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それぞれの想い

警告・New Age Beginningの続編であるために先にオリジナルを刮目せよ。そして本編に突入くれたし。

一切の音の無い暗く閉ざされた漆黒の世界。此処は地下百メートルの鍾乳洞洞窟から連なる海底二万マイルの光など無縁な世界。海底洞窟の入口となる絶壁の岩肌のそこに過去の産物と化した年代物の原子力潜水艦が一隻ひっそりと佇んでいた。一見、海の藻屑となった沈没船とも思えるが微かにエンジン音を立て、船内では人影が動き、まだこの船は現役で活動していそうだ。そのひとつの部屋から警告アラームが連続的に鳴っていた。

「何があったの・・」

狭く長く続く通路を渡りこれまた狭い警告アラームが鳴っているソーダ室に一人の少女が眠そうな顔を出した。十代終わりの思春期の年頃だが、そのキリッとした少し大人びた顔と早熟した身体つきはあらゆる経験を積み重ねた大人の女の様にも見える。

「隊長、表の世界で異常な周波数が現れました」

これまた年代物の無線機が並んだゴツゴツとした幾つものダイヤルを弄りながら、ひとりのレーダー技師の若い隊員が少女に向かっていった。

「なにそれっ。どうなっちゃってるの?」

隊長と呼ばれた大人びた少女はあくびをしながら赤い警告ランプが点灯する装置をいじり始めた。

「一見、見かけは何の変哲もない周波数ですが、不審な信号があからさまに一定の電波に強引に割り込んでいます。先程一度だけの確認ですが、グラフから見ても高密度のパンチの効いた信号が新人類ミュータントの脳裏を貫いたと思われます」

レーダー技師の若い隊員はコンピューターがはじき出したデータを事細かく少女に伝えた。

「なんだかよく分からないけど人為的に作られた悪質な信号が原因らしいわね」

まぶたが何回も閉じかける眠そうなうつろな瞳で少女は弾き出されたグラフデータを見た。

「以前にも幾度か不審な電波が紛れこの様な事例は確認されておりますが、今回のは強化セキュリティからも逃れ、一見では分からないほど周到に計画された妨害工作と思われます。我々以外にも表の世界に反感を買う者たちがいる様ですね」

レーダー技師の若い隊員も少女を寝かせまいと負けずと意地になって状況を伝えた。

「住みにくい世の中にするのはその時代の人間がするものなのよ・・」

少女はだるそうに哲学をゆっくりと呟いた。

「どちらにせよ表の世界が何だか騒がしくなってきたみたいね。昨日は遅くまで古代のTVゲームとやらを分析していたから睡眠不足なのよ。また二度寝するとしましょ」

少女はそう言って大きなあくびをして警告アラームのスイッチを切った。

「TVゲームというと古代人の娯楽と聞いたことがありますが、まさか夜通し遊びにふけっていた訳ではないでしょうね」

レーダー技師の若い隊員は疑惑の眼差しで素朴な疑問を問いかけた。

「妨害電波をコンピューターで分析しなくちゃ」

少女はそそくさと部屋から出ていった。

「わがままなんだか、やる気がないんだか、考えていることがよく分かんないんだよな・・」

レーダー技師の若い隊員は独り言を言いながらモニターに目を向けた。

「隊長は生い立ちが複雑なんだよ」

そう言った男の声が物陰から出てきた。

「艦長、またそんなところで寝てたんですか!?」

レーダー技師の若い隊員が拍子抜けした声で言った。

「彼女は生まれた瞬間ときからこの部隊のリーダーなんだ。彼女の眼で見たものを判断して決断を下す。その決断が間違っていれば何人もの命が犠牲になる。誰にも自分の意見を相談できない過酷な運命を背負わせられているんだよ」

艦長は遠くを見つめる眼差しで言った。

「どういう運命なんですか?」

レーダー技師の若い隊員は深刻な顔になりながら言った。

「それじゃ昔話をしようじゃないか・・」

艦長は椅子に腰掛け、これからの長丁場に向け大きなコーヒーのカップを手に取った。


長い眠りから覚めたように真っ暗な世界に一筋の細やかな光が差し込む。それは小さな粒子が多く集まったような何とも安堵感のある天から降り注ぐ一筋の光の様だ。しかし現実的に言えば疲労が重なり緊急処置として深い眠りから目覚め、瞼から入り込む光をそう思っただけの事だろう。

「有沢1号。長い休憩はここまで。仕事の時間よ。私のやり残している多くの作業を手伝ってちょうだい」

あの女性ひとのヒステリックな声が脳裏に突き刺さった。強制的に引っ張り起こされた様な嫌悪感だ。こんな事になるなら永遠に眠っていたい。

「現実にいた世界こそが寝ている最中に見ている夢の中の世界なのよ!毎日青空なのも、満員電車に揺られて会社に行って、お昼にはうどんを食べてトイレまで行く。そんな日常生活自体あなたの脳内で強制的に見せつけられているプログラムなのよ。幾度となく鳴る時報のチャイムの周波数でコントロールされているのよ。だから暑い日にも汗も掻かないし、寒くなっても寒がらない。ましてやウィルスも絶滅した世界だから風邪もひかない。リアルな夢を見ているだけ、そう感じさせているだけの夢見る夢男さんなのよ。寝ていたって何も始まらないわ!寝ぼけていないで早く起きなさい」

夢見る夢男さん・・。現実こそ夢の中の世界?プログラムとはなんだ?あの女性ひとの声がせっかちそうに駆り立てる。第一印象とはえらい違いだ。そうだ・・、思っている事があの女性ひとにはテレパシーで筒抜けなんだった。

「そうよ。あなたの考えることはお見通しよ。私の悪口なんか悲しくなるから言わないでね。あと質問の答えだけどプログラムとは体が動かなくなるまであなたは強制的に働かされるのよ」

「何がどうなっているのか僕にはさっぱり分からないよ!有沢1号とはなんだ!」

頭の中で感情的に怒鳴った。

「そう尖らないで。前にも言ったでしょ、あなたは今の様に感情のある新人類ミュータント、特別なのよ。まぁ、元の名前のほうが言いやすいし、あなたもそのほうがいいでしょ。西山さん・・」

「これから何を起こそうとしているんだ」

自分の身を心配しながら恐る恐る怯えながら聞いた。

「説明すると理解するのにちょっと難しくなるわねぇ。その前にまだ時間もあるし・・昔話でもしましょうか」

あの女性ひとの声が恐ろしいほどの引き笑いを浮かべ立てながら言ったのを本能的に薄々感じた。

・・つづく。

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