第四話
男達は咲夜のいる牢の前に立った。柵が間にあるといってもその距離は数十cm、なのに咲夜はその気配に気付かず、ひたすら柵を壊そうと試みている。
「おい。」
男は咲夜のその様子に眉を顰めると、咲夜が掴んでいない柵を靴の踵の部分で蹴り飛ばした。
カァーンと高音が牢獄の中に響く。その音でようやく咲夜は目の前にいる男達に気がついた。
「え?」
咲夜が突然響いた音に驚き、柵から手を離すと柵越しに人間の足が見えた。
その足の持ち主を探すように顔を上げると2人の男が立っている。
1人は初めてみる顔立ちだった。すらりと伸びるその身長は今まで見ていたどの男達より高い。ダークブラウンの髪を後ろでひとつに束ねており、見下ろされた瞳は炎の様に赤かった。
そしてその隣に目を移すとそこにはあのジャニーズ系の美形さんがいた。今まで見たことのある格好と違う。まるで人の目を避けるように黒いローブを目深にかぶっている。
美形さんからまた赤眼の男に目を戻すと、彼の視線は咲夜の手に留まっていた。
「ここから出ようとしたのか? ここがどういう場所か理解していないのか?」
その言葉に以前美形さんに言われた言葉がよみがえる。 -鉄壁の牢獄。
「でもあきらめたらそこでお仕舞だわ。」
咲夜がぽつりとこぼすように言うと赤眼の男が目を細める。
「確かにそうだ。」
「で、この女がどうした。どう見ても王女には見えんぞ。」
男の目線は咲夜からはずれ、隣にむけられた。
「この国の者ではなさそうです。なんでも王室墓地にいたとか。うちの間者と間違えられてました。」
「うちがこんな女を送った覚えは無いな。」
赤眼の男がちらりと咲夜に目線を送る。咲夜は二人の会話を理解できずにその様子をぼーっと見ていた。
「別段特に何も感じない普通の女です。 ただ瞳が。」
その言葉に赤眼の男はしゃがむと咲夜に目線をあわせる。
目?ひょっとして黒いのが珍しいのかしら?
咲夜は自分の目元に手を持っていくがさすがに自分では見ることができない。
咲夜の瞳を覗き込むと赤眼の男の表情がゆがむ。
「お前、生まれはどこだ?バクウェイか?」
赤眼の男の問いに咲夜は首だけを横に振り答えた。
日本なんていうわけにはいかないし。
なんと答えたらよいのかわからず、咲夜が黙っていると男は立ち上がった。
「この女を連れて行け。ここに置いておくわけにはいかないだろう。」
「わかりました。 ただ柵がはずせません。申し訳ありませんが。」
美形さんが頭を垂れる。それを見ていた咲夜の前に美しく輝く刀が現れる。
赤眼の男が刀を抜いたのだ。
「下がれ。」
その言葉に咲夜がじりじりと後退するとおもむろに赤眼の男が刀を振り下ろす。
その剣先の動きに沿って柵は真っ二つになっていた。
唖然としている咲夜の頭に赤眼の男の声が響く。
「出たかったんだろう。早く出て来い。」