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DRAGON SEED 2  作者: みーやん
22/27

困惑と思惑(下)

主な登場人物


ロナード(ユリアス)…召喚術(しょうかんじゅつ)と言う稀有(けう)な術を(あつか)えるが(ゆえ)に、その力を()が物にしようと(たくら)んだ、(かつ)ての師匠(ししょう)に『隷属(れいぞく)』の呪いを掛けられている。 その呪いを()(ため)、エレンツ帝国(ていこく)を目指していた。 漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な美青年。 十七歳。


セネト(セレンディーネ)…エレンツ帝国(ていこく)皇女(こうじょ)。 とある事情(じじょう)から(のが)れる(ため)、シリウスたちと行動(こうどう)を共にしていた。 補助(ほじょ)魔術(まじゅつ)得意(とくい)とする魔術(まじゅつ)()。 フワリとした癖のある黒髪(くろかみ)琥珀(こはく)色の大きな(ひとみ)特徴的(とくちょうてき)な女性。 十九歳。


シリウス(レオフィリウス)…ロナードの生き別れていた兄。 自身は大剣を自在(じざい)(あやつ)る剣士だが、『封魔(ふうま)(がん)』と言う、見た相手(あいて)魔術(まじゅつ)の使用を(ふう)じる、特殊(とくしゅ)(ひとみ)を持っている。 長めの金髪(きんぱつ)に紫色の双眸(そうぼう)を持つ美丈夫(びじょうふ)。 二二歳。


ハニエル…傭兵業(ようへいぎょう)をしているシリウスの相棒(あいぼう)鷺族(さぎぞく)と呼ばれている両翼人(りょうよくじん)。 治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)薬草学(やくそうがく)得意(とくい)としている。 白銀(はくぎん)長髪(ちょうはつ)と紫色の双眸(そうぼう)を有している。 物凄(ものすご)い美青年なのだが、笑顔(えがお)を浮かべながらサラリと(どく)()く。


ティティス…セネトの(はら)(ちが)いの妹。 とても傲慢(ごうまん)自分勝手(じぶんかって)な性格。 家族内で立場の弱いセネトの事を見下(みくだ)している。 十七歳。


ルチル…帝国(ていこく)第三(だいさん)騎士団(きしだん)隊長(たいちょう)(つと)めている女性。 セネトと幼馴染(おさななじみ)。 今はティティスの護衛(ごえい)(にん)()いている。 二十歳(はたち)


ギベオン…セネト専属(せんぞく)護衛(ごえい)騎士(きし)。 温和(おんわ)生真面目(きまじめ)な性格の青年。 二十五歳。


ルフト…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)(ちょう)サリアを母に持ち、魔術師(まじゅつし)の一家に生まれた青年。 ロナードたちとの従兄弟(いとこ)に当たる。 二十歳。


ナルル…サリアを(あるじ)とし、彼女とその家族を守っている『獅子族(シーズーぞく)』と人間の混血児(こんけつじ)。 とても社交的(しゃこうてき)な性格をしている。


リリアーヌ…イシュタル教会(きょうかい)で『聖女(せいじょ)』と呼ばれている召喚術(しょうかんじゅつ)を使えるシスター。 ロナードが教会(きょうかい)孤児院(こじいん)に居た(ころ)、親しくしていた。 ロナードに対する恋心(こいごころ)(こじ)らせ、彼への強い執着(しゅうちゃく)(しん)を抱いている。 今はガイア神教(しんきょう)聖女(せいじょ)になっている。


エルフリーデ…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)をしている伯爵(はくしゃく)令嬢(れいじょう)で、ルフトの婚約者(こんやくしゃ)。 ルフトの母であるサリアの事をとても(した)っている


カルセドニ…エレンツ帝国(ていこく)第一(だいいち)皇子(おうじ)でセネトの同腹(どうふく)の兄。 寺院(じいん)(せい)騎士(きし)をしている。 奴隷(どれい)だったシリウスとハニエルを助け、自由の身にした人物。


アイク…ロナードの専属(せんぞく)護衛(ごえい)をしている寺院(じいん)暗部(あんぶ)所属(しょぞく)していた青年。 気さくな性格をしている。


アイリッシュ(はく)…ロナードがイシュタル教会(きょうかい)孤児院(こじいん)在籍(ざいせき)していた(ころ)、彼に魔術(まじゅつ)師事(しじ)をしていた人物(じんぶつ)で、ロナードに呪詛(じゅそ)を掛けた張本人(ちょうほんにん)


セネリオ…ロナードがイシュタル教会(きょうかい)孤児院(こじいん)に居た時に親しくしていた青年。 アイリッシュ(はく)()(あお)ぎ、彼の研究(けんきゅう)に協力している魔術(まじゅつ)()


「マルフェント公爵家の令嬢が、俺に会いたいと言っている?」

「そうなんだ。 公園で君を見掛けたらしくて、どうしても、直接会って話がしたいって」

「……俺が会ったのはメギストンの令嬢だぞ? それ以外の女性と会った記憶がないんだが」

「まあ、君は背が高いから目立つし、そういう顔立ちだから、一目惚れでもされたんじゃないの?」

「迷惑なんだが……」

「まあ、此方(こちら)も君には婚約者が居るから、二人きりで会わせる事は出来ないって伝えたんだけど、『二人きりで無いのなら問題ないでしょう?』って言い切られちゃって……」

「凄く押しの強い人だな……」

「そうなんだよ。 何て言うか……。 普段は周りの事なんて、どうでも良いって感じなんだけど、一旦、何かに興味を持ったら、自分の興味が無くなるまで、夢中になっちゃうタイプなんだ」

「……良く知って居るな?」

「彼女は僕より一つ年下で、社交界で面識はあったし、貴族学院に通っていた頃も、彼女は変わり者で有名だったからね」

「それは何と言うか……妙なのに目を付けられたな……」

「まあ、悪い子じゃないんだ。 ただ興味を持つも事が、人とはちょっと違うっていうだけで……」

「……」

「それにマルフェント公爵家の人間を無下にするのは、流石(さすが)にちょっとね……」

「成程。 流石(さすが)のアルスワット公爵も同格の家の令嬢の言う事を無下には出来ないと……」

「それも……まあ少しはあるけれど、会わせてみるのも有かなって……」

「?」

「マルフェント公爵家って、昔から呪術を専門とする家なんだよ。 呪術を食べる一族とも言われているんだ。 本当に食べるかは知らないけど」

「それは、興味深い話だな」

「そうでしょ? だから、彼女に会う事は、君にも意味があると思うんだ」

「確かに……」

「僕とエフィが同席するから、心配ないよ」


 帝都にある商業通りにある、レンガ造りの(しょう)洒落(しゃれ)た店。

 軽食とお茶を楽しめる、今、貴族の令嬢たちがこぞって行きたがる店の一つだ。

「予約を取るのすら順番待ちで、二週間以上先になる事もあると言われている店を……」

ルフトと共に、ロナードに同行するエルフリーデは、戸惑いの表情を浮かべながら言う。

 流石(さすが)は、今、流行(はや)っている店と言うだけあって、店内は美しく着飾った貴婦人や令嬢たちで一杯で、彼女たちの華やかな雰囲気が店の外にまで伝わってくる様だ。

 店の前にはドアマンまで立っている。

「失礼ながら、予約のお客様で御座(ござ)いますか?」

ビシッと燕尾服に身を包んだ、若い男性が柔らかな口調でそう声を掛けてきた。

「えっと……」

ルフトはどう答えて良いか困惑していると、

「アイーシャ・フォン・マルフェント嬢に招待されて参りました。 ご令嬢はお着きでしょうか?」

エルフリーデがにっこりと笑みを浮かべ、ドアマンにそう問い掛けた。

「失礼致しました。 お話は伺っております。 どうぞ中へお入り下さい」

ドアマンはそう言うと、店の扉を丁寧に扉を開き、エルフリーデたちを招き入れる。

「ねぇ、顔パスとかヤバくない?」

「一体、何処(どこ)の誰なのかしら?」

店の外で、今、話題の店を眺めていた令嬢たちが、羨望の眼差しを向けながら、その様な事を話しているのが聞こえた。

 店の中は満席だと言うのに、ドアマンが何の問題もなく彼らを通すのを見ていた、店内の客たちも驚きと戸惑いの視線をロナード達に向けている。

「二階のお客様です」

ドアマンは、近くに控えていたウエーターに声を掛ける。

「ご案内致します」

ウエーターは戸惑っているロナード達にそう声を掛ける。

「あ、はい」

店内の客たちに、好奇な視線を向けられ、戸惑っていたルフトはハッとして、慌てた様子でそう返した。

「二階って……」

「あれ、エルフリーデ嬢じゃない?」

「ええ? じゃあエルフリーデ嬢が、婚約者のアルスワット小公爵にお強請(ねだ)りして、二階の個室を予約させたってこと?」

「彼女ならやりかねないわ」

「で、どちらがアルスワット小公爵さまなの?」

「ご挨拶くらい、した方が良くない?」

などど、客としてきている令嬢たちが小声で話している声が聞こえてくる。

「あの……アルスワット小公爵さまに、ご挨拶を申し上げます」

二階へ続く階段近くの席に居た二人の令嬢が、徐に席を立つとロナードにそう声を掛けてきて、片手を胸元に添え、恭しく頭を下げてきた。

「えっ……。 いや……俺は小公爵ではないが……」

ロナードは、戸惑いの表情を浮かべながら言うと、

「小公爵でしたら、此方(こちら)ですわ」

エルフリーデが、ムッとした表情を浮かべ、声を掛けて来た令嬢たちに言った。

 彼女たちが間違えるのも無理はない。

 ルフトは次期アルスワット公爵家の当主だと言うのに、社交界に(ほとん)ど顔を出す事はなく、魔道具の研究ばかりしているので、そう言った場に出るのは、当主で母親であるサリアに任せっ放しだ。

 その所為(せい)でエルフリーデは毎回、婚約者が居るにも関わらず、父親にエスコートされている為、良い笑い者にされているだが、そんな事を話して、ルフトを困らせたくないので、ずっと黙っている。

 とは言え、ルフトがエルフリーデをエスコートしているにも関わらず、一緒に居たロナードの方に声を掛けるなど、普通はあり得ない事だ。

 明らかに、エルフリーデへの悪意が感じられる。

 それもそうだろう。

 彼女の祖父は寺院の司祭だったが、父母は魔術師ではなく、宮廷勤めの文官だ。

 それにも関わらずエルフリーデが、天下のアルスワット公爵家の跡取りであるフトの婚約者になれたのは、社交性が希薄(きはく)で内気なルフトに、幼馴染(おさななじみ)と言う立場を利用して、気の強いエルフリーデが一方的に婚約を(せま)ったからだと言われている。

 宮廷魔術師になれたのも、エルフリーデがルフトに頼んで、彼の母である宮廷魔術師長であるサリアが口利きをして(もら)ったからだと……。

 世間でその様な(うわさ)が流れているのは偏に、彼女の取っつき(にく)いく、キツイ性格が災いしての事だ。

 更に最近は、ロナードやアイク達などと仲良くしている事や、ロナード経由でセレンディーネ皇女やカルセドニ皇子とも親しくしている事を、面白くないと思っている輩も少なからず存在しており、そう言った輩が広めた悪評の所為(せい)で、彼女への世間の目は厳しくなっていた。

 婚約者か居るのに、他の男と仲良くしている節度の無い女。

 権力者に媚びを売り、甘い汁を吸おうと企む腹黒女。

 などなど……。

 当のエルフリーデは大して気にしていないが、こうも露骨に嫌がらせをされると、流石(さすが)に腹が立つ。

 そもそも、面識すらなかった彼女たちに、この様な嫌がらせを受ける覚えはないのだ。

「あら。 失礼。 此方(こちら)はご友人かしら?」

「婚約者よりも見目の良い男友達を連れて歩くなんて、小公爵さまもお可哀(かわい)そうに……」

声を掛けて来た令嬢は、クスクスと笑いながらそう言った。

「はい。 こう言うウザいのは無視決定~」

ルフトが面倒臭そうに言うと、

「取り合うな。 顔に出ているぞ」

ロナードも落ち着き払った口調で、自分の前に居るエルフリーデに言うと、

五月蠅(うるさ)いわね」

彼女は五月蠅(うるさ)そうな表情を浮かべながら、ロナードに言い返す。

五月蠅(うるさ)いのは俺ではなくて、こいつ等だろ」

ロナードは淡々とした口調でそう言うと、親指で自分たちに声を掛けて来た令嬢たちの方を指す。

「確かに~」

ルフトは、苦笑いを浮かべながら言う。

「相手を待たせている。 さっさと行くぞ」

ロナードは、落ち着き払った口調で、エルフリーデに二階へ上がる様に促す。

「上で美味しいケーキでも食べで、こんなの忘れちゃお? どんなのがあるのかな~? 楽しみだね。 エフィ」

ルフトはエルフリーデの手を取り、優しい口調でそう言うと、階段を上りだした。

「べ、別にそんなに楽しみじゃないし……」

エルフリーデは、口を尖らせながら、むくれた表情を浮かべながら言う。

「俺、甘いのは得意じゃないから、俺の分も食べてくれ」

先を行くエルフリーデに、後から来ているロナードがそう言うと、

「は? 何言っているの? 太るからダメに決まっているでしょ!」

エルフリーデは思い切り眉をひそめ、少し強い口調で言い返す。

「大丈夫。 ちょっとくらい太ったって全然問題ないよ。 むしろ()せ過ぎだよエフィは」

エルフリーデをエスコートしているルフトは、ニッコリと笑いながら言うと、

「ば、ばっかじゃないの? 太ったらドレスのサイズ変えなきゃいけないじゃない!」

エルフリーデは少し顔を赤らめ、恥ずかしそうにそそう言い返すと、ルフトから目を()らす。

「なら、仕立て直したドレスは全部、僕がプレゼントして良い?」

照れているエルフリーデを見て、ルフトは『可愛(かわい)いな』と思いながら、優しい口調で問い掛けると、

「し、知らないわよ。 好きにしたら?」

エルフリーデは、益々顔を赤くして、動揺しているのか、目を泳がせながら言う。

「嬉しいくせに」

そんな彼女に、ロナードはフフッと笑いながら、そう言ってからかう。

 彼らが二階に上がってしまうと、彼らに声を掛け、エルフリーデを貶していた令嬢たちが、ポツンと取り残され、茫然(ぼうぜん)とした様子で立ち尽くしている。

「え……」

「本当に無視して行ってしまったわ……」

「あははは。 何あれ。 ダサっ」

それを見ていた、他の令嬢たちは、口々にそう呟いたて、ルフトたちに声を掛けて無視された令嬢たちに冷ややかな視線を向ける。

 ルフトたちに見事に無視された令嬢たちは、恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして、急いで会計を済ませると、逃げる様に店から出て行った。


 店の二階には幾つか個室があるのだが、一階以上に予約をとる事が難しく、一か月待ちはざらだ。

 それにも拘らず、簡単に予約を取ってしまう辺り、流石(さすが)はマルフェント公爵家としか言い様がない。

 白と緑を基調とした、清潔感溢れる室内には既に人が居て、先にお茶を楽しんでいた。

 ショートカットの黒髪に、大きな琥珀色の瞳、薄紫色のワンピースに身を包んだ、童顔の所為(せい)で実年齢よりも幼く見えるが、ルフトと同じ十九歳になる、マルフェント公爵令嬢だ。

「やあ。 ルフト先輩とエルフリーデ嬢。 学校以来だね?」

部屋に入って来た彼らに、にこやかに笑みを浮かべながら、嬉しそうに声を弾ませ、彼女はそう言ってきた。

 そして、徐に最後に部屋に入って来たロナードの姿を確認すると、彼女はパァと表情を輝かせ、

「そうそう。 君だよ。 君。 探していたんだ。 会えてとても嬉しいよ」

声を弾ませてそう言ってきたので、ロナードは彼女の令嬢らしからぬ、砕けた物言いと軽い感じに、ちょっと引いてしまった。

 自分の言動に、やや引き気味のロナードを見て、

「ああ。 初対面なのに失礼だったね。 私はアイーシャ・フォン・マルフェント。 (よろ)しくね」

彼女は人懐っこい笑みを浮かべながら名乗った。

「ユースティリアス・フォン・リュディガーだ」

ロナードは、落ち着いた口調で返す。

「へぇ。 君が(うわさ)のアルスワット公爵が連れて来たって言う、天才召喚師くんかぁ」

アイーシャは、好奇に満ちた視線を向けながらロナードにいうが、

「天才かどうかは知らないが、召喚師なのは間違いない」

ロナードは、落ち着き払った口調で返す。

「ふふ。 そう警戒しなくても大丈夫だよ」

アイーシャはクスッと笑ってから、警戒している様子のロナードに言う。

「君の様な変人に興味を持たれたら、誰だって警戒もするよ」

ルフトが苦笑いを浮かべ、皮肉たっぷりにそう言うと、

「うわぁ……。 ルフト先輩にだけは言われたくないかも」

アイーシャは、物凄く嫌そうな表情を浮かべながらそう返す。

「僕も、その言葉をそっくりそのまま君に返すよ」

ルフトは、額に青静を浮かべつつも、にっこりと笑みを浮かべながら言った。

「で、奇人変人で有名な貴女が、どうしてユリアスなんかに興味を持ったのかしら?」

エルフリーデが、淡々とした口調でアイーシャに問い掛ける。

「うわぁ……。 相変わらず切れ味抜群の物言いだねぇ。 大体、学院の先輩に対して『奇人変人』は酷くない?」

アイーシャは、苦笑いを浮かべながら言うと、

「私は、事実を申し上げただけですわ」

エルフリーデは、ツンと澄ました表情を浮かべ、淡々とした口調で返した。

「あははは……。 謝る気ゼロって事かぁ」

そんなエルフリーデの言動に、アイーシャは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。「君も、エフィの問い掛けに答える気は無いのかな?」

ルフトは、にっこりと笑みを浮かべながら問い掛ける。

「あー。 御免(ごめん)ごめん。 (なつ)かしくなってつい、ね」

アイーシャは、苦笑いを浮かべながらそう返してから、

「まあ兎に角、座って話そうよ。 エルフリーデ嬢が好きそうなスイーツも沢山あるから、好きな物を御馳走(ごちそう)するよ?」

ルフトたちに席に掛ける様に勧め、そう言った。

「ま、まあ……そういう事でしたら……」

エルフリーデは相変わらず、ツンと澄ました表情を浮かべそう返すと、何食わぬ顔をして椅子(いす)に腰を下ろすと、素早くメニュー表を手に取る。

 実は、エルフリーデは甘い物に目が無く、内心は物凄く喜んでいるのだが、変なプライドが邪魔をして、素直に表情に出せないでいる。

「君たちも、何か注文したら?」

アイーシャは、にっこりと笑みを浮かべながら、ルフトとロナードに言った。

「じゃあ、遠慮(えんりょ)なく♪」

ルフトはニッコリと笑みを浮かべながら言うと、隣に座っているエルフリーデが手にしているメニュー表を覗き込む。

「気遣いには感謝するが、俺は甘いのは得意ではないので、紅茶だけで結構だ」

ロナードは、淡々とした口調でアイーシャにそう返すと、

「へぇ。 ちょっと意外だなぁ。 なんとなくだけど、こう言う所で可愛(かわい)い女の子とお茶してそうなのに」

アイーシャは、少し驚いた様子でそう言った。

(さそ)われれば付き合い程度には行くが、自分から誘う事はないな」

ロナードは、淡々とした口調で返す。

「ふぅん」

アイーシャは、そう呟いてから、急に何か思い出した様な表情を浮かべ、

「ああ、そっか。 そっか。 リュディガー伯爵って言ったら、セレンディーネ皇女さまの婚約者だったね? 余計な誤解を受けない為にも、皇女様もお招きした方が良かったかな?」

ニッコリと笑みを浮かべながら、ロナードにそう問い掛けた。

「そんな急にお呼びして、来られる様な御方じゃないよ。 何日も前から言っておかなきゃ」

ルフトは苦笑いを浮かべながら、そうアイーシャに返した。

「そうなんだ。 婚約者なのに、会いたい時に会えないなんて、君も寂しいだろうね?」

アイーシャは、少し気の毒そうにロナードにそう言うと、彼は苦笑いを浮かべた。

「ユリアスは別だよ。 皇女殿下が会いたいと思ったら、やらなきゃいけない仕事を放り出して、会いに来ちゃう程だからね」

ルフトは、何処か意地の悪い笑みを浮かべながら、アイーシャにそう語ると、ロナードは焦りの表情を浮かべる。

「ユリアスが心配して、(いさ)めているくらいよ」

ロナードの様子を見て、エルフリーデが悪乗りして、アイーシャにそう語ると、それを聞いたロナードは益々焦る。

「皇女殿下がそんなに気に掛けるのは、君に掛けられている呪いの所為(せい)?」

アイーシャはにっこりと笑みを浮かべ、ロナードにそう問い掛けると、俄かに彼の表情が強張り、先程までとは比べ物にならない程、警戒心を露にした。

流石(さすが)だね。 君にはユリアスの呪いが分かるんだ?」

ルフトは、にっこりと笑みを浮かべながらアイーシャに言うと、

「まあね、これだけ凄いのを掛けられて、どうして平然として居られるのか、物凄く興味があるんだけど」

彼女は、興味津々と言った様子で、ロナードを見ながらそう返した。

「そ、そんなに凄いの?」

アイーシャの言葉に、ルフトは戸惑いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「そりゃあもう。 繭玉(まゆだま)かな?って思う位に全身に絡まり付いているよ」

アイーシャは、苦笑いを浮かべながら答えると、

繭玉(まゆだま)……」

それを聞いたエルフリーデが、戸惑いの表情を浮かべ、チラリとロナードの方を見る。

「それなのに、どうして普通に暮らせているのか、物凄く不思議なんだよ」

アイーシャは、マジマジとロナードを眺めながらそう言った。

「それは(ひとえ)に、サリア……アルスワット公爵のお陰だ。 公爵が少しずつ呪いを取り除き、呪いが広がるのを防いでくれているからだ」

ロナードは、落ち着き払った様子で、アイーシャにそう返すと、

「それだけの事で普通に生活出来るものなの? 体に痛みを感じたり、体調が悪くなったり、そう言うのは無いの?」

彼女は、『納得』がいかない様子で、ロナードにそう問い掛ける。

「……全く無いと言えば嘘になるが、生活に支障が無い程度には軽減出来ている」

ロナードは、慎重に言葉を選びながらも、落ち着いた口調でそう答えた。

「凄いなぁ。 流石(さすが)はサリア様だ」

アイーシャは、感心した様にそう呟いた。

「……」

ロナードは、物凄く複雑な表情を浮かべる。

「でも、今はそれで凌げても、ずっとこのままは無理だよね? 呪いの力が増したり、君が呪いに抵抗出来なくなったらどうする気なの?」

アイーシャは、にっこりと笑みを浮かべながらも、何気に鋭い所を突いて来た。

「それは……」

ロナードは困惑の表情を浮かべ、返答を窮していると、

「兎に角、詳しく調べたいから、君の血を少し貰って良いかな?」

アイーシャはニッコリと笑みを浮かべ、戸惑っているロナードに言うと、

「え……」

彼は更に、困惑の表情を浮かべた。

「大丈夫。 指先にピッと傷を入れる程度だから」

アイーシャは、相変わらずにっこりと笑みを浮かべたまま言うと、

「その程度ならば(かま)わないが……」

ロナードは、戸惑いの表情を浮かべつつも、そう返した。

「ってか、逆にそんな少しの量で、本当に調べられるの?」

ルフトは、心配そうな表情を浮かべながら、アイーシャに問い掛けると、

「大丈夫。 大丈夫」

彼女はそう言うと、近くに置いてあった果物ナイフで、ピッとロナードの指先に傷を付けた。

 その傷口からジワリと血が(にじ)んでくると、何を思ったかアイーシャは血が滲んだロナードの指先を()めた。

「!」

突然の事にロナードは驚き、(たちま)ち顔を真っ赤にして、慌てて自分の手を引っ込めた。

「ちょっ……何して……」

ルフトが戸惑いの表情を浮かべ、そう声を掛けたアイーシャの目が血の様に赤く変化している。

 そして良く見ると、ロナードの指先から滴り落ちる血と共に、ドス黒い煙の様な物が出て来て、それをアイーシャが吸い込んでいるのだ。

 宮廷魔術師であり、呪いの類を見た事もある、ロナードを含めた他の二人も、ロナードの指先から出て来たドス黒い煙が、呪いそのものである事を理解した。

「まさか……吸血鬼……」

アイーシャの血の様に真っ赤なを見て、ロナードは戸惑いの表情を浮かべながら呟いた。

「ええっ!」

ルフトは驚きのあまり、()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

「良く知ってるね? まあ、正確には少し違うんだけど」

アイーシャは、ニッコリと笑みを浮かべながら、ロナードにそう返す。

「は? えっ?」

アイーシャが物凄くあっさりとした口調で返すので、ルフトは戸惑いの表情を浮かべ、そう呟いている。

「私たちマルフェント家は、吸血鬼を始祖としている家系なんだ。 とは言っても、その血はすっかり薄れてしまって、吸血鬼だなんて呼べなくなってしまったけれど」

アイーシャは、不敵な笑みを浮かべながら、落ち着いた口調でロナードに達に説明する。

「……」

ロナードは、何とも言えない表情を浮かべ、警戒もしている様であった。

「私たちマルフェント家の始祖は、吸血行為をしていく内に、最初は相手の魔力を吸う力を得て、その内に段々変化して、相手に掛けられた呪いを吸って、それを自身の体内に蓄積し、自身の魔力の糧に出来る能力を得た」

アイーシャは、ロナード達の様子に構う事なくそう続ける。

「マルフェント公爵家が、呪いを食べる一族と言われているのは、そういう事だったのか……」

ルフトは、自分の口元に手を添え、真剣な面持ちで、シミジミと呟く。

「そう。 マルフェント家の者は代々、その呪いを吸い出せる力を使って、歴代の皇帝とその家族、時の有力者たちを呪いから守って来た。 そして、その役目は今も続いている」

アイーシャは、不敵な笑みを浮かべたまま、そう語った。

「だが俺は、皇帝の一族でも無ければ、時の有力者でも無いぞ」

ロナードは、戸惑いの表情を浮かべ、アイーシャにそう返した。

「そう。 だからさ、私と結婚しない?」

アイーシャはニッコリと笑みを浮かべ、実にサラリとそう言った。

「は?」

ロナードはあまりの事に一瞬、彼女が発した言葉の意味が理解出来ず、驚きと戸惑いが入り混じった顔をして、そう呟いた。

「私は、君に掛けられた呪いを食べることで、今までにない程の強力な魔力を得る事が出来る。 君は呪いに(おび)える必要は無くなる。 一石二鳥じゃない?」

アイーシャは、突然の事に驚き戸惑っているロナードに、ニッコリと笑みを浮かべたままそう言った。

「いやいやいや。 結婚って……。 ユリアスの呪いが消滅(しょうめつ)したら、それまでの関係じゃないか」

ルフトは、戸惑いの表情を浮かべながら、アイーシャにそう指摘する。

「まあそうだけど、私が堂々と彼から血を吸うには、結婚って形が一番無難でしょ? 婚姻(こんいん)もしてない者同士が二人きりで居たら、間違いなく変な(うわさ)が立つよ?」

アイーシャは、それを然して気にも留めない様子で、そう言った。

「それは……そうかもだけど……」

ルフトは、戸惑いの表情を浮かべたまま、そう呟く。

「呪いが完全になくなってしまうには、軽く二年くらいはかかるよ。 それまでの間、周囲から妙な(うわさ)が立たないようにする方が難しい。 妙な噂が立って困るのは、私たち当人よりも、その周りに居る人たちでしょ?」

アイーシャは、にっこりと笑みを浮かべながら、物凄く楽観的な口調でロナードに言うと、

「……だからと言って、結婚しようなど笑えない冗談だ」

ロナードは、表情を険しくして、そう返した。

「ありゃ? 名案だと思ったんだけどなぁ」

ロナードが、自分とは異なる反応を示したので、アイーシャは戸惑いの表情を浮かべ、そう呟く。

(いく)ら、呪いから解放されたいからと言って、そんな提案、到底受け入れられる事ではない」

ロナードは、真剣な表情を浮かべ、淡々とした口調で言った。

「もしかして、セレンディーネ皇女の事を気にして、そう言っているの?」

アイーシャは、戸惑いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛けると、

「もしかしなくても、それ以外に何があると言うんだ?」

彼は、不快そうな表情を浮かべながら、そう答えた。

「なんで? 私の事、そんなに嫌い?」

アイーシャは、『理解不能』と言った様子で、ロナードに問い掛ける。

「俺の呪いを解く為に、今まで親身になってくれたセネトを、裏切る様な真似(まね)は出来ない」

ロナードは、真剣な表情を浮かべ、淡々とした口調でそう言った。

「自分が助かる事より、セレンディーネ皇女との関係の方が大事って事?」

アイーシャは、戸惑いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。

「そうだ」

ロナードは、アイーシャの方を真っ直ぐ見据え、間髪置かずにそう即答した。

「見直しましたわ。 貴方がアイーシャ嬢の話に乗る様な事があれば、思い切り殴っていましたわ」

それまで、ロナード達のやり取りを聞いていたエルフリーデが、何故か物凄く嬉しそうな顔をして、ロナードにそう言うと、

「俺をそんな薄情(はくじょう)な男にしないでくれ」

彼は、ムッとした顔をして、エルフリーデにそう言い返した。

「僕も、物凄く変な汗をかいたよ」

ルフトは、ホッとした表情を浮かべながら、ロナードに言った。

「そっかぁ。 君はちゃんとセレンディーネ皇女の事を想っているんだね」

アイーシャは、ニッコリと笑みを浮かべながらそう言うと、改めてそう言われて、気恥ずかしい気持ちになったのか、ロナードは(たちま)ち顔を真っ赤にする。

「そっか。 そっかぁ。 安心したよ」

アイーシャは、どういう訳か物凄くホッとした表情をうかべ、そう呟いている。

「なぜ貴女が、その様にホッとしているの? 振られた事を分かっていまして?」

エルフリーデが不思議そうに、アイーシャにそう問い掛けると、

「純粋に君の力だったり、その血筋だったりを狙っている輩が結構いる。 だから、私の提案に喜んで食い付く様だとヤバイなって思ったんだ」

アイーシャは、真剣な表情を浮かべ、そう答えた。

「俺を試したのか」

ロナードは、思い切り眉を潜め、唸る様な声で言うと、

「そんなに怒らないでよ。 私は君とは初対面で、どんな人か知らないんだから仕方がないでしょ?」

アイーシャは、苦笑いを浮かべながら、ムッとして居るロナードにそう言い返した。

「だからって……」

ルフトは、呆れた表情を浮かべながら呟く。

「本当に気を付けて。 君が『呪い付き』だと知れば、その呪いを利用しようとする輩も必ず出て来るよ」

アイーシャは、真剣な面持ちでそう言うと、ルフトは思わずたじろいだ。

「利用されてしまっては遅い」

アイーシャは真剣な面持ちで、ロナードたちにそう訴えてから、

「何より、呪いの性質も変質しちゃったら、分析出来なくなっちゃう」

ボソリとそう呟いた。

(そっちが本音か)

彼女の呟きを聞いて、ロナードは心の中でそう呟くと、苦笑いを浮かべる。

「兎に角、君の呪いに物凄く興味があるから、調べさせてよ」

アイーシャは、物凄く真剣な面持ちでロナードに言う。

「……俺は、実験動物か何かか?」

ロナードは、ムッとした表情を浮かべながら呟く。

「良いじゃない。 ケチ臭いこと言わないでよ」

アイーシャは、不満に満ちた表情を浮かべ、口を尖らせながらロナードに言う。

「……ちゃんと、誰かの助けになるんだろうな?」

ロナードは、不満そうにしながらも、アイーシャに問い掛けると、

「なる。 なる。 特に君が」

アイーシャは、にっこりと笑みを浮かべ、声を弾ませながら答える。

「……結婚の話は却下だが、俺に掛けられた呪いを調べたいと言うのなら、好きにしたら良い」

ロナードは、特大の溜息をついてから、何処か観念した様な顔をして、アイーシャにそう言うと、彼女は目を輝かせ、

「有難う」

ロナードの手を掴み、物凄く嬉しそうに声を弾ませながら言った。

(変なのがまた、一人増えた)

エルフリーデは、嬉々としているアイーシャを見ながら、呆れた表情を浮かべ、心の中でそう呟いた。


「帝都の地下の調査?」

ロナードは、戸惑いの表情を浮かべながら、目の前に居る三人に問い返す。

「ええ。 知っての通り、この帝都アルマースは砂漠のど真ん中にあるにも関わらず、豊富な水を湛え、優れた上下水道の技術を持ち、砂漠の中にあるとは思えぬ程に街は快適です」

ハニエルは、突拍子もない事を言い出した自分たちに対し、戸惑っているロナードに落ち着いた口調で説明した。

「街中に水路が張り巡らされ、その水を使って昼間は街全体を冷やし、夜は温めているからだと、前に聞いた事がある。 確か……魔法帝国時代の遺物だとか……」

ロナードは以前、ギベオンなどから聞いた話を思い出しながら、そう言うと、

「その通りです。 魔法帝国の時代は、現在では考えられない程の高度な文明が栄えたと言われています。 残念ながら、その技術や知識は、人間たちが魔人狩りと称して破壊の限りを尽くしたせいで、建造物などと共にその多くが失われてしまいました」

ハニエルはニッコリと笑みを浮かべ、そう補足した。

「故に我々は、魔法帝国の遺物を何となく使っているというのが現状だ。 この帝都がなぜ、砂漠のど真ん中にあるのか、この街に使われている力や技術は半永久的なものなのか……。 そもそも、この帝都が作られた際に、どういう技術や知識が用いられているのか……その(ほとん)どが謎だ」

カルセドニ皇子は、真剣な表情を浮かべ、ロナードにそう語る。

「先帝の時代は、諸外国を侵略し、その土地を奪い、そこに住む人々を支配する事で、帝国を豊かにすると言う考えでした。 ですので、この帝都の事については、殆ど見向きもされていませんでした」

ハニエルは、複雑な表情を浮かべながら、カルセドニ皇子の話にそう付け加えた。

「幾ら、他国を侵略し、その土地や人々を支配する力があっても、足元が崩れては元も子もない。 今後、何十年、何百年、この帝国が変わらずあり続ける為には、帝都もまた変わらずあり続けねばならない」

カルセドニ皇子は、真剣な表情を浮かべたまま、そう続ける。

「まあ、簡単に言えば帝都にある設備の調査と点検だ」

シリウスが、どうでも良さそうな口調で、実にザックリとそう説明した。

「……説明がザックリし過ぎだ」

カルセドニ皇子は、呆れた表情を浮かべ、シリウスに言った。

「その役目は、皇子や皇女が年毎にする事になっていて、今年、その順番がカルセドニ殿下とセネトに巡って来たと言う訳です」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながらも、ロナードに説明を続ける。

「とは言え、多くの者は決められた場所を巡り、点検をしているたけで、詳しい調査をする事は殆どない。 我々も慣例(かんれい)(なら)っても良いのだが、それでは面白くない」

カルセドニ皇子は、軽く溜息をついてから、不満そうな顔をしてそう言った。

「ネフライトの馬鹿に身の程を思い知らせ、皇帝や諸侯らに次の皇帝は誰が相応しいのか、知らしめる為にも、型通りの事をしていては始まらないと言う訳だ」

シリウスは、やれやれと言った様子で語ると、ハニエルも何度も頷いている。

 正直、ネフライト皇太子が次の皇帝になる事には、帝国へきて日の浅いロナードですら不安を覚える程だ。

 そんな残念な皇太子でも、立場や人が違えば、使いようがあるのだろう。

 彼を皇帝に推す諸侯が一定数居るのも事実だ。

「帝都の地下を調査する理由は分かった。 でも、そう上手くいくだろうか。 要は、本来は調査しない所に赴く訳だろう? 何か訳があって立ち入る事を禁じている場所もあるだろうし……。 危険すぎないか?」

ロナードは、軽く溜息をついてから、落ち着いた口調でそう答えた。

「だから、魔法帝国の遺跡に何度も潜ったがある、お前の知識と経験が必要と言う訳だ」

カルセドニ皇子は、真剣な面持ちでロナードに言う。

「そうは言うが、遺跡調査と言うのは本来、何年もかけて慎重にするものだ。 その為の資金や人員が用意出来なければ頓挫する。 そもそも、それだけの事をする価値が果たして、帝都の地下にあるのかも分からないのに……。 無謀過ぎないか?」

ロナードは、戸惑いの表情を浮かべながら、カルセドニ皇子に説明する。

「その通りだ。 多額の金と人を使って、何も成果が得られなかった時のリスクを、お前は考えているのか?と、私も問うたのだが、この馬鹿は何を根拠にしているのか知らんが、『大丈夫だ』と言い張って、聞く耳を持たなくてな……」

シリウスも、呆れた表情を浮かべながら、ロナードに話をする前に、自分たちが一応、カルセドニ皇子を説得した旨を伝えて来た。

「それは……何と言うべきか……」

兄たちの言う事を聞かない時点で、自分が今更なにを言っても、この皇子はきき入れないのではと思いと、兄たちが必死に皇子を説得する姿を思い浮かべ、ロナードは何とも言えない表情を浮かべながら、そう返した。

「色々と尤もらしい事を言っているが、ただ単にコイツは、自分が地下の探索をしてみたいだけだ」

シリウスは、特大の溜息を付いてから、カルセドニ皇子の本心を突いた、鋭い一言を言い放った。

「……」

何となく、そんな事ではないかと思っていたロナードは、呆気にとられ、返す言葉を失った。

「そうハッキリ言うな。 ユリアスが引いているではないか」

カルセドニ皇子は、焦りの表情を浮かべながら、自分の腹の内を暴露したシリウスに言い返した。

「まあ、自分たちがどんな物の上に住んでいるのか、知る事自体は悪い事ではないと思いますが……」

焦っているカルセドニ皇子を横目に、ハニエルが落ち着いた口調で言うと、それをきいたカルセドニ皇子は、パァと表情を輝かせ、

「流石はハニエルだ。 事の重要性を良く理解している」

声を弾ませて言った。

「……良く言う。 思い付きで言い出したくせに……」

シリウスは、冷ややかな視線をカルセドニ皇子に向けつつ、ボソリと呟いた。

「何か言ったか?」

カルセドニ皇子は、額に青筋を浮かべつつ、ニッコリと笑みを浮かべながら、シリウスに問い掛ける。

「いいや」

シリウスは、カルセドニ皇子から視線を逸らしながらも、何食わぬ顔をして答えた。

「少し……考えさせて下さい。 あまりに唐突な事なので即答しかねます」

ロナードは、困惑した表情を浮かべながら、カルセドニ皇子に言うと、

「構わぬ。 しかし、出来れば早く返答して欲しい」

カルセドニ皇子は、穏やかな口調でそう答えた。

「分かりました……」

恐らく、自分に拒否権など無いのだろうとは思いつつも、ロナードはそう答える他なかった。


「ま~た、突拍子もない事を言い出したね。 殿下も」

ロナードから、帝都の地下調査の話を聞き、ルフトは呆れた表情を浮かべながら言った。

「まあ、言わんとする事は、分かりますけれど……。 それつて今、する必要がある事なのかしら?」

エルフリーデも、物凄く微妙な表情を浮かべながらそう言うと、紅茶をすする。

「それは、俺も思った」

ロナードも、困り果てた表情を浮かべ、力なくそう返した。

「獅子族の里の一件、周りの反応か薄かったのかな……」

ルフトはふと、そう呟くと、

「どうだろうか。 かなりインパクトがある内容だと俺は思うが」

ロナードは、何とも言えない表情を浮かべながら、そう答えた。

カルセドニ皇子が皇帝に、何処まで報告したのかは分からないが、かなり衝撃的な事の筈だが、それだけでは、皇太子に返り咲く決め手にはならなかったのだろう。

「まあ、僕とエフィは現場には行ってないけれど、例の魔物をサクサクっと片付けちゃったのが、いけなかったのかな?」

ルフトは、暫く両手を自分の胸の前に組み、う~ん考えた挙句、徐にそう言った。

 ルフトはサクサクなどと言うが、最小の被害で魔物を倒せるまでに、かなりの労力と時間、そして金が必要となった。

 特に、試作段階ではあったが、雷の魔術を封じ込めた魔石は、戦局を大きく変える代物だったが、必要な数を揃えるのが大変だった。

「いや、流石にそれは無いだろう」

ロナードは、苦笑いを浮かべながら答える。

「だよねぇ……」

ルフトも、自分が四苦八苦した時の事を思い出しながら、何度もうんうんと頷いている。

「もしかすると、その魔物と何らかの関係があるのかもな……」

ロナードは、自分の胸の前に両腕を組み、真剣な面持ちで言うと、

「帝都の地下と? どんな風に?」

ルフトは、戸惑いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。

「それは、俺も分からないが……。 そもそも、あの魔物が現れたのは帝都だったと言うし……。 もし、あんなのを生み出せる物が地下にあっとしたら……」

ロナードは、思い切り眉を潜めながらも、何とかしてルフトに説明を試みる。

「それは大問題だけど、人々が帝都に住むようになって、もう何百年と経つんだよ? その間に、獅子族の里を襲っていた魔物の様な物が、帝都に現れたなんて話、聞いた事が無いよ」

突拍子もない事を言い出したロナードに、ルフトは戸惑いの表情を浮かべながら言うと、

「人々に伏せられているだけで、本当は居たかも知れないぞ」

彼は、真剣な面持ちでそう指摘した。

「それを言われたら、反論のしようもないよ」

ルフトは、苦笑いを浮かべながら言うが、

「でも、否定出来る話でもないわ」

エルフリーデは、真剣な面持ちでそう言った。

「だよねぇ……」

ルフトも、ロナードの考えを完全に否定するには、根拠が無さすぎると思っていたのか、苦笑いを浮かべながら言う。

「確かに殿下は、好奇心の塊の様な方だけれど、本当に単なる思い付きで言い出したとは限らないと思うわ。 仰らないだけで、それなりに、ちゃんとした理由があるのではないかしら……」

エルフリーデが、真剣な面持ちでそう言うと、

「確かに。 な~んにも考えて無さそうに見えて、実際はそうじゃない事も多いしね……」

ルフトは苦笑いを浮かべながらそう言うと、ロナードも真剣な面持ちで頷きながら、

「いまいち、良く掴めない人ではある」

「結局はさぁ、地下の調査は君が興味あるか、無いかじゃない?」

ルフトは、軽く溜息を付いてからそう言うと、

「それは、そうだが……」

ロナードは、戸惑いの表情を浮かべながら返す。

「興味があるなら、行ったら良いだけの話だよ」

ルフトは、ニッコリと笑みを浮かべながら、ロナードに言った。

(そりゃあ、魔法帝国時代の遺物の調査なんて、行きたいに決まっているだろ)

ロナードは、何とも言えない複雑な表情を浮かべながら、心の中でそう呟いた。

「僕も参加しようかな。 面白そうだし」

ルフトが、ニッコリと笑みを浮かべながら言うと、ロナードは驚いた顔をして彼を見る。

「ルフト……動機が不純でしてよ」

エルフリーデは、呆れた表情を浮かべながらルフトに言う。

「だって、カルセドニ皇子もそう言うノリでしょ?」

ルフトは、緊張感なくヘラヘラと笑いながら、呆れいるエルフリーデに言った。

「兄上が言う限りではな……。 ただ、地価がどうなっているのか分からない以上、魔物が潜んでいる可能性も十分にあり得る。 安全は保障しかねるぞ」

ロナードは、戸惑いの表情を浮かべながら、ルフトにそう警告をすると、

「大丈夫。 大丈夫。 そう言うのは、君やレオンがちゃちゃっと片付けてくれるでしょ?」

彼は、全く危機感のない様子で、片手をヒラヒラとさせ、ヘラヘラと笑いながら言う。

「そんな風に、簡単に片付けられるのばかりだと良いが……」

ロナードは、物凄く不安そうな表情を浮かべながら、そう呟いた。


「な、何あれ……。 ヌルヌルしていて、気持ち悪過ぎて無理なんだけど……」

ルフトは、物凄く気色悪そうに、自分たちの目の前に現れた、ジェルの様でもあり、グミの様でもある、奇怪な生き物を指差しながら、近くに居たロナードに言う。

「だからって、俺の後ろに隠れるなよ……」

自分を盾にし、後ろに隠れるルフトに向かって、ロナードは迷惑そうな顔をしながら言う。

「ひいいっ! 分裂したよ!」

ルフトは、ロナードの背後から、自分たちの目の前に現れた、奇怪な生き物が分裂したのを見て、気持ち悪そうな顔をしながら、悲鳴を上げ、ロナードにそう言うと、彼にしがみ付く。

「そうだな……」

ロナードは、スライム程度でわーキャー言っているルフトに、ウンザリした表情を浮かべながら、素っ気無い口調で返す。

「スライムなので、分裂くらいしますよ」

近くに居たギベオンが、初めて見るスライムの挙動に、一々ビビるルフトに対し、苦笑いを浮かべながら言った。

「ほう。 あれがスライムと言う魔物か。 挿絵で見た事はあるが、初めて見たぞ」

ジェドが興味深そうに、マジマジとスライムを見ながら言う。

「ねーねー。 それ触ったらどうなる? 溶けちゃう感じ?」

アイーシャも、興味津々と言った様子で、近くに居た者たちにその様な事を言っている。

「触らないで下さいよ」

ギベオンが思わず、顔を引きつらせながら彼女にそう言い返すと、

「え~?」

アイーシャは、つまらなそうな様子でそう呟く。

「遠足か何かに来たのだったか? 我々は……」

彼らの言動を見て、カルセドニ皇子はやや切れ気味で、自分の側にいたセネトにドスの利いた声で問い掛ける。

「ど、どうでしたかね?」

セネトは、物凄く軽いノリで居る、アイーシャやジェドにかなりキレている兄に対し、笑顔を引きつらせながら、おずおずとそう返した。

「……何で、使えん様なのを連れて来たんだ? しかも二人も」

シリウスは、自分たちの後ろで、悲鳴を上げたり、興味津々の様子であれこれ言っている、ルフト

とアイーシャの方を見ながら、物凄く不満に満ちた表情を浮かべながら、隣に居るハニエルに問い掛ける。

「さあ……」

ハニエルも、いつも以上に賑やかなので、戸惑いを隠せない様子で、そう返した。

「しかし、スライムが相手だと、武器などの物理攻撃は効かないですよ」

ロナードの護衛として付いて来たアイクが、面倒臭そうな顔をして、そういった。

「ほう。 じゃあ早速、オレの出番じゃないか」

ジェドが、不敵な笑みを浮かべながら、物凄く自信に満ちた口調で言う。

「え。 そうなの? へぇ。 面白いね」

その隣に居るアイーシャは、アイクの話を聞いて、面白そうな動物を見付けた様な顔をして言う。

「……邪魔だ。 帰れ」

シリウスは、物凄く五月蠅そうな顔をしながら、全く緊張感のない彼女たちに向かっていった。

「え~? 来たばかりなのに?」

アイーシャが、つまらなそうな顔をして、口を尖らせながらそう言い返すと、

「大体、呪を使う魔物など滅多に居ないのに何故、来た?」

シリウスは、ジロリと彼女を睨みつけながら、不服そうな様子で言うと、

「面白そうだから」

アイーシャは、物凄く無邪気な笑みを浮かべ、そう言い放った。

「……コロス」

彼女の言葉を聞いて、堪忍袋の緒が切れたシリウスは、殺気を放ちながらそう言うと、徐に自分の背中に背負っていた剣の柄に手を掛ける。

「あわわわ。 待って。 待って」

それを見て、アイクが慌ててシリウスの両脇に手を回し、そう言いながら、彼が剣を引き抜く事を止める。

「落ち着いて下さい! 流石に殺してはダメですよ!」

ギベオンも慌てて、アイーシャを庇う様にシリウスの前に出て、両手を広げながら、真剣な面持ちで言う。

「魔物に襲われて、死んだ事にしたら良い」

シリウスは、アイーシャが気に入らないのか、ドスの利いた低い声でそう言い放った。

「いやいや……。 そんなの傷を見たら直ぐに、魔物じゃないって分かるよ?」

流石のルフトも、笑えない事を口走るシリウスに、焦りの表情を浮かべながら、そう指摘すると、彼は舌打ちをすると、

「だったら望み通り、スライムの群れの中に放り込めば良い話だ」

淡々とした口調で言った。

「それだと、骨すら残らないぞ」

セネトが呆れた表情を浮かべながら、シリウスにそう言い返した。

「兎に角、その五月蠅いのをどうにかしろ」

シリウスは、苛立ちを隠せない様子で、自分を止める仲間たちに向かって言った。

「あははは……どうやら嫌われちゃったみたいだね?」

アイーシャは、ヘラヘラと笑いながら、全く危機感のない様子でそう言った。

「……」

大抵の者は、シリウスに凄まれると、恐怖のあまり顔を青くして、ガクガクと膝を震わせ、動けなくなると言うのに、この娘は肝が据わっているのか何なのか、全く動じていない事に、ロナードは思わず言葉を失った。

「兎に角、今は目の前の事に集中しましょう」

アイクはそう言うと、シリウスの向きをクルリと変え、スライムの方へと向ける。

「ええ。 たかがスライムと侮ってはいけません」

ギベオンも、シリウスがアイーシャたちの方に振り向かないように、両手で彼の肩をガッチリと掴み、苦笑いを浮かべながら言う。

「同感だわ」

彼らのやり取りを、冷ややかに見ていたルチルもそう言うと、自分の事に下げていた剣を抜く。

「取り合えず、これのデーターを取りたいから、投げてみてくれる?」

ルフトはそう言うと、自分が背負っていたリュックの中から何かを取り出すと、それを近くに居たギベオンに手渡した。

「え。 あ、はい」

掌にスッポリ収まる程度の石の様な物を手渡されたギベオンは、戸惑いの表情を浮かべながら言う。

「これ、この前の雷の魔術を封じた魔石の氷バージョンね。 危ないからかなり離れた所から、群れの中心に投げ込む感じで投げてくれる?」

ルフトは、戸惑っているギベオンに簡潔に、自分が渡した物の説明をする。

「こう……ですか?」

ギベオンはそう言いながら、スライムたちの群れに向かって、ルフトに渡された小石の様な物を投げつけた。

 すると、一瞬にしてスライムたちは凍り付き、その周辺の床や壁もカチコチになった。

 思いの外、広範囲に広がったのを見て、セネトが思わず恐怖に顔を引きつらせ、

「おいっ! ギベオンを殺す気か!」

思わず、自分の側にいたルフトに言うが……。

「うーん……。 最大でこの位か……。 効果の範囲は半径一メートルってところかな……。 威力はどうかな?」

ルフトは、真剣な顔をしてそう言いながら、近くに氷漬けになっているスライムに近付くと、それを棒で突いてみる。

「危ないぞ」

ロナードが思わずそう声を掛けるが、ルフトには聞こえていない様で、棒で突いたり、床の凍り付き具合などを真剣に調べている。

「ああなると、ルフト先輩は周りの声が、聞こえなくなっちゃうんだよね……」

ルフトの様子を見て、アイーシャは苦笑いを浮かべながらそう言った。

 二人は、国立の貴族学院に在籍していたおり、ルフトの方が一つ学年も上であったが、アイーシャとルフトは同じ『魔術研究同好会』と言う、魔道具や魔術に関する研究をする、学生が放課後に行うクラブ活動的なものに入っており、お互いがどういう人間なのかある程度知っているのだ。

 二人とも、研究者肌で一つの事に集中してしまうと、周りの声が聞こえなくなるのは勿論、時間を立つのも忘れて没頭してしまい、気が付けば夜になっており、家に帰るのが面倒なので、そのまま教室で雑魚寝をし、翌日を迎えた事など何度もある。

 多くの者が、お遊び程度でやっている中、この二人だけが同好会の中でも特に異質な存在であったことは言うまでもない。

「ふむふむ……。 四散型はやっぱり危険だな。 このコアを中心に円形状に広がる形が良さそうだ。 しかし、そうなると中心とその周辺とでは、どうしても時間差が生じてしまう……。 それでは周辺に居たものは、危険を察して逃げてしまうな……」

「アイツ、止めなくて大丈夫か?」

思わずジェドが、戸惑いの表情を浮かべながら、ルフトを指さし、近くに居たギベオンにそう言った。

「ちょっとルフト。 邪魔なんだけど!」

離れた場所に居たため、氷漬けにならずに済んだスライムを、自ら氷の魔術を纏わせた剣で突き刺し、氷漬けにしながら、ルチルが苛立った口調で、自分の世界に入ってしまっているルフトに声を掛ける。

「いい加減にしないか! まだスライムが残っているんだぞ! 溶かされたいのか!」

見かねたロナードが、周りが見えていないルフトの肩を掴み、スライムの群れから彼を引き離しながら、強い口調で怒鳴り付けた。

「何だよ。 今、良い所なのに……」

自分をスライムから引「き離したロナードに対し、ルフトは不満に満ちた表情を浮かべ、恨めしそうにそう言った。

「お前、頭は大丈夫そうか?」

ルフトのあり得ない言葉を聞いて、ジェドが思わずそう言い返したのを聞いて、ギベオンは思わず苦笑いを浮かべる。

「助けて貰っておいて、そのセリフはないですよ……」

アイクが呆れた顔をして、ルフトにそう返した。

「先輩。 氷漬けなるのを免れたスライムが、先輩に飛び掛かろうとしてたの、気が付かなかったんですか?」

アイーシャも苦笑いを浮かべながら、ルフトにそう言った。

「あー。 それは御免」

アイーシャの言葉を聞いて、ルフトはやっと自分が如何に危なかったのか、少しは自覚したのか、苦笑いを浮かべながら、自分の背後でムッとしていたロナードに言った。

「先輩。 ここは教室や研究室と違って、何時、魔物が襲って来るか分からないって事、自覚した方が良いですよ」

流石のアイーシャも、呆れた表情を浮かべながら、ルフトにそう言うと、

「お前が、それを言うな」

シリウスが思わずそう言って、アイーシャに突っ込む。

「失敬だなぁ……」

アイーシャは、ムッとした表情を浮かべながらそう言いながら、何やらブツブツと言っている。

「私は誰かと違って、自分の身くらい自分で守れるよっ……と」

アイーシャは、シリウスにそう言い返しながら、自分たちに飛び掛かってきていたスライムを、炎の魔術を使い一瞬のうちに蒸発させた。

「おお」

それを見て、カルセドニ皇子が感嘆の声を上げる。

「少しは使えるみたいだな?」

シリウスも、皮肉の混じりにアイーシャに言うと、

「当然だよ。 私だって呪術師として、呪術を使って人を呪い殺そうとしている、危ない連中と戦った事くらいあるよ」

彼女は、両手を自分の事に添え、ドヤ顔で彼らに言い返した。

「ですが、あまり炎の魔術は彼の前では、使わない方が良いかも知れません」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながらアイーシャにそう言うと、徐に彼女の後ろに立っていたロナードへと視線を向ける。

 アイーシャも何気なく、自分の後ろに居たロナードに目を向けると、どういう訳か彼は、表情を凍り付かせ、冷や汗を流し、顔からすっかり血の気が引いた引き、動けなくなってしまっている。

「ユリアス」

カルセドニ皇子が咄嗟に、真っ青な顔をして固まってしまっているロナードの肩を掴み、そう声を掛けると、彼は直ぐにハッとした表情を浮かべた。

「大丈夫か?」

シリウスも、心配そうな表情を浮かべ、ロナードに優しく問い掛ける。

「あ、ああ……。 御免……大丈夫」

ロナードは、幾分か血の気が戻った顔で、落ち着いた口調で返した。

「……主は、幼い頃に故郷の街や生まれ育ったお屋敷を、炎で焼き尽くされる様を目の当たりにしてしまって、炎を見ると、その時の光景や恐怖心とかが蘇って、今みたく動けなくなってしまう時があるんです」

アイクは、沈痛な表情を浮かべながら、アイーシャにそう説明すると、

「そう……だったの……。 知らなかったとは言え、御免ね」

彼女は申し訳なさそうに、ロナードにそう言って謝罪する。

「僕も初めて知ったよ」

時折、ロナードが炎を見て、先程の様に一瞬、固まる事があるのは知って居たが、その理由までは知らなかったルフトは、複雑な表情を浮かべながら呟く。

(だから、炎属性の資質を持っているに、殆ど炎の魔術を使わないのね……)

ルチルも、気の毒そうな視線をロナードに向けながら、心の中で呟く。

「気にするな。 誰でも一つくらい、嫌な事はあるものだ」

ジェドは不敵な笑みを浮かべ、ちょっと偉そうにロナードにそう言うと、ポンポンと彼の肩を叩くと、彼はジロリとジェドを睨み返した。

「何だ。 人が折角、慰めてやっていると言うのに」

ジェドは、自分を睨むロナードに向かって、ムッとした表情を浮かべながら言う。

「『からかっている』の、間違いだろ」

ロナードも、ムッとした表情を浮かべながら言うと、

「心外だな」

ジェドは、ムッとした表情を浮かべたまま、ロナードに言う。

「なになになに? この二人、仲悪い感じなの?」

二人の様子を見て、アイーシャが面白そうな顔をして、近くに居たアイクに問い掛けると、

「ええ……まあ……そうですね……」

彼は、戸惑いの表情を浮かべながら、そう返した。

「あの馬鹿は、セティを誘拐して、無理やり手籠めにしようとしたのよ。 だから、ロナードは未だにその事が許せないのよ」

ルチルは、両腕を自分の胸の前に組み、ジェドを見ながら、淡々とした口調で説明する。

「うわぁ。 やってること最低だ」

アイーシャは、軽蔑に満ちた視線をジェドに向けながらそう言った。

「う、五月蠅いな! オレだって今は、酷い事をしたって思っているし、何度もセネトには誤ったぞ」

アイーシャにそう言われ、ジェドはバツの悪そうな表情を浮かべ、語気を強めてそう反論した。

「気安く『セネト』と呼ぶな!」

ロナードは、キッとジェドを睨みつけながら、思い切り怒鳴り付けた。

「わ、わ、分かった。 ちょっと愛称で呼んだだけじゃないか。 そんなに怒るな……」

殺気を放ち、今にも剣を抜いて切りかかって来そうな雰囲気のロナードに、ジェドは思わずたじろぎ、両手を上げながら言う。

「次にセネトと呼んだら、スライムの群れの中に投げ込むからな!」

ロナードは、ジェドの鼻先に自分の人差し指を突き付けながら、強い口調で言う。

「あ~。 あれは相当、拗らせてるね……」

その様子を見て、アイーシャは苦笑いを浮かべながら言うと、

「でしょ?」

ルチルも、苦笑いを浮かべながら言う。

「あの人、地下から出る前に、死体にならなきゃ良いですけどね」

アイクは、苦笑いを浮かべながら、そう呟いた。


「うふふ……今頃、カルセドニもセレンディーネも、仲良く死体になっている頃かしら?」

ティティス皇女は、宮廷内にある自室で寛ぎながら、その様な事を呟きながら、一人でニヤニヤしているので、部屋の中に居た侍女たちは思わずドン引きする。

 彼女は感情のままに生きているので、機嫌が悪い時は容赦なく、侍女たちにも当たり散らす。

 時には運悪く、ティティス皇女が投げたティカップが頭に直撃し、大怪我をする者が出る程で、機嫌が悪くなると手が付けられない。

 だが、妙に機嫌が良く、一人でニヤニヤしているのも、何か良からぬ事をしそうで不気味だ。

「ご報告申し上げます。 皇女殿下」

部屋の扉の前で、若い男の声がした。

「入りなさい」

ティティス皇女がそう返すと、廊下の方から扉が開き、若い兵士が部屋の中に入ってきて、彼女の前に片膝を付け、

「帝国の宝石、ティティス皇女様に、ご挨拶を申し上げます」

そう挨拶をした。

「それで、地下に潜ったカルセドニたちは、どうなったのかしら?」

ティティス皇女は、期待に満ちた表情を浮かべ、兵士に問い掛ける。

「は、はい……。 カルセドニ皇子等は、今日の調査は無事に終えられたとの事です。 死傷者はゼロ。 討伐した魔物はスライム、スケルトン、グールなどで、合計で百体近く討伐されたとの事です」

兵士は、何故ティティス皇女が、期待に満ちた顔をしているのか分からぬまま、報告で聞いた通りの事を彼女に伝えると、みるみるその表情が険しくなっていった。

「冗談でしょ? 無傷で帰って来たって言うの?」

ティティス皇女は、不満に満ちた表情を浮かべながら言うと、

「ええ。 まあ、はい。 カルセドニ皇子は聖騎士ですし、他にもノヴァハルト侯爵やリュディガー伯爵などの、獅子族の里を荒らしていた魔物を討伐した際、共闘した方々が同行していますので……」

兵士は、戸惑いの表情を浮かべつつも、正直にそう語ると、

「可笑しいわよ。 そんなの。 地下に潜ったなんて嘘ではないの?」

ティティス皇女は、ワナワナと肩を震わせながら、兵士に問い掛けると、

「多くの者が、皇子たちが地下に降りるのを見ていますし、皇子たちが出て来るまで、他の者たちが入らぬよう、入り口を十人ほどが交代で見張っていましたので、嘘ではないと思われます」

兵士は、戸惑いの表情を浮かべたまま、ティティス皇女に答える。

「もう良いわ。 下がって頂戴」

ティティス皇女は、苛立ちを隠せない様子で、若い兵士にそう言うと、兵士はペコリと彼女に首を垂れてから、彼女の不穏な空気を察してか、そそくさと出て行った。

「何なの? 何なのよ! 可笑しいでしょ! どうやって、あれだけの数の魔物を始末したって言うのよ!」

ティティス皇女は、ワナワナと怒りに身を震わせながら、そう叫ぶと座っていたソファーから立ち上がり、突然、テーブルの上に置いてあったティカップを手に取ると、それを思い切り壁に投げつけた。

 陶器が砕け散る音が、部屋の中に響き渡り、突然キレたティティス皇女に、部屋の中に居た侍女たちの顔から、みるみる血の気が引く。

 ティティス皇女は、カルセドニ皇子とセネト兄妹が近々、帝都の地下の調査に行くと知り、知り合いの伝手で、数人の魔獣使いたちに依頼して、本来、魔物など居ない場所に魔物を召喚するトラップを仕掛けさせていたのだ。

 常人ならば、尻尾を巻いて逃げ出す程の数の魔物を用意させたと言うのに、それに立ち向かっただけでなく、全て倒してしまうなど予想外であった。

(不味い。 不味いわ。 もし、トラップの存在が知られたら……)

ティティス皇女は、心の中でそう呟くと、焦りの表情を浮かべ、美しく整えられた自分の爪を何度も噛んだ。

 最近、兄であるネフライト皇太子は、昼間からカジノや高級娼館などに入り浸り、元々、そんなに真面目にしていた訳ではないが、皇太子としての業務をすっかり放棄してしまっている。

 その間に、兄カルセドニの最大のライバルである、カルセドニ皇子は皇太子の地位を取り戻す為、建国祝賀祭で起きた、獅子族たちが起こした暴動を鎮圧しただけでなく、地方の魔物の討伐など積極的に活動している。

 このままでは駄目だと、ネフライト皇太子とティティス皇女の実母である、第一側妃をはじめ、彼を次期国王に推している諸侯たちが事ある毎に、皇太子に素行を改め、自分が皇太子に相応しい事を、内外に示す努力をする様に言っているのだが、肝心の皇太子は、その忠告を完全に無視してしまっている。

 加えて、リリアーヌとか言う、エセ聖女に未練があるらしく、彼女の事を探しているらしい。

(このままでは、お兄様が皇太子の座から降ろされるのも時間の問題だわ。 どうにかして、カルセドニを消さなきゃ……)

ティティス皇女は、苛立った表情を浮かべたまま、心の中でそう呟くと、何度も自分の爪を噛む。

 もはや、彼女の頼みの綱は、一足先に別の入口から、地下に潜ったエセ聖女ことリリアーヌと、その師匠と名乗るアイリッシュ伯とその弟子たちだけだ。

 彼女たちが、カルセドニ皇子等よりも先に地下の秘密を暴き、彼らを始末してくれる事を期待する他ない。


「ねぇ。 ここに潜ってから今日で何日目?」

セネリオは、自分たちの後ろから来ていた、自分たちの師匠であるアイリッシュ伯に問い掛ける。

「ここは、光が一切入りませんからね……。 流石の僕も何日か分からなくなってきました」

アイリッシュ伯は、苦笑いを浮かべながら、セネリオにそう返した。

「本当に、ここに『シード』があるの?」

セネリオは、疑心に満ちた表情を浮かべながら、アイリッシュ伯に問い掛ける。

「あの三つ首の蛇の魔物が、シードの守護者ならば、間違いなく帝都の地下の何処かにある筈です」

アイリッシュ伯は、落ち着いた口調で答える。

「何処かってなぁ……。 大体なんでそう思うんや?」

彼らの護衛をしているランが、不思議そうにアイリッシュ伯に問い掛ける。

「この帝都アルマース自体が、魔法帝国時代の遺物なのです。 その為、街の至る所に、当時の技術が残り、人々の生活に強く根付いています。 光の魔術で灯される街灯、この街に張り巡らされている地下水道。 その水を浄水し、循環させる技術……。 他にも挙げればキリがありませんが、どれも今の技術では、到底出来ないものばかりです」

アイリッシュ伯は、落ち着いた口調でそう説明する。

「確かに……」

セネリオは、真剣な面持ちでそう呟く。

「これだけの都市の隅々にまで、魔力を循環させるとなれば、膨大な魔力が必要です。 しかも、一年中休みなく供給するなど、どう考えても異常です」

アイリッシュ伯は、落ち着いた口調でそう続ける。

「せやから、それを可能にしている力の源が、シードやないかと、アンタは思ってるつー事やな?」

ランが真剣な面持ちで言うと、アイリッシュ伯はにっこりと笑みを浮かべる。

「寧ろ、シードじゃなきゃ、どうなってんの?って話よね」

カリンも淡々とした口調で言う。

「そうは言うけど、何処にあるのか分からないのを、何時まで探すって言うんだよ?」

セネリオは、不満に満ちた表情を浮かべながら言う。

「食料も心許なくなってきたし、一旦、地上に戻った方がエエんやない?」

ランも、この地下に潜った頃に比べ、背中にかるっているリュックが随分と軽くなってしまった事に、不安を覚えつつ、アイリッシュ伯にそう言った。

「リリアもそう思うよね?」

セネリオは徐に、自分の傍らで、ずっとブツブツと何か言っているリリアーヌに同意を求める。

「ユリアス……。 ユリアス……。 ユリアス何処?」

彼女は、酷く虚ろな表情で、先程からその様な事しか言っていない。

「なあ。 こない言うのも可哀そうやけど、もう、このお嬢は駄目なんとちゃうんか? さっきから、うち等の話なんて全く耳に入ってなさそうやで?」

ランは、虚ろな表情を浮かべ、ずっとブツブツと言っているリリアーヌを見ながら、アイリッシュ伯に言った。

「大丈夫です。 ちょっと一気に色々とあり過ぎて、疲れているだけですから」

アイリッシュ伯は、にっこりと笑みを浮かべながら、欄にそう言ってから、

「そうですよね? リリアーヌ」

優しい口調でリリアーヌに声を掛けると、

「はい……」

彼女は、虚ろな表情のまま、アイリッシュ伯の方を向く事もなく、淡々とした口調で返した。

(そりゃ、アンタの言葉を聞くやろ。 素人のウチには魔術や呪術とか言うんはよう分らんけど、この娘を操ってるのはアンタやって言う事だけは、流石に分かるで)

ランは、虚ろな表情を浮かべたまま、まるで人形の様に冷たく、薄気味悪い雰囲気を纏っているリリアーヌを見ながら、心の中で呟いた。

 元々、リリアーヌの事はそんなに好きではなかったが、だからと言って、こんな風になって言い訳が無く、すっかり魂が抜けた人形の様になっている彼女に、ランは居た堪れない気持ちになっていた。

「おや。 噂をすれば……ですよ。 リリアーヌ」

アイリッシュ伯は、向こうから明かりが近付いてきている事に気づくと、徐にリリアーヌにそう声を掛けた。

 すると、彼女はその声に反応し、素早く顔を上げると、先程までとは打って変わり、獲物を狙う獣の様な目で、自分たちに近付いてくる相手を見据える。

 そして……。

「ユリアスっ!」

そう叫びながら、いきなり水の魔術で無数の氷の刃を作り出し、それを自分たちに近付いて来ている相手に向かって勢い良く放った。

「うわわわっ!」

「な、なんだ?」

間一髪、リリアーヌが繰り出した氷の刃を、魔術で作った空気の壁で防ぐと、先頭を行っていた者たちが、戸惑いと驚きに満ちた声を上げる。

 そして、相手もアイリッシュ伯たちの存在を認めると、直ぐに戦闘態勢に入った。

「ホンマや。 凄いな。 ようユリアス達やと分かったな?」

自分たちの前に現れたのが、数日遅れて地下の調査の為に潜って来た、カルセドニ皇子率いる一団であると知ると、ランは、驚きと戸惑いの表情を浮かべながら言う。

「彼の魔力は、独特ですからね」

アイリッシュ伯は、不敵な笑みを浮かべながら言う。

「ユリアス!」

その隣で、先程まで魂が抜けた人形の様になっていたリリアーヌが、そう絶叫しながら、一団の中に居たロナード目掛け、まるで弾丸の様な速さで突っ込んでいく。

「へ? あ? ちょ、ちょい待ちぃ!」

それを見て、ランは思わず素っ頓狂な声を上げてから、慌てて彼女を呼び止めたが、リリアーヌの耳には届いていない様だ。


「な、な、何なの? あれ? 人? 魔物? どっち?」

自分たちに向かって、もはや、人間とは思えぬ速さで、髪を振り乱しながら迫ってくるリリアーヌを見て、アイーシャが戸惑いの表情を浮かべながら呟く。

「あの聖女、薬でもヤッたのか? 完全に目がイッてるぞ!」

人間よりも視力が優れているジェドが、戸惑いの表情を浮かべながら、そう口走る。

「へ? 聖女? ええーっ! いやいやいや……。 アレ、そう言うのじゃないよね? 嘘だよね?」

ジェドの言葉を聞いて、自分の中にあった聖女像を見事に破壊されたアイーシャが、驚きと戸惑いの表情を浮かべながら、周りに居た者たちにそう問い掛ける。

「残念ながら、元・聖さまですね」

ハニエルは、かすっかり様子が変わってしまっているリリアーヌに戸惑いながらも、落ち着いた口調でアイーシャに言った。

「は? え? マジで言ってるの?」

アイーシャは、何度もリリアーヌを見ながら、信じられないと言った様子で言う。

「君の気持は分かるけど、間違いなく、聖女リリアーヌだね……」

ジェドが認識してから、かなり遅れてルフトが苦笑いを浮かべながら言う。

「私の記憶が正しければ、聖女さまって、もっとお淑やかな人だった筈だけど?」

ルチルも、すっかり様子が変わってしまったリリアーヌを見て、苦笑いを浮かべながら言う。

「ユリアスぅ~」

リリアーヌはそう言いながら、恐ろしい跳躍力で、一団の中程に居たロナードに向かって飛び掛かって来る。

「うあああっ! は? え。 せ、聖女さま?」

咄嗟にロナードを庇って前に出たアイクも、飛び掛かって来た相手が魔物ではなく、元・聖女のリリアーヌである事に驚き、思わず素っ頓狂な声を上げる。

 そんな彼を尻目に、ロナードは恐ろしく冷静で、容赦なく、風の魔術をリリアーヌに向かって繰り出し、それを真面に食らった彼女はそのまま勢い良く、数メートル後ろにすっ飛んだ。

「うわ。 マジか……」

リリアーヌが思い切り吹っ飛んだのを見て、ジェドは青い顔をして呟く。

「随分と、品性を無くされた様ですね? リリアーヌさん」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながら、倒れているリリアーヌにそう声を掛けた。

「う……うう……」

リリアーヌは、呻き声をあげながらも、のっそりと起き上がってくる。

 吹き飛ばされた衝撃で、左腕が有り得ない方向に曲がっていると言うのに、怯むどころか、獲物を狙う獣の様な目でこちらを見ている。

「ええ~。 ちょ、ちょっと、この子どうしちゃったの?」

リリアーヌが、ゾンビの様にムクッと立ち上がって来たのを見て、アイーシャは顔を青くして、側に居たカルセドニ皇子の腕にしがみ付きながら、声を震わせ、そう呟いた。

「理性を無くしているのか? 体は身体強化の魔術付与か何かか?」

カルセドニ皇子も、あれだけの衝撃を受けたにも関わらず、腕一本が折れ曲がる程度で済んでいる事に、戸惑いながら、そう呟いた。

 リリアーヌの体格ならば、即死しても可笑しくない程の衝撃だった筈だ。

 しかも、折れ曲がった腕が動いているではないか!

「ひいいいっ! 何で? 何で? どういう事? そう言うホラー的な要素、要らないんだけど!」

それを見たルフトが、顔を青くして、情けない声を上げながらそう言うと、側にいたロナードにしがみ付く。

「落ち着け。 良く出来ているが、あれは人形だ」

ロナードが、落ち着き払った口調で言うと、

「えっ……」

「人形ですって?」

それを聞いて、アイクとルチルが驚きと戸惑いの表情を浮かべ、思わずそう呟いた。

「流石だね。 操り人形を見た事がある君には、通用しなかったか……。 知って居る子が飛び掛かって来たら、驚くかと思ったんだけど……」

アイリッシュ伯は、パチパチと手を叩きながら、恐ろしく落ち着いた口調でそう言った。

「は? 人形やて?」

すっかり騙されていたランは、驚愕の表情を浮かべながら言った。

「悪趣味だ」

セネトは、嫌悪に満ちた表情を浮かべ、吐き捨てるような口調で言った。

「それじゃあリリアーヌ。 宜しくお願いしますよ」

アイリッシュ伯が、不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、リリアーヌを模した人形の首が、グルリと一回転し、大きく開かれた口から銃口が顔を覗かせた。

「マズイ!」

「退避!」

それを見て、シリウスとカルセドニ皇子が、焦りの表情を浮かべながら、そう叫んだ。

 リリアーヌを模した人形の大きく開かれた口から現れた銃口から、物凄い速さで弾丸が繰り出される。

「きゃあああッ!」

「死ぬ。 死だ。 絶対死でる」

アイーシャとルフトが思わず、両手で自分の頭を抱え、思わずその場にしゃがみ込みながら、揃って悲鳴を上げたり、訳の分からない事を口走っている。

 そうでなくても、アイクは咄嗟にロナードを庇う様に立ち、ギベオンやルチルも、しゃがみ込んでいるセネトを守る様に覆い被さっている。

「全く……。 大袈裟ですね。 皆さん」

銃弾の音が鳴り止むと、ハニエルの恐ろしく落ち着いた声が聞こえたので、仲間たちは一斉に我に返る。

 見れば、彼らを守る様に分厚い土の壁があり、ハニエルが手を下ろすと、一瞬のうちに崩れ落ちた。

「ったく。 何の為にオレが居るんだよ。 こんなの、どうにでもなるだろ」

ジェドも片手を、リリアーヌを模した人形の方へと向けた格好のまま、落ち着いた口調で言う。

 良く見ると、リリアーヌを模した人形の首が、ロナード達とは違う方向に曲がってしまっている。

「あ、あはははは……」

端から、銃口が此方に向いていなかった事を知り、ルフトが思わず、気の抜けた笑い声を漏らした。

「ありゃ。 奇襲失敗やで」

その様子を見ていたランは、拍子抜けした様子で呟いた。

「流石に戦い慣れしていますね」

アイリッシュ伯は、苦笑いを浮かべながら呟く。

「この中に、ユリアスに呪いを掛けた奴はいる?」

アイーシャは、急に何を思ったのか、その様な事を聞いてきた。

「アイツです!」

「あの、ヒョロガリ眼鏡だよ!」

アイクとルフトが揃って、アイリッシュ伯の方を指差す。

「?」

二人が自分を指差しているので、アイリッシュ伯は不思議そうな顔をして見ている。

「初めましてだね? 君がユリアスに呪いを掛けた人たち?」

アイーシャは、ニッコリと笑みを浮かべながら、自分たちから少し離れた場所に居る、アイリッシュ伯たちに問いかける。

「ウチ等はちゃうで。 やったんは、この眼鏡や」

ランは、不愉快そうな表情を浮かべながら、アイリッシュ伯を指差しながらそう言うと、隣に居るカリンも頷く。

「そっかぁ。 君には是非、どんな呪術書を参考にしたのか、聞きたいところだけれど……。 ぶっちゃけさぁ、自分が掛けた呪いがどんなものか、知りたくない?」

アイーシャは、にっこりと笑みを浮かべながら、アイリッシュ伯に問い掛ける。

 彼女の発言に、仲間も敵も『何を言っているんだコイツ』と言うような顔をして、彼女を見ている。

「私がさぁ、教えてあげるよ」

アイーシャがにっこりと笑みを浮かべると、それと同時にアイリッシュ伯たちの足元から、真っ黒な蔦が生えてきて、あっという間に彼らの足を掴んだ。

「私からのほんの挨拶。 喜んで貰えると嬉しいな♪」

アイーシャはそう言うと、アイリッシュ伯たちの足元に絡まり付いた黒い蔦から、ズルズルと銀色の文字の様な物が出て来て、それが彼らの足を伝い、徐々に全身に広がりだした。

「呪詛!」

いち早く気づいたカリンが、顔を青くして何とかして、自分の足に絡まり付いている、黒い蔦を振り解こうとする。

「ほぉら。 たんとお上がりよ」

アイーシャはいつの間にか、ロナードの手を掴んでいて、彼の手からその手を握っているアイーシャの手へと銀色の模様が生き物の様に、ズルズルと這って行き、それがどう言う訳か、アイリッシュ伯たちの足に絡まっている黒い蔦を介して、彼らの体へと広がっていた。

「な、何なんや。 これ! 振り解けんで!」

必死に、自分の足に絡まり付いている黒い蔦を振り解こうとしているにも関わらず、全くびくともしない事に、ランが焦りの表情を浮かべながら言う。

「ふふふ。 まあ、予想はついているだろうけど、君たちに呪いを返してあげているんだよ♪」

アイーシャは、不敵な笑みを浮かべながら、焦っているランたちに向かって言う。

「主!」

ロナードが苦しそうに呼吸をし始め、背中に大量の冷や汗を流し、意識が朦朧としているのか、立っている事が辛そうな様子を見て、側にいたアイクとギベオンが彼の体を抱き支えると、彼は意識を失い、その場で崩れる様に倒れ込んだ。

「ユリアス!」

それを見て、カルセドニ皇子やシリウスも、焦りの表情を浮かべ、思わず声を上げる。

「ご、御免」

アイーシャがハッと我に返り、慌ててロナードから手を離した。

「何をしたんだ?」

セネトが表情を険しくし、アイーシャに強い口調で問い掛ける。

「御免。 本当に御免。 アイツらがユリアスに呪いを掛けたって聞いて、物凄く怒りが湧いてきて……。 ユリアスに負担になるって分かってて……。 アイツらに呪いを返して……」

アイーシャは、バツの悪そうな表情を浮かべ、時折、口籠らせながらそう言った。

「ううう……」

「あああ……」

その傍らで、アイーシャに呪いを返されたランたちが、揃ってその場に倒れ込んで、苦しそうに呻き声を上げている。

 ただ一人……アイリッシュ伯を除いて……。

「やっぱりコイツ!」

「また、幻影か!」

それを見て、ルチルとギベオンが忌々し気に呟く。

「呪術師と接触していたとは……。 厄介ですね」

アイリッシュ伯は、弟子のセネリオや仲間のランたちが苦しそうにして居るにも関わらず、顔色一つ変えず、淡々とした口調で言う。

「貴様ッ! 毎回毎回、幻影で現れて! 隠れてないで出てこい!」

セネトが、嫌悪に満ちた表情を浮かべ、強い口調で言うと、アイリッシュ伯は肩を竦め、

「その要求には、応えられませんね。 そんな事をしたら、貴方たちは僕を殺すじゃないですか」

そう言うと、挑発する様に不敵な笑みを浮かべる。

「この野郎!」

流石のジェドも、アイリッシュ伯に対して、強い嫌悪感を覚えたのか、手で薙ぎ払う様な仕草をすると、風の刃が現れ、幻影のアイリッシュ伯を真っ二つにした。

「そんな事をしても無駄ですよ」

アイリッシュ伯は、嘲笑いながらそう言うと、煙の様に消え去り、先程まで悶え苦しんでいたセネリオたちも、忽然と姿を消した。

「くそっ!」

ジェドが悔しそうな顔をして、拳を思い切り床に叩き付けた。

「ロナードは大丈夫なの?」

ルチルの声に、セネトはハッと我に返り、慌ててロナードの方へと振り返る。

「気絶しているだけです」

ロナードの様子を見ていたハニエルが、落ち着いた口調でそう言うと、一同はホッとした表情を浮かべ、胸を撫で下ろす。

「一旦、地上に戻ってユリアスを休ませよう。 アイーシャもだ」

カルセドニ皇子は、落ち着いた口調でそう言うと、その腕には、何時の間にか気を失ってしまっている、アイーシャの姿があった。

「全く。 やる事が無茶苦茶だよ」

気絶してしまっているアイーシャの姿を見て、ルフトは呆れた表情を浮かべながら呟く。

「何にしても、あいつ等も暫くは動けん筈だ。 その間に体勢を立て直し、この地下を調べてしまうぞ」

カルセドニ皇子が、真剣な面持ちで仲間たちに言うと、彼らは一様に真剣な表情を浮かべ、頷き返した。



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