第二話
腕をなぞる獣の仕草に思わず咲夜が眼を瞑ると、いつの間にか暖かな空気が消え獣の姿も消えていた。
右腕を隈なく見てみたが特に変わった様子は見られなかった。
「一体何なのよぅ~。」
誰もいない牢獄の中で一人咲夜はへたり込む。
地震に巻き込まれ、気付いたときには牢獄で、仕舞には頭に直接語りかける(テレパシー?!)ヘンな獣が現れ、、、どんだけいろんなことが起きればいいのか。
そして、、、
きっと異世界にきちゃったってことよね。
咲夜は空を見ながら言葉を飲み込んだ。
身体に馴染んだ白衣の感触も、座り込んだ地や周りの空気の冷たさもこれを現実だと語っている。
-戻れない。
そういった獣の声が頭に響く。
向こうはどうなっているんだろう? 自分は行方不明者になっているのだろうか?もしかしたら存在自体が消えてしまっていたりして・・・。
意外と冷静? なのかなぁ。
そんなことをぼーっと考えている咲夜の思考を打ち破ったのは男の声だった。
「おいっ!!女が起きてるぞっ!!!」
6畳ほどの石造りの牢のほぼ中央に座り込んでいた咲夜の前に現れたのは3人の男だった。
といっても柵越しだが。
灯りのない牢の中にいる咲夜からは男達の顔は逆光になっていてよく見えない。ただ、この世界で初めてみた人間に咲夜は安堵した。
よかったぁ。人間がいる!!
なにせ、この世界で初めて会話した相手があの獣だ。人間が存在していない可能性だってあった訳で、やっぱり自分と同じ姿かたちをしている者が存在することは嬉しい。
「あの・・・。」
「うわぁっ!!来るな!!」
近寄ろうとした咲夜に一人の男が叫び、帯刀していた刀を突きつけてきた。
いくら柵越しとしても真剣を突きつけられた咲夜はその場に留まる。
「お前、どうやってあの場所に入った?!?! さてはディアリスの間者だなっ?!」
でぃありす? どっかの国の名前なんだろうか?? うーんやっぱり聞き覚えがない。
「なぜ答えないっ?!シラを切る気か?! そんな格好して聖職者なら殺されないとでも思ったのか?!」
刀を突きつけている男が一方的にまくし立てている。こっちが牢にいるのにあっちの方がおびえているようだ。
よくわからないけれど言葉は解る。 こっちの言葉も大丈夫なのだろうか?
「あの、私よくわからないのですが、とりあえずでぃありす?の間者ではありません。ちょっと迷ってしまったみたいで・・・。」
さすがに異世界から来ました!とは言えず、あいまいに答えたもののこれでよかったのだろうか?
「迷っただと? お前が倒れていたのは王宮墓地だ!!王家の方々しか入れぬところでどうやって迷うのだ!!!」
うわちゃー、私はそんなところに倒れていたのか。運悪すぎだよ。
「おい、ジャデス。お前ちょっと黙ってろ。」
こっそり一人でへこんでいると、ずっと黙っていた男の一人が話をさえぎった。
そうだよね。さっきからその人は怪しい立場の私にべらべらと情報を漏らしている。・・・ジャデスって言うのか。
こっそり成り行きを見守っているとジャデスさん?を止めた男性が柵ぎりぎりまで近づいてきた。ジャニーズ系の美形さんだ。とはいえ日本人らしさはない。白系外国人のようなお顔だち。よくみれば、ジャニデさんともう一人の方も白系外国人に近い印象だ。
綺麗なエメラルドの瞳が見定めるようにこちらを見ていて、居心地が悪い。
首をすくめるようにしてるとジャニーズ系の美形さんはきびすを返す。
「ここはバクウェイの鉄壁の牢獄だ。魔法も効かないし逃げ場はない。貴方はまだ身元がはっきりしない。とりあえず王からお達しがあるまではここにいてもらう。
最低限の食料は約束しよう。白は聖職者のみが身につけることのできる着衣だ。貴方が聖職者かどうかは定かではないが、聖職者を殺すことは神に背く行為だ。我々は貴方に手は出さない。だから貴方もおとなしくしていてくれ。」
その言葉は咲夜に言っているようにも他の2人の男に言っているようにも聞こえた。たぶんどちらも正解だろう。
咲夜は素直にその言葉にうなづいた。
とりあえずわかったことはでぃありすとばくうぇいという国か地域があるということ
白い服は聖職者しか着れないこと
あぁ制服着ていて良かった。