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DRAGON SEED 2  作者: みーやん
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風のガルーダ

主な登場人物


ロナード(ユリアス)…召喚術(しょうかんじゅつ)と言う稀有(けう)な術を(あつか)えるが(ゆえ)に、その力を()が物にしようと(たくら)んだ、(かつ)ての師匠(ししょう)に『隷属(れいぞく)』の呪いを掛けられている。 その呪いを()(ため)、エレンツ帝国(ていこく)を目指している。 漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な美青年。 十七歳。


セネト(セレンディーネ)…エレンツ帝国(ていこく)皇女(こうじょ)。 とある事情(じじょう)から(のが)れる(ため)、シリウスたちと行動(こうどう)を共にしている。 補助(ほじょ)魔術(まじゅつ)得意(とくい)とする魔術(まじゅつ)()。 フワリとした癖のある黒髪(くろかみ)琥珀(こはく)色の大きな(ひとみ)特徴的(とくちょうてき)な女性。 十九歳。


シリウス(レオフィリウス)…ロナードの生き別れていた兄。 自身は大剣を自在(じざい)(あやつ)る剣士だが、『封魔(ふうま)(がん)』と言う、見た相手(あいて)魔術(まじゅつ)の使用を(ふう)じる、特殊(とくしゅ)(ひとみ)を持っている。 長めの金髪(きんぱつ)に紫色の双眸(そうぼう)を持つ美丈夫(びじょうぶ)。 二二歳。


ハニエル…傭兵業(ようへいぎょう)をしているシリウスの相棒(あいぼう)鷺族(さぎぞく)と呼ばれている両翼人(りょうよくじん)。 治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)薬草学(やくそうがく)得意(とくい)としている。 白銀(はくぎん)長髪(ちょうはつ)と紫色の双眸(そうぼう)を有している。 物凄(ものすご)い美青年なのだが、笑顔(えがお)を浮かべながらサラリと(どく)()く。


ティティス…セネトの(はら)(ちが)いの妹。 とても傲慢(ごうまん)自分勝手(じぶんかって)な性格。 家族内で立場の弱いセネトの事を見下(みくだ)している。 十七歳。


ルチル…帝国(ていこく)第三(だいさん)騎士団(きしだん)隊長(たいちょう)(つと)めている女性。 セネトと幼馴染(おさななじみ)。 今はティティスの護衛(ごえい)(にん)()いている。 二十歳(はたち)


ギベオン…セネト専属(せんぞく)護衛(ごえい)騎士(きし)。 温和(おんわ)生真面目(きまじめ)な性格の青年。 二十五歳。


ルフト…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)(ちょう)サリアを母に持ち、魔術師(まじゅつし)の一家に生まれた青年。 ロナードたちとの従兄弟(いとこ)に当たる。 二十歳。


ナルル…サリアを(あるじ)とし、彼女とその家族を守っている『獅子族(シーズーぞく)』と人間の混血児(こんけつじ)。 とても社交的(しゃこうてき)な性格をしている。


リリアーヌ…イシュタル教会(きょうかい)で『聖女(せいじょ)』と呼ばれている召喚術(しょうかんじゅつ)を使えるシスター。 ロナードが教会(きょうかい)孤児院(こじいん)に居た(ころ)、親しくしていた。 ロナードに対する恋心(こいごころ)(こじ)らせ、彼への強い執着(しゅうちゃく)(しん)を抱いている。 今はガイア神教(しんきょう)聖女(せいじょ)になっている。


エルフリーデ…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)をしている伯爵(はくしゃく)令嬢(れいじょう)で、ルフトの婚約者(こんやくしゃ)。 ルフトの母であるサリアの事をとても(した)っている


カルセドニ…エレンツ帝国(ていこく)第一(だいいち)皇子(おうじ)でセネトの同腹(どうふく)の兄。 寺院(じいん)(せい)騎士(きし)をしている。 奴隷(どれい)だったシリウスとハニエルを助け、自由の身にした人物。


アイク…ロナードの専属(せんぞく)護衛(ごえい)をしている寺院(じいん)暗部(あんぶ)所属(しょぞく)していた青年。 気さくな性格をしている。


アイリッシュ(はく)…ロナードがイシュタル教会(きょうかい)孤児院(こじいん)在籍(ざいせき)していた(ころ)、彼に魔術(まじゅつ)師事(しじ)をしていた人物(じんぶつ)で、ロナードに呪詛(じゅそ)を掛けた張本人(ちょうほんにん)


セネリオ…ロナードがイシュタル教会(きょうかい)孤児院(こじいん)に居た時に親しくしていた青年。 アイリッシュ(はく)()(あお)ぎ、彼の研究(けんきゅう)に協力している魔術(まじゅつ)()


「うっ……」

目を開け、何気(なにげ)に見上げた天井(てんじょう)は、記憶にないものであった(ため)、セネトは戸惑(とまど)う。

(ここは何処(どこ)だ? (ぼく)はどうして此処(ここ)に……)

戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、セネトは(おもむろ)に身を起して、部屋の中を見回してみる。

 白地に黒のまだら模様(もよう)が入った(かべ)、壁と同じ模様(もよう)の床、全体的に清潔感(せいけつかん)はあるものの、調度品(ちょうどひん)も少なく、生活感のない部屋……。

 何処(どこ)かの屋敷(やしき)の客室だろうか。

 そんな雰囲気(ふんいき)だった。

 誰かが着替(きが)えさせたのか、砂まみれになっていた(はず)の衣服は、清潔感(せいけつかん)のある寝具(しんぐ)になっていた。

 その時、廊下から部屋の扉を開けて、誰かが入って来た。

「目を覚ましたか」

そう声を掛けて来た相手(あいて)は、セネトとそう年の変わらない青年だった。

 焦げ茶色の短髪(たんぱつ)に深い緑色の双眸(そうぼう)、良く日に焼けた赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌、鍛え上げられたガッチリとした体付き、身長(ちょう)は二メートル有ろうかと言う、精悍(せいかん)な顔立ちをしている。

此処(ここ)何処(どこ)だ?」

セネトは、現れた青年に警戒(けいかい)をしながら、そう問い掛けた。

此処(ここ)はカエルム。 お前たち人間には、『鷹族(たかぞく)の里』と言った方が分かり(やす)いか?」

その青年は、落ち着いた口調(くちょう)でそう返すと、

「なっ……」

セネトは、(おどろ)きと戸惑(とまど)いを(かく)せない様子(ようす)(つぶや)く。

「オレはジェド。 族長(ぞくちょう)息子(むすこ)だ。 お前は?」

戸惑(とまど)っているセネトに(かま)う事なく、青年はそう言って来た。

(ぼく)はセネトだ」

セネトは、相変(あいか)わらず警戒(けいかい)をしたまま、そう返すと、

「『(ぼく)』と言うのは、人間の男が使う言葉だろう? それにセネトだなんて。 女なのに男みたいな名前だな?」

ジェドは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、セネトにそう言い返す。

「何で(ぼく)が女だと知っている? まさか、お前が着替(きが)えさせたのか?」

セネトはジェドにそう言い返すと、少し大きめの寝具(しんぐ)を胸元に手繰(たぐ)り寄せ、(かく)す様な仕草(しぐさ)をしながら、顔を赤らめる。

着替(きが)えさせたのはオレの乳母(うば)だ。 お前が女だと言うのは彼女から聞いた。 それに、今のお前の格好(かっこう)はどう見ても女だろ。 胸は大きくは無いが、女だと分かるくらいにはあるし、(しり)だって男にしては肉厚(にくあつ)で丸みがある」

ジェドは、セネトの反応(はんのう)面白(おもしろ)がる様に、ケタケタと笑いながらそう言うと、彼女は益々顔を赤らめ、

何処(どこ)を見ている! この変態(へんたい)め!」

声を荒らげてそう言うと、近くにあった(まくら)をジェドに向かって思い繰り投げ付けたが、彼はヒョイと()け、枕は彼の背後(はいご)にあった壁に虚しく当たって床に落ちた。

「ははは。 こんなに()きの良い女なら、元気な子供を産むに違いない。 髪は伸びるまでは、長髪(ちょうはつ)(かつら)を付ければ良い。 顔だって可愛らしいしな」

ジェドは、セネトの言動(げんどう)に対し、豪快(ごうかい)な笑い声を挙げながらそう言った。

「何を言って……」

セネトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

「風の女神の生贄(いけにえ)にと思い(さら)って来たが、女だと生贄(いけにえ)には出来(でき)ないからな。 村の女はバッとしないし、丁度(ちょうど)()い。 オレの(よめ)にしてやる」

ジェドは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、戸惑(とまど)っているセネトに言った。

「『(さら)って来た』だと? (ぼく)の連れたちはどうした?」

セネトは表情を(けわ)しくし、(うな)る様な声で問い掛ける。

「さあな。 里の連中(れんちゅう)には(ころ)せと言ったからな。 今頃(いまごろ)、死体になって砂の下にでも仲良(なかよ)(うま)まってるんじゃないか?」

ジェドは肩を(すく)め、どうでも良さそうな口調(くちょう)で答えた。

「なっ……」

彼の言葉にセネトは言葉を失うと同時に、強い(いきどお)りが湧き上がってきた。

「あの(へび)一撃(いちげき)見舞(みま)ったのは天晴(あっぱれ)だが、オレたち鷹族(たかぞく)相手(あいて)にして助かる(はず)が無い。 (あきら)めろ」

ジェドは、自分を睨み付けているセネトに、冷ややかにそう言い放った。

「あの中には、(ひど)怪我(けが)をした(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)も居た! お前たちは、あの巨大(きょだい)(へび)を前にして、果敢(かかん)(たたか)った相手(あいて)(うやま)う気持ちすら無いと言うのか!」

「はっ! そんな物が何になると言うんだ? 世の中、奪うか、奪われるか、だ」

ジェドは、馬鹿(ばか)にした様に鼻で笑い飛ばいと、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言う。

今直(います)ぐに、(ぼく)仲間(なかま)の下に戻せ! (ぼく)が助ける!」

セネトは真剣(しんけん)な表情を浮かべ、強い口調(くちょう)で言うと、

「行かせると思うか? 大体、夜の砂漠(さばく)氷点下(ひょうてんか)になる事もある。 そんな薄着(うすぎ)で行ってみろ。 (こご)え死ぬぞ」

ジェドは苦笑いを浮かべ、自分を睨んでいるセネトに言う。

「良く知りもしない、貴様(きさま)(よめ)になるより、遥かにマシだ」

セネトは、ジェドを(にら)み付けたまま、唸る様な声で言う。

「知らないのなら、これから知れば良いだけの話だ。 結婚した後からでも、その時間は十分にあるじゃないか」

ジェドは肩を(すく)め、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言う。

「何を勝手(かって)な! 大体、(ぼく)の気持ちはどうなる!」

セネトは不愉快(ふゆかい)さを露わにしながら、強い口調(くちょう)でジェドに言う。

「は? 女なんてモンは、(だま)って男に抱かれときゃ良いんだよ。 何回か抱いとけばその内、オレ無しじゃあ居られなくなるだろ」

ジェドは、完全にセネトの事を見下した口調(くちょう)で、そう言い放った。

「最低だな」

セネトは、怒りと軽蔑(けいべつ)に満ちた双眸(そうぼう)をジェドに向け、冷ややかなそう言った。

「最低かどうかは、抱かれてみれば分かるだろ」

ジェドは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、自分を(にら)んでいるセネトに言う。

絶対(ぜったい)にお前のなど好きになるものか! 顔だって性格だって、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)の方が数倍(すうばい)()い! お前の様な(けだもの)行為(こうい)の最中にぶっ殺してやる!」

セネトは、ジェドを睨み付けたまま、強い口調(くちょう)で言い返す。

「ははははっ! 面白(おもしろ)い。 だったら、出来(でき)るかどうか、(ため)そうじゃないか」

ジェドは豪快(ごうかい)に笑いながら、余裕(よゆう)に満ちた表情を浮かべ、ゆっくりとセネトに()め寄る。

「く、来るなっ!」

セネトは、嫌悪(けんお)恐怖(きょうふ)の表情を浮かべ、ベットの上で後退(あとずさ)りをする。

「おいおい。 さっきまでの威勢(いせい)はどうした? そんなに震えて。 それじゃあオレなんて殺せやしないぞ?」

ジェドは、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、セネトを見下(みくだ)した様に言うと、ベッドの(すみ)へ身を寄せるセネトにジリジリと近付き、(ふる)えている彼女の腕を(つか)もうとした次の瞬間(しゅんかん)突如(とつじょ)、緑色の空気の壁が現れて、ジェドを勢い良く扉の側の壁まで吹き飛ばした。

「何が……。 起きて……」

セネトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)いていると、

「くそっ! 風の民である鷹族(たかぞく)のオレが、風に(こば)まれるだと?」

ジェドは、ぶつけた背中を片手(かたて)(さす)りながら、ゆっくりと体を起こし、セネトを見ながら言う。

(しかも、さっきの術……コイツの魔力(まりょく)とは別の魔力(まりょく)を感じた。 見た所、()道具(どうぐ)を身に付けている様では無いし……)

ジェドは、セネトを注意深く見ながら、心の中で(つぶや)いた。

(さっきの感じ……)

セネトは、意図(いと)せずジェドを吹き飛ばした術が発動(はつどう)した瞬間(しゅんかん)を思い出し、

「ロナード?」

思わず、そう(つぶや)いた。

(生きている?)

セネトは、心の中でそう(つぶや)いた。

「どうやら、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)は生きている様だ」

セネトが、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言うと、

「なんだと?」

ジェドは表情を(けわ)しくし、セネトに言う。

「さっきの術、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)得意(とくい)としているモノだ。 それに、術が発動(はつどう)した瞬間(しゅんかん)に彼の魔力(まりょく)を感じた」

セネトは、落ち着いた口調(くちょう)で説明をすると、

「そんな訳が無いだろ! オレたち鷹族(たかぞく)(おそ)われて、人間が助かるなんてある(はず)が無い」

ジェドは益々表情を(けわ)しくし、語気(ごき)を強めて反論(はんろん)をする。

「だったら、さっきの術はどうして発動(はつどう)した? 普通、相手(あいて)に掛けた術と言うのは、呪詛(じゅそ)ではない(かぎ)り、術師()が死ねば効果(こうか)は無くなる。 それが、ちゃんと発動(はつどう)したと言う事は、少なくとも(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)は生きていると言う事だ」

セネトは、かなり動揺(どうよう)している様子(ようす)のジェドに対し、淡々とした口調(くちょう)指摘(してき)する。

「アイツ()が、オレの命令に(さか)らったとでも言うのか!」

ジェドはすっかり動揺(どうよう)し、強い口調(くちょう)でセネトに言うと、

「いいや。 お前の部下たちは全員、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)たちに殺されたんだ」

彼女は不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、落ち着き払った口調(くちょう)で返した。

「ふざけるな! オレたちは『天空(てんくう)の王者』と言われ、この大陸に住む者たちから畏怖(いふ)される存在だぞ! そのオレたちを相手(あいて)取って、生きて居られる(はず)が無い!」

ジェドはワナワナと怒りで身を(ふる)わせながら、セネトに怒鳴(どな)り返す。

「人間ならばそうなのだろう。 だが、相手(あいて)が人間では無く、お前たちと同じ亜人(あじん)だったとしたらどうなる? しかも、複数(ふくすう)居たとしたら?」

セネトは、憤るジェドを尻目(しりめ)に、とても落ち着いた口調(くちょう)で説明すると、

「なっ……」

彼女の言葉を聞いて、ジェドは驚愕(きょうがく)の表情を浮かべた。

「何匹もの魔物(まもの)相手(あいて)()って、ケロッとしている様な連中(れんちゅう)だ。 お前の部下たちなど、アイツ等を相手(あいて)にするには、荷が重かったのかも知れないぞ? 死体になって砂に()もれているのは、お前の部下たちの方かもな」

セネトは、ジェドを挑発(ちょうはつ)する様に、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながらそう言った。

(だま)れ!」

ジェドは激怒(げきど)し、セネトに向かって(こぶし)を振り上げた瞬間(しゅんかん)(ふたた)先程(さきほど)の術が発動(はつどう)し、彼を数メートル後ろに吹き飛ばした。

「ああ。 (ぼく)婚約者(こんやくしゃ)はお前がした事に、相当(そうとう)(かんむり)の様だ。 このままだと、この里を廃墟(はいきょ)にするかも知れないぞ?」

セネトは、見事にふっ飛ばされたジェドを、そう言って嘲笑(あざわら)った。

「そんな事、召喚(しょうかん)()でもない限り、出来(でき)る訳が無いだろう!」

ジェドは身を起こしながら、怒りに満ちた表情を浮かべ、強い口調(くちょう)で言い返す。

(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)はその召喚(しょうかん)()だ。 お気の(どく)(さま)

セネトはクスッと笑うと、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言った。

「ハッタリは止せ!」

ジェドは、セネトの態度(たいど)苛立(いらだ)ちを覚え、強い口調(くちょう)で言い返す。

「ハッタリかどうかは、直ぐに分かる事だ」

セネトは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべたまま、落ち着いた口調(くちょう)で言った。

 ジェドはカチンと来て、セネトに言い返そうとした時、廊下の方からバタバタと忙しく、此方へ向かって切る足音が響いて来て、突然(とつぜん)、勢い良く扉が開け放たれ、

「た、た、た、大変です! 若様の部隊(ぶたい)の者が全員、(かた)(よく)()がれ、ボロボロになって戻ってきました!」

使用人の男性が、真っ青な顔をして、(あわ)てふためきながら、中に居るジェドに向かって叫んだ。

「なっ……」

使用人の言葉を聞いて、ジェドは焦りの表情を浮かべ、慌てて玄関(げんかん)の方へと駆け出した。

 そこには既に(ひと)(たか)りがて来ていて、人々を()き分け、その中心に辿(たど)り着いた時、ジェドはその光景(こうけい)に言葉を失い、立ち尽くした。

 使用人の言う通り、自分が人間たちが乗った()(せん)横転(おうてん)した現場に残し、乗っていた人間を始末(しまつ)し、身ぐるみを()がして来るように命じた部下たちは、まるで鋭利(えいり)刃物(はもの)()られた様に、(かた)(よく)を失い、全身が(するど)刃物(はもの)に切り(きざ)まれた様に、(いた)る所に傷を負い、血塗(ちまみ)れで満身(まんしん)創痍(そうい)状態(じょうたい)であった。

「これは、どう言う事だ?」

自分よりも先に報告(ほうこく)を受け、ここに駆け付けたのか、焦げ茶色の短髪(たんぱつ)に、深い緑色の双眸(そうぼう)、良く日に焼けた赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌、鍛え上げられたガッチリとした体付き、身長(ちょう)は二メートル以上は有ろうかと言う長身(ちょうしん)で、左目にテタに刀傷(かたなきず)が残っている、ジェドよりも二回り体の大きな中年の男が、物凄(ものすご)(こわ)い顔をして、彼を(にら)み付けながらそう問い掛けて来た。

 彼はジェドの父で、この里の(おさ)(つと)めているジナーフだ。

「お、親父……」

族長(ぞくちょう)である父親の登場にジェドは(あせ)りの表情を浮かべる。

「何をしたら、こんなに風が荒れるんだ? コイツ等がこんな(なり)なのと関係があるのか?」

ジナーフは、物凄(ものすご)不機嫌(ふきげん)様子(ようす)で、焦っているジェドに向かってドスの利いた声で問い掛けて来た。

「風が……荒れてる?」

父親の言葉に、ジェドは戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

 この山脈には古くから、風の女神が住んで居ると言われ、彼女を神と(あが)め、その庇護下(ひごか)にある鷹族(たかぞく)は、風に愛されし種族だ。

 (ゆえ)に、風が彼等(かれら)(きば)を向ける事など無い。

「里の外は、今まで見た事が無い(ほど)暴風(ぼうふう)が吹き荒れ、周辺の木々や小屋を()ぎ払って、大変な事になっています」

「里の外に居た者たちは、この(あらし)で里に戻る事が出来(でき)ません!」

「きっと、風の女神さまのお怒りを買ったに(ちが)いありません。 早く(しず)めなければ!」

難を逃れて、下界から里へ戻って来た者たちは皆、満身(まんしん)創痍(そうい)と言った様子(ようす)で、自分たちを庇護(ひご)してくれている風が、(きば)()いて(おそ)いかかって来たと言う、(にわ)かには信じられない報告(ほうこく)に、里は騒然(そうぜん)としている。

「なっ……」

彼等(かれら)報告(ほうこく)を聞いて、ジェドも頭の中が真っ白になった。

「お前たちは、何をした?」

ジナーフは、表情を(けわ)しくしてジェドに問い掛ける。

 ジェドが里へ戻って来て直ぐに、この様な事態になったので、族長(ぞくちょう)であるジナーフは息子(むすこ)たちに原因があるのではないかと思って居る様だ。

「そ、そう言われても……。 オレにはサッパリ……」

ジェドは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、父親にそう言い返す。

(ぼく)をコイツが攫って来た所為(せい)で、召喚(しょうかん)()(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)が怒り(くる)っているんだろう。 前にブチ切れて、石造りの大きな建物(たてもの)を吹っ飛ばして、周辺も更地にしようとした事があった」

様子(ようす)を見に、部屋から出て来たセネトは、落ち着いた口調(くちょう)で、動転(どうてん)している鷹族(たかぞく)たちにそう言った。

「あ、貴女(あなた)は……?」

何故(なぜ)、里の外の者が?」

族長(ぞくちょう)屋敷(やしき)から、里では見掛(みか)けた事が無い、外界(がいかい)の者と思われる娘を見て、集まっていた人々が戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、セネトに問い掛ける。

「ジェド。 この娘の言う事は本当か?」

ジナーフは(にわ)かに表情を険しくし、息子(むすこ)を問い詰める。

 ジナーフは執事(しつじ)(ちょう)から、息子(むすこ)が下界から何かを連れて戻って来たという報告(ほうこく)を受けていた。

 (おそ)らく、息子(むすこ)が下界から連れて来たと言うのは、彼女の事なのだろうと、ジナーフは判断した。

「で、出鱈目だ! オレは只、この娘が乗った()(せん)座礁(ざしょう)して、放り出されていたのを助けて、里で手当てをしていただけだ!」

ジェドは咄嗟にそう弁明したが、そもそも、どの様な理由があれ、族長(ぞくちょう)の許可を得ずに勝手(かって)に里に外界(がいかい)の者を連れ込だ時点で、里の掟を破っている。

「良く言う。 (ぼく)を自分の(よめ)にすると言って、嫌がる(ぼく)無理矢理(むりやり)()()めにしようとしたくせに」

セネトは、冷ややかな視線(しせん)をジェドに向けながら、そう言い放った。

「おい! 今、それを……」

ジェドは(あせ)りの表情を浮かべ、慌てふためいて、セネトを(だま)らせようと、彼女の口を(ふさ)ごうと手を伸ばしたが、それよりも早く、

「この、馬鹿(ばか)息子(むすこ)がっ! 族長(ぞくちょう)であるオレに(うそ)を付いただけでなく、娘を連れ込んで、()()めにしようとしただと? このクズが!」

ジナーフは激怒(げきど)し、息子(むすこ)の後頭部に鉄拳(てっけん)を叩き込むと、彼は、物凄(ものすご)い勢いで顔から地面(つら)にめり込むと、そのまま動かなくなってしまった。

愚息(ぐそく)が、とんだ失礼(しつれい)を。 見たところ、何処(どこ)かの令嬢(れいじょう)の様だが……」

突然(とつぜん)の事に驚き、地面(つら)に顔がめり込んだままのジェドを見ていたセネトに、ジナーフは穏やかな口調(くちょう)でそう声を掛けた。

「ああ。 (ぼく)はセレンティーネ・ヴァン・リアン・エレンツ。 帝国の第三(だいさん)皇女(こうじょ)だ」

声を掛けられセネトは、ハッとして、直ぐに落ち着いた口調(くちょう)でそうい返した。

「は?」

「へ?」

セネトの言葉を聞いて、近くに居た人達が驚きのあまり目を点にして、(そろ)って間抜(まぬ)けな顔で彼女を凝視(ぎょうし)する。

「おい! お前! さっきは違う名前を……」

地面(つら)から顔を持ち上げ、ジェドが思い切りセネトに怒鳴(どな)り付けると、

「黙れ! このクソが!」

ジナーフは冷たくそう言い放つと、再び息子(むすこ)の後頭部に鉄拳(てっけん)見舞(みま)い、ジェドは再び地面(つら)に顔をめり込ませた。

「お前の様な愚者(ぐしゃ)に、本当の名を名乗る必要性を感じなかったからな」

セネトは、地面(つら)に顔をめり込ませているジェドに対し、淡々とした口調(くちょう)で言った。

「てめぇ!」

ジェドは、怒り心頭と言った様子(ようす)で、両手を地面(つら)に付けて頭を(もた)げながら、唸る様な声で(つぶや)いたが、

「ぐげっ!」

ジェド以上に怒っているジナーフが容赦なく、彼の頭を()みつけて、地面(つら)に思い切りキスをさせた。

「た、大変です! 大きな()(りゅう)(あらし)(ともな)って里に!」

警備兵(けいびへい)と思われる武装(ぶそう)した若者(わかもの)が、(あわ)てふためきながらそう言って、駆け込んで来る。

「……(おそ)らく、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)使役(しえき)している(げん)(じゅう)だろう」

セネトが、落ち着いた口調(くちょう)で言うと、

「このままでは、里が吹き飛んでしまいます!」

警備兵と思われる武装(ぶそう)した若者(わかもの)が、真っ青な顔をしてジナーフに言う。

貴女(あなた)ならば、止める事が出来(でき)るか?」

ジナーフは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでセネトに問い掛けると、

「無論だ。 (ぼく)仲間(なかま)の下に返せば、矛を収めてくれるだろう」

セネトは、落ち着いた口調(くちょう)で答えた。

「分かった」

ジナーフは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返すと、

「この方を、その()(りゅう)の方へお連れしろ」

近くに居た兵士(へいし)にそう命じる。

「ハッ!」

兵士(へいし)は、少し緊張(きんちょう)した面持(おもも)ちであったが、背筋を伸ばし、ジナーフにそう返した。


(凄いな……)

里の入り口付近へ来ると、建物(たてもの)だろうと木々だろうと、お(かま)いなしに薙ぎ倒され、辺りには家々から飛んで来た屋根(やね)や、倒壊(とうかい)した建物(たてもの)残骸(ざんがい)などが無残(むざん)に飛び散っていた。

 倒壊(とうかい)した建物(たてもの)下敷(したじ)きになった者を助けようと、里の若者(わかもの)たちが瓦礫(がれき)を除けている姿も見受けられる。

「ああ……。 何て事だ……」

物見(ものみ)(やぐら)跡形(あとかた)もなく……」

里の外れの現状(げんじょう)を目の当たりにして、人々は青ざめた顔をして、茫然(ぼうぜん)とした様子(ようす)(つぶや)く。

「ロナードっ!」

少し離れた上空から、里を見下(みくだ)ろす様に両翼(りょうよく)を羽ばたかせていた()(りゅう)を見付けると、セネトは何の躊躇(ちゅうちょ)も無く、自分の婚約者(こんやくしゃ)の名を叫んでいた。

(おいおい。 呼ぶなよ)

遠目(とおめ)から見ても、普通の()(りゅう)よりも何倍も大きい事は明らかで、そんな化け物の様なのを呼んだ、セネトの神経が信じられず、ジェドは恐怖(きょうふ)に顔を引き攣らせながら、心の中で(つぶや)いた。

 案の定、彼女の声が聞こえたのか、それとも、彼女の姿を見付けたのか、ジェドたちにとっては、どちらでも同じだが、大きな()(りゅう)物凄(ものすご)い勢いで此方(こちら)へ飛んで来た。

「ひいいっ!」

「こっちに来る!」

兵士(へいし)たちは、(せま)って来る()(りゅう)を前にして、(そろ)って情けない声を上げ、後退(あとずさ)りをする。

「くっ……」

思いの外、勢いのある風に吹き飛ばされぬ様、セネトが踏ん張って居ると、()(りゅう)の背中に何人か人影(ひとかげ)があるのが分かった。

「セティ!」

そう叫びながら、武装(ぶそう)した若い男が()(りゅう)の背中から飛び降りて来た。

「兄上!」

セネトが兄の下へ駆け出した時には、先程(さきほど)まで吹き荒れていた風がピタッと止み、カルセドニ皇子(おうじ)は勢い良く、セネトを抱きしめる。

“セネト!”

何故(なぜ)()(りゅう)まで、セネトに抱き着こうとするので、

「うおお!」

背中に乗っていたシリウスが振り落とされそうになり、思わず声を上げ、慌てて飛竜の首にしがみ付いた。

「お、落ち着いて下さい! ロナード。 貴方(あなた)は今、バルバロッサの体でしょう!」

シリウスの背後(はいご)に居たハニエルが、(あせ)りながら何故(なぜ)か飛竜にそう声を掛けた。

“あ、御免……”

飛竜はそう言うと、ピタッと動きを止め、その場で大人しく腰を据えた。

「全く……。 私達(わたしたち)を振り落とすところだったぞ」

シリウスが、ゲンナリした表情を浮かべながらそう(つぶや)くと、

「え。 なに? どう言う事?」

セネトは状況(じょうきょう)理解(りかい)出来(でき)ず、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、シリウスたちに問い掛ける。

“驚かして済まない。 瘴気(しょうき)所為(せい)で体が動かせないから、バルバロッサの体を借りて、兄上たちを乗せて助けに来たんだ”

何故(なぜ)()(りゅう)から、ロナードの声がして、状況(じょうきょう)を飲み込めていないセネトに説明をする。

「そんな事が……」

話を聞いた、ジナーフが驚きを隠せない様子(ようす)(つぶや)く。

(もう、何でもありだな……)

セネトは、心の中でそう(つぶや)くと、苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「ジャンクションは危険なので止めたのですが、助けに行くと言って聞かなくて……」

シリウスに手を借りながら、飛竜の背から降りて来たハニエルが、苦笑いを浮かべながら、セネトにそう語ると、その光景(こうけい)が目に浮かんだセネトは、思わず苦笑いを浮かべた。

「それよりもセティ。 何処(どこ)怪我(けが)はないか? 連れ攫われて肝を冷やしたぞ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、心配そうな表情を浮かべ、優しくセネトに問い掛ける。

「ご心配をお掛けして、申し訳ありません。 兄上」

自分を心配する兄に、ニッコリと笑みを浮かべながら、セネトはそう言って返した。

「何もされなかったか?」

シリウスも、心配そうにセネトに問い掛けると、

「実は……。 そこに居る族長(ぞくちょう)息子(むすこ)に、(よめ)にすると言われ、()()めにされそうになりました」

セネトは一瞬、ニヤリと笑みを浮かべると、声と身を震わせながら、おずおずとした口調(くちょう)で兄たちにそう告白(こくはく)すると、業とらしく両手で顔を覆い、その場に崩れ込んだ。

「なっ……」

セネトの話を聞いて、カルセドニ皇子(おうじ)の表情が(にわ)かに険しくなり、彼は近くに居た鷹族(たかぞく)たちを思い切り睨み付けた。

「な、なにを余計(よけい)な事を言ってる!」

里の者たちに一斉(いっせい)に白い目を向けられ、ジェドは焦りの表情を浮かべながら、セネトに向かって怒鳴(どな)りつけると、背中から物凄(ものすご)殺気(さっき)を感じ、(おそ)る恐る振り返ると、()(りゅう)殺意(さつい)()き出しで、自分を睨んでいるではないか!

“殺して良いか?”

ロナードは、慈悲の欠片も感じさせない、氷の様に冷たく、淡々とそう言った。

「待て。 待て。 気持ちは分かるが、流石に殺生はマズイ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、慌ててロナードとジェドの間に割って入ると、両腕をロナードの前に広げ、焦りの表情を浮かべながら言った。

“チッ……”

ロナードは、物凄(ものすご)残念(ざんねん)そうに舌打ちする。

愚息(ぐそく)が大変申し訳ない事をした。 父として、そして族長(ぞくちょう)として、心から謝罪する」

ジナーフが一歩、ロナード達の前に歩み出ると、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべそう言うと、深々と頭を下げた。

「全くだ。 いきなり攻撃(こうげき)をして来るしな……」

シリウスは、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべながら、ジナーフにそう言い返す。

「ホントですよ。 ロナードが咄嗟に応戦しなければ、危なかったです」

ハニエルも、苦笑いを浮かべながら言ってから、

「ああ、私たちを襲った方々、命に別状はありませんか?」

ニッコリと笑みを浮かべながら、ジナーフにそう問い掛ける。

「あ、ああ……。 片翼は叩き切られてしまっていたが……。 傷自体はそれ程……」

ハニエルの問い掛けに、ジナーフは戸惑(とまど)いながらもそう返すと、

「済みませんねぇ。 セネトが連れ攫われたのを見て、ロナードがブチ切れちゃって……。 シルフィードを召喚(しょうかん)して攻撃(こうげき)を……」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながら、ジナーフに説明をする。

「片翼を無くてして、バランスを崩して、砂の上にボトボトと落ちて来たのは笑えたが」

シリウスは、意地(いじ)の悪い笑みを浮かべ、淡々とした口調(くちょう)でそう言うと、

「駄目ですよ。 シリウス」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながら、シリウスにそう言うが、

「ふん。 不意打ちという汚い真似(まね)をした挙句、我々の混乱に乗じてか弱い女子を連れ攫い、手籠めにしようとしたのだから、片方の翼を失うだけで済んだのだから有り難いと思え。 なあ?」

悪かったとは微塵(みじん)も思って居らず、淡々とした口調(くちょう)でそう言うと、側に居たロナードに同意を求める。

“今からでも、残った方を毟り取ってやりたい”

ロナードは、腹の虫が収まらないのか、殺気(さっき)を放ち、唸る様な声で(つぶや)いた。

 その言葉を聞いて、近くに居た鷹族(たかぞく)たちは(たちま)ち青い顔をして、震え上がった。

「そ、それだけは、勘弁してやってくれ」

ジナーフは慌てふためきながら、ロナードにそう懇願する。

「どうするかな?」

シリウスは自分の胸の前に両腕を組み、意地(いじ)悪くそう言うと、

「まあ、これからの、あなた方の態度(たいど)次第ですね」

ハニエルは、ニッコリと笑みを浮かべながら、ジナーフに言った。

「調子に乗るな! おま……」

彼等(かれら)言動(げんどう)に、ジェドはカチンときて、思わず強い口調(くちょう)で言い返そうと口を開いた途端(とたん)、自分をギロッと睨むロナードと目が合い、

“頭を食い千切(ちぎ)ってやろうか?”

ロナードはドスの利いた低い声で、ジェドにそう凄んだ。

「ひっ……」

自分を睨み付け、そう凄んでくる飛竜の、鋸の様に鋭く尖った牙を見て、ジェドは顔を青くして、情けない声を上げる。

「お前への沙汰は追って下す。 それまで、大人しく自室で謹慎して居ろ」

ジナーフは、すっかり怯えている息子(むすこ)に対し、冷ややかな口調(くちょう)でそう告げる。

“さっさと失せろ。 目障りだ”

ロナードは、不愉快(ふゆかい)さに満ちた声で、ジェドに向かって言うと、

「うぐっ……」

彼は、悔しそうな表情を浮かべながらも、ジナーフに睨まれ、兵士(へいし)たちに伴われて渋々屋敷(やしき)の方へと戻って行った。


「酷い怪我(けが)だな……」

「例の、(へび)の化け物にやられたらしい」

「死んでるんじゃないのか?」

鷹族(たかぞく)族長(ぞくちょう)屋敷(やしき)に運び込まれるロナードを見て、集まった里の人々が口々に(つぶや)く。

 彼等(かれら)の言う通り、右足の膝から下は酸を浴びた様に、衣服が解け落ちて、肌も火傷(やけど)を負った様に酷く爛れている。

左の腕も何処(どこ)かに強くぶつけたのか、だらりと力なく下がり、他にも右手なども火傷(やけど)の様な跡がある。

 シリウスに抱き抱えられているロナードは、意識がなくグッタリとしている。

「ロナードっ!」

担ぎ込まれて来たロナードを見て、セネトは焦りの表情を浮かべながら駆け寄る。

「落ち着け。 ジャンクションの副作用で意識を失っているだけだ」

シリウスが、落ち着いた口調(くちょう)でセネトに言う。

瘴気(しょうき)を浴びている。 あまり触れない方が良い」

カルセドニ皇子(おうじ)が、落ち着いた口調(くちょう)でセネトに言う。

「体に付着した瘴気(しょうき)は洗い流しましたが、吸い込んだ物までは……。 命を脅かす程の量は吸い込んでいないと思いますが……」

ハニエルは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながらセネトに説明する。

「まさか、例の魔物(まもの)と遭遇するとは思いもしなかった。 瘴気(しょうき)浄化出来(でき)聖水(せいすい)の数が少なく、ユリアスの他にも瘴気(しょうき)を浴びたり、吸い込んだ者が居たからな。 一人に半分の量しか飲ませられなかった。 吸い込んだ瘴気(しょうき)を十分に浄化出来(でき)たかどうか……」

カルセドニ皇子(おうじ)は、苦々しい表情を浮かべながら言う。

瘴気(しょうき)浄化出来(でき)るのは、老子さまと聖女さましかいらっしゃいません。 急ぎ、聖女さまがいらっしゃる後発隊の砂船に合流するべきなのでしょうが、我々が乗って来た砂船が(へび)の化け物の攻撃(こうげき)を受けて座礁(ざしょう)し、損傷が激しく、直ぐには動かせそうにありません」

寺院の兵士が、複雑な表情を浮かべ、重々しい口調で語る。

「あの、ちょっと良いですか?」

ハニエルは徐に、その兵士に問い掛ける。

「はい?」

兵士は、不思議そうな顔をしてハニエルを見る。

聖水(せいすい)の成分が何か、ご存知(ぞんじ)ですか?」

ハニエルは、真剣な面持ちで問い掛けると、

「聖女様や老子様たちの『祈り』が込められていとしか……」

兵士は、戸惑いの表情を浮かべながら答える。

「恐らく、解毒や浄化の力がある薬草に、高度な浄化魔術(まじゅつ)を溶かした物だと思うが……」

カルセドニ皇子が、落ち着き払った口調で言うと、それを聞いた兵士がギョッとした表情を浮かべ、

「団長!」

そう言って、思わずカルセドニ皇子を見る。

「お願いがあります。 殿下(でんか)

ハニエルは真剣な表情を浮かべ、静かにカルセドニ皇子に言った。

「何だ?」

カルセドニ皇子は、落ち着いた口調で問い返す。

「浄化や解毒の効果(こうか)がある薬草を、急ぎ集める様に、鷹族(たかぞく)の長に掛け合って頂けませんか?」

ハニエルは、真剣な表情を浮かべながらそう言うと、

「それは構わないが……」

カルセドニ皇子は、戸惑いの表情を浮かべながら返す。

「ハニエル。 お前まさか……」

シリウスは、ハニエルが何を考えたのか悟り、戸惑いの表情を浮かべながら呟く。

聖水(せいすい)を作るつもりなのか?」

セネトも、真剣な面持ちでハニエルに問い掛ける。

「そんな! 聖水(せいすい)寺院(じいん)が厳しく管理している物です! 勝手(かって)に作るなど許されません!」

それを聞いた兵士は、焦りの表情を浮かべながら、セネトたちに言う。

緊急事態(きんきゅうじたい)です。 その様な事を言っている間に、助かる者も助からなくなってしまいます。 貴方(あなた)も我々が持って来た聖水(せいすい)では、瘴気(しょうき)に侵された方々の浄化が、十分ではない事は承知している筈です」

ハニエルは、焦っている兵士に向かって、落ち着いた口調でそう言った。

「で、ですが……」

兵士は、戸惑いの表情を浮かべながらそう呟いてから、チラリとカルセドニ皇子を見る。

「責任は私がとる。 どうか、私の部下たちを救ってくれ。 ハニエル」

カルセドニ皇子は、落ち着いた口調で、何の躊躇も無くハニエルにそう言った。

「私からも頼む」

シリウスも、真剣な表情を浮かべ、ハニエルに言う。

「上手く出来(でき)る保証はありませんが、最善(さいぜん)を尽くします」

ハニエルは、真剣な面持ちで頷き返し、二人に向かってそう返した。


挨拶(あいさつ)が遅れたが、オレがこの里の(おさ)ジナーフだ。 さっきの愚息(ぐそく)はジェドと言う」

応接間に通され、暫く待って居たセネトたちの前に、族長(ぞくちょう)のジナーフが現れ、そう名乗って来た。

「改めて、カルセドニ・ヴァン・アレス・エレンツだ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、落ち着いた口調(くちょう)でに乗る。

「改めて、愚息(ぐそく)が貴殿等に行った事を、心から謝罪する。 本当に申し訳なかった」

ジナーフは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながらそう言うと、深々と頭を下げた。

貴方(あなた)に謝られてもな……」

セネトは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら(つぶや)く。

「当のご子息(しそく)は、悪い事をしたと言う自覚は薄い様ですし……」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながら、ジナーフに言う。

「本当に、申し訳ない」

ジナーフは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべたまま、そう返す他無かった。

「ご子息(しそく)が妹にした事は許せませんが、乗っていた砂船が座礁(ざしょう)して、困って居た我々を保護してくれた事には感謝(かんしゃ)します」

カルセドニ皇子(おうじ)は、落ち着いた口調(くちょう)でジナーフに言った。

「それと、瘴気(しょうき)の浄化に使えそうな薬草と薬師()の提供、有難(ありがた)う御座いました。 お陰様でどうにかなりました」

ハニエルは、穏やかな口調(くちょう)でジナーフに言うと、頭を下げた。

「人として、当然の事をしたまでだ。 それと、お前たちが乗って来た船は、今日中には元の体勢(たいせい)に戻れるだろう」

ジナーフは事務的な口調(くちょう)で言うと、

「そうか。 有難(ありがた)い」

カルセドニ皇子(おうじ)は、ホッとした表情を浮かべ言う。

「ところで、お前達はこんな大所帯で何処(どこ)へ向かっていた?」

ジナーフは不思議(ふしぎ)そうに、カルセドニ皇子(おうじ)に問い掛けると、

獅子族(シーズーぞく)の里を荒らしている魔物(まもの)討伐(とうばつ)する為に向かっていた」

カルセドニ皇子(おうじ)簡潔(かんけつ)に理由を語ると、ジナーフは少し驚いた様な表情を浮かべ、

「本気か? あれはそこら辺の魔物(まもの)とは訳が違うんだぞ」

カルセドニ皇子(おうじ)に問い掛けると、

「知っている。 十数年前に貴殿ら鷹族(たかぞく)も、その被害(ひがい)に遭ったと言う事も……」

カルセドニ皇子(おうじ)は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言うと、

「その通りだ。 当時、皇帝(こうてい)にも寺院(じいん)にも見捨てられ、我らは汚染(おせん)された里を捨てるしか無かった。後になって、その危険(きけん)性を危惧したティアマト大老子(だいろうし)が封じたと聞いていたが……これはどう言う事だ? 大老子(だいろうし)ともあろう者が、そう簡単(かんたん)に綻ぶ様な封印(ふういん)をしたとも思えないが……」

ジナーフは、淡々とした口調(くちょう)で、カルセドニ皇子(おうじ)に問い掛けると、

「その点については、我々も疑問を抱いているが、何故(なぜ)封印(ふういん)された筈の魔物(まもの)がこうして再び姿を現したのか……その原因を突き止めるに至っていない」

カルセドニ皇子(おうじ)は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら答えた。

「何より、獅子族(シーズーぞく)の里から突如(とつじょ)消えた筈の奴が何故(なぜ)帝都(ていと)からそう遠くない、砂漠(さばく)のど真ん中に現れたのか……」

ジナーフは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ、両腕を胸の前に組み、そう(つぶや)く。

同感(どうかん)だ。 しかも、我々の仲間(なかま)一撃見舞(みま)うと、煙の様に消えてしまった……。 死んでしまったのかどうなのかさえも分からない」

カルセドニ皇子(おうじ)も、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、語る。

「上から一部始終を見ていた者が言うには、あれは最初から、一番手酷くやられた、黒髪の長身(ちょうしん)を狙っていた様だったとの話だ」

ジナーフは、真剣(しんけん)な表情を浮かべながら言うと、

「私の友人の弟が狙われた理由として、挙げられる事があるとすれば、彼も嘗てあの化け物を封じたティアマト大老子(だいろうし)と同じ召喚(しょうかん)()だと言う事くらいだ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、自分の見解(けんかい)を語る。

「成程な。 また、封印(ふういん)されては堪らないとでも思ったのかもな……」

カルセドニ皇子(おうじ)の話を聞いてジェドは、納得(なっとく)した様子(ようす)でそう(つぶや)く。

「ですが、あの様子(ようす)では暫くは動けないでしょう。 特に、真面(つら)瘴気(しょうき)を吸いこんだ所為(せい)で、呼吸器を中心に、内臓にダメージを受けています。 もう少し吸込んでいたら、命も危ぶまれていました」

ジナーフの補佐役と名乗った青年が、落ち着いた口調(くちょう)で言った。

「どちらにせよ転げた船の修復もある。 数日は動けないと思った方が良い。 その間、里に滞在する事を特別に許そう」

ジナーフは、淡々とした口調(くちょう)で、セネト皇子(おうじ)に言った。

「配慮、感謝(かんしゃ)する」

カルセドニ皇子(おうじ)はそう言うと、ジェド達に深々と頭を下げる。

「だが、里の外の者の事を良く思って居ない奴が殆どだ。 オレの屋敷(やしき)の敷地からは出ない方が良い。身の安全を保障しかねる。 部下たちにもそう伝えろ」

ジナーフは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、カルセドニ皇子(おうじ)にそう忠告(ちゅうこく)する。

了解(りょうかい)した。 良く言って聞かせておこう」

カルセドニ皇子(おうじ)は、真剣(しんけん)な表情を浮かべそう言うと、頷き返した。


「ユリアスの様子(ようす)はどうだ?」

カルセドニ皇子(おうじ)は、大部屋に戻って来ると、中に居た者たちに問い掛ける。

「ハニエル殿が作った薬のお陰で、かなり状態(じょうたい)は良くなったようです。 今はぐっすり眠っています」

ギベオンが、落ち着いた口調(くちょう)で問い掛けに答えた。

「そうか……。 吐血した時は焦ったぞ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、ホッとした表情を浮かべながら言う。

「私もです。 どうやら、至近距離で瘴気(しょうき)を吸った所為(せい)で、内臓も汚染(おせん)されてしまった様です。 喉や呼吸器が特に酷い様で、話す事も辛そうでした」

ギベオンは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながら言う。

「他の負傷者(ふしょうしゃ)たちはどうだ?」

カルセドニ皇子(おうじ)は、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで問い掛ける。

瘴気(しょうき)を浴びて、怪我(けが)を負った者は居るけれど皆、軽症だわ」

ルチルが落ち着いた口調(くちょう)で、カルセドニ皇子(おうじ)の問い掛けに答えた。

「それよりも、砂船の損傷が深刻です。 替えの砂船を手配する他無いと思われます」

ギベオンは、事務的な口調(くちょう)でカルセドニ皇子(おうじ)報告(ほうこく)する。

「そうか……」

カルセドニ皇子(おうじ)は、何とも言えぬ表情を浮かべながら(つぶや)く。

鷹族(たかぞく)族長(ぞくちょう)たちは何と?」

ギベオンは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでカルセドニ皇子(おうじ)等に問い掛ける。

「我々が里に滞在する事は許可してくれたが、あまり、城からは出るなと言われた」

カルセドニ皇子(おうじ)は、簡潔(かんけつ)にギベオンに説明すると、

「そうでしようね。 私たちに対して友好的な雰囲気(ふんいき)だとは、言い難かったもの」

ルチルは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言うと、

「元々、亜人(あじん)の里と言うのは何処(どこ)も、外部(がいぶ)の者を入れる事を嫌う。 それに鷹族(たかぞく)は元々、人間に対して友好的な種族では無いと聞く。 歓迎(かんげい)されないのは仕方が無い事だ」

シリウスが落ち着き払った口調(くちょう)で言うと、隣に居たハニエルも無言で頷く。

「お前の直属の部下たちは問題無いだろうが、他の部隊(ぶたい)から借りて来た兵士(へいし)術師()も多い。 厄介事を起こさないと良いが……」

カルセドニ皇子(おうじ)は、不安そうな表情を浮かべながら、そう(つぶや)く。

「そうですね」

ハニエルも、心配そうに言う。

宮廷(きゅうてい)魔術(まじゅつ)()たちの事は、自分とルチルが目を光らせておきます」

ギベオンが、落ち着き払った口調(くちょう)で言う。

「お願いします」

ハニエルはニッコリと笑みを浮かべ、ギベオンにそう返した。

「ちょっと、氷……があるのが一番だが、何か、冷やす物を貰って来てくれないか?」

部屋に戻るなり、奥の続き間に居るロナードの元へ直行していたセネトが、何処(どこ)か困った様子(ようす)でそう言って来た。

「どうした?」

カルセドニ皇子(おうじ)が、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「熱を出したみたいだ」

セネトは、不安そうな表情を浮かべながら言うと、

「それは大変だ。 私がお願いして来よう」

カルセドニ皇子(おうじ)はそう言うと、徐にソファーから立ち上がった。

「で、殿下(でんか)?」

それには、ハニエルが焦りの表情を浮かべる。

「その様な小間使いの様な真似(まね)、させる訳にはいきません! 自分が行きますので、殿下(でんか)はここでお休みになられていて下さい」

ギベオンが、落ち着き払った口調(くちょう)でそう言って、カルセドニ皇子(おうじ)を引き留める。

「むう。 城内を見て回ろうと思ったのに……」

カルセドニ皇子(おうじ)は、不満(ふまん)そうな表情を浮かべながら、ギベオンに言い返す。

「それは明日にでも出来(でき)ます。 殿下(でんか)もお休み下さい」

ギベオンは、落ち着いた口調(くちょう)で言うと、

「何を言うか。 私は全く疲れてなどいないぞ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、不満(ふまん)そうにそう言い返す。

(体力馬鹿(ばか)が)

カルセドニ皇子(おうじ)の言葉を聞いて、隣に座っていたシリウスが、彼に冷ややかな視線を向けながら、心の中でそう(つぶや)いた。

「何を子供みたいな事を言ってるのよ。 休める時に休む。 食べられる時に食べる! 戦場での基本中の基本でしょう! それに、指揮官の貴方(あなた)が倒れたら皆が困るでしょう!」

ルチルは、部屋から出て行こうとするカルセドニ皇子(おうじ)の腕を掴んで引き留め、強い口調(くちょう)でそう言うと、彼の脇腹辺りを思い切り抓った。

「や、や、止めないか! ルチル! いだだだたっ!」

ルチルに脇腹を抓られ、身を悶えながらカルセドニ皇子(おうじ)はそう叫ぶ。

「年甲斐もなく、子供みたいな事を言っているからだ」

それを見ていたシリウスは、呆れた表情を浮かべながら、カルセドニ皇子(おうじ)に言う。

「兎に角、氷は自分が貰って来ます。 皆さんは、殿下(でんか)勝手(かって)に出歩かないよう、しっかりと見張って下さい」

ギベオンは、軽く溜息(ためいき)を付いてから、落ち着いた口調(くちょう)で部屋に居た者たちに向かって言った。


 体が妙に重くて、何だか熱い……。

「う……ん……」

ロナードは徐に目を開けると、レースカーテン越しに差し込んでくる日の光が眩しくて、微かに目をほ(そろ)た。

「起きたか」

耳馴染のある、少年の様な若い女性の様な……男性とは異なる少し高い声……。

「セ……ネ……。 ごホッ。 ごホッ……」

(声が……出ない……)

「無理に喋るな。 瘴気(しょうき)を吸い込んだ所為(せい)で、喉と呼吸器がやられている」

セネトはそう言いながら、近くの小さな丸テーブルに置かれていた水差しを手に取り、コップへと水を注ぐ。

「身を起こせるか?」

セネトは優しい口調(くちょう)でロナードに問い掛けると、彼は頷き返し、彼女の手を借りながらゆっくりと身を起こした。

(まだ、体が熱いな……)

ロナードの背中に回した腕から、彼の体の熱が伝わって来たので、セネトは心の中で(つぶや)きながらも自分が先程(さきほど)、水を注いだコップをロナードにし出した。

 彼は、セネトから水が入ったコップを受け取ると、喉がカラカラだったのか、一気に飲み干した。

「横になっていろ。 まだ熱がある様だ」

セネトは、ロナードが水を飲み干したコップを受け取り、側に置かれている小さな丸テーブルの上に置くと、優しい口調(くちょう)で言った。

 ロナードは小さく頷き返すと、ゆっくりと体をベッドの上に横たえた。

 セネトは、熱の所為(せい)で頬は微かに紅潮し、熱で潤んでいる目で自分を見上げで居るロナードの頭を優しく撫でながら、

「何か、食べられそうか? もう昼過ぎだが」

優しい口調(くちょう)でロナードに問い掛けるが、彼は喉が物凄(ものすご)く痛くて、唾を飲み込むのも辛いので、首を左右に振った。

「喉が痛いんだろう? 何か冷たいもを貰えないか、聞いて来よう……」

セネトはそう言うと、席を立って部屋から出て行った。

 ロナードは暫く、ボンヤリと天井(てんじょう)を眺めていたが、その内また眠気に見舞(みま)われて、再び眠りに落ちた。

 どのくらい経ったか分からないが、額にヒンヤリとした感触と、人の気配(きくば)を感じてロナードは、

(セネト?)

心の中でそう(つぶや)きながら、ふと目を開けた。

「ああ。 起こしてしまったか」

ロナードが眠っているベッドの側の椅子に座り、本を読もうとしていたシリウスが、優しい声で言った。

「あ……」

ロナードは、思わず口を開いたが、声が掠れ、上手く言葉が出て来ないので焦る。

「無理に喋ろうとするな」

シリウスは、ロナードの頭を撫でながら、優しい口調で言う。

(そんな事を言っている場合じゃないんだ。 (おれ)の感が正しければ、あれは魔物(まもの)なんかじゃない! ハルディン卿の仮説は正しかったんだ!)

ロナードは、焦りの表情を浮かべながら、心の中で呟く。

「どうした?」

シリウスは、何やら自分をじっと見て、何か言いたそうな顔をしているロナードに問い掛ける。

「何か……私たちに伝えたい事でも?」

ハニエルが優しい口調でロナードに問うと、彼は真剣な面持ちで頷き返した。


「幻獣……ですか?」

ロナードが紙に綴った事に目を通し、ハニエルは戸惑いの表情を浮かべながら言う。

「あの、(へび)の化け物がか?」

シリウスも戸惑いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛けると、彼は真剣な面持ちで頷く。

(にわ)かには信じられない事だが、しかし……煙の様に急に消えてしまった事に関しては、それで説明が付くのは確かだ……」

セネトは、自分の顎の下に片手を添え、真剣な面持ちで呟く。

「元・寺院(じいん)に所属していた、ハルディン卿もその様な仮説を立てていましたね……」

ハニエルは、帝都から出る前にロナードが、ハルディン老から預かって読んだ事の内容を思い出し、神妙な面持ちで呟いた。

「仮に、幻獣だとして……。 一体、誰が何の為に召喚(しょうかん)したと言うんだ?」

カルセドニ皇子は、戸惑い表情を浮かべながら、ハニエルに問い掛ける。

「ハルディン卿の仮説を汲むならば、寺院(じいん)の関係者という事になるな……」

シリウスが、真剣な面持ちで呟くと、ロナードも頷く。

「そうですね。 あの化け物を封印(ふういん)したのも、その封印(ふういん)を管理しているのも、寺院(じいん)ですからね」

ハニエルも、真剣な表情を浮かべながら、そう指摘する。

寺院(じいん)の者の中には、獅子族(シーズーぞく)鷹族(たかぞく)の事を良く思わぬ連中(れんちゅう)が一定数存在する。 彼等(かれら)の仕業と判断すのは早計だが、今、私が言える事はそのくらいだ」

カルセドニ皇子は、複雑な表情を浮かべ、重々しい口調で語る。

「古くから、獅子族(シーズーぞく)鷹族(たかぞく)とは軋轢がありますからね。 建国祝賀祭の襲撃事件(じけん)もありましたし、彼等(かれら)の事を良く思わぬ(やから)は、一般人の中にもそれなりの数が居ると見て間違(まちが)いないでしょう」

ハニエルも、落ち着いた口調でそう指摘する。

「でも、相手が寺院の関係者となると、なかなか尻尾を掴むのは難しいんじゃないかしら」

ルチルは、心配そうな表情を浮かべながら言って居ると、

「その企み、ぶっ潰せるかも知れないぞ?」

不意に、ジナーフがそう声を掛けて来た。

「ジナーフ殿……」

ハニエルは、何時の間に部屋に入って来たのか、何食わぬ顔をして自分たちの背後に居たジナーフに驚いた。

「済まん。 聞くつもりは無かったんだが、部屋をノックしても誰も応じてくれなかったものでな」

ハニエルたちが驚いているのを見て、ジナーフは苦笑混じりにそう言った。

「それは失礼(しつれい)を」

ハニエルも苦笑いを浮かべながらそう返した。

「さっきアンタは、『その企みをぶっ潰せる』と言ったが?」

シリウスは、真剣な面持ちでジナーフに問い掛けると、

「ああ。 この山脈には古くから、『風の女神』と我々の間では称されている幻獣が存在する。 彼女は風を操る高位の幻獣だ。 名をガルーダと言う。 お前たちの連れの召喚(しょうかん)()ならば、彼女の力を借りる事が出来(でき)るのではないか?」

ジナーフは、落ち着いた口調でそう語ると、

「成程……」

カルセドニ皇子は、真剣な面持ちで呟く。

「我々の口伝では、女神は美青年が大好きで、我ら鷹族(たかぞく)に加護を齎す様になったのも、鷹族(たかぞく)の青年と恋仲であったからだと言われている。 男の召喚師ならば力を貸してくれるかも知れないぞ」

ジナーフがそう語ると、ギベオンは真剣な面持ちで、

「試す価値はあるかも知れません」

そう言うと、ルチルも真剣な面持ちで頷く。


「こ、こんな険しい道のりだとは、聞いていないぞ……」

セネトは、息を切らせながら、恨めしそうにそう呟いた。

「だから、里で待って居ろと言ったのに……」

道案内役のジェドが、呆れた表情を浮かべながらセネトに言う。

「ふざけるな。 自分の婚約者(こんやくしゃ)の事だぞ。 知らぬ顔など出来(でき)るものか」

セネトは、ムッとした表情を浮かべながら言う。

「何だお前。 女神さまに嫉妬しているのか?」

ジェドは意地の悪い笑みを浮かべ、セネトにそう言ってからかうと、

「べ、べ、別にそう言う訳では……。 (ぼく)はただ病み上がりのロナードの体が心配で……」

彼女は顔を真っ赤にして、ムキになってそう否定する。

「……少なくとも、健康なお前よりはサクサク進んでるぞ」

ジェドは、自分たちの前を行くロナードを指差しながら、意地悪くセネトに言い返す。

「う、五月蠅い! 大体お前、部屋で謹慎中じゃなかったのか!」

セネトは、ムッとした表情を浮かべ、強い口調で言い返す。

「親父が里を離れられない以上、息子(むすこ)のオレが代わりに女神さまに拝謁するのが筋だろ」

ジェドは、『当然』と言わんばかりにセネトにそう言うと、それを聞いた彼女はジェドに冷ややかな視線を向けながら、

「……お前の様なのが来ても、女神が喜ぶとは思えないが」

冷ややかな口調でそう言い返すと、ルチルも頷きながら、

同感(どうかん)だわ」

「なんだと! 貴様(きさま)ら!」

二人の言葉にジェドはカチンと来て、思わず声を荒らげると、

「喧嘩をする元気があるのなら、もう少しペースを上げますよ?」

先を歩いていたハニエルが、彼等の方へ振り返り、淡々とした口調でそう言い放った。

冗談(じょうだん)でしょ?」

思わず、ルチルが、物凄く嫌そうな顔をしてそう呟く。

「だったら、黙ってサクサク来て下さい」

ハニエルは、ニッコリと笑みを浮かべながら、非情にルチルたちにそう言い放った。

「鬼だ」

セネトは、ゲンナリした表情を浮かべながら、ボソリとそう呟いた。


「ここが……山頂……」

ロナードは、遥か眼下に広がる雲海を見ながら、息を弾ませながらそう呟く。

「うわ……。 これ絶対(ぜったい)落ちたら助からないわ……」

ルチルは、自分たちが居た鷹族の里が豆粒程度しか見えないのを見て、恐怖に顔を引きつらせながら呟いた。

「危ないから、あまり身を乗り出すな」

それを見て、ギベオンが思わず心配になり、彼女にそう声を掛ける。

「空気が……薄い……」

セネトは、グッタリとした顔をして、息を弾ませながら呟く。

「今から、女神をお招きする儀式に取り掛かる。 お前たちは少し下がってくれ」

ジェドが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、年老いた里のシャーマンを乗せた神輿(みこし)を担いでいた、二人の里の男たちがゆっくりと神輿(みこし)を下ろし、シャーマンの弟子と思われる、黒いローブに身を包み、動物の頭部を頭に被った体格の良い男が、持って来た荷物の中から、儀式に必要な道具を手早く用意していく。

 ロナード達は、その様子(ようす)を山頂から少し下がった所から各々、腰を下ろすなどして見守っていた。

 準備が整うと、水牛だろうか。

 牛の様な動物の頭蓋骨を被り、黒いローブに身を包んだ、腰の曲がった年老いた老人が、葉が茂った常緑樹の枝を束ねた物を手にすると、何やら謎の言葉を唱え、手にしている常緑樹の葉が茂った枝を振り回し始めた。

「……何と言っているか、分かるか?」

カルセドニ皇子(おうじ)が徐に、同じ両翼人(りょうよくじん)亜人(あじん)であるハニエルに問い掛ける。

「訛りが強すぎて、何を言っているのか聞き取れません」

彼は苦笑いを浮かべながら、そう答えた。

 そんな事を言って居ると、日にくべると、物凄(ものすご)い量の煙と共に、何とも言えぬ強烈な匂いを放っていた木の枝を焼いて出来(でき)たと思われる灰を、シャーマンがいきなり、かなり乱暴(らんぼう)にロナード達に浴びせて来た。

「わっぷっ……」

「酷い匂いだわ」

セネトとルチルが思わず、顔を顰めているが、そんな事はお構いなしにシャーマンは儀式を続けていると、それまで雲一つなかったのに、急に雲が湧いて来て、穏やかであった風が次第に強くなってきた。

「ちょっ……。 目が開けられないんだけど」

ルチルは、自分の顔に叩きつける様に吹き荒れる風に、思わず顔の前で片手(かたて)を翳し、顔を反らしながら(つぶや)く。

「しっかり踏ん張れ。 吹き飛ばされるぞ」

カルセドニ皇子(おうじ)はそう言いながら、小柄なセネトが吹き飛ばされないよう、彼女の風よけになる様にしながら、彼女の肩を掴み、周囲に居た仲間(なかま)たちに向かって言う。

「いや、ちょっとマジで、ヤバくない?」

立っている事が困難なほど、強い風が吹き荒れ、思わずしゃがみ込んでしまったルチルが、思わずそう言った。

「来る」

ロナードが、何かを察した様にそう(つぶや)くと、彼等(かれら)の頭上に雲とは異なる影が覆って来た。

“人が此処(ここ)まで来るのは、どのくらい振りか”

突如(とつじょ)、ロナード達の脳に直接、女性の声が響いて来た。

 ロナードが徐に顔を上げ、それに釣られて他の者たちも顔を上げると、そこには、背中に四枚の鳥の翼、上半身は人間の女性、下半身は鳥の下半身、両手は鷹の爪の様な鋭く大きな爪を生やし、全身は、緑色の鱗の様な羽毛の様な物に覆われた、波打つ短めの白に近い銀色の髪、耳は鳥の羽を屈長けた様な物、琥珀色の双眸(そうぼう)を持つ、美しい顔立ちの女性……。

 だが、悠に三メートルはあろうかと言う、半人半鳥の様な生き物……。

「おお。 我らの神よ」

シャーマンが興奮した様子(ようす)(つぶや)く。

“この様な大勢で詰め掛けて、何用じゃ?”

その生き物は、少し不機嫌(ふきげん)そうな様子(ようす)で、その場に居る者たちの脳裏(のうり)に直接問い掛けてくる。

 誰もが、その巨大(きょだい)さと、何とも言えぬ迫力に尻込みする中、ロナードがその生き物の正面(つら)に歩み出た。

“其方は……”

その生き物は、興味深(きょうみぶか)そうにロナードを見据えながら(つぶや)いてから、

“ローデシア……ではないな?”

徐にそう(つぶや)いたので、それを聞いてロナードとシリウスが驚く。

「これが、お前たちの言う女神なのか?」

セネトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、近くに居たジェドに問い掛ける。

「そうだ。 風の女神ガルーダ様だ」

ジェドは、淡々とした口調(くちょう)で答える。

「母を……知っているのか?」

ロナードがおずおずと、その生き物に問い掛けると、

“知って居るとも。 もう随分(ずいぶん)と昔の話じゃが、幼子の頃に鷹族(たかぞく)の里に滞在して居た時、今の族長(ぞくちょう)と二人で遊び半分で此処(ここ)まで来た事がある”

幻獣ガルーダは、淡々とした口調(くちょう)で答えて来た。

「子供の足でか?」

カルセドニ皇子(おうじ)は、『信じられない』と言った様子(ようす)で言う。

“流石に、途中までは今の族長(ぞくちょう)が飛んで運んで来た様じゃが、半分ほど過ぎた辺りでへばってな。 残りを歩いて来よったわ”

幻獣ガルーダは、苦笑いを浮かべながら返す。

「それ……ズルなんじゃ……」

ルチルがボソリとそう言うと、

“まあ、普通なら飛んで登って来るなど許されぬ事じゃが、童がしたこと故、大目に見てやった”

幻獣ガルーダは、淡々とした口調(くちょう)で答える。

何時(いつ)の間にか、自分たちをも吹き飛ばしそうな程の勢いで吹き荒れていた風が、静まっている。

「……」

ロナードは、何とも言えぬ表情を浮かべる。

面白(おもしろ)い娘故、少し声を掛けてやったら、それから毎日の様に妾に会いに来る様になってな……。 妾を前にしても物動じせずに良く喋る、笑顔が印象的な娘だった”

幻獣ガルーダは、とても懐かしそうに語る。

「母と契約を?」

ロナードは、おずおずとそう問い掛けると、

“してはおらぬよ。 彼女は『人を傷つける力は要らない』と言って、妾との契約を断った。 この様な事は後にも先にも、ローデシア位なものじゃろうて”

幻獣ガルーダはそう返してから、苦笑いを浮かべた。

「怒っては……いないのか?」

ロナードは、幻獣ガルーダの反応(はんのう)が自分が想像(そうぞう)していたものとは随分(ずいぶん)と違う為、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

“怒る? 妾の事を『友達』だと言ってくれた者をか?”

幻獣ガルーダは、可笑(おか)しそうにクスッと笑ってから、ロナードにそう返した。

「幻獣に対して友達って……」

幻獣ガルーダの言葉を聞いて、ルチルは戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

“実に、楽しい時間じゃった。 あれ程長い時間、人と過ごしたのはローデシアが初めてじゃった。 本当に不思議(ふしぎ)な娘じゃった……。 もうこの世の何処(どこ)にも居ないのが悔やまれるばかりじゃ”

幻獣ガルーダは、寂しそう表嬢を浮かべながらそう言った。

「……」

ロナードは思わず、その表情を曇らせ、返す言葉を失った。

“して、その息子(むすこ)は妾に何用か?”

幻獣ガルーダは、興味津々と言った様子(ようす)で、ロナードに問い掛ける。

「この山脈を中心に、砂漠(さばく)地帯(ちたい)瘴気(しょうき)を吐き、土地を腐らせている、三つ首の(へび)の化け物の事はご存知(ぞんじ)か?」

ロナードに代わり、カルセドニ皇子(おうじ)がそう切り出した。

“三つ首の(へび)……。 ああ……そんなのも居ったのう”

幻獣ガルーダは、少し間を置いてから、淡々とした口調(くちょう)で返す。

「我々は、その(へび)の害に苦しむ者を救う為、(へび)討伐(とうばつ)をするつもりだ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、真剣(しんけん)な表情を浮かべながら、簡潔(かんけつ)事情(じじょう)を語る。

“ほう。 面白(おもしろ)い事を言う。 アレを呼び出したのは他でもない、お前たち人間ではないか”

すると幻獣ガルーダは、何処(どこ)可笑(おか)しそうにそう言って来た。

(やはり、幻獣だったのか……)

ロナードは、心の中でそう(つぶや)くと、幻獣の方へと目を向ける。

“あれは、新鮮な血肉が好物故、供物を与えれば、誰にでも簡単(かんたん)召喚(しょうかん)に応じる様な小物じゃ。 幾ら封印(ふういん)を施しても、悪意のある者が居る限り、奴は何度でも現れる”

幻獣ガルーダは、戸惑(とまど)っているカルセドニ皇子(おうじ)たちに語る。

「倒す事は、不可能なのか?」

カルセドニ皇子(おうじ)は、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで問い掛ける。

“ふむ……。 お前たちが言う『倒す』と言う定義が、何を指しているのかは分からぬが、異界に送り返し、封印(ふういん)を施す事は可能じゃ。 それこそ、歴代の大老子たちがして来たようにな”

幻獣ガルーダは、淡々とした多口調(くちょう)で答える。

「それでは困る」

カルセドニ皇子(おうじ)は、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言う。

“完全なる消滅となると、異界へ渡り、奴の『核』を破壊する他ないのう”

幻獣ガルーダは、淡々とした口調(くちょう)で返すと、それを聞いた(つら)々はたじろいだ。

「それは……流石に無理だな……」

ロナードは、自分の顎の下に片手(かたて)を添えながら、そう(つぶや)いた。

“ふむ。 其方、召喚(しょうかん)()であろう?”

幻獣ガルーダは、ロナードを指差(ゆびさ)しながら言うと、

「あ、ああ……」

彼は、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら返す。

“ならば、使役(しえき)している者に命じて、奴が此方の世界に渡れぬ様に、向こうの世界で見張らせてはどうじゃ?”

幻獣ガルーダは、淡々とした口調(くちょう)でそう提案して来た。

 その言葉を聞いて、その場に居合わせた者たちは一斉(いっせい)にロナードを見る。

「その様な事、可能なのか?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、幻獣ガルーダに問い掛ける。

“主が命じれば、嫌とは言わぬじゃろう。 何なら妾がやってやっても良いぞ。 奴には鷹族(たかぞく)の里を襲った恨みがある故。 たっぷりと灸を据えてやるわ”

幻獣ガルーダはそう言うと、不敵(ふてき)な笑みを浮かべる。

(こわっ……)

幻獣ガルーダの双眸(そうぼう)に、刃物(はもの)のような鋭い光があるのを見て、ルチルは思わず心の中でそう(つぶや)くと、表情を引き攣らせた。

「……」

ロナードは、物凄(ものすご)複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、押し黙っている。

“心配せぬとも、妾はローデシアとの約束(やくそく)を守るだけじゃ”

幻獣ガルーダは、ロナードの心中を見透かしたかの様に、落ち着いた口調(くちょう)でそう言った。

約束(やくそく)?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながらそう(つぶや)くと、幻獣ガルーダを見る。

“将来、自分の子供が妾に助けを求めて来た時は、力になって欲しいと言われておる”

幻獣ガルーダは、淡々とした口調(くちょう)でそう答えた。

「母上……」

その言葉に、ロナードは物凄(ものすご)複雑(ふくざつ)な表情を浮かべた。

“とは言え、妾を使役(しえき)するに相応しいか、試させて貰うがのう”

幻獣ガルーダは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、そう言って来た。

「何をしたら良い?」

ロナードは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、真っ直ぐに幻獣ガルーダを見据え、そう問い掛ける。

簡単(かんたん)な事じゃ。 其方の力を示せばよい”

幻獣ガルーダがそう言うと、急に強い耳鳴りがしたので、ロナードは思わず両手で左右の耳を塞ぐ。

次の瞬間(しゅんかん)、緑色の透明な壁が自分たちの周囲を取り囲んだ。

(結界!)

ロナードはそれを見て、心の中でそう(つぶや)くと、忙しく周囲に目を配らせた。

だが、どう言う訳か、先程(さきほど)まで居た筈のセネトたちの姿が何処(どこ)にもない。

今、ここに居るのはロナードと、彼を静かに見据える幻獣ガルーダだけであった。

「皆は、何処(どこ)に?」

ロナードは、焦りの表情を浮かべながら、幻獣ガルーダに問い掛ける。

“心配せぬとも、先に里に帰した”

幻獣ガルーダは、落ち着き払った口調(くちょう)で答えた。

(成程。 純粋に(おれ)一人の力を試そうと言う魂胆か)

ロナードは、心の中でそう(つぶや)くと、幻獣ガルーダを見る。

“そうそう。 言い忘れていた。 妾に勝利すれば無論、其方と契約をするが、其方が敗北した場合は、其方は妾の下僕(ぼく)として、死ぬまで此処(ここ)で仕えて貰うぞ”

幻獣ガルーダは、淡々とした口調(くちょう)でそう言うと、ニッと笑みを浮かべた。

「は?」

ロナードは一瞬、彼女が言った事が理解(りかい)出来(でき)ず、思わずそう(つぶや)いたが、直ぐに、彼女の真の目的が何であるか理解(りかい)した。

「ふざけるな! 聞いていないぞ!」

ロナードは、表情を険しくし、強い口調(くちょう)で幻獣ガルーダに言い返す。

“今、話したではないか”

幻獣ガルーダは、意地(いじ)の悪い笑みを浮かべながら、憤っているロナードに言う。

(コイツ! 最初から(おれ)が狙いだったのか!)

ロナードは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、自分を見据えている幻獣ガルーダの表情を見て、心の中でそう(つぶや)くと、苦々しい表情を浮かべる。

“嫌ならば、勝てば良いだけの事じゃ。 違うか?”

幻獣ガルーダは可笑(おか)しそうに、クスクスと笑いながらロナードに言う。

(この鳥女ッ! 焼き鳥にしてやる!)

ロナードは、ギッと幻獣ガルーダを睨み付けながら、心の中でそう叫んだ。


 ガルーダが呼び出したのは、自身の眷属と思われる、大きなコンドルの様な生き物だった。

 それが数体、上空を旋回し、ロナードへの攻撃(こうげき)の機会を伺っている。

“さて。 空を飛べぬ其方がどの様に戦うのか、じっくりと見せて貰おうか”

幻獣ガルーダはロナードから少し離れた空の上から、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながらそう言った。

「ふざけるな! ボコボコにしてやる!」

ロナードは、怒りの色を露わにしながら、強い口調(くちょう)で幻獣ガルーダに言い返した。

“青いな”

自分に嵌められたと知り、憤るロナードに対し、幻獣ガルーダはそう言って嘲笑(あざわら)う。

 ロナードは悔しそうにギリッと唇を噛みしめた後、何やら術の詠唱を始めた。

 やがて、虹色の魔法(まほう)陣が彼の足元に浮かび上がる。

「我の求めに応じよ。 来い。 光のカーバンクル」

ロナードは落ち着き払った口調(くちょう)でそう言うと、(にじ)(いろ)魔法陣(まほうじん)が浮かび上がり、中から、(ひたい)にルビーの様な真っ赤な宝石を付けた、全身が緑を基調(きちょう)とし、光の反射(はんしゃ)加減(かげん)や見る角度(かくど)によって(にじ)(いろ)(かがや)いて見える、人間の幼児(ようじ)くらいの大きさで、(うさぎ)と言うより、犬のパピヨンの耳の様な大きな耳を有し、リスの様に大きな黒い双眸(そうぼう)を持つ、蜥蜴(とかげ)の様な、兎の様な、けれども、(うろこ)も毛も無い、全身がツルツルで、のっぺりとした感じの可愛(かわい)らしい生き物が飛び出して来て、その額から虹色の光を放つと、ロナードはその光に覆われた。

“ほう。 魔障壁であらゆる術を返す魂胆か”

それを見て、幻獣ガルーダは(つぶや)く。

(ふむ。 光属性の高位幻獣を使役(しえき)出来(でき)るとは、少し見縊っていた様だ)

幻獣ガルーダは、心の中でそう(つぶや)きながら、ロナードの動向を注意深く観察する。

 ロナードは続けざまに、また別の術を詠唱する。

 次は、銀色に輝く魔法(まほう)陣が浮かび上がり、、全身(ぜんしん)光沢(こうたく)のある()い緑色、腹部(ふくぶ)が赤、黄色い(くちばし)を持った、とても(つや)やかな姿の巨大(きょだい)な鳥が姿を現した。

連続召喚(しょうかん)じゃと!”

それには、幻獣ガルーダは驚いて、思わず声を上げた

「ケツァール。 コイツ等を適当に相手(あいて)してやれ」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)で、自身が呼び出した雷を纏った幻獣に命じる。

“御意”

その幻獣はそう返すと、勢い良く幻獣ガルーダの眷属の下へ向かって行った。

(ふむ。 確かに雷ならば、我が眷属の速さについて行く事は出来(でき)るじゃろう。 しかし、攻撃(こうげき)が当たらねば何の意味も無いぞ)

幻獣ガルーダは、自身の眷属たちと並行飛行をしながら、雷で攻撃(こうげき)をしているケツァールを見ながら、心の中で(つぶや)いていると、ふと、ロナードの方面(つら)からキラッと何かが光り、自分に向かって矢の様な形をした光の塊が、ボウガンの矢の様に物凄(ものすご)い速さで飛んで来た。

 幻獣ガルーダはそれに気付くと、全く危なげなく避けた。

「チッ」

自分が放った、光の魔術(まじゅつ)出来(でき)た矢が躱されたのを見て、ロナードは苦々しい表情を浮かべながら舌打ちをする。

“おやおや。 困るのう。 其方の相手(あいて)は童では無いのだが?”

幻獣ガルーダは、いきなり自分に攻撃(こうげき)を加えてきたロナードに向って、苦笑いを浮かべながら言う。

「デカイ的がそこにあるのに、狙わない手は無いだろう」

ロナードは、何食わぬ顔をして、淡々とした口調(くちょう)で言い返した。

“クククッ。 そう来たか”

幻獣ガルーダは、可笑(おか)しそうに笑ってから、不敵(ふてき)に笑みを浮かべる。


 同じ頃、幻獣ガルーダによって、鷹族(たかぞく)の里へ強制的に帰されたシリウス達は……。

「くそ! あの鳥女! 舐めた真似(まね)を!」

自分たちを弾き出し、結界を張った瞬間(しゅんかん)に見せた幻獣ガルーダの不敵(ふてき)な笑みと、辛うじて聞き取れたシャーマンの言葉に、勘の良いシリウスが彼女の本当の目的を察し、苦々しい表情を浮かべながら(つぶや)く。

「落ち着いて下さい。 シリウス。 今から再び登っても間に合うとは思えません」

ハニエルが慌てて、再び山に登ろうとしているシリウスの腕を掴み、落ち着いた口調(くちょう)で彼を諫める。

「どう言う事だ?」

カルセドニ皇子(おうじ)が、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、シリウスたちに問い掛ける。

「騙されたんだ。 コイツ等に!」

シリウスは、怒り心頭と言った様子(ようす)で、自分たちと共に里に戻された、ジェドとシャーマンたちを指差(ゆびさ)しながら言う。

「それじゃ、どう言う事か分からないわよ」

ルチルが、困惑(こんわく)を隠せない様子(ようす)で言う。

「あの(げん)(じゅう)生贄(いけにえ)にされたのですよ。 ロナードは」

ハニエルも聞き取れたシャーマンの言葉を思い出しながら、苦々しい表情を浮かべながら言う。

「なっ……」

それを聞いて、セネトは思わず絶句し、徐にジェドの方へと目を向ける。

「これで、お前の婚約者(こんやくしゃ)も居なくなったも同然だな」

ジェドが、勝ち誇った様な笑みを浮かべながら、戸惑(とまど)いの表情を浮かべているセネトに言う。

貴様(きさま)っ! 最初からセネトを手に入れる為に!」

ジェドの言動(げんどう)を聞いて、彼の思惑(おもわく)に気付いたカルセドニ皇子(おうじ)は、怒りに満ちた表情を浮かべ、物凄(ものすご)い勢いでジェドに掴み掛ろうとするが、彼はヒラリと後ろに避ける。

「これが……貴様(きさま)鷹族(たかぞく)のやり方か……」

シリウスは、怒りに身を震わせ、ジェドを思い切り睨み付けながら、唸る様な声で言う。

「シャーマンが行ったのは、生贄(いけにえ)の儀式だったのですね?」

ハニエルは険しい表情を浮かべながら、ジェドに言うと、

「そうだ」

彼は、何食わぬ顔をして、そう返した。

卑怯(ひきょう)者め!」

カルセドニ皇子(おうじ)は、憤りを隠せない様子(ようす)で、ジェドに怒鳴(どな)り付ける。

事実(じじつ)を話したら、会おうなととは思わないだろう?」

ジェドは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言った。

貴様(きさま)ッ!」

シリウスは表情を険しくし、乱暴(らんぼう)にジェドの胸ぐらを掴む。

「若様!」

それを見て、シャーマンの弟子が焦りの表情を浮かべる。

「お前等(まえら)も同罪だ」

シリウスは、ジェドの胸ぐらを掴んだまま、彼等(かれら)をジロリと睨み付けながら、唸る様な声で言った。

「コレ、何の騒ぎですか?」

ふと、族長(ぞくちょう)屋敷(やしき)の方から、アイクが歩み寄って来て、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、声を掛けて来た。

「アイク……」

セネトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

「お前、今の今まで何処(どこ)に行っていた?」

シリウスは、ロナードの護衛(ごえい)でありながら、姿が無かったアイクを睨み付けながら、そう問い掛ける。

「いやいや……。 ナルル姉さんを(へび)の化け物に投げ付けといて、そのまま放置とか無いでしょう?」

自分を睨み付けるシリウスにたじろぎながら、アイクは苦笑いを浮かべながら言う。

「そうだゾ! 伯爵(はくしゃく)さまの所為(せい)で、頭から砂にめり込んで、かなかな出られなかったんだゾ!」

遅れてやって来たナルルも、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でシリウスに言う。

「ほう」

シリウスは、これと言った表情を浮かべる事も無く、淡々とした口調(くちょう)で言った。

「『ほう』じゃないゾ! 口の中は砂だらけになるし、もう少しで窒息死するところだったゾ!」

その態度(たいど)にナルルはカチンと来て、ムッとした表情を浮かべ、強い口調(くちょう)で言う。

「そうですよ。 皆してナルル姉さんの事を放って、さっさと何処(どこ)かに行ってしまったから、マジで焦りましたよ。 夜は冷えるし、魔物(まもの)は出て来るしで、ホント大変だったんですよ」

アイクは、ゲンナリとした表情を浮かべながら言うと、

貴様(きさま)らが、その辺の魔物(まもの)に食われる様なタマか?」

シリウスが、冷ややかな口調(くちょう)でアイクに言い返す。

「ボクにタマは無いゾ」

ナルルは、ムッとした表情を浮かべ、物凄(ものすご)真面(つら)目にそう言い返してきた。

「……」

それには、流石のシリウスも返す言葉を失った。

「ま、まあ、無事に合流(ごうりゅう)出来(でき)たのですから、良かったではありませんか」

見かねたハニエルが、苦笑いを浮かべながら言うと、

「良くないゾ!。 帝都に帰ったら、珍しい食べ物をお腹一杯食べないと、(ぼく)の腹の虫は収まりそうにないんだゾ!」

ナルルは口を尖らせ、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべながら、強い口調(くちょう)でハニエルに言うと、

「はいはい。 帰ったら幾らでもご馳走(ちそう)しますよ。 シリウスが」

ハニエルは、苦笑いを浮かべながら、怒っているナルルに言うと、

「何を勝手(かって)な事を」

シリウスは、物凄(ものすご)く嫌そうな表情を浮かべながら、ハニエルに言い返す。

「だって、悪いのはシリウスですよね?」

ハニエルは、ニッコリと笑みを浮かべながら、シリウスに向かって言うと、

「そうだゾ」

「そうですよ」

ナルルとアイクが(そろ)って、シリウスに向かってそう言って居ると、

「って、ゲス息子(むすこ)が逃げるわよ」

何時(いつ)の間にか、シリウスの手から逃れ、ジェドが忍び足でその場から離れようとしている事に気付いたルチルが、指差(ゆびさ)しながらそうシリウスたちに声を掛ける。

「あ……」

ジェドは、一斉(いっせい)に自分の方を見て来たシリウス達に、『マズイ』と言う様な表情を浮かべ、思わずその場に凍り付く。

「おい。 貴様(きさま)。 何処(どこ)へ行く気だ?」

シリウスは、両腕を自分の胸の前に組み、その場に固まり、背中から滝の様に冷や汗を流しているジェドに問い掛けた。

「え~っと……。 ちょっと花摘みに……」

ジェドは、苦笑いを浮かべながら、そう言って誤魔化そうとする。

「お手洗いでしたら、向こうですが」

ハニエルは、族長(ぞくちょう)屋敷(やしき)の方を指差(ゆびさ)しながら、全く逆方向へ行こうとしていたジェドに、淡々とした口調(くちょう)で言う。

「それより、大変なんだゾ! リリアーヌが来ちゃったんだゾ!」

ナルルは何故(なぜ)、シリウス達を探していたかを思い出し、急に慌てた様子(ようす)でそう言いだした。

「そうです! オレたち、それを主に教えようと思って、探して居たんですよ! (あるじ)何処(どこ)にいらっしゃるんですか?」

アイクも、本来(ほんらい)の目的を思い出し、焦りの表情を浮かべながら、シリウスたちに言う。

「……」

アイクの問い掛けに、一同は物凄(ものすご)く困った様な表情を浮かべ、互いの顔を見合わせる。

「ユリアスなら、あの山の山頂だ」

シリウスが、淡々とした口調(くちょう)で、里から離れた、犬歯の様に(そび)え立つ、この辺りでも一番の標高(ひょうこう)を誇る山の山頂(さんちょう)付近(ふきん)指差(ゆびさ)しながら言った。

「はい?」

アイクはあまりに突拍子(とっぴょうし)の無い事を言われ、思わず目を点にして問い返す。

冗談(じょうだん)きついゾ」

ナルルも、ムッとした表情を浮かべながら、シリウスに言う。

「いや、さっきまで、(ぼく)たちもあそこに居たんだが、このゲス野郎(やろう)にまんまと嵌められて、ロナードを一人、幻獣が居る山頂に置いて来る羽目(はめ)になったんだ」

セネトは、ジェドを指差(ゆびさ)しながら、落ち着き払った口調(くちょう)簡潔(かんけつ)に二人に説明した。

「それってつまり、主は今、あの山の頂上で幻獣とバトル中って事ですか?」

アイクは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、おずおずとした口調(くちょう)で、セネト立に問い掛ける。

多分(たぶん)な……」

カルセドニ皇子(おうじ)が、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら返す。

「はあ? なにやらかしてくれてるんですか! もし、(あるじ)に何かあったら、その髪の毛を全部、素手(すで)(むし)り取りますからね!」

アイクは、怒りに満ちた表情を浮かべながら、ジェドにそう言いながら詰め寄る。

「ボクは、その翼を(むし)り取って、砂の中に頭だけ出して埋めてやるんだゾ」

ナルルも、両手をボキボキと鳴らしながら、怒りのオーラを漲らせながら言って居ると、突然(とつぜん)物凄(ものすご)轟音(ごうおん)を立てながら、上空からかなり大きな何かが、此方(こちら)大砲(たいほう)の球の様に落ちて来ている。

 それに気付いたシリウス達は、巻き込まれては堪らないと、慌ててその場から離れると、半秒ほど遅れてそれは、地面(つら)を抉る程の轟音(ごうおん)を立てながら、『グギャァアア』と言う女性の断末魔の様な声と共に落ちて来た。

「な、なんだ?」

「何か、降って来たぞ」

周囲に居た里の者たちが、轟音(ごうおん)を聞いて口々にそう(つぶや)きながら、何かが落ちて来て抉れた地面(つら)の方へと集まり出した。

 シリウスたちも戸惑(とまど)いながらも、何が落ちて来たのか確認しようと、大きく抉れた地面(つら)の方へと駆け寄ると、そこには、自分たちが先程(さきほど)見た風の女神こと、(げん)(じゅう)ガルーダが仰向けになって倒れており、その土手(どて)っ腹に何故(なぜ)かドラゴンの様な翼を生やしたロナードが、剣を突き立てた格好(かっこう)で居た。

「は? え?」

何が起きたのか理解(りかい)出来(でき)ず、アイクは戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、周囲の者たちを見回すが、彼等(かれら)もアイクと同様(どうよう)に、何が起きたのか理解(りかい)出来(でき)ていない様であった。

「ま、まさか……。 女神さまを……返り討ちにしたのか?」

ジェドは、地面(つら)の上に仰向(あおむ)けになって、土手(どて)っ腹に剣が突き刺さったままの格好(かっこう)で倒れ、ピクリとも動かない幻獣ガルーダを見て、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

「……だ」

先程(さきほど)轟音(ごうおん)に集まって来た、寺院(じいん)兵士(へいし)たちの一人が、(おもむろ)に何か(つぶや)いた。

竜神(りゅうじん)ガイア様だ」

今度は周りにもハッキリと聞き取れる様な声で、別の兵士(へいし)がそう(つぶや)くのが聞こえた。

「えっ……」

兵士(へいし)たちの言葉を聞いて、セネトは(あらた)めてロナードの方へと目を向ける。

 彼は、背中からドラゴンの様な大きな(つばさ)を背中から生やし、その目は紫色ではなく、黄金に(かがや)いており、露わになっている肌は、部分的ではあるが紫色に光る(うろこ)に覆われ、何時(いつ)もと違い、物凄(ものすご)く無機質な表情と他者(たしゃ)を寄せ付けぬ、何とも言える重く鋭い空気を(まと)っていた。

 その姿は、寺院(じいん)兵士(へいし)たちが言う様に、竜魔(りゅうま)戦争(せんそう)数多(あまた)魔族(まぞく)を屠った竜族(りゅうぞく)英雄(えいゆう)であり、後にガイア神教(しんきょう)の神となる、竜神(りゅうじん)ガイアの石像の姿に良く似ていた。

「ガイア神の再来(さいらい)だ」

(だれ)かが、そう(つぶや)くのが聞こえた。

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