。


 「清廉潔白が武芸者の誉れ! 攻性(コウセイ)フォニマー的に、そういう不正はだめなんです!」

 「じゃ諦めな」

 「もっと励まして! 私の自尊心を傷つけることなく、それでいてアガる感じなのを!」

 「やかましいデカ女。図体だけじゃなく態度もデカくないと気が済まないの?」


 また痛い所をつかれる。そう言われない為に、しおらしい女の子を目指した時期もあったのに……今や武闘派筆頭の代表生徒になっちゃって……


 「はぁ~あ。こんなネームバリューある女に振り向いてくれる男の子、そういないよねぇ」

 「先輩の……ほら、ムキムキ狙いなよ」

 「そういうんじゃないんです! もっとこう、ね? 色気があって、黙ってるのにうっすらはにかんで、私の話を聞いてくれるような、背の高ぁい……」


 憧れを夢想するが、にべもない言葉で返される。


 「180センチ以上ってだけでも範囲狭いってのに」

 「わたし174センチだし!」

 「アンタの理想で言えばそれくらい要るでしょ? 175センチ」

 「ま、まだ! まだギリ届いてないし!」 


 勝手に四捨五入しないで! いやぁ身体測定あるし、分かんないでしょ?

 そんなやり取りをしていても……つい、声は聞き分けてしまう。


 「おい聞いたか、一年にナンバーズを任せたとか」

 「しかも新設の部隊だってよ。ふざけんなよな」

 「オレらのが強ぇし経験あるってのに、何考えてんのかねぇ生徒会は」


 ガラの悪い声で、明らかにやっかみを乗せていて……ごく自然な動きで、私は制服から件の金バッジを外して……

 「おい、清廉潔白?」

 無視無視。顔に素知らぬという感情をはっつけて、私たちを追い越す三人の生徒をやり過ごす。


 はぁ。話しても聞こえない位置になったので、小さくため息をつく。


 「……アタシには分かんないけどさ。勝てるっしょ、アーシェなら」


 私はアーシェ。

 小さい頃から攻性(コウセイ)フォニマーになるべくして訓練を続けてきた……分かり易く言うならば、スポーツ特待生なのだ。


 ツテのあった親戚にたらい回しにされ、幼少の頃から戦闘経験をそれなりに積んできた。

 時分から近所の悪ガキと一緒に遊んでいた身としてはそれほど苦ではなく……褒めてくれる親戚が嬉しくて、それなりに一生懸命にやってきた。


 通常よりもかなり早い時期から訓練を積んできた私にとって……学院に通うようになってから訓練を始めた者に負ける道理はない。


 ……ただ、なぁ。悪目立ちはしたくない。


 しかし……そうは言っていられないのが立場。

 そして、そうなってくれないから運命なのだ。


 学院をでて少しした所にある販売車。揚げパンのいい匂いが漂い、そこに釣られた生徒を見て……顔が引きつる。


 先のガラの悪い三人組がその生徒に近づく。

 呑気に揚げパンを頬張っていて……ちょうど対面する形だから、彼の胸元の『金バッジ』が西日を跳ね返し、よく輝いていた。


 「おいテメェ、留学生か?」

 「ナンバーズバッジ、なんでテメェみたいなのがつけてんだよ」

 「一体どんな手使って、そいつを手に入れた?」


 留学生。そう、私たちアルマ人とは明らかに違う毛色の生徒だとは、ずっと思っていた。


 浅黒い肌、細身に見えなくもないが……俊敏さを兼ね備えた筋肉をしているのは、制服越しでも容易に分かった。

 珍しい黒の直毛は背中まで長く、それを後ろで結っている。

 若葉のような透き通るグリーンの形の良い瞳が……今は呑気そうにぼんやりしていた。


 「……ふぅ」


 掴みかかりそうな勢いで問い詰める三人に対し、浅黒の彼は……揚げパンを頬張り、横に置いてあったコーヒーに口をつけ……ごくり。さっきのは「ふぅ」は、堪能している音だ。


 満足さがにじみ出る微笑だった。

 彼はそのまま袋に手を伸ばし、二つ目の揚げパンを頬張り始める。


 「おい聞いてんのか」

 「この状況で新たに食い始めてんじゃねぇよ!」


 私も同じことをツッコミそうになってしまった。


 「やらんぞ」

 「んなこと聞いてねぇよ、食いたいならテメェで買うわ!」


 的外れなことを言い出す浅黒の彼に、益々ヒートアップしていく三人。


 「買いたいのか。よかったな店主、客が増えたぞ」

 買うわ、という単語を勘違いした彼に、揚げパン屋の店主が目を丸くしていた。

 せっかく知らんぷりをしていたというのに、可哀そうに。



 「お前たちは、なんだ? 人がせっかく買い食いしてるというのに」

 妙に尊大な態度で二個目を食べきった。再びコーヒーを一口喉に通す余裕の姿に、段々と男子生徒達のボルテージが上がっていく。


 「まぁ待て、話なら食べ終わった後でゆっくりと」

 まだ食べるの!? ていうかこの人三個目に手を伸ばしはじめたけど!?


 「テメェ調子に乗んなよ。殺されてぇのか!」

 真ん中の一人がついに暴言まで吐き、その拳を握りしめた。


 ようやく、ようやくそこで彼も意識が切り変わったのか、大きな口で三つ目を一飲みし、手近なゴミ箱に紙袋を投げ入れた。


 「こいつ全部食いやがったぞ、どんな神経してんだ!?」

 「オレらが手出さねぇって思ってんのか?」


 続く二人も乗っかっていくが、彼はため息をつきながらゆったりとした動作で立ち上がった。


 「早く出したらどうだ?」


 さっきまで座っていたせいで、上級生たちは急に見上げる形になってしまう。

 目の前の男は細身に見えるだけで、言いようのない迫力を備えていた。


 全く動じないその態度が余計に、彼らを焦らせる。


 「お行儀よく決闘を申し込むか? 俺は構わんが」


 その大きな手が、かかってこいとジェスチャーしていた。火蓋が切られそうになった瞬間……


 私のなけなしの正義感と……彼のあまりに尊大さに。馬鹿馬鹿しくなった。

 外していた金バッジを素早く着け、荷物を友人に預け……飛び出していた。


 「待ちなさい!」


 道路なんか一瞬で渡りきり、勃発しかける暴力沙汰を声高々に止める。

 三人がこちらを鬱陶しそうに見て、


「関係ねぇやつはすっこんでろ!」

「関係あります」


 彼のと同じ金バッジを、これ見よがしに見せつけた。


 「上級生でしょう? 三対一なんて弱いもの苛め、許せるもんか」


 ガラの悪い三人は不快さを滲ませこちらを睨みつけて……

 対して彼だけは意外そうな顔で見つめてくる。


 「上等だよ、まずはテメェから」

 真ん中の一人が向かって来ようとして、止められる。

 図体に見合った大きな手がその肩を掴んでいたからだ。


 そして何も言わずに、見えない速さで拳が叩きこまれた。

 くの字になって体を曲げ、一人がアスファルトに膝をつく。


 「勝手に相手を変えるなよ」

 その流れで、本当に流れるように拳と蹴りを繰り出す。

 両隣にいた上級生もまとめて倒れさせた彼は、つまらなさそうに呟く。


 「やる気があるなら立て。無いなら帰る」

 そう言って倒れ伏す上級生に言い切った後、浅黒の彼はつかつかとこちらに近づいてきた。


 そのままの勢いで殴られるのかと一瞬怖くなったが、彼は穏やかな顔でこちらを見つめ、


 「俺が弱い奴に見えたか?」

 よく通る低い声だった。

 敵意はまったくなく、聞けば心地よさに包まれる、そんな声。


 うずくまっている男たちがいなければ、ときめいたかもしれない。


 「アーシェだったか?」

 「あ、うん、アーシェ・ブリックリンです」


 急に呼ばれたので自己紹介を、ってなにやってんの私。


 「ヴォルテラ・グレ・イゾ・リー・ソユ・ナギンだ」

 「え、王族?」

 「ただの辺境部族。面倒だからナギン以外の姓は気にするな」


 極端に多い姓に聞き返すも彼は笑っていた。

 気難しそうに見えたが、そうではないらしい。


 「俺が、弱い奴に見えたか?」

 繰り返される質問に、ううんと首を振る。


 「だろう? じゃあ何故割って入ってきた? 必要なかっただろ」

 「でも、困ってたでしょ?」


 意外そうな顔でこちらを見つめてくる。

 一切敵意のない若葉色(グリーン)の瞳に、なんだか吸い込まれそうだった。


 「そうか」


 彼は短く、それだけ言って納得した。

 何を思ったのかは知らないが、彼はベンチに置いてあった学生鞄を手に取って、もう一度こちらを見てきた。


 「そっちの子は?」

 浅黒の彼……改めてヴォルテラが、かなり離れた所の友人を指さした。


 まぁ、そりゃ同じようには来ないよね、だって彼女は戦闘員じゃないし。


 「私の中等部からの友だちだよ」

 「いいな、知り合いがいるのは」


「なに勝った気でいんだよボケ」


 腹を押さえながら、なんとか一人が立ちあがった。


 「舐めてんじゃねぇぞ!」

 懐から何かを取り出した。手のひら大に収まるブロックのようなものは、一見ただの延べ棒にしか見えない。

 それが何か、攻性フォニマーなら分からない者はいない。


武装展開(リベレーション)!」


 開錠言語に反応し、淡い光を生む。

 光の中から現れたのは、鉈にも見える刀剣だった。

 赤色のフレームとブレードは刃先に同色の光を纏い、圧縮された()()()()が宿っていた。


 男はグリップに取り付けられた銃爪(ひきがね)に指をかけながら向かってくる。


 「フォトンギアの私用は禁止ですよ!」

 「知るか、舐めてんじゃねぇぞボケカスがぁ!」


 何をするかは一目瞭然。

 刃先のフォトンが急速に光を生んで輝き、剣先から流れ出る。

 刃の性質を保ちながら、空間を裂くようにヴォルテラに放たれた。


 思い切り真横に飛んで彼は躱すが、放たれたエネルギーはそのまま校門の壁に激突し、衝撃に小さな爆発を生む。


 下校中だった他の生徒に危うく当たりそうになった。


 小競り合いの規模だったトラブルは一変する。

 サイレンが鳴り響き、晴れやかだった入学式の夕方が剣呑なものに変わってゆく。


 「守護者たる攻性フォニマーにあるまじき行為。お前、自分で今何をしているのか分かっているのか?」

 「元はと言えばテメェが悪いんだろうが!」


 男は完全に頭に血が登っていた。

 ヴォルテラはそれでも変わらず不遜としていて、呆れたようにアーシェに目配せした。

 

 取り巻いていた誰かが「あっ」と漏らす。ヴォルテラに刃を向ける男の背中は無防備で……


 容易く接近できた。


 気づいた時にはもう遅い。

 加速をつけた蹴りを男の手に放ち、赤い鉈を取りこぼさせた。


 何が起こったのかを理解しようとこちらを睨むも、既に手遅れだって。


 「このクソ女がぁ!」

 明確に敵と認識した形相が、非武装である身をわずかに強張らせた。

 しかしそんな隙を、ヴォルテラが見逃すはずがない。


 「阿呆が」

 状況把握を怠った男に、吐き捨てる言葉と渾身の蹴りが叩き込まれた。






 「……入学早々、やらかしちゃった」

 しょぼくれたまま、とぼとぼ歩く。助けてハイ終わり、という風にいくわけがないのだ。


 事情聴取、何をしでかしたのか……特に攻性フォニマーの扱う武器は平気で人死にが出る。

 それを防いだ訳だが……喧嘩を吹っ掛けられて、それを買って……


 そりゃあ、事情聴取も長くなるというものだ。


 「気にするな。俺たちは悪い事はしていない」

 「……そうだけど」

 「これから注目を浴びるんだ、予行演習をしたと思えば」


 うぐっ。

 忘れていた……しかも同じ立場の人と、揃って問題を引き起こして……溜め息を盛大についてしまった。


 「しかし……運がいい」

 「何が?!」

 「これから一緒にいる奴が、お前みたいに高潔で」

 「……褒めたって、なにもでないから」



 ナンバーズ部隊に選ばれた者は、ただの学生とは一線を画す。正規兵として扱われるほどに、だ。

 連帯感を上げる為……学院は全寮制なのだが、ナンバーズ部隊は一つのフロアを借りて生活を余儀なくされる。

 ……もちろん、ヴォルテラだけではない。二人を除いてあと四人いるのだが……

 

 共同生活である。……こんな異国のイケメンと、一つ屋根の下で。



 「格好良かったぞ、あの啖呵」

 「だから褒めないで!」



 ……そんなに、悪いことじゃないかも?




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