【2】
「ー馬鹿じゃないの、あんた」
エアコンが効いた涼しい中、親友の阿部美紗子が呆れたように言う。ツインテールで色白の彼女は高貴な猫のような姿だった。もちろん、彼氏がいるのだった。一緒に歩いていると、必ず、美紗子に皆、注目するのだった。
「だって、嘘かもしれないし…」
めいは手をモジモジさせながら、素直に言う。席は一番前だった。今は別の休み時間で、クラスメイト達はグループを作って遊んでいる。若い分、怖いものがないらしく、賑やかだった。美紗子がため息をつく。
「あのね、告白するのも勇気がいるのよ。わざわざ呼び出すわけがないでしょ」
「あの…、その…」
「可哀想、啓君」
髪を後ろにはらうと、美紗子はすこしキツめに言ってくる。
「付き合うってどういうことだか、分かる?」
「…分かりません」
「…はあ、全く。残酷なやつ」
美紗子は顔を近づけると、こそりと言う。
「あんたと一緒になって、キスしたり、…そのセックスしたいっていう意味なのよ」
「…え?」
「この鈍感」
めいの額を指で弾くと、美紗子はさらに耳に口を寄せてくる。
「子どもが欲しいってこと。分かる?」
「子ども…、ええ!!」
ものすごく大きな声がでてしまった。一瞬教室が静まりかえる。
「馬鹿!! 大声出さないの!!」
「だって…」
首まで真っ赤にし、めいは口をぱくつかせる。何と言っていいか、分からなかった。美紗子はポケットに手を入れると財布を取り出す。黄色小さなものだった。中を開き、めいに見せてくる。
「これ何だか分かる?」
四角い小さなものに見覚えがなく、めいは首を振る。まだ顔が真っ赤だった。美紗子にも移ったのか、少し恥ずかしいように言ってくる。
「ーコンドームよ、コンドーム」
「コン…!!」
「しー!!」
口を押さえられ、めいはパニックに陥った。何が何だか分からなくなってきた。美紗子は素早く周りを観察し、注目されていないことに気づくと、言ってくる。
「いざという時のために持っているのよ。分かる?」
「…分かりません」
「馬鹿」
美紗子はそそくさと財布をしまうと、机に両手をのせ、言ってくる。
「もう子どもじゃないんだから、知らない」
「…その、ちょっと待って」
「何?」
「あの…セックスってどうなの? 痛いとかあの…」
めいが興味本位で聞くと、美紗子が大人びた顔で言ってくる。
「痛いけど、我慢するのよ。それが女の役目」
「…はあ」
イマイチピンとこなかったが、美紗子のほうが経験値が上なのは分かった。これ以上、恥ずかしくて聞けそうになかった。ちょうどチャイムが鳴ったので、そこで話は終了だった。