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第十四話

フラウレイズ殿下の妹姫のラチュリシア殿下に会った翌日、咲夜は同じ時間にもう一度書庫に行ってみる事にした。

あわよくば姫君とまた会えるかも知れないと思ったからだ。


クリスティアをつついて聞き出した話だと姫君は生まれつきのもので話せないわけではない。元々口数の多い姫君ではなかったようだが、昔はとても澄んだ愛らしい声をしていたらしい。

なら考えられる理由は心因によるもの。あの小さなフランス人形のようなお姫様の心がSOSを送っているのだ。そう思うと咲夜は姫君が気になって仕方なかった。


クリスティアには良いというまで出てこないように伝え、咲夜は書庫に入る。

書庫は相変わらず人の気配はなく静まり返っていた。

咲夜は書庫の奥まで歩を進める。その本棚の影に彼女はいた。


「こんにちは。」

咲夜が驚かせないようにやんわりと声をかけると、姫君は顔を上げた。

その表情には驚きは無く、その様子から彼女もまた自分をまっていたのかもしれないと咲夜は思った。

昨日と同じように目線を合わせるためしゃがみこむ。はしたないこととはわかっていたがそのまま床に座り込んだ。

姫君もまた戸惑った様子をみせつつも咲夜に習い床に座った。


「私はね~、サヤって言うの。サヤ・ナツイよ。知ってる?」

床に指で名前を書いてみせる。神獣が守護しているせいか咲夜は言葉や文字の理解には困らなかった。言葉も文字もまるで翻訳機があるかのように日本語に変わっている。

咲夜の問いに姫君はわずかにうなづいてみせる。

「貴方は?」

咲夜の問いに姫君はしばらく動かず、それからゆっくりと名前を指で書いた。

「ラチュリシア。綺麗な名前ね。愛称はなあに?ラチュ?シア?」

姫君はふるふると首を振ると指で文字をつづる。

ラチュアと書かれた文字に咲夜は微笑む。

「ラチュア!可愛いね。ねぇ私もラチュアって呼んでいい?」

そういうとラチュアの瞳には驚きの色が宿った。そしてこちらの意図を探るようにじっと見つめ、やがてゆっくりとうなづいた。


会話といっても共通の話題なんて無いので共通の知っている人物であるフラウレイズ殿下の話を降ってみる。フラウレイズ殿下の名前にラチュアの瞳が大きく輝く。

「フラウレイズ殿下は好き?」

そう尋ねると嬉しそうにうなづいた。ラチュアの感情の変化はほんと微細なもので注意しないと見落としてしまいそうになるが、よくよく見ていると瞳はちゃんと彼女の心を物語っている。

「怖くない?」

思わず咲夜が尋ねると、きょとんとして首を傾げてみせる。ラチュアの中には怖いということとフラウレイズ殿下の印象が結びつかないんだろう。妹にはべた甘なのだろうか?だとしたらぜひ見てみたい。

「私には怖いんだよ~。綺麗な顔ににらまれるから毎日蛇ににらまれた蛙の気分だよ。」

そう茶化しながら言うとラチュアの瞳が楽しそうに揺れた。

少しは警戒心も溶けてきたかな?と咲夜が思っていると遠くからラチュアを呼ぶ声がする。


「ありゃ。ゲームオーバーかな?」

その声にラチュアの表情は強張る。

すっと立ち上がった彼女の手をとり、咲夜は一度ぎゅっと握るとその額に軽くキスをした。

「またね。ラチュア。」

ラチュアは握っていない方の手で軽く額を触るとその後繋いだ手を強く握り返した。それから咲夜の手を離し風の様に去っていく。


「お話はできました?」

咲夜が書庫を出るとクリスティアがゆっくりと近づいてきた。

「うん。」


「ラチュリシア殿下のことが気になりますか?」

「私子どもには弱いんだよね~。」

そういって笑ってみるとクリスティアも微笑む。

「私に何ができるのかわかんないけどラチュアと向き合うことは出来ると思うんだ。」

やっぱり勝手に姫君に接するのはまずいかな?振り返ってクリスティアに聞いたけど、クリスティアは微笑んだだけだった。

「私、サヤ様のこと好きですわ。」

突然クリスティアに告白されて驚いた咲夜だが満面の笑みを浮かべるクリスティアにつられて笑った。


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