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熱かった日々

警告・New Age Beginningの続編であるために先にオリジナルを刮目せよ。そして本編に突入くれたし。

常識は覆された。まるで色を塗りつぶす絵具の様に時代を染め急速に浸透していった。日常の歯車の一部になればそれが当たり前となる。そして・・、人類は滅亡した・・。世界中の多くの人間を死に追い遣るのは容易い事、酸素が無くなればいいのだ。辛うじて生き残った人間達は仲間を作り生きる源、酸素を求め地下に逃げ込む。外の世界では対応した新しい人類が造りだされ、何も知らされず何も見出せないまま生活を送っている。奴隷という十字架を背負わされた事にも気付かないまま人生を送る。それを裏で動かしている者を許してはならない・・。真実を知っている者は地下に身を潜める人間だけ・・。誰にも信じてもらえない抵抗・・。誰も知られてはならない秘密の戦争・・


その昔・・

世に蔓延った“帝国”の支配を打倒する為、日夜戦っていいるレジスタンス。有沢高仁を司令官に置くチームのアジトは地中奥深く延びる洞窟。その末端からは天然の温泉が湧き出している。有沢は今までの疲れを取る為、その温泉に浸かり一時の癒しを寛いでいた。しかし、頭の中に思い浮かぶものは前の司令官であった山崎渉の死と自分の為に犠牲になった仲間達の死だった。すんなりと温泉を堪能できない。悩ましい思いだけが脳裏を横切る。ここはなるだけ時間が許す限りゆっくりと浸かり硬くなった体の筋肉の疲労をほぐそう‥。

大粒の汗を掻きそう考えていると、司令官代理を務めた山崎鮎子がバスタオルだけで身を包んだ姿で現れた。自分の命を救ってくれた女性、遠藤広子。もうその名前も過去のものだ。その突拍子も無い突然の鮎子の登場に有沢は困惑した。

「なに驚いているのよ。私達夫婦でしょ!」

山崎鮎子はあっけらかんとそう言ってバスタオルを脱ぎ透き通る豊満な体で有沢の浸かっている温泉に入ってきた。

「もう記憶は戻っているんでしょ。そんなに驚く事無いじゃない」

そう言いながら山崎鮎子は有沢の体に寄り添い肌に触れてきた。有沢は何故か緊張した。しかし、ひとつずつ記憶を取り戻し山崎鮎子と一緒に温泉に浸かり肌を触れ合っているうちに、次第に緊張の糸が解れ温泉の効力と共に頭の中のもやもやもリラックスされ体全体が癒されてきた。二人はひと時の間、無言のまま肩を並べ目を瞑り静かに流れる時間を戦士の休息とした。

「私達の子供・・」

温泉が沸き立つ音以外は一切固まった様な静寂な空気を噴き動かすように、鮎子がぽつりと小さく呟いた。

「夢に出てきたのよ・・、あの子・・。元気そうだったわ・・」

別にどこを見ているというわけも無く、ぼんやりとした目で鮎子が話し出した。

「俺達の子供・・。俺も夢の中で出会ったよ・・」

有沢もぼんやりとした目で話し出した。

「今あの子が何処に居るのか分からないけど、楽しく幸せそうだったわ・・。“帝国”にさらわれたとばかり思っていたけど・・」

一点をぼんやり見つめ鮎子の話は続いた。

「私のお腹から突然消えた赤ちゃん・・。あの子が親も無く一人であそこまで立派に成長していたなんて・・」

鮎子の目から一筋の涙が零れた。

「俺も悪く思っている・・。君から言われるまで俺達の子供が君のお腹の中で育っていたなんて気付きもしなかった。そう・・、確かにあの子は俺達の子供だった。あれは単なる夢じゃない。テレパシーで俺の脳裏に直接話しかけてきた。その瞬間・・、何故だか分からないけど温もりを感じ血の通った自分の子だと確信した。あの子はいったい何処にいるんだ」

有沢は鮎子を抱き寄せた。

「たぶん・・。私達の知らない未知の世界・・。理由は分からないけど私達の赤ちゃんを連れ去ったのも未知の存在・・。それに立派にここまで育ててくれた命の恩人・・」

鮎子は有沢の胸に顔を埋めた。

「命の恩人・・?」

有沢は鮎子の髪を撫ぜた。

「そう、あのまま妊娠して戦いの渦に巻き込まれていたなら、私達の大事な赤ちゃんは流産していたかもしれない。私のお腹から赤ちゃんが消えた時は錯乱してどうしようもない日々が続いたけど、夢の中であの子と話した時、これでよかったんだと分かったの。あなたと同じようにあの子の温もりを感じ母親としての愛情も感じたわ」

鮎子は有沢の胸にしがみついた。

「しかし、あの時の俺達の判断は間違ってはいなかった。誰もが恋をして結婚をするなどと考えもしなくなった時代に、その風潮に逆らい俺達は結ばれた。そして子供まで授かった。今は何処にいるか分からないが、あの子は次の世代の希望の星、俺達の宝だ」

有沢は鮎子を抱き寄せ口付けした。

「またいつかあの子に会えるのよね・・」

鮎子は泪目で言った。

「勿論さ。そして居場所を突き止め三人で一緒に暮らそう」

有沢は鮎子を見つめた。

「その前にこの戦いを早く終わらせなくちゃ」

鮎子は自分のおでこを有沢のおでこに重ねた。

「それからあの少女・・」

「誰なのかしら・・」

二人はお互いに抱き合った。

「失礼します、リーダー。あっ!」

溶岩石の影からレジスタンス隊員の青年が出てきた。

「失礼しました・・。お忙しいなか申し訳ございませんが、データの分析が出来ましたのでお呼びにきました・・」

青年は出てきた溶岩石に慌てて引っ込み物影から大声で言った。

「お忙しくないよ!」

有沢は口に手を当てて青年に返した。

「さぁ、行きましょう」

鮎子に笑顔が戻った。


作戦指令室。・・と言ってもごつごつとした岩盤にハイテク機材を積み上げた洞窟の中央に位置する場所にある。バッテリーは太陽発電を使っている。そこには特攻隊長を始め、プログラム技師の青年ほか数名の隊員が既に集まっていた。少人数のチームである。そこへ有沢、鮎子と呼びに行った青年の三人が戻ってきた。

「リーダー、お体回復しましたか?」

特攻隊長が有沢の肩を叩いた。もともと有沢が特攻隊長だった頃、その副官だった男だ。

「あぁ大丈夫だ。ありがとう。皆、俺を助け出してくれて感謝している」

有沢は隊員全員と抱き合い体で感謝の意を表現した。

「早速で悪いが戦いの準備をしなくちゃならない。今からのデータ分析の答えを見てくれ」

特攻隊長がプログラム技師の青年に合図した。

「望むところだ!」

有沢は身を乗り出した。

「各方面に散らばる他のレジスタンスのグループからの伝達は“帝国”からのあらゆる妨害を受け収集が難しかったが少なからずとも先が見えてきた」

特攻隊長が言うのも仕方が無い。今の“帝国”が支配する世界は国が統合されデジタル周波数が覆っている。レジスタンスのグループの連絡網はその隙間を付きアナログ周波数で情報を交わしていた。しかし、そのアナログ周波数を妨害する電波が発せられた。そこで次の手に伝書鳩や渡り鳥を情報網として使っている。だが、どうしても自然の生き物だ。情報を伝える前に息絶える事もある。それでなかなか伝達事項がうまくいかずにいた。そして酸素の無い今になっては自然の生命の息も途絶えている。

「この赤い点が奴らの基地の場所だ。それに我々が殲滅した×印を加えると大方が消える。大半の基地の概要は新人類ミュータントを誘導するアンテナ基地。街を制御するシステム基地。そして、リーダーを救い出した奴らのアジトだ。しかし何処も小規模な基地で、どれも見かけは3D映像で公共施設の建物に見せてある。あと全てが小高い丘にあったということだ。この二つはどういう意味なんだ」

特攻隊長が頭を捻った。

「見せ掛けの建物は奴らの趣味だろう。そこに基地を置くのはちょとした高台から支配した世界を見下ろしたいんじゃないか?しかし大本の悪の根源が見つからないな・・」

有沢は映し出されているスクリーンに目をやった。

「数少ない唯一の情報だ。これを無にしてはならないわ」

鮎子もスクリーンを見上げている。

「あと、“不良品の墓場”という言葉を検索キーワードに加えて分析してくれ」

有沢が思い出したかの様に言った。

「目標は新人類ミュータント製造工場だ。それに製造データが詰まったスーパーコンピューターが何処かにある。それを破壊しなければ哀れな宿命を負わされた新人類ミュータント達が大量生産される。もうそんな残酷で悲しい悲劇は終わらしてしまおう・・」

有沢は犇いた。

「では、これに司令官・・、いや代理を助け出した時、怪しげな宗教団体から頂いた情報を分析した収集データを重ね合わせてみます」

プログラム技師の青年はキーボードを叩いた。

「“鉄十字教団”ね。No.6達はうまく逃げ出したかしら・・」

鮎子が心配そうな顔になった。

「あの団体はまだ“裏政府”が世界を操っていると思い込んでいた為、情報としては古いのですが新しいキーワードが一つ。今のところ分析中で何の事かまだ分かりませんが、これです・・」

プログラム技師の青年はキーボードを叩き終わるとスクリーンに一つの言葉が表示された。

「嵐が丘・・?なんだこりゃ・・?、何処にでもあるような名前だな・・」

特攻隊長がまた頭を捻った。

「嵐が丘・・。どういう意味だ・・」

有沢と鮎子、そして他の隊員達もその言葉を食い入るように見つめていた。



「大人しく聞いていれば艦長の若い頃の武勇伝ばかりじゃないですか!肝心要の隊長の生立ちはどうなったんです!」

レーダー技師の若い隊員は艦長に目も呉れずモニターを一心に見つめ面倒くさそうに言った。

「しかし"嵐が丘”とは気になるキーワードですね。今も未解明ファイルに残っています」

目をやるモニターには“嵐が丘解析不能”と出ている。

「そんな自慢話をしているつもりはなかったんだけどね・・。隊長の複雑な出生の訳はもう少し話が長くなるよ。それは“帝国”が支配する少し前、まだ“裏政府”と戦っている時代に遡るんだ」

そう言って艦長はサイフォンでコーヒーを沸て始めた。


・・つづく。

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