1/3
【1】
「ー俺、あなたのことが好きなんですけど…」
夏の猛暑の中、田中めいは体育館の裏で告白された。ロングヘアーでブラウスにネクタイ、灰色のスカート姿。高校1年生だが、すこし大人びて見えた。相手の手塚啓はワイシャツ姿に、灰色のパンツで耳まで真っ赤だった。クラスは違うが、同級生であることは知っていた。
ー…。あたしが好き?
めいは口に手をあてる。どうもピンと来なかった。男性から告白されるのが初めてだったかもしれない。ジージーと蝉がないている。今は休み時間だった。2人のほかには人影がない。緊張感の中、めいが発したのは、
「はっ?」
という言葉だった。啓は驚いたように顔をあげる。聞こえなかったと思ったのだろうか。もう一度口を湿らせ、喋ろうとする。
「だから…」
「…あの」
めいは話を止め、素直に感想を口にする。
「よく分からないので、さようなら」
恋愛経験値ゼロのめいには、理解できないことだった。鈍感とも言う。だから、つい冷たい声で言ってしまった。勝手に口が動いたといってもいい。
「じゃあー」
甘い雰囲気などなしで、めいは踵を返すと、その場を後にしたのだった。