第八話
「サヤ・ナツイです。」
ユファンに誘われるままに握手をする。
「ふぅん。サヤ・ナツイね。」
ユファンはそのまま握手していた右手を左手にすりかえると握手していなかった方の手も取る。向かい合わせで手を繋ぎあう格好になり、咲夜はユファンが何をしたいのかがわからず困惑する。
「えっ!?何?」
ユファンはじっと咲夜を見つめ何かぼそぼそと話す、その言葉はあまりに小さく咲夜には聞き取れなかった。聞き返そうとした瞬間、咲夜とユファンの足元が光る。そのまま光の筒に包まれた状態になり、咲夜には何がなんだかわからない状況でもうパニック寸前だ。
そんな中、急に右手に熱がこもり、痛みのような熱が全身を駆け巡る。身体中が熱く血が沸騰するような感覚に陥る。
熱いっ!!
咲夜が耐え切れないと感じた瞬間、はじかれたようにユファンの手が離れた。
と同時に熱が一気に引いていき、いつもの感覚が戻っていく。
咲夜はへなへなとその場に座り込む。そして顔を前に向けると自分と同じように座り込んでいるユファンがいた。ユファンはぐっしょりと汗をかいており疲労困憊といった様子だ。
一体何なの??
もうちっとも状況についていけない咲夜は何を言っていいのかもわからずそのまま座り込んでいた。
「サヤは白い神獣を知ってるよね。」
ユファンは息を整えると深く一息つき、汗をぬぐいながら咲夜と向き合った。
「しんじゅう?」
「神の使いのことだよ。僕達はどんな姿をしているのかは知らないんだ。神話として狼の姿をもつといわれたり、全身を白い翼で覆われているといわれたりしているけど。わかっていることは何色にも染まらない白く輝く体躯をもち深い海のごとく澄んだ濃紺の瞳をもつということぐらいかな。」
ひょっとしてユファンが言っているのはあの白い獣のことだろうか?翼はわからなかったけど他は全て当てはまっているように思う。
咲夜はユファンにむけてうなづいた。
ユファンの後ろで殿下とセスさんが立ち上がったのがわかった。
「それはどこで?どんな話をしたの?」
ユファンの言葉に咲夜は牢獄であったことを話そうと口を開く。しかし口から出たのは空気の漏れるような音だけだった。自分の声がでないことにびっくりして咲夜は喉に手を当てる。もう一度声を出そうとしてみるが、やっぱり声は出なかった。
「なるほど。詳しくは話せないようになっているんだね。」
咲夜の様子にユファンは納得したようにうなづく。仮に自分の名前を言ってみたらすんなり声になってでてきた。
「どこで出会ったのか、どういう経緯があったのか知らないけれど君がであったその方はこの世界ではとっても尊い方なんだ。そしてどういうわけかその方が君を守護しているみたいなんだよね~。」
「どうしてそれがわかるんですか?」
もう咲夜はいっぱいいっぱいだ。白い獣に会ったのは事実だが守護しているというのがわからない。
それにあれ以来白い獣には会っていないのだ。
「僕達の世界では生まれたときから守護精霊がついているものなんだ。人は誰しも精霊とともに生きている。右腕にやどり、瞳には精霊の力が集約する。だから瞳を見ればどんな属性を持った精霊が宿っているのかがわかるし、おおよその精霊のレベルがわかったりするんだ。」
精霊が宿る。どんどん強くなる異世界色にもう咲夜は途方にくれることしかできない。
「つかぬ事を聞くけど、君は自分がどんな目の色をしているか知ってる?」
「生まれつき私は黒です!」
まるで子どもに尋ねるかのような口ぶりに咲夜はややむっとしながら答える。
「うん。君の左眼は確かに黒い。だけど右眼はね。濃紺の瞳をしているんだよ。」
ユファンの言葉は咲夜にはにわかに信じられなかった。しかしユファンがどこからか鏡をもってくると咲夜の前に差し出した。
おそるおそる鏡をのぞくとそこに写ったのは見慣れた自分の顔
しかし右眼だけが深い藍色に染まっていた。
何も言えず鏡を見つめる咲夜に向かってユファンはかまわず話し続ける。
「神獣は精霊たちを束ねる存在だ。決して人に属することなく姿を見せることも無い。姿を知るのは精霊たちだけだ。なのに君はその神獣の力を表す瞳を持っている。そして何より僕達の精霊たちがそう教えてくれているしね。」
自分の瞳があの白い獣の藍色の瞳とかぶる。ユファンの言うとおりあの白い獣が自分に宿っているのだろうか?
「まぁというわけで、わが国としてはそれを知った以上は君をぽいっとほおりだすわけにはいかないんだよね。それに君だってそうされちゃうと困るでしょ。君はこの世界の人間じゃないんだから。」
その言葉に咲夜は固まる。
ユファンの顔をみるとにっこりと笑顔を浮かべている。