第六話
美形さんのいうとおりあれから3日で王城がある首都に着いた。
最初に見たあの何も無い風景がまるでうその様に首都はたくさんの国民であふれ、活気に満ち溢れている。ここはディアリス国の首都でマイヌというらしい。
馬車の中からこっそり外をのぞくと(最初身を乗り出すように見ていたら美形さんに怒られたので)、布やらアクセサリー、壷のようなものからおいしそうな匂いを漂わせる定食屋みたいなものまでさまざまな店が並んでいた。視線を遠くへ向けると小さめの山が見える。
内陸の国なのかしら?
馬車の足元を行き交う人たちはみんな中世ヨーロッパ風の格好をしている。
とりあえず自分にはなじみは無いものの絵画やドラマでみたことのある格好で咲夜はほっとした。
それにしても・・・。
「あんまり戦争している様には見えないな。」
意識が朦朧としている状況だったし、よくわからないけれど自分がいた場所は確かに戦場だった気がする。なのに首都の雰囲気には戦争の影は感じられなかった。
咲夜のつぶやきに美形さんが顔を上げる。
「ここは首都ですから。もっともバクウェイに近くなればなるほど荒れていますし、貧困地域にはたくさんの孤児たちがいますよ。
国も出来る限りのことはしていますが、ディアリスは大陸の中でも5本の指に入る大国ですからまだ手の行き届かないところはたくさんあります。」
淡々と語る美形さんは無表情で感情は伺えない。でもなんとなく寂しそうに咲夜には見えた。
「あっ!!!」
突然出した咲夜の大きい声に美形さんが驚く。驚いた顔も美形だ。
「何ですか?」
「こんだけ一緒にいるのに名前を知らないんですけどっ!!」
ほんとにビックリだ。まぁ二人で会話することが主だったから名前を知らなくても会話が成り立っていたから(他にも人はいたけど美形さんとしか話させてくれなかった。)
その言葉に美形さんが苦笑を浮かべる。うわ、笑っている顔初めてみた。美形はどんな顔でも様になる。
「セスといいます。セス・シグロイ」
「あっ!あの私は夏井咲夜っていいます。こっちの言い方だとサヤ・ナツイが正しいのかも。」
「サヤ?」
うわぉ美形さんに下の名前で呼ばれるとドキドキだ!
「はい。宜しくお願いします。」
しっかり頭を下げてお辞儀をする。自分がどういう立場にいるのかはわからないけれどこの人にあの牢獄から助けてもらったのは確かだし、やはり友好的な態度でいた方が後々のためにもいいかも知れないしね。
「あぁ城が見えてきましたよ。」
セスさんの声で咲夜は外を見る。と、外にはサグラダファミリア※の豪華版が建っていた。
咲夜のイメージは某ネズミ王国のお城どまりだったのに出てきたのはサグラダファミリア。
そのサグラダファミリアがさらに豪華絢爛になっている。あぁ見上げる首がかなり痛い。
なんだか先行きがとても不安になってきた。
※スペインバルセロナに実在する建設中の教会