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第十八話

「え?」

「そなたがラチュアを気にする理由だよ。偶然出会ったと聞いたがそれでも深入りする理由にはならぬだろう。あれは私にとっても大切な妹、何らかの意図がそなたにあるなら私も見逃せぬからね。」

まさか疑いをかけられるとは思ってなかった。

「単純に子どもが好きだからというのは理由になりませんか?」

思わずそう答えたが、陛下の視線は変わらない。つぶされるような重圧感が咲夜にのしかかる。

「平民の子どもに対する態度ならそれも許されよう。しかしラチュアは王族であり、今においては王位後継者第2位の地位に位置する娘なのだ。いろんな思惑を抱えたものがさまざまな手を使いすりようとする。その虫どもを払うのもまた私たちの仕事なのだ。」


陛下の強い眼差しにはたくさんの苦悩が隠れているようだった。さまざまな思惑の中で傷つきながらも立ち続けてきた人間の強さだ。

しばらく考えてから咲夜は話した。

「私には甥がいたんですが、ある事情で亡くしてしまいました。私は甥と甥の母親である姉からのSOSに気付きませんでした。いえ気づいていて手を差し伸べませんでした。そのことを今でも悔いているんです。ラチュリシア殿下は甥の姿とかぶるんです。あの時出来なかった事を今出来ないかと思っているだけです。」

陛下の言葉をはぐらかすことは出来ない。はぐらかしたところで許されないだろうから。

ラチュアの笑みを思い出すと同時にあの天真爛漫な甥っ子の笑顔がよみがえる。胸が熱くなるのを感じながら咲夜は瞳を閉じる。


その様子をじっと見つめていた陛下はゆっくりと立ち上がるとフラウレイズ殿下を呼んだ。

「そなたの気持ちはよくわかったよ。これからもラチュアを頼む。」

咲夜が驚き、顔を上げた。

「今ので納得いったんですか?」

話したことは真実だけれど、嘘だと言われてしまえばそれまでだ。


「私の精霊は真実を見抜く。嘘をつかれればすぐにわかるよ。」


陛下は美しく微笑む。それは上に立つ者の笑みだった。

それからフラウレイズ殿下に一言二言告げた後、咲夜に向き合った。


「それにしても地味な格好だな。誰の趣味だ?」

「はぁ。私の趣味ですが・・・。」

頭から足先まで見られ、かけられた言葉は咲夜にとって拍子抜けするものだった。

声色も今までのものとは違い、明るいものへと変わっている。


「それでは侍女と間違えられるぞ。

そなたはいつまでも一般市民と同じと思っていては困る。見かけが全てとは言わないが、人は誰しも目から入る情報に泳がされるもの。しっかりと価値に見合うものを身につけぬとその隙を突かれることになる。

自分の価値をきちんと見定めるのも上に立つ者の勤めであるぞ。」

「はい。」

咲夜は陛下に向かい、礼をとるとフラウレイズ殿下とともに謁見の間を後にした。


そのときの咲夜には陛下の言葉の意味がわかっていなかった。











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