第十二話
王城の奥、日当たりの悪い場所に書庫はある。
王室の書庫だから貴重な本がたくさんある。なので本の状態を保つためにも直射日光は厳禁だ。
咲夜にとって思いの外書庫での時間は心落ち着くものだった。
華美でめまぐるしい世界から一時逃げられた気がする。
クリスティアは一緒に書庫にくるものの、いつも遠めに控えており咲夜の空間に入ってくることは無い。相変わらず侍女の鏡だと思う。
神獣や精霊に関する書庫は山の様にあった。精霊たちが生きる人たちの生活に根付いている為だろう。
ユファンさんが言っていたけど他の諸国の中でもディアリスは特に神獣、精霊信仰が強く、知識が深いらしい。さらにここ数十年は精霊の中でも上位の精霊がディアリスの有力者につくことが多く、ディアリスは急成長しているみたい。だからバクウェイの人たちは咲夜のことに気付かなかったけれどセスさんはわかったんだ。
精霊の種類はすっごくたくさんあって系統もいろいろ分かれているみたい。最初は自然の植物とかそういうのについているんだと思ったけれどそれだけじゃないらしい。普通に人工のものとかにも宿ってたり、数は少ないけれど動物の精霊なんてのもいるんだって。
なんでもありな感じに思わず笑っちゃいそうになったけれど日本にだって八百八万の神様っていうしそんなものなのかも。
神獣も私を守護しているのだけじゃなくて他にもいるらしい。女神の四肢に宿るって言われているみたいで白き神獣、黒き神獣、紅き神獣、蒼き神獣がいると神話にはある。白と黒は光と闇を表し、紅と蒼は感情を表している。神獣たちは全て濃紺の瞳を持っていて、それは母なる海を表しているとか女神の涙から神獣たちが誕生したとか色々と説があるみたい。
ただ水系の精霊を宿していても濃紺の瞳を持つ者はいなくて、神の色って言われて服とか物に使ってはいけない掟がある。そんな話をしながらクリスティアが用意したドレスの生地は濃紺のもので思わず突っ込んだけど「神獣の守護を受けている人が着なくて誰が着るんですっ!?」っとすごい勢いで言われた。結局自分が使わないとその高貴な生地は一生お蔵入りになっちゃうらしいので使わせていただいている(装飾は拒否したけど)
本のページをパラパラとめくっていくと女神と神獣を描いた挿絵がでてきた。カラーじゃないから詳しくわかんないけど綺麗な女性と女神を取り巻く神獣が描かれている。描かれている神獣は鳥のようなものだったり龍のようなものだったりして咲夜が知っている神獣とは全然違っていた。まぁ想像で描かれているんだから仕方ないね。
-子どもの足音??
咲夜の本をめくる音しかしない静かな空間にパタパタとしたわずかな足音がする。クリスティアはこんなに細かく歩かないし、大体走っても足音をさせない人だ。そもそも聞こえてきた足音は軽く子どもの足音の様に感じた。
咲夜は足音が消えた方へ行ってみると縮こまってしゃがみこんでいる少女がいた。
「どうしたの?」
咲夜が思わず声をかけると少女は驚いて立ち上がる。明るい金髪が勢い任せて揺れる。
うわぁ、こりゃお姫様そのものね!!
立ち上がった少女は金糸の髪に薄い紫の瞳、着ているドレスも細かな刺繍がされており豪華絢爛、まさしくおとぎの国から抜け出したお姫様そのものだ。
どっかの貴族のお嬢様かな?
歳は7,8歳というところだろうか? 咲夜は少女と目線を同じくするためしゃがみこむ。
少女は様子を伺うように咲夜の行動を見つめていたが、その表情は動かない。一瞬咲夜の目を見つめて探ろうとする目をしたがすぐそらしてしまった。
「サヤ様? いかがしました?」
いつの間にか咲夜の後ろにクリスティアが来ていた。・・・やっぱり足音はしなかった。
「あら?ラチュリシア様。」
咲夜の視線を追うように少女に目を移したクリスティアは慌てて礼を取ろうとする。
しかし、クリスティアに気付いた瞬間少女は走って書庫を出て行ってしまった。