第二十一話
額をぬぐう手の感触がする。
その感触に起こされるように咲夜はゆっくりと目を開ける。
部屋は薄暗く、柔らかいろうそくの灯りだけが部屋を包んでいた。
なかなか合わない焦点を合わせようと目を細めると強い紅色が見える。
殿下。
声を出そうとするも喉からは空気が漏れただけで声にはならなかった。
「気付いたか。」
低い、でもとても通る心地よい声がする。なんだかとても眠い。起きていろいろ聞きたいのに睡魔に勝てず瞼が下りてくる。
「大丈夫か?」
なんとか首を縦に振ってもう一度眠りについた。
すすりなく声がする。
それとともに左手がゆっくり持ち上げられた。
誰かに脈を測られている。なんどもやってきたことを今は自分がされているのかと思うと自然と笑いがこみ上げてきそうになる。なんとか睡魔を振り払って目を開けると傍らにはラチェルとクリスティアが涙を溜めてこちらを見ていた。
「サヤ様っ!」
クリスティアの声がよく耳に響く。戻ってきたんだと実感させられた。
「大丈夫ですね。」
柔らかい声がし、そちらに目を向けると白髪の老人がこちらを見て笑んでいる。クリスティアは慌てた様子で部屋から出て行った。
「喉が痛みますか?」
老人の言葉にこくっとうなづく。
「何本に見えますか?足を触られている感覚はどうですか?」
老人はここの医師なのだろう。素直に診察を受ける。
「喉の痛みはしばらく続くでしょう。無理に話そうとしてはいけません。1週間程は喉を休ませることが大切です。」
ゆっくり身体を起こすのを手伝ってもらいながら、医師の話を聞く。
右手に覚えが無い包帯が巻かれているのに気付き、医師に向かって首を傾げてみると優しく笑われた。
「ラチュリシア殿下を守らんとカップを落としたでしょう?そのときにやけどを負ってしまったのです。そちらは大したことなかったのですぐ良くなりますよ。」
なるほど、カップのお茶は淹れたてだったからやけどしちゃったのか?
ラチュアが申し訳なさそうに顔をゆがめるのでぎゅっと抱きしめてやる。
書きたいとジェスチャーをすると医師が紙とペンをくれた。ラチュアにむけて大丈夫だった?と紙に書いてみせると、泣きながらこくこくとうなづく。
その様子をみて、ごめんね。と綴ってみせる。
ラチュアは咲夜にぎゅっと抱きつくとぼろぼろと涙を流した。
「こわっ・・・こわかった・・こわかったのぉ・・・・!」
小さなかすれた声が咲夜の耳に入る。
初めて聞いたラチュアの声に驚愕し、身体を離して見つめる。
声!紙に殴り書きしてラチュアに見せる。
「お前が倒れたとき一番に響いたのはラチュアの悲鳴だ。」
声のした方に顔を上げるとフラウレイズ殿下がクリスティアを伴って部屋に入ってきたところだった。