地図に無い国
警告・New Age Beginningの続編であるために先にオリジナルを刮目せよ。そして本編に突入くれたし。
「ドラゴントライアングル・・?そこに地図に載っていない国があるのか?」
特攻隊長が不思議な顔でプログラム技師の青年に聞いてきた。
「そうです、間違いありません!一夜漬けであらゆる計算式を使い、数字の意味もエッセンスに加え弾き出しましたから確信はあります!」
プログラム技師の青年は鼻高々に言い放った。
「そこまで自信があって言うのなら仕方ないな。おみそれしました」
特攻隊長は怖気づいて言葉も小さくなった。
「艦長、ズルしましたね」
レーダー技師の若い隊員は砂糖の入った甘いミルクコーヒーを飲みながら艦長に言った。
「別にズルした訳じゃないよ・・。あれは夢だと思ったんだよ」
艦長は今までの自慢話風の口調がどこえやらとなった。
「その少女は結局何者だったんです」
「それがそのあと司令官に聞いても覚えてもなく分からず終いだ。あれが夢でなければあの少女は“幽霊”だと思う」
艦長は申告に当時の状況を思い出しながら言った。
「“幽霊”?古代にあった言葉ですね。現代でいうと稀に起こる微弱な生命電気エネルギーの事ですね。それで疲労も重なって幻覚を見たと・・。まぁいいじゃないですか。その幽霊の少女にアドバイスを貰って自分が分析してやったという事で丸く収まったんですから」
レーダー技師の若い隊員は皮肉っぽく言ってきた。
「成り行きでそういう話になってしまっただけだ。それじゃ話を続けるぞ」
艦長は邪魔くさそうな顔をした。
“ドラゴントライアングル”・・。突然船舶や航空機までもが消息不明になる魔の海域。一九五五年日本政府は危険経路に指定。超古代文明が関わっているという憶測も飛び交っている”
コンピューターが過去のデータを引っ張り出してきた。
「場所からして如何にもご名答って感じだな」
特攻隊長がピンポイントを抑えた。
「他にも怪しげな場所です。噂によれば宇宙人の基地があるとか、UFOが海の中から現れたとか、怪獣がいるとか・・」
プログラム技師の若い隊員は過去のデータを掘り下げた。
「それはどこのデタラメ記事だよ」
特攻隊長は緊張の糸が切れた顔になった。
「とにかくお手柄だよ。他に該当地区が見当たらなければ目標をこの海域に定めよう。じゃすぐに世界中のレジスタンス達に伝達してくれ。そして集結してもらうんだ。一斉に新人類製造工場を叩き潰すぞ!」
有沢が闘志を燃やし隊員達を活気立てた。
「そんなこんなで我々は目標地点に向かったんだ」
艦長は絶え間なくコーヒーを飲んだ。
「もう座標的にはこの辺りなんですけどね?それらしき島国もありませんね」
潜水艦は深く静かに潜航して周囲を探知機で調べていった。
「そう直ぐに見つかるはずが無いだろう。撹乱させてシールドを張っているはずだ。しかし島国だとしても存在をもろとも隠せる事が出来るのか?」
暗い深海の長い時間が続いた。
「“宇宙人”と手を組んでいるとすれば、未知の科学技術で我々の想像を絶することも容易い事だろう」
探知機の機械と目視での両方でくまなく警戒した。
「“宇宙人”ってどんな姿をしているのかしら」
海溝により一層深く潜航していく。それから少し経つと・・。
「何だ?この靄は・・、深海の霧・・」
観望となる耐水圧ガラスの向こうに細かい粒子の靄が一面を覆った。
「大量のプランクトンの死骸じゃないのか・・」
その靄は探知機の装置にも確認が取れている。
「いや、これは確実に霧です。いま海の中ではなく霧の中を進んでいます」
圧力ゲージがゼロを指していた。
「不思議だ。そろそろ“ドラゴントライアングル”が本性を見始めてきたな」
潜水艦が霧の中を突き進む間、何も出来ずただ様子を伺うだけだった。
「霧が開けた・・」
視界が広がったその行く末は、田園が広がるのどかな駅のホームの電車の線路の上に潜水艦が乗り上げていた。
「どうなっているの・・」
鮎子が恐る恐る有沢に聞いてきた。
「俺に分かる訳がないじゃないか・・」
有沢にも誰にも分かる訳がなかった。
「とにかく敵のど真ん中に着いてしまった様だな」
特攻隊長が銃の準備をした。
「水深二万マイル・・。ここは深海です・・」
プログラム技師の若い隊員は計器が指す数字を見て呟いた。
「じっとしていても仕方がない。隊長は仲間と共に一緒に来てくれ。君は我々の行動を此処から監視して何かあれば連絡をくれ。さぁ行くぞ」
有沢はレーダー技師の若い隊員にそう言うと鮎子と一緒に武器を装備して慎重に外に出て行った。
「お前もがんばれよ!」
特攻隊長もプログラム技師の若い隊員にそう言うと仲間数人と共に外へ飛び出していった。
「独りになった時が何も起こる筈が無いんだよな・・」
プログラム技師の若い隊員は独り言を言いながら身を守る準備をした。
有沢、鮎子と特攻隊長そして数人の隊員達が長いホームに分散すると、過去のデータでしか見た事がない野や山や緑の木々が薄い色合いで広がり戦いの最中変に緊張感が解れる。
「これはグラフィック映像ではなさそうよ」
鮎子が特殊ゴーグルで辺りを見回した。
「古代の緑の大地が此処にあるっていうのか!?」
特攻隊長の声が鮎子のイヤホンに流れてきた。
「どちらにせよ俺達は敵さんにもう既に勘づかれているとみていいだろう」
有沢が全員に警戒を促した。各自大きく広がり改札口に向かい長いホームを出ると、これまた過去の商店街と言われる町並みが軒を連ねていた。そこには行き交う人達の姿もあり普通に此処で住んで暮らしている様子だ。
「なんだか知らない街に迷い込んだみたいだな」
有沢が物陰に隠れながら雰囲気を察知した。
「この人達も本物よ。実体があるわ」
特殊ゴーグルを付けた鮎子が無線で知らせてきた。
「大昔の平和な世界に戻った感じだな」
特攻隊長はその庶民的な風景に心の安らぎを感じた。
「計測器によると時空の歪みは感知していません。実際のこの場所は現実世界のものです」
潜水艦で待機するプログラム技師の若い隊員から状況が知らされた。
「まるで夢で見る淡い景色のようね」
鮎子が目の前に広がる物も人も薄い色合いの世界を表現した。
「敵は何を考えているか分からん。進んで行くぞ」
有沢は物陰に隠れながら先頭を進み皆はその後に続いた。商店街は脇道にずれ路地に入り込み飲食店が軒を並べる。その店の中には人々が楽しげに騒いでいる光景があちこちで見られた。
「なんだか楽しそうにやっているぜ」
特攻隊長はその賑わう人々の姿を羨ましく思った。
「この界隈も本物よ。この風景、私以前に何回もこの場所に来ているような気がするの・・。遠い記憶に残っているの・・」
鮎子が何かを思い出そうとしている。
「あの角を曲がれば広場に出れるわ。そこで待機しましょ」
少し先に折れる角があり鮎子が有沢に替わり先頭に立った。
そこはちょっとした大きさの円形の石段となっており、腰を下ろしてくつろぐ場所としては最適な所だ。もう既に家族連れや子供達が埋め尽くし占領している。有沢達はその群れに紛れ散らばり無線でやり取りをした。
「スキャンでこの世界を透し出来ないか?」
特攻隊長の声がプログラム技師の青年がいる潜水艦のスピーカーから聞こえてきた。
「全ての実態は分かりませんが、そこには確実に酸素があり実際に人々が生活をしているということです。そのなかで不審な人物や怪しげな建物は見つかりませんでしたか?」
プログラム技師の青年の声が全員しているイヤホンに流れてくる。
「今の所見当たらないが、副司令官の脳裏に断片が残っているらしい」
有沢がプログラム技師の青年に呼びかける。
「デジャヴュというものですね。何かの原因で初めての場所が記憶に残っている一種の頭の中のバグ、思考の混乱ですね」
プログラム技師の青年の説明が鮎子の耳に飛び込んできた。
「そんなものじゃないのよ!幻でもなく遠い子供の頃に来た様に町並みは少し変わったかも知れないけれど大体おおよその道順は思い出されるわ」
鮎子が思い出すたび記憶は段々と鮮明に色づいてきた。
「そう、幾度も見た夢の中の世界よ。駅も街も此処は私が何度も見た夢の景色よ」
鮎子が思い出し気付いた瞬間、周りの騒がしい景色が一変し静止画のように一時停止して音という音が消えた。そして眠りから覚め目を開けるかのようにその目の前に広がる風景は、小さな灯火が消えるようにゆっくりと早く姿が無くなった。
・・つづく