エンゼル・スマイル作戦
警告・New Age Beginningの続編であるために先にオリジナルを刮目せよ。そして本編に突入くれたし。
小佐井蛍子の鋭い目はより一層、血も涙も無い恐ろしくも冷たい氷の視線となり、止めに掛かる自分の部下達をなぎ倒し暴れていた。
「私の長年の苦労を何だと思っているの!なんで“11指令”が発動しないのよ!」
暴れる小佐井蛍子の後ろの壁に配列された幾つものモニター画面からは表の世界の監視カメラの映像が映し出され、無情にもそこからはずっと“天の音楽”が流れていた。
「耳障りなのよ!」
小佐井蛍子が力強く椅子を投げ付けモニターを破壊した。
「えらく乱れているなぁ」
有沢が同じDNAの西山に話しかけている。
「目も当てられません・・」
西山も困っている。
「有沢ゎー!どうせお前の所為ね!どうなるか知っていたんでしょう!そして私の間抜け面を見ようという魂胆だったんでしょ!」
小佐井蛍子の怒りは手も負えない状態になっている。
「どうなるかなんて知らなかったよ。そしてこれから何が始まるかも分からない。俺もお前と同じ長年の心残りが晴れた気分だよ」
有沢は皮肉のように小佐井蛍子をけしかけた。
「よくもお前達っー!分解やるっー!」
小佐井蛍子が有沢と西山のDNAが入った溶液の水槽の電解装置の電源レバーを触ろうとしたその瞬間・・、バンッ!と乾いた鈍い音がした。そして小佐井蛍子が青ざめた顔になり床にずり落ちていった。その後ろには有沢の見覚えある年配の男が立っていた。
「女の横暴は癖が悪い」
年配の男の右手には火薬の匂いの煙が立つ拳銃が握られていた。
「あなたは・・」
「有沢くん久しぶりだねぇ。こんな形でご対面するとは私も思ってはなかったよ」
年配の男はあの海底トンネルで出会った男だった。
「やっぱりどうやら私はスパイ活動が性に合っているみたいでね。今でも現役で動けるよ。そう、お分かりの様に私も新人類になったよ」
年配の男はポケットから小瓶を取り出し一口飲んだ。
「酒は百薬の長といってね、新人類になってもこれだけはやめられないねぇ~。おっと忘れていた。いま助け出すよ」
年配の男は有沢と西山がいる大きな水槽に配列されたケーブルのスイッチを触りだした。
一昔前、そのころ鮎子は・・。
大気が変化した悍ましき街を潜り抜けやっとのおもいで東京スカイツリー跡地の一階総合フロアにたどり着いた。まだ本来のスカイツリーが東京の観光地だった頃は此処で大勢の人達がショッピングを楽しんだり娯楽やデートスポットとして利用していたのだろう。そんな痕跡が所々に置かれた埃だらけのソファに垣間見れた。
そんな薄汚れたソファにビジネススーツで身を包みノートパソコンをしきりに打つ青年。くたびれたジャケットを無造作に羽織りいびきをかいて眠る中年男。コンビニ弁当を一心不乱に貪る老婆の姿が間隔を開け自分のテリトリーを守っている様に腰を掛けている。その者達はあちらこちらに配置された一つずつのソファに対してそこに一人ずつ座っていたからだ。
「なんだか夫から聞いた夢に出てきた風景ね・・」
鮎子は夫、有沢から聞いた夢のなかの話を思い出した。
「あの者達は何者でしょう?新人類の様にも思えませんし、酸素も無くウイルスもバイ菌やカビなどもいない抗菌コートされた世界では通常の生身の人間では持たない筈なんですが・・」
不審に思った特攻隊長が話しかけてきた。
「此処は想像を絶する世界よ。これも幻覚かもしれないわ。先を急ぎましょう」
鮎子と特攻隊長は足早にその場を立ち去った。
「これが最上階まで一直線の高速エレベーターね。今のところ“帝国”(やつら)の戦闘員と立ち会ってないけど気が抜けないわ。この戦闘服・・、本当に役に立っているのかしら・・?」
鮎子は着ている服装を見て気になってきた。
「役立たずだったら帰ってから私があいつをとっちめてやりますよ!」
特攻隊長がプログラム技師の青年の顔を思い浮かべている。
「待って、本部から通信が入ったわ。“裏政府の計画を妨害するデータを送信中。“帝国”(やつら)のコンピューターにインソールされたし”・・。“裏政府の計画”?これまた昔の話ね?まぁいいわ。隊長、データを預かっていて」
鮎子は送信されてきた“裏政府”の“11指令”を壊滅させる特効薬データを特攻隊長に渡した。
「わっ、私にですか・・?」
特攻隊長は驚いた顔で鮎子を見た。
「そうよ。私は“帝国”(やつら)に顔が割れているじゃない。あなたなら大丈夫よ。信頼しているわよおぉー」
鮎子はほくそ笑みながら言った。
「さて最上階の陣地に乗り込みましょうか!」
鮎子はエレベーターの上へのボタンを押し開いた扉に乗り込んだ。・・途端、直ぐに扉は閉まり後から乗ろうとした特攻隊長は扉の前に取り残されてしまった。
「副司令官!!」
「私は大丈夫。あなたは別の手段を探して作戦を遂行するのよ!」
鮎子はエレベーターのガラス越しに冷静な顔で特攻隊長に向け読唇術で伝えた。それどころかエレベーターは上の階に上ってはいかず鮎子の体が宙に浮き上がり一瞬のうちに消えていった。
そしてそれは数分、いや数秒の出来事だったかもしれない。鮎子が目を覚まし意識を取り戻すとそこは見たこともない真っ白な部屋があった。
「四次元エレベーター・・?」
まだ鮎子の意識は朦朧としている。そこに聞き覚えがある女のあの低い声が聞こえてきた。
「あら、誰かと思えば・・」
時代を越えて現在・・
「どうやらあなたから貰った“特効薬”と改良した“エンゼル・スマイル”がようやく時代を越えて効いた様だな」
ホログラムによって有沢の姿が映し出された。
「有沢くん。画質が悪いがやっぱり姿形があったほうが話しやすいよ」
年配の男は複雑に絡み合った配線ケーブルを繋ぎ合わせ有沢のホログラム映像を作り出した。
「あのぉ・・、僕には何の事だかさっぱり分からないんですけど・・」
有沢の横にはもうひとり西山がいた。
「あぁすまん、すまん。君は被害者だったね。まぁ、もう一度何もかも忘れて人生をやり直し出来ると思ってくれればいい。それじゃ生まれ変わって励んでくれ」
年配の男は無数にあるややこしそうな装置のスイッチを色々と弄りながら、有沢と西山のDNAをそれぞれ分離した。
「これで西山くんのDNAはリセットされた。今までの彼にとっては悪夢な事も削除しておいたよ。ひとつ恋心を抱いた時もあったのかな。残念だがそれも消えてしまった。まぁ、尻に惹かれるあんな女より次にはもっと良い出会いが待っているだろう」
西山のホログラム映像は消え、年配の男はちょっとした皮肉も言いつつ西山のDNAを三角フラスコに移した。
「あなたはあれからどうしたんです?かれこれだいぶ昔の話ですが・・」
薄ぼんやりした有沢のホログラム映像が語りかけた。
「わしはあれからあの海底トンネル(アジト)を去りもう一度“裏政府”に潜入したんだ。そして永遠の体を手に入れた。“裏政府”(やつら)の技術も大したものだ。便利なものは何でも利用したらいいんだよ」
年配の男はあっけらかんと答えた。
「便利なものこそ、その絡み合ったケーブルの様に複雑に入り組んでくるんですよ」
ホログラムの有沢はごちゃごちゃになったケーブルに目をやり言った。
「ところで気になっていたあのタイムマシンは本物なのですか・・?」
ホログラムの有沢は年配の男の目を見つめ単刀直入に聞いた。
「もちろん!本物だとも!私がこの目で確かめた!」
年配の男の目は確信を持って自信に溢れていた。
「水晶玉のようなものがあっただろう。それがタイムマシンの軸になる。それこそが宇宙人の遺物、“オーパーツ”なんだ」
年配の男はこれから長くなる話をするつもりでいるのか椅子に腰を掛けた。
「“オーパーツ”」
ホログラムの有沢はその後の事は全く覚えがない。ましてや現在、その場でミイラになった姿になっている事など知る由もない。
「遥か遠い昔、古代文明の頃には確実に“宇宙人”はこの地球にいた。しかし何処の惑星から飛来したのかは分からない。もしかしたら既にこの地球にいて人類とは別の進化した超人類だったのかもしれない。結局残されたのはあの“オーパーツ”だけなんだ」
年配の男は何処から持ってきたのか酒をビーカーに入れ美味そうに飲みだした。
「“裏政府”(やつら)の秘密基地“地図に無い国”に侵入していた頃、そこの科学研究員は根掘り葉掘りとその“オーパーツ”を分析し始めていた。そして偶然一人の研究員が急にほかの研究員がいる眼の前で突然に消えた。次に見つかった時には息も絶え絶えで最期に残した言葉が“地球は青かった”だ。抽象的で何処かで聞いた事のある様な台詞だけどな・・。私の話・・、酔っぱらいの戯言の様に聞こえるかい?」
飲んでいる酒の度数が強いのか直ぐに年配の男の顔が赤らいできた。
「それで私はその“オーパーツ”とそこそこ仕上がった研究データを盗み、あの海底トンネル(アジト)に持ち帰ったってところだ。それからして“裏政府”(やつら)の仲間割れが起こったと聞いたよ」
また年配の男は前の様にうとうとと眠ろうとしている。
「まだ寝ないで下さい!どうしたらあのタイムマシンで時空を超えられるんですか!」
ホログラムの有沢はあの時の様に振り起そうともこの姿じゃ出来はしない。
「それは有沢くん・・。君の孫娘がやってくれるよ・・」
年配の男はぐったりと力が抜け手に持っていた酒の入ったビーカーも床に落とし、いびきを掻き出した。
「俺の孫娘・・」
・・つづく。




