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DRAGON SEED 2  作者: みーやん
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執着する者

主な登場人物


ロナード(ユリアス)…召喚術(しょうかんじゅつ)と言う稀有(けう)な術を(あつか)えるが(ゆえ)に、その力を()が物にしようと(たくら)んだ、(かつ)ての師匠(ししょう)に『隷属(れいぞく)』の呪いを掛けられている。 その呪いを()(ため)、エレンツ帝国(ていこく)を目指している。 漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な美青年。 十七歳。


セネト(セレンディーネ)…エレンツ帝国(ていこく)皇女(こうじょ)。 とある事情(じじょう)から(のが)れる(ため)、シリウスたちと行動(こうどう)を共にしている。 補助(ほじょ)魔術(まじゅつ)得意(とくい)とする魔術(まじゅつ)()。 フワリとした癖のある黒髪(くろかみ)琥珀(こはく)色の大きな(ひとみ)特徴的(とくちょうてき)な女性。 十九歳。


シリウス(レオフィリウス)…ロナードの生き別れていた兄。 自身は大剣を自在(じざい)(あやつ)る剣士だが、『封魔(ふうま)(がん)』と言う、見た相手(あいて)魔術(まじゅつ)の使用を(ふう)じる、特殊(とくしゅ)(ひとみ)を持っている。 長めの金髪(きんぱつ)に紫色の双眸(そうぼう)を持つ美丈夫(びじょうぶ)。 二二歳。


ハニエル…傭兵業(ようへいぎょう)をしているシリウスの相棒(あいぼう)鷺族(さぎぞく)と呼ばれている両翼人(りょうよくじん)。 治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)薬草学(やくそうがく)得意(とくい)としている。 白銀(はくぎん)長髪(ちょうはつ)と紫色の双眸(そうぼう)を有している。 物凄(ものすご)い美青年なのだが、笑顔(えがお)を浮かべながらサラリと(どく)()く。


ナルル…サリアを(あるじ)とし、彼女とその家族を守っている『獅子族(シーズーぞく)』と人間の混血児(こんけつじ)。 とても社交的(しゃこうてき)な性格をしている。


リリアーヌ…イシュタル教会(きょうかい)で『聖女(せいじょ)』と呼ばれている召喚術(しょうかんじゅつ)を使えるシスター。 ロナードが教会(きょうかい)孤児院(こじいん)に居た(ころ)、親しくしていた。 ロナードに対する恋心(こいごころ)(こじ)らせ、彼への強い執着(しゅうちゃく)(しん)を抱いている。 今はガイア神教(しんきょう)聖女(せいじょ)になっている。


カルセドニ…エレンツ帝国(ていこく)第一(だいいち)皇子(おうじ)でセネトの同腹(どうふく)の兄。 寺

ルチル…帝国(ていこく)第三(だいさん)騎士団(きしだん)隊長(たいちょう)(つと)めている女性。 セネトと幼馴染(おさななじみ)。 今はティティスの護衛(ごえい)(にん)()いている。 二十歳(はたち)


ギベオン…セネト専属(せんぞく)護衛(ごえい)騎士(きし)。 温和(おんわ)生真面目(きまじめ)な性格の青年。 二十五歳。


(じいん)(せい)騎士(きし)をしている。 奴隷(どれい)だったシリウスとハニエルを助け、自由の身にした人物。


アイク…ロナードの専属(せんぞく)護衛(ごえい)をしている寺院(じいん)暗部(あんぶ)所属(しょぞく)していた青年。 気さくな性格をしている。

 「聖女様。 もう直ぐ合流ポイントに到着します」

リリアーヌの護衛をしている兵士が、部屋に入って来ると、彼女にそう報告した。

 兵士たちの報告では、先発隊として、自分たちよりも数日前に帝都を発った、ティアマト大老子が留守の間、聖騎士たちを束ねる立場にある、カルセドニ皇子たちを乗せた砂船が突如、巨大な蛇の魔物に襲撃され、彼等が乗っていた砂船が横転してしまい、使えなくなってしまった事に加え、兵士たちが戦闘で負傷した為、救援要請があり、後発隊の彼等は急いで現場へ急行していた。

 本来ならば、三日は掛かるところを、砂船の推進力として、風の魔術を扱える術師を総動員して、昼夜を問わずに飛ばし続けたお陰て、一日半で到着しそうだ。

長時間、魔力を使い続ける羽目になった、風の魔術を使える術師たちの大半は、魔力を使い果たして、その場に倒れ込み、人目も憚らず、爆睡している者も少なくない。

 砂の上を爆走した為、砂船の船体は大きく揺れ、船酔いをする者も後を絶たず、現場に着く頃には、多くの者が満身創痍の状態であった。

 到着後、治癒魔術を使える者は、負傷者の手当をせねばならないので、なかなかハードな事態に、仮病を使うものまで現れる始末だ。

 そんな彼らの前に、自分たちが乗っている砂船と同型のの船が、砂漠のど真ん中で突如、船体を横向きにして動かせなくなっているのが見えて来た。

 良く見てみると、横転している事も勿論だが、巨大な蛇の魔物やられたのか、船体の至る所が壊れている。

 これで、死者がいないのが不思議なくらいの状況であった。

 負傷者を含め、カルセドニ皇子等は、近くにある鷹族の里に滞在しているらしい。

(やっと会えるわ。 ユリアス)

リリアーヌは、心の中でそう呟くと、微かに口元を綻ばせる。

 情報によると、ロナードは直接、巨大な蛇の魔物の攻撃を受け、怪我をした事に加え、瘴気を浴びて重傷だと言う話だ。

 彼等の船にも治癒魔術を使える者は同行しているが、怪我を治療する事は出来ても、瘴気を取り除く事は、浄化の魔術で作られた聖水か、その術を扱える司祭以上の高位の聖職者に治療してもらう外ない。

 放って置けば、体は徐々に瘴気に浸食される為、浸食を防ぐ為に、汚染された部位を切断する事もある。

 カルセドニ皇子等の船にも聖水は乗せていたが、足りていないとの事だ。

 身体を失う危機だと言うのに、リリアーヌはロナードと会える事の方が嬉しかった。

(直ぐに、私が助けてあけますよ。 ユリアス)

リリアーヌは、その様な事を思いながら、出迎えた先発隊の兵士の案内の下、鷹族の里に到着した。

 どう言う訳か、鷹族と思われる、背中に鷹の羽を生やした、ガタイの良い男たちが、揃って青い顔をして右往左往しており、騒然とした雰囲気であった。

「何が……あったのですか?」

里の外から自分たちが来た事など、誰も気づかない程に、鷹族たちは物凄く慌てている。

「さあ……」

リリアーヌを里まで連れて来た先発隊の兵士は、戸惑いの表情を浮かべながら答えてから、

「族長の屋敷に、負傷者たちとカルセドニ皇子はいらっしゃいます。 其方へご案内致します」

先発隊の兵士は、予想外に里が混乱している事に戸惑いながらも、リリアーヌにそう言った。

 彼女は、先発隊の兵士に案内されるがまま、里の奥にある族長の屋敷へ足を運んでいると、途中、里の中心辺りに、何かが物凄い勢いで落ちて来て、地面と衝突したのか、半径一メートル以上はあろうかと思われる、とても大きな窪みが出来ていた。

 その窪みの中心部で、シャーマンだろうか。

黒いローブを纏って、牛か何かの動物の頭蓋骨を被った、怪し気な雰囲気の数人の人物が、何やら呪文の様なものを唱え、その周りに深刻そうな顔をして、里の者と思われる、背中に鷹の翼を生やした男たちが見守っていた。

「あれは、何をしているのですか?」

リリアーヌは、戸惑いの表情を浮かべながら、自分を案内している先発隊の兵士に問い掛ける。

「私は途中で里を下りたので、何をしているのか分かりませんが……。 鷹族たちは、カルセドニ皇子が魔物を討った事に対して、物凄く怒っている雰囲気でした」

兵士は、くぼんだ場所で、奇妙な儀式をしている者たちを横目で見ながら、リリアーヌの問い掛けに答えた。

 族長の屋敷に入ると、奥から若い男の怒鳴り声が響いて来た。

「どうしてくれるんだ!」

鷹族の若い男が、怒り心頭と言った様子で、ある部屋の前で怒鳴っている。

「知った事か」

応対している、少し長めの金髪を有した、背の高い大柄な男が、冷ややかな口調で返している。

 彼は確か、ユリアスの兄だと名乗っている、名前は確か……シリウスとか何とか言っただろうか……。

「あの……ノヴァハルト侯爵さま。 聖女様をお連れしました」

リリアーヌをここまで案内した、先発隊の兵士がおずおずと、その金髪の若い男に声を掛ける。

「聖女?」

彼はそう言うと、先発隊の兵士の後ろに控えていたリリアーヌを見て、怪訝そうな表情を浮かべてから、

「見ての通り、取り込み中だ」

物凄く冷たい口調でそう返した。

「いや……でも……。 弟君が瘴気を浴びて大変な事に……」

リリアーヌを案内して来た先発隊の兵士は、戸惑いの表情を浮かべながら、シリウスにそう言うと、

「何時の話をしている? そんなモノ、とっくにハニエルが直したぞ」

彼は、淡々とした口調でそう答えた。

「え……。 でも……聖水が足りず、十分な浄化が出来なかった筈ですが……」

リリアーヌを案内して来た先発隊の兵士は、戸惑いの表情を浮かべながら言うと、

「ハニエルが聖水を作って、治療してしまったぞ」

シリウスは、淡々とした口調で言うので、それを聞いて、リリアーヌは勿論、彼女と同行していた後発隊の術師たちは、あまりの事に絶句する。

「何だ? レオン。 客か?」

そう言いながら、先発隊の指揮をしているカルセドニ皇子が、部屋の中から出て来た。

「殿下! 聖女様をお連れ致しました」

リリアーヌを案内して来た先発隊の兵士が、ホッとした表情を浮かべ、カルセドニ皇子に言うが、

「いや、私は呼んだ覚えが無いが」

彼は、困惑した表情を浮かべながら言って来たので、リリアーヌを案内して来た先発隊の兵士は勿論、リリアーヌ当人、そして彼女と一緒に来た後発隊の術師も、揃って戸惑いの表情を浮かべる。

「ユリアスが……。 酷い怪我をして、瘴気を浴びて大変な事になっていると……」

堪らず、リリアーヌが戸惑いの表情を浮かべながら言うと、

「そう言う事もあったが、今は怪我は勿論、瘴気も浄化されてピンピンしている」

カルセドニ皇子は、落ち着き払った口調でそう返した。

「でしたら、会わせて頂けないでしょうか。 無事な姿を確認したいです」

リリアーヌが、真剣な面持ちで言うと、

「失礼ながらリリアーヌ嬢……。 先程から聞いて居れば、貴女はリュディガー伯爵とはどのようなご関係なのですか?」

ギベオンが、戸惑いの表情を浮かべながら、リリアーヌに問い掛ける。

「え……」

ギベオンの問い掛けに、リリアーヌはたじろいだ。

「先程から、黙って聞いて居れば、伯爵に対して失礼極まりないわよ」

ルチルも表情を険しくし、強い口調で言い放った。

「なっ……。 聖女様に無礼だぞ!」

険のある物言いをする二人に対し、リリアーヌを案内して来た兵士が、表情を険しくして強い口調で言い返す。

「聖女様と言っても、帝国では何の爵位も無い移民ですよね? それにも関わらず、伯爵であるお方を愛称で呼んだり、面会を求めるのは如何なものでしょうか。 幾らお知り合いとは言え、節度を持って頂けねば、リュディガー伯爵も迷惑だと思うのですが」

ギベオンは怯む様子もなく、落ち着き払った口調でそう指摘する。

「そんな筈はありません! 私はユリアスの婚約者です! 婚約者である私に会いたくないなど、言う筈がありません!」

リリアーヌは自分の胸に片手を添え、真剣な面持ちでそう言い返す。

 その目が黄金色に光っている事を、ルチルとギベオンたちは見逃さなかった。

(私たちを、魅了眼の力で操るつもり? そうはいかないいわよ)

ルチルは表情を険しくし、心の中でそう呟くと、隣に居たギベオンと目が合うと、二人は互いに頷き合う。

「可笑しな事を言う。 お前たちが強引に行った婚約式は、ユリアスに逃げられて式は中止になったと言うのに。 何が婚約者だ」

警戒するルチルとギベオンを、リリアーヌの視界から遮る様にシリウスは立つと、氷の様な冷ややかで鋭い視線を彼女に向け、淡々とした口調でそう言い放た。

 それを聞いて、リリアーヌを案内して来た兵士や、彼女と同行して来た魔術師たちは驚いて、思わず一斉にリリアーヌの方を見た。

 シリウスの言葉に、リリアーヌはたじろいで居る。

「貴女は、カタリナ女王から王位を簒奪しようと企んだ、ベオルフ宰相の養女で、王女の従弟であるロナードを誘拐し監禁、暴行、脅迫、挙句の果てには、彼を殺そうとした極悪人の仲間ではありませんか。 カタリナ女王から、重罪人として指名手配されていますよ」

ハニエルが、落ち着いた口ながらも容赦なく、リリアーヌに追撃の言葉を浴びせた。

(ええ……)

(そんな話、聞いてないんだけど……)

リリアーヌを案内した兵士と、彼女に同行していた魔術師たちは一様に、その様な事を思い、戸惑いの表情を浮かべながら、彼女を見ている。

「そんな事をした相手と会おうなど、頭が可笑しく無ければまず、考えもしないだろう。 私も会せるべきでは無いと思って居る」

カルセドニ皇子は、冷ややかにリリアーヌを見据え、淡々とした口調で言う。

「そんな……」

カルセドニ皇子の容赦ない一言に、リリアーヌは愕然とする。

「お前の様な犯罪者と、私の弟が知り合いと言うだけでも不愉快だと言うのに、周囲に弟の婚約者だと偽り、付き纏い続けるのは看過出来ないな」

シリウスは、相変わらず冷ややかにリリアーヌを見据えながら、淡々とした口調で言う。

「そもそも、イシュタル教会の聖女が、ガイア神教の聖女になるなど、許される事なのでしょうか? 寺院の幹部の方々は、その辺りの事をどの様に判断して、彼女を聖女としたのでしょう。 私は不思議でなりません」

ハニエルも、追撃の手を緩める事なく、更にリリアーヌを追い込むべく、前々から疑問に思って居た事を指摘した。

「確かに……」

ハニエルの指摘に、ギベオンが真剣な面持ちで呟く。

「他国で犯罪者として、指名手配までされている人を聖女にするって、どうなのかしら?」

ルチルが苦笑いを浮かべながらそう言うと、誰も彼女の言葉に反撃出来ないのか、リリアーヌ自身を含め、彼女を案内して来た兵士や、彼女と同行して来た魔術師たちも皆、物凄く複雑な顔をして一様に口を噤む。

「まさかとは思いますが、彼女を聖女にと推した方は、そう言った経緯をご存じなかったのでしょうか」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながらそう言うと、それを聞いて、リリアーヌと同行していた魔術師たちはたじろいだ。

「それともガイア神教では、他宗教の聖女や、犯罪者であっても、聖女になれると言う事なのでしょうか。 ガイア神教の質が知れますね?」

彼等の反応を面白がるように、ハニエルは意地の悪い笑みを浮かべながら、更にそう付け加えた。

「この様な疑惑がある貴女を、聖騎士団長である私としても、聖女と認める訳にはいきません。 ですので、今回の魔物討伐は私とリュディガー伯爵のみで行います。 貴女はこの里で、負傷者たちと共に待機を命じます。 詳しい取り調べは、帝都に戻ってからじっくりと致しましょう」

カルセドニ皇子は、すっかり顔を青くして、動揺しているリリアーヌに穏やかな口調でそう言った。

「そ、そんな……話が違うわ……」

リリアーヌは、すっかり動揺しているのか、青い顔をしてそう呟いた。

「話とは、具体的に、何方が、どの様な事を貴女に仰ったのでしょうか?」

カルセドニ皇子は、リリアーヌの呟きを聞いて、穏やかな笑みを湛えながら、尽かさずそう突っ込んだ。

「そ、それは……」

カルセドニ皇子の突っ込みに、リリアーヌは焦りの表情を浮かべ、口籠らせた。

「その辺りも含めて、帝都でじっくり伺いますよ。 兎に角、貴女はユリアスには近付かないで下さい。 守られなかった場合、命の保証は出来かねます。 今も貴女の目の前に、貴女を叩き切りたくてウズウズしている者が居ますので。 十分に注意して下さい」

カルセドニ皇子は、穏やかな笑みを浮かべ、優しい口調でリリアーヌにそう言った。

 口調や表情こそ優しかったが、リリアーヌを見据えるその目には、狙った獲物を見据える猛獣の様な鋭い光が宿っていて、彼女を逃す気が無い事を物語っていた。

「――ッ!」

カルセドニ皇子の表情を見て、リリアーヌは更に顔を青くする。

「カル。 一層のこと、事故に遭った事にして、この女を砂漠の下に埋めてしまおう」

シリウスは、氷のような冷たい視線をリリアーヌに向けたまま、淡々とした口調でカルセドニ皇子にそう提案すると、それを聞いた、リリアーヌや彼女を案内して来た兵士、そして彼女と同行して来た魔術師たちの表情が凍り付いた。

「私も、それが良いと思います」

ハニエルがニッコリと笑みをうが、シリウスの提案の後押しをする。

「いや。 それは流石に止めてくれ。 これでも彼女は一応、寺院の聖女なのだから。 彼女に何かあった時は、聖騎士団長である私に責任が及ぶ」

カルセドニ皇子は苦笑いを浮かべ、恐ろしい事をサラリと言った二人を、落ち着いた口調で窘めた。

「はあ……」

シリウスは、自分の提案が通らないと理解すると、残念そうに深々と溜息を付いた。

「何か、別の方法で屠るしかありませんね」

ハニエルは、穏やかな笑みを湛えながら、サラッとその様な事を言い放ったので、リリアーヌや彼女を運内した兵士、そして彼女と同行してきた魔術師たちは、背中が凍り付く感覚に見舞われた。

「ハニエル……」

ハニエルの物言いに、ルチルは表情を引き攣らせ、ドン引きしている。

「言って居る事が何気に物騒だぞ」

カルセドニ皇子は、苦笑いを浮かべながらハニエルに言うと、

「そうですか?」

ハニエルはニッコリと笑みを浮かべ、実に爽やかにそう言い返した。

 リリアーヌはもはや、何も言い返す事が出来なくなり、ガックリと項垂れて、同行している魔術師たちに付き添われ、負傷者たちが居る部屋の方へと引き上げる他なかった。


「聖女様……」

リリアーヌを案内していた兵士は、沈痛な表情を浮かべている彼女におずおずと声を掛ける。

「まさか、犯罪者などと言われるとは思いませんでした。 カルセドニ殿下もあの方たちの話ばかりに耳を傾けて、私の話など聞いて下さらなかったですし……」

リリアーヌは、目元に薄っすらと涙を溜めながら、悲しそうにそう言った。

「ノヴァハルト侯爵は、カルセドニ殿下のご友人で、殿下が信頼を置く方の一人です。 それなりに実績もありますので、殿下もあの方の話を無下には出来ないのだと思います」

リリアーヌを案内して来た先発隊の兵士は、複雑な表情を浮かべながらリリアーヌに語る。

「それに、弟君のリュディガー伯爵も次期、宮廷魔術師長と目されている御方なので、何としても、妹君の婚約者にしたいと、カルセドニ殿下もお考えなのでしょう」

リリアーヌと一緒に来た寺院の術師も、落ち着いた口調で語る。

「聖女様を悪者にして、ご自分たちを正当化しようとしているのだと思います」

他の寺院の魔術師も、真剣な面持ちでリリアーヌに言った。

「ユリアスも、彼等と同じ考えなのでしょうか……」

リリアーヌは、沈痛な表情を浮かべながら呟く。

「兄君のノヴァハルト侯爵や、援助して下さっているアルスワット公爵のお考えを、無視する事は難しいと思います」

リリアーヌを案内して来た先発隊の兵士は、複雑な表情を浮かべながら語る。

「例え、リリアーヌ様に対して、違うお考えをお持ちであっても、兄君やアルスワット公爵、カルセドニ殿下のお考えに、従う外ないと思います」

リリアーヌと一緒に来た寺院の魔術師は、複雑な表情を浮かべながら語る。

「お三方に言われては、誰も逆らえないと思います」

リリアーヌを案内して来た先発隊の兵士も、苦笑いを浮かべながら言う。

「ユリアス……」

リリアーヌは、沈痛な表情を浮かべながら呟く。

「どうにかして、リュディガー伯爵と二人でお話し出来る機会を作れれば良いのですが……」

リリアーヌと一緒に来た寺院の魔術師は、複雑な表情を浮かべながら言う。


「ここが……獅子族の里……」

数日後、再編された先発隊と共に、ロナードは瘴気を吐く巨大な蛇の魔物の被害に逢っている、獅子族の里に到着した。

 建物は、交流のある近くの村の樵たちが建ててくれたそうで、農村部にある人間の建物と仕様は似ている。

 しかしながら、烏族の様に織物などの技術がある訳では無いので、狩猟採集の原始的な暮らしをしていると言う。

 倒した魔物や動物の角や牙、皮、肉などが彼等の主な収入源で、暮らし向きは良いとは言い難い。

 人型の姿をしている男たちの多くが、魔物や動物の皮などを使って作られた衣服に身を包んでおり、その衣服の作りも貫頭衣と呼ばれる、生地の中央に頭を通す穴を空けた簡素な物に、皮の紐などを使って腰の辺りで縛っているだけのものだ。

 女性は人間の村や町で買って来たと思われる、袖や襟などが付いた、麻や綿で作られたワンピースを着ている。

 帝都や都市部の様に魔道具を用いた街灯などある訳もなく、村の明かりは専ら篝火か、近くの町や村で物々交換をして得た、蝋燭やランプの明かりが頼りな為、夜にもなれば村の中は明かりも殆どなく、真っ暗に近い状態だ。

 しかし、昼間の様子を見た限り、ここが獅子族の里と言われなければ、一昔前の農村部と言った印象を受ける。

 カルセドニ皇子が率いる先発隊は、自分たちが持って来た天幕を里の外れに張る準備におわれている。

 そんな様子を、里の子供たちが興味深そうに見ている。

 恐らく、こんなに大勢の人間を一度に見た経験が無いのだろう。

 里の女性や年寄りたちも、予め聞いてはいたであろうが、武装した五〇人は居る人間たちが、里に来た事に不安そうな顔をしている。

 それでも、やはりハニエルやシリウス、ロナード達を見た時の、里の女性たちの反応は、人間の女性たちと一緒で、劇団のイケメン俳優を目にした時の様に黄色い悲鳴を上げている。

 愛想の良いハニエルは、ニッコリと笑みを浮かべて、遠巻きに自分たちに熱い視線を向ける里の女性たちに手を振っているが、シリウスは五月蠅そうな顔をして無視を決め込み、ロナードは彼女たちの声など聞こえていないのか、緊張した面持ちでカルセドニ皇子の後に続く。

「お前たちは、何処に行っても黄色い声援を浴びるな」

セネトは苦笑いを浮かべながら、ロナード達にそう言った。

「ヤキモチですか?」

ハニエルが意地悪く、セネトにそう言い返すと、

「そう言う訳では……。 ただ毎回、お前たちも大変だなと思ってな……」

セネトは、軽く咳払いをしてから、ハニエルから目を逸らしながら言った。

「相手にしなければ良いだけの話だ。 私達は劇団の俳優ではないのだから、女たちの機嫌を取る必要もない」

シリウスは、淡々とした口調で言うと、

「そうかも知れないが、それでは印象が悪くなるぞ」

セネトが、呆れた表情を浮かべながら言い返すと、

「関係ない」

シリウスは、気にも留めぬ様で、淡々とした口調で言った。

「レオンは、ああ言っているが、里の者たちとの揉め事は極力避けたい。 私の配慮や目が届かない部分は、お前たちが補ってくれると助かる」

カルセドニ皇子は、少し困った様な表情を浮かべながら、仲間たちにそう言った。

「御意」

「任せて頂戴」

ギベオンとルチルが揃って、カルセドニ皇子にそう返し、ロナードやセネトも真剣な面持ちで頷き返した。

「ここが、里長の屋敷です」

若い獅子族間の男性が、カルセドニ皇子にに向かってそう声を掛ける。

 他の者たちの家よりも大きく、立派な屋敷だ。

「案内ご苦労」

カルセドニ皇子がそう言うと、案内をしてくれた獅子族の男性は軽く会釈をし、屋敷の外で洗濯物を干していた中年の女性に声を掛けると、

「ようこそ。 おいで下さいました」

にこやかな笑みを浮かべながら、ロナード達にそう声をかけて来た。

 彼女は、屋敷の応接間にロナード達を通すと、話を聞いて来たのか、この屋敷の使用人と思われる若い娘がお茶を運んで来てくれた。

 そうして、出されお茶を飲みながら、暫く待って居ると、廊下の方から扉が開いて、先程、ロナード達を応接間に通してくれた中年の女性の手を借りながら、腰の曲がった白髪の老人が部屋に入って来た。

「遠路、ご足労頂き有難う御座います。 私がこの里の長です。 人間の町などと違い、何もない所ではありますが、滞在されている間、不自由の無い様に最大限、務めさせて頂きます」

その老人は落ち着いた口調で、部屋の中に居たロナード達にそう言って来た。

「気遣いは有難いが、これも訓練の一環なので、基本的に自分たちの事は、自分たちでするつもりだ。 里に負担を掛けるつもりは無い。 我々の事は気にせず、貴殿等は何時も通りに過ごしてくれれば良い」

獅子族は、テーブルや椅子を使う習慣が無く、床の上に敷物を敷き、その上に少し大きめのクッションの様な物が置かれており、それに座っていたカルセドニ皇子が、落ち着いた口調で返した。

「ご配慮、有難う御座います」

長と名乗った老人は、恐縮した様子で言った。

「早速ですが、被害に遭った場所を確認したいので、案内してくれる者を手配して頂けると助かります」

ハニエルは、穏やかな口調で里の長に言うと、

「私の孫に案内させましょう。 ですが孫は今、所用で出ておりますので、戻り次第と言う事になります。 それで宜しいでしょうか?」

里の長は落ち着いた口調でそう返した。

「ああ。 構わない」

カルセドニ皇子は落ち着いた口調で答える。

「でしたら、孫が戻るまでの間、ここでお寛ぎ下さい。 移動の疲れもあるでしょうから」

里の長はそう言うと、側に居た中年の女性に目で合図を送った。

「お代わりの冷たい飲み物と、少し抓める物を用意致しましょう」

彼女は、にこやかな笑みを浮かべながら、ロナード達に言う。

「助かる」

カルセドニ皇子はそう答えると、床の上に置いてあった盆の上に、空になったカップを置く。

『わぁ。 人間のお客様だ』

『お兄ちゃんたち、何処から来たの?』

そこへ、里の長の孫たちだろうか、十歳くらいの子供たちが三人、興味津々と言った様子で、そう言いながら雪崩れ込んで来た。

『これ! お前たち!』

それを見て、中年の女性は慌てて声を掛ける。

『大丈夫ですよ』

ハニエルがニッコリと笑みを浮かべ、穏やかな口調で、焦っている中年の女性に返した。

『ねーねー。 見て見て。 これ綺麗な石でしょ?』

獅子族の女の子は、無邪気な笑みを浮かべながら、入り口近くに居たロナードに亜人たちが使う言葉でそう言って来た。

「これは……」

ロナードは、女の子が見せて来た石を一目見て、その表情を険しくした。

『お嬢さん。 この石はどうしたのですか?』

ハニエルが、穏やかな笑みを湛え、優しく亜人たちの言葉で問い掛けた。

『うーんとね、遊んでたら見付けたの』

女の子は、キョトンとした表情を浮かべながらも、ハニエルの問い掛けに素直に答えた。

『何処で見付けたのか、覚えているか?』

ロナードは、真剣な面持ちで、亜人たちの言葉で女の子に問い掛ける。

『ほっほっほ。 これは驚きました。 我々の言葉が分かるのですね?』

里の長は、ハニエルとロナードが自分たちの言葉を理解出来るだけでなく、流暢に亜人の言葉を喋るので、少し驚いた様子でそう言った。

『私は、ランティアナ大陸の鷺族です。 彼は血縁に烏族が居て彼等から習ったそうですが、難解な言葉は理解出来ません。 ですが、日常生活で用いられる言葉は理解出来ます』

ハニエルは、穏やかな口調で里の長にそう言った。

「主。 色々と有能ですね」

アイクは、ロナードが亜人たちの言葉を喋れると知り、思わず感嘆の言葉を漏らした。

「私も、少しは喋れはするぞ」

シリウスが、何処か面白く無さそうに、アイクにそう言うと、

「あ~。 まあ、そうですよね……」

アイクは、苦笑いを浮かべながら、素っ気ない口調で返した。

「何だ。 その反応は」

どうやら、シリウスはロナードと同じ様な反応を返して来ると思って居たのか、アイクの素っ気ない反応に、ムッとした表情を浮かべながら言う。

「いや、オレに褒められても、嬉しくないでしょ?」

アイクは、ムッとしているシリウスに対し、苦笑いを浮かべながらそう返した。

「まあ、そうだが」

シリウスは、ムッとした表情を浮かべながら答える。

「ですよねぇ? オレも主ラブなんで」

アイクは、苦笑いを浮かべたまま、シリウスにそう返した。

「ぷっ……」

アイクの言動を見て、カルセドニ皇子は可笑しくなって、思わず吹き出した。

 シリウスの何とも言えぬ、冷たく他者を威圧する様な雰囲気に、大抵の者は委縮してしまい、彼に生意気な言動をする者は居ないのだが、アイクは物動じ一つせず、シリウスに対して塩対応な彼に、シリウス自身も少し戸惑ってるようであった。

「お前、シリウス相手に良い度胸してるな?」

セネトも、呆れた表情を浮かべながら、アイクにそう言った。

「そうですか? オレ、基本的に主以外の人の事には、興味無いんで。 殿下だって主以外の男の事なんて、基本的にはどうでも良いでしょ?」

アイクは、全く悪気なく、サラリとそう言って退けると、

「ま、まあ……な」

セネトは少し口籠らせながら、そう返すと、その言葉を聞いて、ルチルはニヤニヤと笑い、ハニエルとギベオンは生暖かい目で見守り、ロナード当人はみるみる顔を赤くしたのを見て、

「って、何を言わせるんだ! お前は!」

周囲の反応を見て、セネトは焦り表情を浮かべ、思わずアイクに強い口調で言った。

「ロナード、顔、真っ赤」

ルチルが面白がってそうロナードに言うと、彼は慌てた様子でプイとルチルから顔を背けるが、ルチルにからかわれて恥ずかしいのか、耳まで真っ赤だ。

(一々、反応が可愛いんだけど)

ロナードの反応を見て、ルチルはクスクスと笑いながら、心の中でそう呟いてから、

「ロナードぉ。 今、どんな顔してるか、お姉さんに見せて?」

ルチルはニヤニヤ笑いながらロナードにそう言うと、自分に顔を背けているロナードの肩を掴み、顔を覗き込もうとする。

「止めないかルチル」

ルチルが面白がってロナードをからかっているのを見て、ギベオンは思わず彼女の肩を掴み、そう言って窘めた。

「ロナード、顔真っ赤だゾ。 熱でもあるのか?」

ナルルは、ちょっと驚いた様な顔をして、顔を真っ赤にした居るロナードに、真剣に問い掛けた。

「違う」

ロナードは、顔を赤らめたまま、少し強い口調で言い返す。

「大丈夫か? ここ暑い?」

そんなロナードに、ナルルは物凄く心配して、真剣にそう問い掛ける。

「別の意味で……」

ロナードは、口元を片手で押さえたまま、気恥ずかしいのか、相変わらず顔を赤らめたまま、そう返すと、

「大変だゾ! ロナード、熱中症だゾ!」

ナルルはすっかり勘違いしてしまい、慌てた様子でそう言った。

「いやいや……」

彼女の言動に、アイクは苦笑いを浮かべながら呟く。

「違うだろ。 絶対に」

シリウスも、呆れた表情を浮かべながら、冷めた口調で呟く。

「なに、真っ赤になってるんだよ……」

セネトは、顔を真っ赤にしているロナードを見て、気恥ずかしそうにしながら、そう呟いた。


「人間の子供も、亜人の子供も、好奇心の強さは変わりませんね」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながら呟く。

先程、里長の屋敷に来ていた女の子が見せて来た石は、結界を張る時に用いられる定石の一つである事が判明し、シリウスとカルセドニ皇子らが、瘴気を吐く巨大な蛇の魔物の被害を受けた現場へ行っている間に、ロナードはハニエルたちと共に、急いで結界の修復をする事となった。

「まさか、結界の定石を掘り出していたなんて……」

セネトも、呆れた表情を浮かべながら呟く。

「危うく、里に魔物が入り込むところだったな……」

ロナードも、苦笑いを浮かべながら言う。

 定石を掘り出してしまった子供たちは、親と里の大人たちから、こっ酷く叱られていた。

「そうは言っても、魔術の知識がない人たちにしてみれば、この様な石が地中から出てくれば、子供で無くとも不思議に思って当然ですよ」

護衛に残ったアイクが、苦笑いを浮かべながら言うと、ナルルも頷きながら、

「言われないと分からないゾ」

「この際、里の結界を張り直して、この石がどう言う事に使われるのか、里の人達に見て貰った方が良いのかも知れません」

ハニエルが、落ち着いた口調でそう提案すると、

「確かに。 他の亜人と違って魔術に疎い獅子族には、ちゃんと教えた方が良いかもな……」

セネトも真剣な面持ちで言う。

「それはそうと……。 アイツ等、さっきからずっと俺たちの事を見ているんだが……」

ロナードは、自分たちから少し離れた所にある、家の陰から里の者と思われる、ガタイの良い男たちが数人、此方の様子を伺って居る事に気付き、ハニエル達に言う。

「全く……好奇心が強いのは何も、子供たちだけじゃ無いって事ですかね……」

アイクは、軽く溜息を付いてそう言うと、自分の頭を片手で軽く書いてから、ゆっくりとその男たちの方へと歩み寄り、

「お兄さんたち、さっきからオレ等に何か用ですか?」

警戒した様子で、その男たちに声を掛けた。

「オメェじゃねぇよ」

男たちの一人が、五月蠅そうな顔をしながら、アイクにそう言い返すと、

「オメェの連れの、北の大陸の奴等だよ」

他の男が、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら言った。

(北の大陸のって……。 ロナード様もか?)

アイクは、戸惑いの表情を浮かべながら、チラリと少し離れた場所に居るロナードの方へと目を向ける。

「なーに。 ちょっとお友達にだなりてぇだけだ」

更に別の男が下品な笑みを浮かべながら言うと、

「お兄さんたち、男の人が好きなんですか?」

アイクは、ニッコリと笑みを浮かべながら問い掛けると、

「野郎だろうと、あんだけ綺麗なのが居れば、誰だってお近付きになりてぇだろ」

里の男の一人が、ニヤニヤと笑いながら言った。

「あ~。 気持ちは分かりますけど、ウチの主は女の子が好きですし、婚約者も居ますから、お兄さんたちみたいに、ゴッツくてむさ苦しい人たちは、嫌がられるんじゃないですかね?」

アイクは、苦笑いを浮かべながら言うと、

「んな事はどうでも良いんだよ」

「良いから呼んで来い」

柄の悪い男たちは、少し苛立った様な口調でアイクにそう言って来た。

「あの人たち、主たちとお友達になりたいそうですよ」

アイクは、男たちの元から戻ると、苦笑いを浮かべながら、ロナード達にそう言った。

「……絶対に下心があるだろ」

ロナードは、物凄く嫌うな顔をしてそう呟くと、

「取り合うな」

セネトも、五月蠅そうな表情を浮かべながら言う。

「おいおい。 そりゃねぇだろ」

「こんな別嬪さん達を、放っておけってか?」

彼等の言葉を聞いて、柄の悪そうな男たちは、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、此方へ歩み寄って来る。

「獅子族と言うのは、本能で生きている様な方が多いのですね」

ハニエルは、軽く溜息を付いてから、軽蔑に満ちた視線を彼等に向けながら、淡々とした口調で呟いた。

「一緒にしないで欲しいゾ」

それを聞いて、ナルルが物凄く迷惑そうに言い返す。

「俺達だけならば、好きに出来ると思ったら大間違いだ」

ロナードは、下品な笑みを浮かべながら、自分たちに近づいて来る男たちに向かって、落ち着いた口調で言った。

「ある意味、この二人の方が他の連中よりもヤバイぞ」

セネトも、呆れた表情を浮かべながら、柄の悪そうな男たちに言う。

「それは、どういう意味でしょうか?」

ハニエルは、額に青筋を浮かべ、ニコォと笑みを浮かべながら、セネトにそう問い掛ける。

「血生臭い事が好きな戦闘狂の二人より、俺やハニエルの方がヤバイ訳が無いだろ?」

ロナードも、ムッとした表情を浮かべ、セネトにそう抗議すると、

「お前は、その戦闘狂の内の一人の弟だろう?」

セネトが、呆れた表情を浮かべながらロナードに言い返すと、

「そう言う殿下もですよ」

ハニエルは、額に青筋を浮かべ、ニッコリと笑みを浮かべながら、尽かさずそう言ってっっ込んだ。

「ゴチャゴチャと五月蠅いんだよ」

「良いから、オレ等に付き合えよ」

柄の悪い男たちが、自分たちを無視して話をしているロナード達に対し、苛立った口調で言うと、その内の一人がハニエルの腕を乱暴に掴んだ。

「あ。 済みません。 手が滑りましたぁ」

アイクはそう言うと、ハニエルの腕を掴んでいた獅子族の男の手の甲に、隠し持っていた痺れ薬がたっぷり塗られた暗器を突き刺した。

「あ、ボクもだゾ」

ナルルもニッコリと笑みを浮かべながらそう言って、自分の近くに居た獅子族の男の顔面を、思い切り殴り、数メートル後ろに吹き飛ばした。

 アイクから、痺れ薬を塗られた暗器を、手の甲に突きさ刺された方は、体が痺れたのか、その場に崩れ落ちて動けなくなってしまっている。

「流石の獅子族でも、魔物に効果がある毒は効くみたいですね」

アイクは、自分が暗器を突き刺した相手を静かに見下ろしつつ、ニッコリと笑みを浮かべながら言う。

「ばっちい手で、ハニエルを触るからだゾ」

ナルルも、フンと鼻息荒く、怒った口調でガラの悪い男たちに言った。

「この野郎!」

別の獅子族が怒って、アイクに殴りかかった途端、彼は思い切り目に見えない壁に弾かれ、遥か後方へと吹き飛ばされた。

「人を見た目で判断すると、大怪我をするぞ」

セネトが、自分の胸の前で両腕を組み、淡々とした口調で、柄の悪い男たちに言うと、

「さて。 酸欠で気絶するのと、遥か空の彼方へ吹き飛ぶのと、地面に顔をめり込ませるの……どれが良いか選ばせてやろう」

ロナードが彼女の前に立ち、落ち着き払った口調で、柄の悪い男たちに向かって凄んだ。

「わあ。 素敵な提案ですね」

ハニエルがニッコリと笑みを浮かべ、手を叩きながら言う。

「ふざけるな!」

そう言って、ロナードに殴りかかった獅子族は、一瞬の内に空の彼方へと吹き飛んで行った。

「あと二つだな」

ロナードが、音突き払った口調でそう言うと、他の男たちを睨む。

「あわわわ……」

「わ、わ、悪かった」

「ほんの出来心なんだ」

ロナードに睨まれた彼等は、忽ち顔を青くして、背中から滝の様に冷や汗を流し、焦りの表情を浮かべながら、そう弁明する。

「今後、この様な事が無い様、他の者たちにも徹底させると言うのなら、今回の事は見逃そう。 だが、約束が守られなかった場合、お前たちの責任と見做し、お前たちが何処に居ようと探し出し、報いを受けさせるから覚悟しろ」

ロナードは、自分の胸の前に両腕を組み、落ち着き払った口調で、柄の悪い男たちに向かって言うと、

「は、はひ……」

「す、済みませんでした」

「御免なさい」

彼等は、今にも泣きそうな顔をして、そう返すと、延びてしまった仲間を引き摺る様にして、慌ててその場から逃げ去った。

「全く……。 何処にでも、こういうクズは居るものだな……」

セネトは、慌てて去って行く彼等の背中を見送りながら、呆れた表情を浮かべながら呟いた。

「余計な時間と労力を費やしてしまったが、皆、怪我などは無いか?」

ロナードは、軽く溜息を付いてから、一緒に居た者たちに向かってそう問い掛ける。

「ある訳がないゾ」

「愚問ですよ」

ナルルとアイクは、不敵な笑みを浮かべながら、ロナードにそう返した。

「そうだな」

ロナードは苦笑いを浮かべ、そう二人に返した。


「里の人達の話では、少し前まで、毎日の様に現れていらしいですが……。 どう言う事でしょうか」

ハニエルは、ロナード達と共に結界の修復作業をしながら、里の者たちに、例の瘴気を吐く蛇の魔物について話を聞き、彼等の話から、この最近、その魔物が現れていない事に、疑問を抱き、神妙な面持ちでそう呟いた。

「此処に滞在して、もう五日は経つのだが……。 例の魔物が一向に姿を現さないとは……」

カルセドニ皇子も、直ぐにでも戦闘になると思っていたのだが、魔物が一向に姿を現さないので、拍子抜けして居る様だ。

「本能的に危険を感じたのか、それとも……他に理由があるのか……」

セネトも、真剣な面持ちでそう呟く。

「単純に考えれば、我々に倒されては困るからだろうな」

シリウスは肩を竦め、皮肉たっぷりにそう言うと、ロナードも真剣な表情で頷きながら、

「俺もそう思う」

「若しくは、リリアーヌさんに手柄を立てさせたいか……」

ハニエルも、真剣なお持ちで言うと、

「そうね。 そろそろ後発隊が到着するし……」

ルチルも神妙な表情を浮かべ、自分の顎の下に片手を添えながら言った。

「あの女が来る前に、片付けたかったが、思い通りにはならない様だな……」

シリウスは、もどかしそうに言うと、

「どうするんです? 聖女様は」

アイクは、戸惑いの表情を浮かべながら、シリウス達に問い掛ける。

「絶対に、ロナードに接触しようとして来る筈だわ」

ルチルが、真剣な表情でそう言うと、ギベオンも真剣な面持ちで、何度も頷いている。

「相手が、ロナードがどれか分からない様にすれば良いのだから、背格好の似た者に揃いのローブを着せて、仮面でも付けさせたらどうだ?」

セネトが、自分がお持ち着いた事を提案すると、

「このクソ暑いのにか?」

シリウスが眉を顰め、そう突っ込んできた。

「魅了の力を使われれば、一発でバレますよ」

ハニエルが、苦笑いを浮かべながらそう指摘すると、

「そうだな……」

セネトは、しゅんとした表情を浮かべ、そう呟いた。

「単純に、セティや私たちがロナードに張り付いて、近付けない様にしたら良いんじゃない? 要はロナードを一人にしなければ良いんだし」

ルチルが、落ち着いた口調でそう言うが、

「ですが、自分たちが彼女の魅了に掛かってしまったら……」

ギベオンが、不安そうな表情を浮かべながら言う。

「そんな事もあろうかと、ルフト様に魅了を無効化する魔道具を開発して頂きました。 まだ、量産は出来ませんが、差し当たって、私たちの分はありますよ」

ハニエルはニッコリと笑みを浮かべ、不安そうにしているギベオンやルチルに言う。

「ルフト様ナイス!」

アイクが思わずそう言うと、グッと親指を立てる。

「何時もは冴えない感じなのに、あの子、本当に魔道具に関しては天才的ね」

ルチルは、ちょっと皮肉交じりにそう言うと、それを聞いて、ロナードは思わず苦笑いを浮かべる。

「私は、名前だけでは、誰なのか分からないのだが……」

カルセドニ皇子は、戸惑いの表情を浮かべながらその様な事を言っている。

「ふむ。 腐っても、アルスワット公爵家の跡取りと言う訳か」

シリウスは、完全に嫌味たっぷりに、そう呟いている。

(ルフト。 散々に言われているぞ……)

周囲の反応に、ロナードはルフトの事が気の毒になり、心の中でそう呟くと、軽く溜息を付いた。

「ロナードも付けて下さい。 何かしらの手段を使って、魅了眼の力を増幅している可能性もあります」

ハニエルはそう言うと、懐からルフトから預かった魔道具の腕輪を差し出した。

「分かった」

ロナードは、魔道具の腕輪を受け取ると、それを自分の腕に付ける。

(後でルフトに、この魔道具の効果の程や使い勝手など、詳細に報告してやろう)

ロナードは、魔道具の腕輪を見ながら、心の中でそう呟いた。

「ちょっと思ったんだけど、彼女って常用的に魅了眼の力を使ってるイメージがあるのだけれど、それって大丈夫なの?」

ルチルは、手渡された魔道具の腕輪を付けながら、徐に問い掛ける。

「大丈夫な訳がないだろ」

シリウスが、淡々とした口調で言うと、

「魔女の瞳の力とは本来、切り札的な物です。 それを常用的に使っていれば、早くに失明する危険性もあるのは勿論ですが、心身にも負担が生じている筈です」

ハニエルが真剣な面持ちで、ルチルたちにそう説明をする。

「魔道具だけでなく、薬などにも頼っている可能性があるかもな……」

セネトが、真剣な面持ちでそう指摘すると、

「成程。 だからユリアスに異常な程に執着しているのか」

カルセドニ皇子は、何処か納得した様子で呟く。

「それは、そう言った事とはまた、別の理由かも知れません」

ハニエルは、複雑な表情を浮かべながら言った。

「と言うと?」

ルチルは、真剣な面持ちでハニエルに問い掛ける。

「切っ掛けは、純粋に彼女のロナードへの気持ちなのかも知れませんが……。 彼女の想いを異質な物にまでしたモノがあるように思えます」

ハニエルは、複雑な表情を浮かべながら、自分の見解をルチルたちに語ると、ロナードは物凄く複雑な表情を浮かべ、押し黙る。

「洗脳や呪術……」

セネトも、物凄く険しい表情を浮かべながら呟く。

「やはり、そうなのか?」

カルセドニ皇子の目から見ても、リリアーヌのロナードに対する言動が異常に見える様で、真剣な面持ちでハニエルに言う。

「そうでなければ、幾ら好きでも此処までしないだろう。 普通は」

シリウスが、落ち着いた口調でそう指摘すると、

「確かに……」

アイクも、神妙な面持ちで呟く。

「そして、彼女をその様にしてしまったのは恐らく……」

ハニエルが真剣な面持ちで言うと、

「クリストファー……」

ロナードは、何とも言い難い、複雑な表情を浮かべながら呟くと、ハニエルは頷き返し、

「十中八九、彼の仕業だと私も思って居ます」

「本当に、救いようのない鬼畜だな……」

シリウスは、アイリッシュ伯に対して、強い嫌悪に満ちた表情と口調でそう呟いた。

「そもそも、彼もどうして、こうもロナードに拘るのか……」

セネトは、真剣な表情を浮かべながら呟く。

「奴もまた、誰かに洗脳されている可能性もあるが……。 だからと言って、奴がしている事が許される訳では無いし、同情の余地も無い」

シリウスは、淡々とした口調でそう言うと、ハニエルも頷いてから、

「ハッキリしている事は、彼等の背後にはイシュタル教会が居ると言う事です。 彼等がロナードを使って何をしようとしているのか……。 それが明らかにならない限り、第二、第三のアイリッシュ伯やリリアーヌ嬢が現れるだけだと思います」

真剣な面持ちと、重々しい口調で自分の見解を語る。

「……」

ロナードは、何とも言えぬ表情を浮かべる。

「奴等が、シードを探して居る事と、ユリアスが関係しているのか……それも気になる」

シリウスは、自分の顎の下に手を添え、真剣な面持ちで呟く。

「シードの事は、オルゲン将軍が調べてくれている。 何か分かれば、連絡がある筈だ」

セネトが、落ち着いた口調で語る。

「サリアにも、それとなくシードの事は話してある。 何か……分かれば良いのだが……」

シリウスは、複雑な表情を浮かべながら言った。

「シードか……。 一つでも此方の手の内にあれば、少しは事情が変わるかもな……調べてみる価値はありそうだ」

カルセドニ皇子も、神妙な表情を浮かべながら呟く。


(呆れるぐらいに分かり易いな……)

ロナードは、呆れた表情を浮かべながら、心の中で呟いた。

「やれやれ……。 聖女様が到着と同時に、例の魔物が現れるなど、都合が良すぎるだろ……」

例の瘴気を吐く巨大な蛇の魔物が、里の近くに現れ、獅子族たちは一様に不安そうに、右往左往している様を、シリウスは他人事の様に、冷ややかに見据えながら、淡々とした口調で言う。

「どうやら、この蛇の化け物と、聖女を推している連中は仲間の様だな。 聖女に手柄を取らせたいらしい」

カルセドニ皇子は、慌てている獅子族たちとは対照的に、何かの儀式をするのか、黙々と準備に取り掛かっている、リリアーヌと共に遅れて来た寺院の者たちを見ながらそう言った。

 何度も打ち合わせをしたかの様に、彼等はテキパキと儀式の準備をしている。

「聖女に実績を積ませ、ティアマト大老子を排して、頭の中が花畑な聖女を大老子に据え、自分たちの良い様に操ろうと言う魂胆が見え見えだ」

セネトは、嫌悪感の満ちた表情を浮かべながら、そう言った。

「リリアーヌも、リリアーヌだわ。 自分が連中に利用されていると、気が付かないのかしら?」

セネトの側に居たルチルが、呆れた表情を浮かべながら呟くと、

「気付いていても、『ユリアスをモノに出来る』と言われれば、何だってするだろうよ。 そう言う女だ。 アレは」

シリウスが、淡々とした口調で言うと、それを聞いたルチルの表情が強張った。

「そんな女に好かれる俺も、大概だとか言いたいんだろう? 兄上」

ロナードは、苦笑いを浮かべながらシリウスに言うと、

「良く分かっているじゃないか」

シリウスは、意地の悪い笑みを浮かべながら返した。

「さて。 聖女様のご到着の様ですよ」

向こうから、屈強な男たちが担いだ神輿に乗ったリリアーヌが、護衛と思われる兵士と、儀式の補助をする為か、数人の修道女を引き攣れて、ゆっくりと広場に集まった人々の前に来ているのを見て、アイクがそう言った。

 屈強な男たちが担いでいた神輿をゆっくり降ろすと、リリアーヌは近くに居た兵士の手を借り、ゆっくりと神輿から降りると、集まった人々に対し、満面の笑みを浮かべ、彼女を慕う寺院の兵士や修道士たちの声に応える様に、手を振っている。

 一方の獅子族は、何事だろうかと言った様子で、一様に戸惑いの表情を浮かべながら、自分たちの前に現れたリリアーヌを見ている。

「此方に居られるお方は、聖女リリアーヌ様である」

他の修道士よりも、立派なローブに身を包んだ男が、集まった者たちに聞こえる様に、良く通る声でそう言った。

 『聖女』と聞いて、里の獅子族たちは驚いている様であった。

「これから、聖女様が魔物を倒す為、幻獣を召喚する儀式をなさる。 皆の者は心して儀式に臨む様に」

その男は続けて、集まった人々にそう告げた。

「幻獣を召喚するには、こういった儀式を毎回する必要があるのか?」

カルセドニ皇子は、戸惑いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。

「単なるパフォーマンスだ。 そうする事で、獅子族が有難がるとでも思って居るのだろう」

ロナードの代わりに、シリウスが淡々とした口調で言うと、

「若しくは、これまで彼女が召喚した事が無い、上級の幻獣を召喚する為なのか……」

ハニエルが、真剣な表情を浮かべながら言うと、

「何にしても、幻獣にお布施は必要ないのは確かだな」

セネトは、寺院に入って日が浅そうな修道士が数人、両手で抱える程の銀色の杯を抱え、集まった人々の側を通り、金品を回収している姿を見て、苦笑い混じりに言った。

 修道士や兵士などは、何の躊躇も無く、銀杯の中に持ち合わせていた金を投げ込んでいる。

 その様子を見せる事で、儀式の事など良く分かっていない獅子族たちに、自分たちも同じようにしなければならないと言う、雰囲気を作り出している。

「幻獣が、金を食う訳でも無かろうに」

カルセドニ皇子は、苦笑いを浮かべながら呟く。

 寺院は何かに付けて、『お布施』や『浄罪金』と称し、集まった人々から金を集める。

 集めた金品が何に使うのか一切、人々に説明をする事も無く……。

 最初は、熱心な信者や寺院の関係者の所を回り、彼等が有難がって金品を投げ入れる様を、他の集まった人々に見せつける。

 そうする事で、他の者たちもそうしなければならないと言う心理に陥らせるのだ。

 今回の場合は、寺院の信仰心と言うよりも、自分たちの生活を脅かす魔物を退治する幻獣が、無事に召喚出来る様にと言う名目で、ガイア神教の信者ではない獅子族たちからも金を集めるつもりの様だ。

 獅子族たちも、自分たちの為に儀式をしているのだと言われれば、金を出さない訳にもいかなくなる。

(狡猾だな)

戸惑いながらも、銀杯に金を投げ入れている獅子族たちを見ながら、ロナードは心の中でそう呟いた。

 召喚の術の詠唱をするリリアーヌの後ろで、修道女たちが太鼓の音に合わせて召喚の為の舞を踊り、雰囲気を盛り上げている……。

 これから、魔物に挑む兵士たちを鼓舞する為でもあるだろうが、それにしても……。

「随分と賑々しいな」

シリウスは、物凄く冷めた口調でそう言い放った。

「何時から、幻獣を召喚するのに、こんな賑々しい事をする様になったのでしょうか」

ハニエルも、苦笑いを浮かべながら呟く。

「楽しそうだゾ! ボクも一緒に踊るゾ」

ナルルは目を輝かせながらそう言うと、太鼓の音に合わせて楽しそうに踊り出してしまった。

「やれやれ……。 儀式とやらは何時までするんでしょうかね?」

嘗ては、自分が在籍していた寺院の者たちに対し、物凄く複雑な表情を浮かべながらも、流石にやり過ぎではと思って居るのか、少し呆れた様な顔をして、そう呟いている。

「……もう、我々だけで倒してしまおうか」

儀式がいつ終わるのか見当もつかないので、カルセドニ皇子はポロリと思わず呟いた。

「確かに。 我々がコレに付き合わねばならない義理は無いですね」

セネトも、ボソリとそう言った。

「こんな事をしている間にも、魔物が暴れて、瘴気塗れになった土地が広がっているでしょうに……」

ルチルも、複雑な表情を浮かべながら呟く。

「所詮は、他人の土地だからな。 此処がどうなろうと、帝都に住む連中が困る訳ではないからな。 焦らすだけ焦らして、獅子族を追い詰め、魔物退治の対価と称して、搾り取れるだけ、搾り取ろうという魂胆なのだろう」

シリウスは、両腕を胸の前に組み、淡々とした口調で言う。

「酷いゾ! 目の前で困っている人が居るのに!」

ナルルは、憤りを隠せない様子で言う。

「残念だが、今の寺院は自分たちの利益を得る事しかしない。 人々の救済は二の次だ」

カルセドニ皇子は、沈痛な表情を浮かべながら、ナルルに言う。

「そんなの可笑しいゾ!」

ナルルは、カルセドニ皇子の腕を掴み、強い口調で言った。

「お前の様に、声を大にして批判をすれば、その者の立場や生命が危うくなる。 だから皆、そう思って居ても言えない。 誰だって、自分の身は可愛いからな」

カルセドニ皇子は、沈痛な表情を浮かべながら、ナルルに言った。

「そんな……」

ナルルは、カルセドニ皇子の腕を掴んたまま、力なくそう呟くと、その場に崩れ込んだ。

「安心しろ。 私が腐った連中を一人残らず粛清してやる。 お前の様に、寺院の身勝手で涙を流す者が居なくなる様に」

カルセドニ皇子は、落ち着いた口調でナルルにそう言うと、彼女は弾かれた様に彼を見上げる。

「まずは、腐った連中の手先である、エセ聖女を排除してやる」

シリウスは、不敵な笑みを浮かべながら言うと、

「良いわね。 とことん付き合おうじゃない」

ルチルが不敵な笑みを浮かべながら言うと、ギベオンも真剣な面持ちで頷き、

「態々ここまで来て、何もしないで帰るなど、有り得ません」


「た、大変です!」

幻獣を召喚する儀式をしていた者たちの下に、寺院の若い兵士(へいし)が血相を変えて駈け込んで来た。

「何だ? 儀式の最中だぞ」

儀式を取り仕切っていた、壮年の司祭が五月蠅そうな表情を浮かべながら、そう問い掛ける。

「せ、先発隊(せんぱつたい)が……魔物(まもの)の討伐に……」

寺院の若い兵士(へいし)は、息を切らせながらそう報告(ほうこく)する。

「何だと?」

報告(ほうこく)を聞いて、壮年の司祭は表所を険しくする。

「『いつ終わるか分からない儀式など待ってはいられない』と言って……」

寺院の若い兵士(へいし)は、息を整えながらそう続ける。

「何と罰当たりな! 先発隊(せんぱつたい)は誰が指揮をしていた?」

壮年の司祭は、忌々し気にそう問い掛けると、

「か、カルセドニ殿下です……」

寺院の若い兵士(へいし)は、恐る恐るそう言うと、壮年の司祭は思い切り、持っていた杖を地面に叩き付け、

「あの、若造がっ!」

苛立った口調でそう言ってから、

「今直ぐ、止めさせろ!」

報告(ほうこく)に来た、寺院の若い兵士(へいし)にそう命じる。

「わ、私も何度も止めましたが、聞き入れては下さらず……」

彼は、困り果てた表情を浮かべながら、壮年の司祭にそう説明する。

「皇太子でもない小僧が、出しゃばりよって! 私が直接行って止めて来る。 儀式は引き続き行う様に」

壮年の司祭は、忌々し気な表情を浮かべ舌打ちすると、周囲に居た者たちに命じた。


(何故、)

「結界を展開しろ!」

カルセドニ皇子(おうじ)の緊張した声が辺りに響き渡る。

 カルセドニ皇子(おうじ)が率いる先発隊(せんぱつたい)は、問題の瘴気を吐く巨大(きょだい)(へび)の化け物の瘴気が及ばない程の距離を保ちつつ、周囲を取り囲み、魔術師(まじゅつし)たちに結界を展開する様に命じる。

「殿下! 勝手をされては困ります!」

先程、寺院の若い兵士(へいし)報告(ほうこく)を受けた、壮年の司祭は護衛(ごえい)兵士(へいし)たちを引き連れ、憤った様子で、指揮を執っていたカルセドニ皇子(おうじ)に向かって怒鳴る。

「あの様に勿体ぶった事をして、獅子族たちから金を毟り取って、それで魔物(まもの)が倒せると言うのならば、我らも幾らで待とう。 だが、実際はそうでは無い。 故に、これ以上の被害を防ぐ為に動いたまでの話。 それを余計な事と言うのなら、其方らがやっている事こそが、余計な事そのものではないか」

カルセドニ皇子(おうじ)は、落ち着いた口調で、壮年の司祭にそう言った。

「ガイア神に仕える者が、その様な言い様するとは、聞き捨てなりませぬな」

壮年の司祭は表情を険しくし、強い口調でカルセドニ皇子(おうじ)に言い返す。

「その神の名を語り、人々から金を毟り取っているのはどこの誰だ?」

カルセドニ皇子(おうじ)の側に居たシリウスが、冷ややかな視線を剥け。淡々とした口調で指摘する。

「貴様! 神を侮辱するか!」

壮年の司祭はカッとなり、シリウスに怒鳴り返すが、

「神を侮辱しているのはどちらか?」

彼は、冷ややかに壮年の司祭を見据えたまま、淡々とした口調で言う。

「咎ならば、魔物(まもの)を討伐した後で幾らでも受ける」

カルセドニ皇子(おうじ)は落ち着いた口調で、憤っている壮年の司祭に言うと、

「どう罰する? 本気で仰っているのですか?」

彼は、何処か馬鹿にした様な口調で、カルセドニ皇子(おうじ)に問い掛ける。

「無論だ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、自分たちの事を嘲笑う、壮年の司祭に真剣な面持ちで答えると、

「無理ですよ。 歴代の大老子(だいろうし)でさえ、奴を封印するのが手一杯だと言うのに」

彼は、馬鹿にした様に笑いながら、カルセドニ皇子(おうじ)に言う。

「『封印する他ない』と思い込まされていたのだから、無理もない」

カルセドニ皇子(おうじ)は、不敵な笑みを浮かべながら言う。

「大体、あんな巨大(きょだい)な物を倒したら、辺り一面が瘴気に汚染されてしまいますぞ!」

壮年の司祭は、強い口調でそう指摘すると、

「倒さなくても、もう既に瘴気に汚染されているだろうが」

シリウスが、淡々とした口調でそう指摘すると、壮年の司祭の側に居た若い兵士(へいし)が、

「確かに……」

ボソリとそう呟くと、それを聞いて壮年の司祭がギロッと彼を睨んだ。

「まあ、見て居ろ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、不敵な笑みを浮かべながら言う。

「準備、整いました」

ロナードが連れて来た、宮廷魔術師(まじゅつし)がそうカルセドニ皇子(おうじ)に声を掛ける。

「よし。 では一斉に攻撃開始!」

カルセドニ皇子(おうじ)がそう言って、周囲に居る者たちに手を掲げ、振り下ろす仕草をすると、兵士(へいし)たちは一斉に弓を構え、雨の様に矢を放つ。

(馬鹿め。 矢など射掛けても、奴の強靭な鱗に弾かれるだけだ)

それを見た壮年の司祭は、心の中でそう呟くと、ニヤリと笑みを浮かべた。

 だが、彼の予想に反して、兵士(へいし)たちが放った矢は、巨大(きょだい)(へび)の化け物の体にぶつかると、小さな電撃を放つ。

「なっ……。 どうなって……」

それを見て、壮年の司祭は戸惑いの表情を浮かべ、呟く。

「雷の魔術(まじゅつ)を付与した、クズ魔石を矢じりを使ったのだ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、驚愕の表情を浮かべている、壮年の司祭にそう説明する。

 クズ魔石とは、小さ過ぎたり、強度不足などで魔道具の加工に適さない魔石の事だ。

 本来、魔石には術を発動させる為の術式を刻むのだが、その魔術(まじゅつ)を直接、魔石流し込めば、一度限りではあるが使う事が出来る。

 使い捨てになってしまうので、需要が無い事の方が多いのだが、武器として使える事にルフトが気が付いたのだ。

 致命的な傷は負わせる事が出来なくとも、電撃は体の内部にもダメージを与える為、確実消耗させる事が出来る。

 そこに、全身は光沢のある濃いエメラルドグリーン、尾羽近くの羽の色は黒、腹部が鮮やかな赤、黄色い曲がった嘴、美しく長い飾り羽を持った、悠に三メートルはあろうかと言うほど巨大(きょだい)な鳥……。

「おお! 聖さまがお呼びになったに違いない!」

それを見た、壮年の司祭は嬉々とした表情を浮かべ、声を弾ませながら言ってから、

「儀式を無視したにも関わらず、救いの手を差し伸べて下さった聖女さまに、感謝なさるのですね」

勝ち誇ったような顔をして、カルセドニ皇子(おうじ)たちに言った。

「……何を言っているんだ? 貴殿は」

カルセドニ皇子(おうじ)は、物凄く冷めた口調で言うと、自分の予想とは異なる反応を示すかれに、壮年の司祭は戸惑う。

「あれは、弟の幻獣だが」

シリウスが、淡々とした口調で言うと、

「何を言っている! 召喚師は聖女さま以外に……」

壮年の司祭は激怒し、声を荒らげてそう言っていたが、直ぐにハッとした表情を浮かべ、

(そうだ。 リュディガー伯爵も召喚師だと言う噂が……)

心の中でそう呟くと、恐る恐るカルセドニ皇子(おうじ)の方を見る。

「貴殿は、聖女が光属性を持っていない事を知らないのか?」

カルセドニ皇子(おうじ)は、淡々とした口調で言うと、

「それどころか、やみ……」

シリウスが、意地の悪い表情を浮かべそう言い掛けると、カルセドニ皇子(おうじ)は彼を片手で制し、

「それは、聖女の名誉の為に言ってやるな」

「あの女の所為で弟は迷惑している事は、お前も知っているだろう? 我々があのエセ聖女の名誉を守ってやる義理など無い筈だ」

シリウスは、ムッとした表情を浮かべ、カルセドニ皇子(おうじ)に言い返す。

「それでも、黙っておいてやれ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、複雑な表情を浮かべながら言うと、シリウスは、不服そうな表情を浮かべながらも、その口を噤んだ。

 そうこうしている間にも、巨大(きょだい)な鳥が繰り出す雷を数回見舞われ、巨大(きょだい)(へび)魔物(まもの)は、全身から白い煙を上げ、辺りには肉が焼ける匂いが漂う……。

「もう一押し……と言ったところか」

カルセドニ皇子(おうじ)はその様を見て、落ち着いた口調で呟く。

 すると、巨大(きょだい)(へび)の化け物は、急にその長い体を縮込ませはじめた。

(何をする気だ?)

シリウス達とは別の場所に居るロナードの傍らで、その様子を見ていたアイクが心の中で呟いていると、ロナードがハッとした表情を浮かべ、

「ケツァール! 上昇しろ!」

幻獣に向かって叫んだ。

 アイクは『まさか』と思った次の瞬間、巨大(きょだい)(へび)は縮込ませていた体をバネの様に伸ばし、その巨体で大きくジャンプをし、自分の頭上に飛んでいたケツァールの首元を目掛けて飛び掛かった。

 間一髪、ロナードの叫び声を聞いて上昇していたケツァールは回避する事に成功するが、巨大(きょだい)(へび)の化け物は口から瘴気をケツァールに向かって浴びせた。

「あの(へび)っ!」

それを見て、アイクは忌々し気に呟く。

 浴びせられた瘴気に触れたケツァールの体が、大きく揺らぐ。

(畳み掛ける他ない!)

瘴気を浴び、負傷(ふしょう)したケツァールを見て、ロナードは苦々しい表情を浮かべながら心の中で呟く。

「ありったけの雷を叩き込め!」

ロナードは、ケツァールに向かって叫ぶ。

 彼の声を聞いて、ケツァールは眼前に雷の塊を作り始める。

 巨大(きょだい)(へび)の化け物も、これを食らっては一溜りも無いと思ったのか、先程の様にケツァールに飛び掛かろうと、再び身を縮込ませる。

「そう何度も」

「同じ手は使わせませんよ!」

それを見た、セネトとハニエルがそう叫ぶと、同時に魔術(まじゅつ)を放った。

 二人が放った、風の刃と氷の刃は勢い良く、巨大(きょだい)(へび)魔物(まもの)の顔に炸裂した。

 魔物(まもの)は悲鳴を上げながら、大きく体をくねらせる。

 その隙にケツァールが、顔の前で凝縮していた雷の塊を、巨大(きょだい)(へび)魔物(まもの)に放った。

 鼓膜が破れそうな程の轟音と共に、雷の塊は巨大(きょだい)(へび)魔物(まもの)に直撃し、全身から白い煙を放ちながら黒焦げになり、ズドーンと言う地響きを立てながら、その巨体を地面の上に横たえた。

辺りに肉の焼けた匂いが漂った。

「や、や、やったぞ!」

「倒した!」

「やっつけたぞ!」

暫くの成熟の後、討伐に参加していた兵士(へいし)たちの間からか歓喜の声が響き渡った。

「そんな……」

周囲の者たちが歓喜の声を上げている中、壮年の司祭だけが真っ青な顔をして、そう呟いていた。

 この魔物(まもの)を倒すのは、聖女であるリリアーヌだった。

 彼は、その聖女に助力した者として、寺院で確固たる地位を手にする筈であった。

 それが……ほんの少し目を離した間に……。

 長い間、地方の亜人たちを中心に何年もの間、人々の生活を脅かしてきた存在が、地面が瘴気に汚染された事以外、大した被害も出さずに、こうもあっさりと……。

「やはり……幻獣ではなかったのだな……」

黒焦げになり、動かなくなった巨大(きょだい)(へび)魔物(まもの)を見て、カルセドニ皇子(おうじ)はそう呟いた。

「情報通りだな」

シリウスも、淡々とした口調で言う。

(何を……言っている?)

壮年の司祭は、彼等(かれら)が言っている意味が理解出来なかった。


魔物(まもの)が……倒された?」

少し遅れて、自分たちが召喚の儀式をしている間に、魔物(まもの)先発隊(せんぱつたい)によって倒されたと言う知らせが、獅子族の里に居たリリアーヌたちや里の者たちの間に知れ渡った。

「じゃあ……この人たちは、一体何をして……」

里の者たちの誰かが、そう呟いたのが聞こえた。

「おい! お前たちが言うから、金を払ったんだ!」

「もう倒したなら、儀式をする必要も無いよな?」

「おれたちから集めた金を返せ!」

聡い者たちが、怒りに満ちた表情を浮かべ、声を荒らげながら、リリアーヌの近くに居た修道女や修道士たちに詰め寄って来ている。

「お、お、落ち着いて下さい!」

「まだ、確認が取れて……」

リリアーヌの周りに居た修道女や修道士たちは、自分たちに詰め寄る里の者たちの雰囲気に押されつつも、必死にそう言いながら、何とかして彼等(かれら)を落ち着かせようとしている。

 そこへ、カルセドニ皇子(おうじ)が指揮していた先発隊(せんぱつたい)が戻って来て、彼等(かれら)を諫めに行っていたいた壮年の司祭が項垂れて戻って来た。

魔物(まもの)は討伐した」

カルセドニ皇子(おうじ)は、良く通る声で集まっていた人々にそう告げた。

「う……そ……」

リリアーヌは、愕然とした表情を浮かべながら呟く。

(何でそんな簡単に、倒されてるの?)

彼女は、愕然とした表情を浮かべながら、心の中でそう呟いた。

「我々は長い間、偽の情報に踊らせていたのです。 あれは幻獣ではなく、持った魔物(まもの)だったのです」

カルセドニ皇子(おうじ)の傍らに居たハニエルが、事態を飲み込めていない寺院の者たちに対し、そう説明をする。

「事実、前に我々が襲撃(しゅうげき)された際、吹き飛ばした首はそのままだった。 実体を持たない幻獣ならば、再び姿を現した際、吹き飛ばした首は元通りになっている筈だ。 つまり、奴が実体を持つ魔物(まもの)である事の何よりの証拠だ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、落ち着き払った口調で説明する。

「ど、どう言う事?」

「自然発生していたんじゃないのか?」

カルセドニ皇子(おうじ)の説明を聞いて、寺院の者たちの間にも動揺が広がる。

「何者かが故意に、捕らえた魔物(まもの)を意図的に放っていたのだ」

カルセドニ皇子(おうじ)がそう告げると、その場に居た者たちの間に衝撃が走った。

「そ、それはつまり……」

「誰かが意図的に、あの魔物(まもの)に我々の里を襲わせていた……と言う事ですか?」

里の者の誰かが、おずおずとそう問い掛けると、周囲に動揺とざわめきが起きた。

「そうだ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、淡々とした口調で答える。

 彼の返答に、里の者たちだけではなく、寺院の関係者たちの間にも動揺が広がった。

「今までは、魔物(まもの)が『召喚石』と呼ばれる石に再び封じ、自在に出し入れをしていたのでしょう。 ですが、その『召喚石』を持った者が今回、魔物(まもの)の近くに居なかった。 だから、魔物(まもの)を再び石に閉じ込める事が出来なかったのです」

ハニエルは、落ち着き払った口調でそう説明してから、

「そうですよね? 聖女さま」

カルセドニ皇子(おうじ)がそう言うと、人々の視線が一斉にリリアーヌに注がれる。

「な、何の事でしょうか……」

一斉に人々から注目され、リリアーヌは動揺の色を隠せない様子で、そう返した。

「なら。 その手に持っている物はなんだ?」

シリウスが、冷ややかな口調でそう言うと、リリアーヌはハッとして慌てて、自分の手に握りしめていた物を、自分の背後に隠そうとするが、それよりも早くアイクが彼女の腕を掴み、乱暴に捩じり上げると、リリアーヌは痛みに表情を歪め、持っていた物を取り落とした。

 地面に転がったそれは、人の掌程の大きさの石で、何やら不思議な文字が刻まれていた。

「誤解です! これは、儀式が上手く行く様にと、お守りに渡されただけで……」

リリアーヌは慌てて身を屈め、地面に落ちたそれを拾い上げると、周囲に居た者たちに、そう言って弁明する。

「見苦しいですよ。 リリアーヌさん。 鑑定すればそれが何か、直ぐに分かりますよ」

ハニエルが、淡々とした口調で言うと、リリアーヌは表情を引き攣らせる。

「儀式の最中に、召喚者である貴女が場を離れる事は出来ないからな」

カルセドニ皇子(おうじ)は、動揺を隠せないリリアーヌに淡々とした口調で言うと、

「かと言って、急ぎケートスを召喚し、魔物(まもの)護衛(ごえい)をさせる訳にもいかない。 お前が、どうして良いか考えている間に、我々が魔物(まもの)を倒してしまったと言う訳だ」

シリウスが、淡々とした口調でそう指摘すると、リリアーヌは真っ青な顔をして黙り込む。

「弁明ならば、後で幾らでも聞こう」

カルセドニ皇子(おうじ)は、落ち着いた口調でリリアーヌに言ってから、

「聖女を連行しろ」

近くに居た兵士(へいし)にそう命じた。

「わ、私は何も知りません! 私は悪くない! 私は悪くないッ!」

リリアーヌは、自分を拘束する為に近付いて来た兵士(へいし)の手を払い、そう叫ぶと、彼女の目が黄金色に輝き出した。

「見るな!」

シリウスはそう言って、近くに居たカルセドニ皇子(おうじ)の視界を遮る。

「私は聖女。 私が正しい」

リリアーヌは、不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、

「聖女さまは正しい」

「聖女さまが全て」

「聖女さまに従え」

彼女の側に居て、彼女の目を真面に見てしまった物たちは、虚ろな表情を浮かべながら、ボソボソとその様な事を呟いている。

「くっ……」

その様子を見て、シリウスが苦々しい表情を浮かべていると、何処からか、男性の歌声が響いて来た。

「ハニエル?」

シリウスは、ハッとした表情を浮かべ、自分の側に控えていたハニエルを見る。

 彼は、両目を軽く閉じ、古代語だろうか。

聞いた事も無い言葉で、凡そ人の声とは思えぬ、天上から降り注ぐ様な美しい歌声を紡いでいた。

すると、リリアーヌの瞳の力に魅了され、虚ろな表情を浮かべていた人々は、ハッとした表情を浮かべる。

「わ、私たちは……何を?」

「何で……聖女さまが正しいと……」

正気を取り戻した人々は、戸惑いの表情を浮かべながら、口々にそう呟く。

「魔女だ!」

「その女は聖女なんかじゃない!」

「人の心を誑かす悪魔だ!」

「騙されるな!」

リリアーヌの『魅了眼』の影響を受けず、彼女の周囲に居た人達の様子が一瞬で変わった様を見ていた、獅子族たちはリリアーヌを指差しながら、口々にそう叫びだした。

「ひっ……」

人々から一斉に怒りの感情を向けられ、リリアーヌは彼等(かれら)の雰囲気に恐怖を覚え、表情を引きつらせる。

「いけない」

里の者たちが今にも、リリアーヌにに危害を加えそうな雰囲気に、カルセドニ皇子(おうじ)は表情を険しくし、そう呟く。

「此方へ」

怒りを向けて来る獅子族たちに、リリアーヌは恐怖し、足が竦んで動けないで居ると、何処からか現れた青年がそう言って彼女の手を掴むと、自分たちに詰め寄って来る獅子族に気を取られ、彼女に背を向けていた寺院の関係者たちに気付かれぬ様、素早くその場から離れた。


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