次のレジスタンス達へ(最終話)
警告・New Age Beginningの続編であるために先にオリジナルを刮目せよ。そして本編に突入くれたし。
男はベッドから飛び起きた。
そこはいつも見る薄暗い部屋のなかだった。部屋中を広がる独特の薬の匂いがつんと鼻にくる。
「またあの夢か・・・」
体じゅうにじっとりとした汗をかいていたが、もう一度横になりそのまま深い眠りに落ちていった。
朝の差し込む眩しい日差しに目が覚めると、そこに聞き慣れた明るい声が部屋へ入ってきた。
「おはようございまーす。あら、また嫌な夢みたのですか?」
いつもの担当看護婦の小佐井蛍子がえくぼをつくってきた。
「なぜ分かる?」
「パジャマが汗でびしょびしょ」
あの嫌な夢をみた朝は目覚めが悪い。それが汗で湿ったパジャマの所為だと思うと納得する。
「この検温が終わったら早くシャワーを浴びてらっしゃい」
そう言って体温計を渡した。
「新しいパジャマも置いておきますからね」
汗で冷え切った体に浴びる熱いシャワーほど気持ち良いものはない。じめっとした感触がその勢いよく出るお湯によって流され爽快感がよみがえってくる。
男の名前は西山実。歳は三十歳。宇宙開発局の第一線で活躍していたのだが、これからという時に過労で倒れこの小高い丘にある病院に運ばれた。それから何日もしないうちに薄っぺらい茶封筒が会社から送られてきてご丁寧な文章で綴られリストラされた。仕事を生きがいにしてきた自分としてみれば大変ショックだった。また会社からみれば利用価値が無くなればいらない存在になる。ただ過酷な競争に敗れ使い捨ての駒として扱われただけだった。
「不運な末路だ」
西山の口からぼそっとでた。入院して以来ひとりも見舞いにも来てはいない。
西山の入院しているこの病院は都会の雑踏を離れた山の中にある。古い教会を改装したのか総合受付になる玄関は高く伸び建つ時計搭となっている。天辺には大きなチャペルの鐘が吊り下がり朝、昼、夕方に大きく鳴り響き時を知らせる。その入り口からなかに入ると真正面に縦長の大きな聖母マリアのステンドグラスがはめ込んであり来る者の心を落ち着かせてくれる。その先は四本の渡り廊下が扇状に延び各専門の棟へと繋がっている。そのひとつのリハビリセンターに西山はいる。
シャワーを浴び終わり新しいパジャマが入った籠に西山が手をのばすとそこに小さな紙のメモが挟まれてあった。
「New Age Beginning・・?次世代たちへ・・?どういう意味だ?俺の字だ。いつ書いたんだろう?まぁいいか、いずれ思い出すだろう・・」
それは西山の筆跡で書かれた文字だった。西山はなにげに胸ポケットにしまい込んだ。
「実験は成功ね。だけどこの火星の"約束の地”に順応して貰うためにはもう少し観察が必要ね。私の初の試みよ、クランケさん」
マザーと呼ばれる幼顔の声の低い女が立体映像で西山の姿を見ている。
「マザー、何と遊んでいるの?」
そのマザーと呼ばれる幼顔の女のところに何人もの幼児達が集まってきた。
「いいおもちゃが見つかったのよ」
マザーは幼児達に向かって低い声で笑いかけた。
「わたし達にも遊ばせてぇ」
何人かの幼児達が手を上げた。
「あなた達にはまだ早いわ。もう少ししてからね」
マザーは幼児達に優しく答えた。
「それよりあの地球の最期を見ましょう」
マザーは幼児達を自分の周りに集めた。そこに遠くから冷たい目で眺める一人の少年がいた。その視線の気配を察したのかマザーはその少年に目をやった。
「君は誰だったけ?」
マザーの呼びかけにその少年が聞こえるか聞こえないかの声で答えた。
「僕は有沢1号さ。New Age Beginning・・」
どんよりとした鉛色の雲が空一面を覆いその重たい雰囲気のなか、あたかも我慢できなかったように大粒の雨が降り続いている。雲の中からは、ごろごろと恐怖感を募らせる音が鳴り響き、その都度けたたましい音とともに稲妻の閃光が走り空を切り裂く。容赦なく降り続いているこの大雨は休むことなく一ヶ月以上となる。気象庁の発表によると今年の梅雨は全国的に異常なほど降水量が高いという。そんな激しい雨のなか鮎子と少女を乗せた新幹線は猛スピードで走っていた。
人かず少ない自由席の一番最後の座席に隣りあわせで腰をかけ、これといった会話も交わすこともなく、二人の間にはただ時間と窓から見える景色だけが流れていた。二人とも無言で喋りだす様子もなく一見してみれば、ただ合席に座った赤の他人のように見える。しかし共通していえるのは二人とも砂ぼこりのついた薄汚れた格好だということだ。
「私は今何処に向かっているの?隣りに座っている女の子は誰?そうだ“不良品の墓場”から助けて一緒に逃げ出したんだ。歳で言うと私の孫娘と一緒くらい・・。孫娘・・。私の息子は!あの時、モニター越しだったけど初めて会った私の息子・・。あの子は何処に行ったの!こうなると分かっていれば出来る事ならこの胸に抱きしめたかった・・。束の間の出来事だったんだわ」
鮎子はつい今しがたの出来事を思い出しながら隣に座る少女に目をやった。少女はすやすやと安らかに眠っている。
「冷静になって今までの事を思い返そう。火星ロケットで帝国の月面基地から脱出して息子と孫娘にあった。それでまた憎たらしい同じ顔の女が現れた。その時・・、孫娘は確かに"お母さん”と言った。そうなれば私の息子の・・。それで私は逆情して何も頭に入ってこなくなった。そしてロケットは木っ端微塵に・・。もしかしてその波動で地球にタイムワープしたんじゃ・・?そうなるとまた息子と散り散りになったの・・」
鮎子は顔を覆い涙ぐんだ。
「泣かないで・・。助けてくれてありがとう」
隣に座った少女が声を掛けてきた。
「ありがとう・・。大丈夫よ」
鮎子は気休めに答えた。
「私達は今何処に向かっているの?」
鮎子は涙を拭いながら少女に問いかけた。
「私達は未来を取り返そうとしている。そのために仲間を探す旅に出ている」
少女はパズルの埋められていないところの様に断片的に答えた。
「まだ此処には酸素はあるわ。現代は何年なの!?」
鮎子は理解できず次の質問をした。
「現代は1999年。人類は滅ぼうとしている」
少女は鮎子を前に遠くを見つめた。
「1999年・・。それじゃ、まだ間に合うわ。あの女は地球の寿命が近づいてると言った。またもう一人の同じ顔の女は地球を攻撃すると言った。
そうはさせないわ。未来を変えるのよ!そして未来を取り返しましょ!New Age Beginning」
鮎子は思わず立ち上がり咄嗟に叫んだ。その時・・
「鮎子じゃないか」
通路を歩いてきた男性が鮎子に声を掛けた。
「お兄さん!」
その男性は鮎子の兄、山崎渉だった。
光は東京の中心地の街の大勢の人が混み合うスクランブル交差点のど真ん中にいた。人々は互いの目的のため足早に行き交っている。そしてそれぞれの思いが自分勝手で自己中心的な考えが見え隠れしているのが感じ取れる。同じ毎日の繰り返し、仕事に追われる日々、退屈な人生、惨めな将来、哀れな未来、何も考えずのその日暮らし。明るい先の事など考えている者など一人もいない。ただ何かあれば常日頃から手持ち撫ささの様に通信機が搭載された小型のマルチコンピューターを持ち歩き秒ごとに何回も取り憑かれたように見ている。生温い平和に漬かり別の未来を歩んだ平行世界。光は自分がいる世界よりそんな世界が悍ましいと思った。
「根源は同じなんだよ、おねえさん」
光に手を握られている野球帽の男の子が光を見上げながら言った。
「これじゃ、侵略されても当然よね・・」
光は遠くを見つめ感情のない顔で言った。
「この並行して動く異世界もいずれどういう未来が待ち受けているか、此処に住んでいる人達は現在は何も考えてもなさそうね」
光は流れ行く人混みを見ている。
「僕達の未来の様にならなければいいけど」
野球帽の男の子も真っ直ぐ人の山を見ている。
「New Age Beginning・・・。私もそうだけどこの人達全員がもう一度生きがいのある未来を見つけて欲しいものだわ・・。この世界に自分の居場所を見つけて生き残る方法を考える事ね・・」
光は目に写る異世界を前に父親である野球帽の男の子と目を合わせ呟いた。
荒涼たる現代のこの時代、私達は自分自身何をすべきか何が出来るのか信念を持って真剣に考えなければならない・・。
・・完。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからのあなたの未来は明るいですか・・・。




