第十一話
フラウレイズ殿下から釘を刺された後、おおよその生活パターンが決められた。
国どころか世界のことがわからないのだから殿下たちに決めてもらう他選択肢はない。とりあえず自分で考えて判断できるレベルにならなければっ!!
一応一日の流れは決まっていて午前中はクリスティアさんから女性としてのお作法、マナーのお勉強などを学び、夕方からユファンさんから精霊や神獣、力の使い方の勉強(何ができるのかのテストも含む)、その後にこの国の宰相を務めるヴァイルさんから国の歴史や国同士の立場などの勉強となる。
自分付きの侍女となったクリスティアさんはともかくとしてユファンさんやヴァイルさんはこの国の要といえるお偉いさん。そんな方々にマンツーマンで時間を割いてもらうことに咲夜はたいっへん恐縮するがそもそも咲夜自身が世界に一匹の珍獣そのものなのだからこれまた仕方ないことである。
一応現在は殿下の賓客という立場のため、殿下はちょくちょく様子を見に来る。一緒に食事を取ることもしばしばだ。
セスさんは殿下の護衛なので殿下と会うときに一緒に顔を合わせる。
正直、それ以外の人とはほとんどかかわりが無かった。やっぱり微妙な立場だからね。
そうなるとだんだん咲夜は暇をもてあますようになってきた。
慣れって恐ろしい~!!
最初は一日一日がいっぱいいっぱいだったけど、毎日が同じことの繰り返しだ。人間関係があらかた構築されば精神的なエネルギーの消費は圧倒的に減る。そもそも勉強の時間もクリスティアはしっかりあるが、ユファンさんとヴァイルさんはそこまで咲夜に時間が割けない。忙しいときは休みになったりもするから暇になる時間はたくさんあるのだ。
「あ~何かすること無いかな。」
思わずテーブルに突っ伏す。そんな様子を見てまるで遊んでくれるように風の精霊たちが咲夜の顔を撫でたりスカートを舞い上げたりする。
「まぁっ!さすが咲夜様ですわ。精霊たちが主以外にそのようなことをするなんて!」
お茶を入れて部屋に入ってきたクリスティアは歓喜の声をあげ、顔を綻ばせる。スファンさんの授業でわかったことだがやはり精霊を束ねる神獣がついているおかげで精霊には好かれているみたいだ。簡単なことなら呼吸をするように風や水などが自分の意に沿って動く。あっちなら確実に超能力者の仲間入りだ。
「刺繍でもなさりますか?お散歩にでも行きます?」
クリスティアの提案は貴族のお姫様に日常らしい。でも自分は貴族じゃないし性に合わない。散歩は好きだけど。
クリスティアは咲夜の立場を理解しているはずなのにまるで貴族のお姫様のように仕立てあげようとする。礼儀やマナーは王室の人たちやお偉いさんと接する以上理解できるが、アクセサリーや服は着飾る必要はないと思う。そういう立場じゃない人間がやることほど滑稽なものはないと思う。
髪は下ろしているとはしたないといわれちゃうらしいのでクリスティアに結ってもらっているが髪飾りはつけない。ドレスは紺や黒のシンプルなものを何点か選んだ。クリスティアは侍女の制服より地味だとぶつぶつ言っていたがフリルなんてごめんだし、シンプルが1番派なので満足している。それに生地はしっかりしていて触れば充分高級なことが伝わってくる。
「ちょっと書庫にでも行っていい?」
もう少ししたらスファンさんの授業だ。予習でもしておこう。
王城にある書庫は好きに出入りしていい許可を頂いているので、クリスティアを連れて咲夜は書庫へ向かった。