第十話
次の日になって咲夜はセスから一通りの話を聞かされた。
とりあえず、しばらくは王城で殿下の賓客として過ごし、テストをしながら能力の使い方とかをユファンから学ぶらしい。神話の中でしか神獣の守護を受けたものは存在しないので何ができるのか誰もわからないみたいだ。
その後の身の振り方はフラウレイズ殿下の判断ではなく、国王様にゆだねられることになるそうだ。
あぁどんどん気が重くなる。
城の人間には神獣の守護を受けるものが現れたこと。その娘が異世界からきたことは通達するらしい。でなければふらふら正体不明の女が城の中を行き来していると要らぬ誤解を招くことになるからと。
「まぁフラウ殿下はまだ奥方がいらっしゃいませんからね~。戦場から女を連れて帰ったということだけが知れ渡ると貴族達が大騒ぎすることになりますから。」
セスさんの言葉に思わず固まる。
あんな美形の奥方に自分が誤解されるかどうかは疑問だが、もし誤解されたらそりゃ大変だ。
嫉妬深い女性達にどんなにいびられることになるだろう。っていうかあの人結婚していないんだ。あんなにかっこいいんだからたくさんに女性をはべらせてたっておかしくなさそうなのに。
「余計なことは言うな。」
その言葉に振り返るとうわさのその人が立っていた。相変わらずでかい。でっかい身体で見下ろさないで欲しい。
「ちょっといいか?」
殿下の威圧感にびくびくしながら後ずさりしているとその腕を殿下に取られる。そしてあっという間に二人っきりになってしまった。
「まずはこれを返そう。」
そういって殿下からわたされたのは着てきた白衣だった。洗濯されて綺麗になっている。名札やペン、壊れた時計も一緒にあった。
「それがお前が異世界からやってきたことを物語っている。まぁユファンの力が間違えるとも思わないがな。」
話しながら殿下は椅子に腰掛ける。咲夜も向かい合わせになるように座った。
「正直、俺も陛下も降ってわいたお前をどう対処していいか手をこまねいている。なぜ異世界からやってきたのか。神獣が守護についているのかわからないことだらけだ。」
額に手を当てる様子に咲夜は申し訳なさが募る。
「ただ神獣がついている以上、お前を野放しにするわけにはいかない。まだわかっていないと思うがこの世界を左右する力をお前は持っている。今は戦乱の世だ。おれはここディアリスの王族であり、ここの民を守る義務がある。国を守るためにはお前が敵に回るのならばたとえそれが神の意思だとしても逆らうつもりだ。言っている意味わかるな?」
王族としての強い意志が咲夜にもわかった。とはいえ、流されるままにここまでやってきた咲夜には今とるべき道はわからない。
しっかり立って自分でどう生きるべきか判断しなくちゃいけないんだ。その自覚をきっとこの人は咲夜に求めている。
「わかりました。」
咲夜が言えた事はそれだけだった。この世界のことを知らなくちゃいけない。
もう戻れないとあの獣は言った。ならばこれからここが自分の生きる世界になるのだ。
この世界で自分に何ができるのか、何をすべきなのか。
少なくとも今までの人生よりは大変な未来が待っているんだろう。向こうの世界のようなあらかたの決まった生き方はもうできない。
イレギュラーな存在の自分はもう自分で全てを選択していく必要があるのだ。