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DRAGON SEED 2  作者: みーやん
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寺院の闇

主な登場人物


ロナード(ユリアス)…召喚術(しょうかんじゅつ)と言う稀有(けう)な術を(あつか)えるが(ゆえ)に、その力を()が物にしようと(たくら)んだ、(かつ)ての師匠(ししょう)に『隷属(れいぞく)』の呪いを掛けられている。 その呪いを()(ため)、エレンツ帝国(ていこく)を目指している。 漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な美青年。 十七歳。


セネト(セレンディーネ)…エレンツ帝国(ていこく)皇女(こうじょ)。 とある事情(じじょう)から(のが)れる(ため)、シリウスたちと行動(こうどう)を共にしている。 補助(ほじょ)魔術(まじゅつ)得意(とくい)とする魔術(まじゅつ)()。 フワリとした癖のある黒髪(くろかみ)琥珀(こはく)色の大きな(ひとみ)特徴的(とくちょうてき)な女性。 十九歳。


シリウス(レオフィリウス)…ロナードの生き別れていた兄。 自身は大剣を自在(じざい)(あやつ)る剣士だが、『封魔(ふうま)(がん)』と言う、見た相手(あいて)魔術(まじゅつ)の使用を(ふう)じる、特殊(とくしゅ)(ひとみ)を持っている。 長めの金髪(きんぱつ)に紫色の双眸(そうぼう)を持つ美丈夫(びじょうぶ)。 二二歳。


ハニエル…傭兵業(ようへいぎょう)をしているシリウスの相棒(あいぼう)鷺族(さぎぞく)と呼ばれている両翼人(りょうよくじん)。 治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)薬草学(やくそうがく)得意(とくい)としている。 白銀(はくぎん)長髪(ちょうはつ)と紫色の双眸(そうぼう)を有している。 物凄(ものすご)い美青年なのだが、笑顔(えがお)を浮かべながらサラリと(どく)()く。


ティティス…セネトの(はら)(ちが)いの妹。 とても傲慢(ごうまん)自分勝手(じぶんかって)な性格。 家族内で立場の弱いセネトの事を見下(みくだ)している。 十七歳。


ルチル…帝国(ていこく)第三(だいさん)騎士団(きしだん)隊長(たいちょう)(つと)めている女性。 セネトと幼馴染(おさななじみ)。 今はティティスの護衛(ごえい)(にん)()いている。 二十歳(はたち)


ギベオン…セネト専属(せんぞく)護衛(ごえい)騎士(きし)。 温和(おんわ)生真面目(きまじめ)な性格の青年。 二十五歳。


ルフト…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)(ちょう)サリアを母に持ち、魔術師(まじゅつし)の一家に生まれた青年。 ロナードたちとの従兄弟(いとこ)に当たる。 二十歳。


ナルル…サリアを(あるじ)とし、彼女とその家族を守っている『獅子族(シーズーぞく)』と人間の混血児(こんけつじ)。 とても社交的(しゃこうてき)な性格をしている。


リリアーヌ…イシュタル教会(きょうかい)で『聖女(せいじょ)』と呼ばれている召喚術(しょうかんじゅつ)を使えるシスター。 ロナードが教会(きょうかい)孤児院(こじいん)に居た(ころ)、親しくしていた。 ロナードに対する恋心(こいごころ)(こじ)らせ、彼への強い執着(しゅうちゃく)(しん)を抱いている。


エルフリーデ…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)をしている伯爵(はくしゃく)令嬢(れいじょう)で、ルフトの婚約者(こんやくしゃ)。 ルフトの母であるサリアの事をとても(した)っている


カルセドニ…エレンツ帝国(ていこく)第一(だいいち)皇子(おうじ)でセネトの同腹(どうふく)の兄。 寺院(じいん)(せい)騎士(きし)をしている。 奴隷(どれい)だったシリウスとハニエルを助け、自由の身にした人物。


アイク…ロナードの専属(せんぞく)護衛(ごえい)をしている寺院(じいん)暗部(あんぶ)所属(しょぞく)していた青年。 気さくな性格をしている。


アイリッシュ(はく)…ロナードがイシュタル教会(きょうかい)孤児院(こじいん)在籍(ざいせき)していた(ころ)、彼に魔術(まじゅつ)師事(しじ)をしていた人物(じんぶつ)で、ロナードに呪詛(じゅそ)を掛けた張本人(ちょうほんにん)


セネリオ…ロナードがイシュタル教会(きょうかい)孤児院(こじいん)に居た時に親しくしていた青年。 アイリッシュ(はく)()(あお)ぎ、彼の研究(けんきゅう)に協力している魔術(まじゅつ)()

「少し……。 困った事になったわ」

サリアは、宮廷(きゅうてい)から戻って来るなり、何処(どこ)(つか)れた様子(ようす)で、出迎(でむか)えたロナードにそう告げた。

「何か……問題でも?」

ロナードは、嫌な予感(よかん)を覚えつつ、おずおずとサリアに問い掛けた。

(くわ)しい話は応接間(おうせつま)でしましょう。 ここで話す様な事では無いわ」

サリアは、溜息(ためいき)を付いてから、落ち着いた口調(くちょう)でロナードに言った。

「分かりました。 応接間(おうせつま)でお待ちしています」

ロナードも、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながらも、落ち着いた口調(くちょう)で返した。

 一人、応接間(おうせつま)でサリアを待っていると、(おく)れて仕事から戻って来たルフトが入って来た。

「お帰り。 ルフト。 今日は早いんだな?」

ロナードは、応接間(おうせつま)に入って来たルフトに対し、そう声を掛けると、

「ああ。 君も母上に呼ばれたんだね」

ロナードを見るなり、何処(どこ)複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言った。

宮廷(きゅうてい)で、何かあったのか?」

ロナードは、浮かない顔をしているルフトに、そう問い掛ける。

「いいや。 宮廷(きゅうてい)(いた)って平和だよ」

ルフトは、落ち着いた口調(くちょう)でそう返すと、テーブルを挟んで向かいのソファーに腰を下ろした。

「じゃあ、『困った事』と言うのは?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「ゲオネスって、覚えてる?」

ルフトは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで問い掛ける。

「ああ。 建国(けんこく)祝賀(しゅくが)(さい)の時に、獅子族(シーズーぞく)たちを束ねていた奴だろう?」

ロナードは、何故(なぜ)その様な事を聞くのか、不思議(ふしぎ)に思いながらもルフトの問い掛けに答えた。

「そう。 何で彼等(かれら)があんな暴挙(ぼうきょ)に出たかは、聞いてる?」

ルフトは、真剣(しんけん)な表情を浮かべたまま、(さら)にそう問い掛けて来た。

「今の帝国(ていこく)不満(ふまん)を抱いて、あの様な暴挙(ぼうきょ)に出たと聞いているが……」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら答えた。

「今の帝国(ていこく)不満(ふまん)を抱いてていたのは事実(じじつ)だけれど、その様に思う様になるのも、無理も無い事情(じじょう)が、彼等(かれら)にはあったんだ」

ルフトは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で語る。

「どう言う事だ?」

ロナードは思い切り眉を(ひそ)め、複雑(ふくざつ)な顔をしているルフトに問い掛けた。

「彼の故郷(こきょう)の里は随分(ずいぶん)(まえ)から、魔物(まもの)被害(ひがい)に苦しんでいるんだ。 それも、普通の魔物(まもの)じゃない。 口から瘴気(しょうき)を吐いて、その瘴気(しょうき)で土地を(くさ)らせる……。 複数(ふくすう)の頭を持った、巨大(きょだい)(へび)の様な魔物(まもの)に」

ルフトは真剣(しんけん)な表情を浮かべ、淡々と理由を語り始めた。

「そんな事が……」

ロナードは、(おどろ)きを(かく)せない様子(ようす)(つぶや)く。

彼等(かれら)だけでは対処(たいしょ)出来(でき)なくて、獅子族(シーズーぞく)たちは何度も、寺院(じいん)討伐(とうばつ)依頼(いらい)をお願いしていたらしい」

ルフトは、複雑(ふくざつ)な顔をしたまま、淡々と話を続ける。

流石(さすが)獅子族(シーズーぞく)も、瘴気(しょうき)()れて何とも無い(はず)がない」

ルフトの話を聞いて、ロナードも淡々とした口調(くちょう)で返す。

「その通りだよ。 けれど寺院(じいん)はずっと、彼等(かれら)に土地を浄化(じょうか)させる効果(こうか)があると言って、聖水(せいすい)を売り付けるだけで、(ほか)にこれと言った対策(たいさく)をとって来なかったんだ」

ルフトは、淡々とした口調(くちょう)でそう語った後、大きな溜息(ためいき)を付いた。

(なる)(ほど)。 それで……獅子族(シーズーぞく)たちの堪忍(かんにん)(ぶくろ)()が切れたと言う訳か」

ルフトの説明を聞いて、ロナードは獅子族(シーズーぞく)が少し気の毒になり、何とも言えぬ表情を浮かべながら言った。

「そうなんだ。 獄中(ごくちゅう)でこの事を知ったゲオネスとその仲間(なかま)は怒り(くる)い、外部(がいぶ)の者の手を()りて脱獄(だつごく)し、帝都(ていと)襲撃(しゅうげき)したって訳だよ」

ルフトは溜息(ためいき)()じりにそう返した。

「ティアマト大老子(だいろうし)は、この事実(じじつ)を知っているのか?」

ロナードの脳裏(のうり)に、魔道(まどう)大会(たいかい)の際、特殊(とくしゅ)(どく)を塗った暗器(あんき)攻撃(こうげき)を受け、怪我(けが)をした自分に治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)を用い、助けてくれたティアマト大老子(だいろうし)の顔が浮かび、思わずそう問い掛けた。

 何でも包み込んでくれそうな、(やわ)らかな雰囲気(ふんいき)のお婆さんで、毒で自分が苦しんでいる間も、ずっと手を(にぎ)り、本当に(こま)やかな気配(きくば)りをしてくれた人だ。

 そんな優しいお(ばあ)さんが、獅子族(シーズーぞく)が困っていると知っていて、見過(みすご)すとは思いたくなかった。

獅子族(シーズーぞく)たちの襲撃(しゅうげき)事件(じけん)を受けて、ティアマト大老子(だいろうし)は正式に獅子族(シーズーぞく)(しゃ)(ざい)し、魔物(まもの)討伐(とうばつ)約束(やくそく)された。 けれど、老子(ろうし)たちはその魔物(まもの)討伐(とうばつ)に後ろ向きでね……。 (もっと)もらしい理由を付けては、その事を避けていたんだけど……」

ルフトは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら、重々しい口調(くちょう)で語る。

「けれど?」

ロナードは、興味深(きょうみぶか)そうに問い返す。

「今朝、新しく聖女(せいじょ)になった、リリアーヌだったかしら? 彼女が中心となって、その魔物(まもの)討伐(とうばつ)すると言い出したの」

着替(きが)えを済ませて来たサリアが、ルフトの代わりにそう語った。

「リリアーヌが……」

今や、その名前すら聞いただけで、寒気(さむけ)がする彼女の名を聞いて、ロナードは表情を険しくした。

勿論(もちろん)獅子族(シーズーぞく)たちを苦しめている魔物(まもの)を、討伐(とうばつ)してくれる事に関しては、歓迎(かんげい)すべき事だわ。 けれども彼女は、討伐(とうばつ)部隊(ぶたい)人員(じんいん)にカルセドニ皇子(おうじ)貴方(あなた)指名(しめい)して来たの」

サリアは、困った様な表情を浮かべながら、ロナードにその理由を語った。

「なっ……」

サリアの話を聞いて、ロナードは(おどろ)戸惑(とまど)い、思わず声に出していた。

「カルセドニ皇子(おうじ)はまだ分かるよ。 今、留守(るす)(あず)かっている(せい)騎士(きし)たちを(たば)ねる立場だから。 でも、寺院(じいん)と関わりの無い君を指名(しめい)するのは可笑(おか)しいだろう?」

ルフトも、不信感(ふしんかん)しか抱いて無さそうな様子(ようす)で、思いがけぬ事に、かなり動揺(どうよう)しているロナードに言った。

(わたし)もそう思って、なぜ貴方(あなた)なのか、寺院(じいん)に理由を(たず)ねたのだけれど、これと言った明確(めいかく)返答(へんとう)が無いの」

サリアは、自分の髪をかき上げ、溜息(ためいき)()じりにそう語った。

絶対(ぜったい)に、アイツ()が君を(おび)き出す(ため)に、リリアーヌに言って、名指(なざ)しさせたとしか考えられない」

ルフトは、嫌悪感(けんおかん)(あら)わにしながらそう言うと、

(わたし)もそう思うわ。 それ以外に、聖女(せいじょ)貴方(あなた)指名(しめい)する理由が思い付かないもの」

サリアも(けわ)しい表情をして、そう言った。

(かり)にそうだとして、断る事は出来(でき)るのですか?」

ロナードは、不信感(ふしんかん)(あら)わにしている二人に、落ち着いた口調(くちょう)で問い掛ける。

「……(むずか)しいでしょうね」

サリアは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、そう返すと、溜息(ためいき)を付いた。

 ロナード自身、薄々は分かっていた。

 断れるような事を、彼女たちが態々、自分に話す(はず)が無いのだから。

 彼女たちの性格上、本来(ほんらい)ならばロナードの知らぬところで、その様な話など片付(かたづ)けてしまっている。

「君が断わって、一番(いちばん)被害(ひがい)を受けるのは多分(たぶん)、カルセドニ皇子(おうじ)だろう。 君を説得(せっとく)出来(でき)なかったとか、(もっと)もらしい理由を付けて、その責任を問う可能性が高い」

ルフトは、苦々しい表情を浮かべながら、ロナードにそう語った。

 ロナードが、カルセドニ皇子(おうじ)同腹(どうふく)の妹である、セレンディーネ皇女(こうじょ)(こん)約者(やくしゃ)である事は(すで)に、多くの者が知っている。

 その事を面白(おもしろ)く無いと思って居る(やから)も、(いっ)定数(ていすう)居るであろうと言う事も。

「つまり、リリアーヌの背後(はいご)には、力のある寺院(じいん)の関係者の(ほか)に、カルセドニ殿下(でんか)帝位(ていい)()けたくない、他の皇子(おうじ)たち、()しくは皇子(おうじ)支持者(しじしゃ)が居ると言う事か……」

ロナードは、自分の(あご)の下に片手(かたて)()え、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで(つぶや)く。

「そう言う事になるね」

ルフトも、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちでそう返す。

(わたし)たちとしても、カルセドニ皇子(おうじ)支持(しじ)している以上、彼の立場が悪くなるのは()けたいから、貴方(あなた)に断っても良いとは、なかなか言える状況(じょうきょう)では無いの」

サリアも、随分(ずいぶん)と困っている様で、溜息(ためいき)()じりに事情(じじょう)を説明する。

「分かります。 (おれ)もネフライト皇太子(こうたいし)よりも、カルセドニ殿下(でんか)帝位(ていい)()くべきだと、思って居ますから。 殿下(でんか)の足を引っ()る様な真似(まね)はしたくはありません」

ロナードは真剣(しんけん)な表情を浮かべ、落ち着いた口調(くちょう)で返した。

 幾度(いくど)しか会った事が無いし、(ほとん)ど会話と言う会話も交わしてはいないが、ネフライト皇太子(こうたいし)がクズ野郎(やろう)で、人の上に立つには相応(ふさわ)しくない、薄っぺらい人間だと言う事は、ロナードも強く感じている。

 カルセドニ皇子(おうじ)の様な、人の上に立つ事の者の覚悟(かくご)と言った様なものが、彼からは微塵(みじん)も感じられない。

 幼子(おさなご)の様に(おのれ)感情(かんじょう)(おもむ)くままに行動し、その所為(せい)で起こった事に対して、責任を取る事すらしない。

 そんな、自分本(じぶんほん)()の人間が上に立てば、国が(みだ)れるのは必至(ひっし)だ。

「今回の寺院(じいん)からの申し出には、セレンディーネ皇女(こうじょ)さまも、頭を(かか)えていらっしゃるわ」

サリアは、困り果てた表情を浮かべながら言う。

「色んな人間の思惑(おもわく)()ざり合って、こう言う事になったのだろうけれど……。 断るにしろ、引き受けるにしろ、慎重(しんちょう)しなければ……」

そう語るルフトも、どうするのが最善(さいぜん)であるのか、かなり頭を(なや)ませている様だ。

「そうね。 余計(よけい)な事に巻き込まれかねないわ」

サリアは、ゲンナリとした表情を浮かべ、深々と溜息(ためいき)を付きながら言う。

「まあ、今も十分に巻き込まれているけれど……。 これ以上、ややこしい事になるのは、君の(のぞ)む事では無いだろう?」

ルフトも、ゲンナリした表情を浮かべ、(おもむろ)にロナードに問い掛ける。

「ええ。 特にリリアーヌと関わると、(ろく)な事にはならないので……」

ロナードは、物凄(ものすご)く嫌そうな顔をしながら、ルフトにそう返した。

「確かに」

ルフトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「正直、彼女がこうも(おれ)(しゅう)(ちゃく)するのか、理解(りかい)に苦しみます。 かなりハッキリと、拒絶(きょぜつ)する意思(いし)をみせているつものなのに……。 伝わっていないみたいで……」

ロナードは、困り()てた表情を浮かべながら、二人に自分の心中を吐露(とろ)した。

「ああ言うタイプの人間って、自分の都合(つごう)の悪い事は、見えない、聞こえないって感じだと思うの。 あとは、意地(いじ)になっている部分もあると思うわ」

サリアは、人伝(ひとづて)で聞いたリリアーヌの言動(げんどう)などを思い出しながら、ロナードにそう返した。

(なる)(ほど)……」

ロナードは、サリアの指摘(してき)(みょう)にしっくり来て、思わずそう(つぶや)いた。

最悪(さいあく)、君が出向(でむ)く事になるかもしれないから、覚悟(かくご)だけはしといて」

ルフトは、気が進まない様子(ようす)でロナードに言と、彼は真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返した。


今頃(いまごろ)、お姉さまはさぞ、困っているでしょうね」

ティティス皇女(こうじょ)は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら(つぶや)く。

 ここは、帝都(ていと)にあるガイア神教(しんきょう)総本部(そうほんぶ)の中の一室だ。

 この部屋には、ティティス皇女(こうじょ)(ほか)に、聖女(せいじょ)リリアーヌ、そして彼女の友人だと言う、セネリオが居た。

貴女(あなた)のお(かげ)上手(うま)くいきそうです。 心から感謝(かんしゃ)を」

リリアーヌは、ニッコリと笑みを浮かべながら、ティティス皇女(こうじょ)にそう言うと、頭を下げた。

(ホント気に入らないわね。 この女。 偽善者(ぎぜんしゃ)ぶって。 本当は欲望塗(よくぼうまみ)れのくせに)

ティティス皇女(こうじょ)は、自分に頭を下げた居るリリアーヌを見ながら、心の中でそう(つぶや)いてから、

「カナデは失敗(しっぱい)したけれど、次は上手(うま)くいくことを期待(きたい)しているわ」

ニッコリと笑みを浮かべ、リリアーヌ達にそう言った。

「ええ」

リリアーヌは顔を上げ、ニッコリと笑みを浮かべながら(うなず)き返した。

「でも何で、(ぼく)たちにユリアスの事を?」

リリアーヌの(となり)に座るセネリオは、ティティス皇女(こうじょ)警戒(けいかい)している様で、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう問い掛けた。

邪魔(じゃま)だからよ。 お姉さまには不幸で居て(もら)わなくちゃ。 私(わたhし)は何時(いつ)だって上から、お姉さまを見下(みくだ)して居たいの。 貴女(あなた)には何も無いって。 そう思い知らせてやりたいの。 だから、(わたくし)よりも優位(ゆうい)に立つなんてそんな事は絶対(ぜったい)(みと)められない。 皇女(こうじょ)の中で一番は(わたくし)よ」

ティティス皇女(こうじょ)は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、セネリオに自分の心内(こころうち)を語った。

((すご)嫉妬(しっと)(しん)だな……)

ティティス皇女(こうじょ)(よど)んだ双眸(そうぼう)と、不敵(ふてき)な笑みを見ながら、セネリオは心の中でそう(つぶや)いてから、

(なる)(ほど)ね。 (おとしい)れて苦しむ様を見たい……って事?」

淡々とした口調(くちょう)でそう言った。

「ええ。 あの女は、地べたに()いつくばっているのがお似合(にあ)いだもの」

ティティス皇女(こうじょ)は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべたまま、そう言い放った。

 何故(なぜ)、そこまで(はら)(ちが)いの姉の事を(きら)うのか、セネリオには理解(りかい)出来(でき)なかった。

「ユリアスの事は感謝(かんしゃ)します。 でも……ご姉妹は仲良(なかよ)くなさった方が、(よろ)しいと思います」

リリアーヌは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながら、ティティス皇女(こうじょ)にそう言った。

 彼女は、キョトンとした表情を浮かべ、(しばら)(だま)っていたが、()ぐに馬鹿(ばか)にした様に鼻で笑い飛ばすと、

貴女(あなた)の様な庶民(しょみん)には、宮廷(きゅうてい)がどんな所か想像(そうぞう)もつかないでしょうね。 自分を守る(ため)に、相手(あいて)蹴落(けお)とす事が普通の世界なの。 それこそ、年の近い(はら)(ちが)いの姉妹なんて、自分の地位(ちい)(おびや)かす最大の(てき)なのよ」

罪悪感(ざいあくかん)など一ミリも持ち合わせていない、残酷(ざんこく)微笑(ほほえ)みを浮かべながら、リリアーヌたちにそう言い放った。

「……」

ティティス皇女(こうじょ)の言葉に、リリアーヌはショックを受けている様で、沈痛(ちんつう)な顔をして(うつむ)く。

(みにく)いね」

セネリオが、(あき)れた表情を浮かべながら言うと、

「何とでも言いなさいよ。 (わたくし)はお姉さまの泣きっ(つら)を見れればそれで良いの」

ティティス皇女(こうじょ)は、鼻で笑い飛ばし、不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、そう返した。

 そうして彼女は、『用は済んだ』と言わんばかりに席を立つと、護衛(ごえい)の者たちを引き連れて、部屋を後にした。

「あまり、あの皇女(こうじょ)には深入(ふかい)りしない方が良さそうですね」

彼等(かれら)のやり取りを、部屋の片隅(かたすみ)で見守っていたアイリッシュ(はく)が、静かにそう言った。

(ぼく)もそう思うよ。 問い詰められたら簡単(かんたん)に、(ぼく)たちの事を喋りそうだ」

セネリオは、不愉快(ふゆかい)さを(あら)わにしながら言う。

皇女(こうじょ)のお陰で帝都(ていと)に入る事が出来(でき)たのは、感謝(かんしゃ)していますがそれだけの話です。 我々が彼女に義理立(ぎりだ)てする必要はありません。 用が済めば退散(たいさん)するとしましょう」

アイリッシュ(はく)は、淡々とした口調(くちょう)で語る。

「ユリアスは、この話に(おう)じると思う?」

セネリオは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでアイリッシュ(はく)に問い掛けるる

皇女(こうじょ)の話だけでは、何とも言い(がた)いですね。 魔物(まもの)討伐(とうばつ)要請(ようせい)が自分を(さそ)い出す(ため)(わな)だと言うのは、彼も分かっているでしょうから」

アイリッシュ(はく)は、落ち着いた口調(くちょう)で返すと、

絶対(ぜったい)参加(さんか)しなくちゃいけない様な理由が、必要だと言う事だね?」

セネリオが、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながらそう言うと、アイリッシュ(はく)はニッコリと笑みを浮かべ、

「その通りです」


面倒(めんどう)な事に、巻き込まれた様ですわね?」

早朝から、人気のない宮廷(きゅうてい)魔術(まじゅつ)()たちの()め所に来て、奥にある資料室(しりょうしつ)で調べ事をしていたロナードに、出勤時間の何時間も前だと言うのに、何故(なぜ)かエルフリーデがやって来て、彼にそう声を掛けて来た。

「エルフリーデ……」

彼女が何故(なぜ)此処(ここ)に居るのか不思議(ふしぎ)に思いながらも、ロナードはそう(つぶや)いた。

獅子族(シーズーぞく)の里を()らしている魔物(まもの)討伐(とうばつ)に向かうそうですわね?」

エルフリーデはそう言いながら、(あたた)かいスープが入った木のコップを、彼が使っている机の上に置く。

「ああ。 それで、少しでもその魔物(まもの)に関して、何か分からないと思って、調べている」

ロナードは、落ち着いた口調(くちょう)で答える。

「でしたら、私(わたhし)の祖父が力になれると、言っていますわ」

エルフリーデはニッコリと笑みを浮かべ、ロナードに言う。

「その話、本当か?」

ロナードは思わず身を乗り出し、エルフリーデに問い掛ける。

貴方(あなた)(うそ)を言って何になると言うの? そんな事より、()めない内にスープを飲んでは如何(いかが)?」

ロナードの反応(はんのう)に、エルフリーデは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、そう言った。

(あるじ)。 先に(いただ)いてま~す」

護衛(ごえい)のアイクはそう言うと、エルフリーデに差し出されたと思われる、スープが入った木のコップを手に、ニッコリと笑みを浮かべながら言うと、それを(すす)る。

 エルフリーデに(すす)められ、ロナードはスープを何度か口にした後、

「しかし、そんな(きゅう)(たず)ねて大丈夫(だいじょうぶ)なのか?」

戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ言うと、

「祖父は、隠居(いんきょ)した身ですから、時間ならばあり(あま)っていましてよ。 私が話を通しておきますので、心配(しんぱい)()りませんわ」

エルフリーデは落ち着いた口調(くちょう)で言う。

 朝早くから何も食べず、暖房(だんぼう)も何もな所に居るので、すっかり手足は冷え切っていて、彼女の差し入れはとても有難(ありがた)かった。

「ここの中の資料(しりょう)だけでは限界(げんかい)があるのではなくって? 何せ、(だれ)が見ても困らない様な物しか置いて無いでしょうし」

エルフリーデは、フーフーとスープを冷まそうと息を吹き掛けつつ、ロナードにそう指摘(してき)する。

「確かに……」

彼女の指摘(してき)に、ロナードは(もっと)もだと思った。

(実際、どの資料(しりょう)を見ても、遜色(そんしょく)ない内容しか記されていない)

ロナードは、自分が見て居た資料(しりょう)視線(しせん)を落としつつ、心の中で(つぶや)いた。

「人に知られては不味(まず)い物は大抵(たいてい)宮廷(きゅうてい)の外にあるものですわ。 それに、祖父は寺院(じいん)所属(しょぞく)していましたから、宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)が知らない事も知っていると思いますわよ」

エルフリーデは不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、ロナードにそう言うと、美味(おい)しそうにスープを(すす)った。

「そんな話、部外者(ぶがいしゃ)にして大丈夫(だいじょうぶ)なのか?」

ロナードは心配そうに、エルフリーデに問い掛ける。

 先のの一件(いっけん)魔道(まどう)大会(たいかい)も分かる様に、宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)は仲が悪い。

 と言うのも昔は、寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)になれなかった者の行先(ゆくさき)宮廷(きゅうてい)であった(ため)、その慣習(かんしゅう)が抜けつつある昨今(さっこん)でも、寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)は、宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)たちの事を格下(かくした)見下(みくだ)しているからだ。

 この慣習(かんしゅう)をブチ(こわ)したのが、その年の魔道(まどう)大会(たいかい)優勝者(ゆうしょうしゃ)となった、ロナードの魔術(まじゅつ)()匠で現在の宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)(ちょう)のサリアだ。

(……エルフリーデも似たような事情(じじょう)からか?)

ロナードは、祖父が寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)であるにも(かかわ)らず、エルフリーデは宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)であるので、心の中でそう(つぶや)いた。

「祖父なら、(わたくし)宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)になる以前(いぜん)現役(げんえき)を退いていますわ。 今は時折(ときおり)、お祈りに行く程度(ていど)の付き合いしかありませんの。 貴方(あなた)に会って何か話したからと言って、祖父が寺院(じいん)から(とが)を受ける事はありませんわ」

エルフリーデは、ロナードの心配を(ぬぐ)い去る様に、落ち着いた口調(くちょう)で説明した。

「そう言う事ならば、素直(すなお)に君の善意(ぜんい)を受け取る事にするよ」

ロナードはスープを一口(ひとくち)(すす)ると、エルフリーデにそう返し、穏やかに笑みを浮かべた。

「それが賢明(けんめい)ですわ」

エルフリーデは満足(まんぞく)そうに笑みを浮かべてそう言うと、グビグビとスープを一気に飲み干した。


 翌日(よくじつ)の昼、エルフリーデに(ともな)われ、ロナードは彼女の家を(おとず)れた。

 貴族(きぞく)たちの間では普通(ふつう)年頃(としごろ)の独身の令嬢(れいじょう)の下に、婚約者(こんやくしゃ)でも無い男性が(おとず)れる事はあまりなく、普段(ふだん)から親しくしている友人以外は、大抵(たいてい)の場合は求婚(きゅうこん)(ため)に訪れる場合が多い。

 事情(じじょう)を知ったギベオンの助言(じょげん)で、エルフリーデの家には先触(さきぶ)れで、彼女の祖父に用事がある(むね)を伝えた為、彼女の家の者に変な誤解(ごかい)を生まずに済んだ。

「良く来てくれたね」

エルフリーデの祖父は、(おだ)やかな笑みを浮かべながら、エルフリーデと共に応接間(おうせつま)に来た彼をそう言って温かく(むか)えた。

「本日はお(まね)(いただ)き、有難(ありがた)御座(ござ)います」

ロナードはエルフリーデの祖父と目が合うと、丁寧(ていねい)口調(くちょう)でそう言うと、胸元(むなもと)片手(かたて)を添え、彼に(こうべ)()れた。

「こんな()いぼれに、堅苦(かたくる)しい挨拶(あいさつ)()らないよ」

礼儀(れいぎ)(ただ)しく自分に挨拶(あいさつ)をするロナードに、エルフリーデの祖父は優しく言った。

「お(じい)(さま)は、貴方(あなた)が来てくれると聞いてから、今朝(けさ)からずっとこの調子(ちょうし)ですのよ」

祖父が嬉しそうにしているのを見て、エルフリーデも嬉しそうにロナードに語る。

「それは、来た甲斐(かい)があったと言うものです」

ロナードは(おだ)やかな口調(くちょう)でそう言うと、好感(こうかん)の持てる(おだ)やかな笑みを浮かべた。

「さあさあ。 座って」

エルフリーデの祖父はそう言うと、テーブルを(はさ)んで向かいのソファーに座る様にロナードに(すす)める。

「では、失礼(しつれい)します」

ロナードはそう一言(ひとこと)(ことわ)ると、テーブルを挟んで向かいのソファーに静かに腰を下ろした。

「ねーねー。 あのイケメン(だれ)?」

「お(じょう)(さま)同僚(どうりょう)の方ですってよ」

「ええっ! じゃあ宮廷(きゅうてい)魔術(まじゅつ)()さまって事? メッチャ優良(ゆうりょう)(かぶ)じゃん!」

「どうにかして、お近づきになれないかしら?」

給仕(きゅうじ)に来ていた、何も知らない若い侍女(じじょ)たちが、見目(みめ)(うるわ)しいロナードを見て、キャッキャと声を(はず)ませつつも、部屋の中に居るロナード達にも聞こえないくらいの声の大きさで言ってるので、(たま)らずエルフリーデがジロリと彼女たちを(にら)み付けると、彼女たちは(たちま)ち顔を青くして、逃げる様にその場から立ち去って行った。

(まった)く……」

そんな彼女たちを見て、エルフリーデは(あき)れた表情を浮かべながら、軽く溜息(ためいき)を付いた。

孫娘(まごむすめ)が、随分(ずいぶん)世話(せわ)になっている様だね? この子は何時(いつ)もツンと()ましていて、(とげ)のある物言(ものい)いしか出来(でき)所為(せい)で友達も少なくてね」

エルフリーデの祖父は、穏やかな口調(くちょう)でロナードに言った。

「そんな事はありません。 宮廷(きゅうてい)に来て間が無く、勝手(かって)が分からず困っていた所を、ご令嬢(れいじょう)には何度も助けて頂きました。 とても親切な方だと思っています」

ロナードはニッコリと笑みを浮かべ、穏やかな口調(くちょう)で答える。

「思っても無い事を、良くもまあスラスラと言えるわね」

祖父の(となり)に座って居たエルフリーデは、ムッとした表情を浮かべ、殺伐(さつばつ)とした口調(くちょう)でロナードに言う。

「本心だ。 それに、とっつきにくい雰囲気(ふんいき)なのは、お(たが)い様だろう?」

ロナードは苦笑(にがわら)いを浮かべ、自分を(にら)んで来た彼女に言い返した。

「まっ」

エルフリーデはそう言うと、ムッとした表情を浮かべる。

「はははは。 エフィに負けて無いな」

孫娘(まごむすめ)の表情を見て、エルフリーデの祖父は面白(おもしろ)そうにそう言うと、声を上げて笑った。

 エルフリーデは、()ました顔をして辛辣(しんらつ)な言葉を()く為、気の小さい令嬢(れいじょう)子息(しそく)は彼女に言われっ放しで、言い返せない者も多くいると言うのに、ロナードは何食わぬ顔をして、サラッと毒を吐き返して来たので、その見た目に反して、かなり良い度胸(どきょう)をしていると、エルフリーデの祖父や、彼女を幼い頃から世話(せわ)している侍女(じじょ)(ちょう)などは思った。

「もう! お(じい)(さま)まで……」

エルフリーデはムッとした表情を浮かべ、そう言った。

 何時(いつ)もは令嬢(れいじょう)らしく、(すき)の無い言葉使いと振る舞いをするエルフリーデであるが、ロナードとは気心の知れた間なのだろう。

 彼女がそう振る舞う(こと)自体(じたい)かなり(めずら)しい事で、祖父たちが知っている(かぎ)りでは、婚約者(こんやくしゃ)幼馴染(おさななじみ)のルフトの前くらいで、後は何時(いつ)ものツンと()ました、(すき)のない完璧(かんぺき)令嬢(れいじょう)(えん)じている。

「エフィから(あらかじ)め話は聞いているが、獅子族(シーズーぞく)の里を()らし回って居る魔物(まもの)討伐(とうばつ)(おもむ)くそうだね?」

エルフリーデの祖父は、孫娘(まごむすめ)が、ありのままの自分を見せる事が出来(でき)相手(あいて)が一人増えた事に喜びつつ、ロナードにそう切り出した。

「はい。 どう言う意図(いと)があるのか分かりませんが、聖女(せいじょ)が直々に(わたし)指名(しめい)したと聞いています」

ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで頷き返す。

 いつの間にか、給仕(きゅうじ)をしていた侍女(じじょ)たちは退出(たいしゅつ)し、部屋の中は三人だけになっていた。

 そして、エルフリーデの祖父は、周囲(しゅうい)に会話が聞こえなくする、掌大(てのひらだい)()道具(どうぐ)をテーブルの上に置くと、そのスイッチを押した。

 こうする事で、外部(がいぶ)からの音は聞こえても、結界(けっかい)内に居る自分達の会話の内容は外部(がいぶ)へ聞こえるのを(ふせ)ぐ事が出来(でき)る。

 これを作って世に広めたのは、何を(かく)そうルフトなのだ。

 テーブルを挟んで向き合う格好(かっこう)の自分達の周囲(しゅうい)を囲む様に、半円(はんえん)形状(けいじょう)外部(がいぶ)との音を遮断(しゃだん)する為の結界(けっかい)が張られたのを見届けてから……。

「ふむ……簡潔(かんけつ)に言うとね、君はあまり首を突っ込むべき事では無いかも知れないね」

エルフリーデの祖父は、落ち着いた口調(くちょう)ながらも、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言った。

「それは……どう言う事でしょうか」

ロナードは、真剣(しんけん)な表情を浮かべながら問い掛ける。

「あれはね、魔物(まもの)じゃないんだよ」

エルフリーデの祖父は静かにそう語った。

魔物(まもの)ではない……」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(つぶや)く。

「それ、どう言う事ですの?」

エルフリーデも思わぬ祖父の告白(こくはく)に、(おどろ)きを(かく)せないでいる。

「エフィは(おさな)い頃に、このアルマースに関する物語を聞いた事があるだろう?」

エルフリーデの祖父は徐に、彼女にそう問い掛けると、

「え? ええ……。 帝都(ていと)周辺(しゅうへん)が嘗て緑豊かな土地であったのに、呪いの所為(せい)で今の様な姿になったと言うお話ですわよね?」

彼女は戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、そう答える。

「そう。 あれは史実(しじつ)なんだよ」

エルフリーデの祖父は、落ち着き払った口調(くちょう)で言った。

「えっ……」

彼女は、(にわ)かには信じられないと言った様子(ようす)だ。

 帝都(ていと)で生まれ育った者ならば、(だれ)しもが知っている有名(ゆうめい)な物語ではあるが、その内容はあまりにも(うき)世離(よばな)れしている(ため)、信じている者はほぼ皆無(かいむ)だ。

 この帝都(ていと)周囲(しゅうい)に広がる広大な砂漠(さばく)(かつ)て、緑豊かな土地と森があったと言うだけでなく、そもそも、この大陸(たいりく)砂漠(さばく)など存在(そんざい)していなかったと言う内容のモノだ。

「この帝都(ていと)に広がっていた、緑豊かな土地を砂漠(さばく)にしてしまったのが、今、獅子族(シーズーぞく)の土地を()らしている魔物(まもの)……いや、正確には(げん)(じゅう)と言うべきかな……それなんだよ」

エルフリーデの祖父は、物語を知らないロナードの(ため)に、簡潔(かんけつ)に説明する。

 (かつ)て、緑豊かな肥沃(ひよく)な土地であったこの地に、彼等(かれら)の祖先となる、魔法(まほう)帝国(ていこく)から逃れて来た魔術師(まじゅつし)たちが、自分達の英知(えいち)を結集し、今の帝都(ていと)(きず)いた。

 しかしながら、この大陸(たいりく)には一匹のとても(おそ)ろしい魔物(まもの)が住み着いていた。

 その魔物(まもの)は口から瘴気(しょうき)を吐き、その瘴気(しょうき)によって、緑豊かであったこの地は汚染(おせん)され、草木の生えない死んだ土地になっていった……。

 危機感を抱いたガイア神教(しんきょう)司祭(しさい)たちが、この地に住まう人々を守る為、持てる魔力(まりょく)知識(ちしき)、技術を総動員(そうどういん)して、その魔物(まもの)を退ける事に成功(せいこう)する。

 その功績(こうせき)が認められ、ガイア神教(しんきょう)はこの地に根差(ねざ)す事となり、化け物を退けた魔術師(まじゅつし)の一人が初代(しょだい)大老子(だいろうし)となり、それがティルミット家の始まりとなる。

 だが、汚染(おせん)された土地は緑を取り戻す事無く、今の様な砂漠(さばく)地帯(ちたい)となってしまったと言う。

 その魔物(まもの)はその後も何十年かの周期(しゅうき)で現れては、帝国(ていこく)各地(かくち)に現れては瘴気(しょうき)を吐き、大地を(けが)し続け、その魔物(まもの)から人々を守るのも、寺院(じいん)役割(やくわり)の一つなのだ……と言う様な内容の話だ。

 簡単(かんたん)に言えば、ガイア神教(しんきょう)を人々に浸透(しんとう)させ、信仰(しんこう)(しん)を植え付ける(ため)の物語なのだが……。

「これが、本当にあった話だなんて……」

エルフリーデは(ひど)(おどろ)いた様子(ようす)(つぶや)く。

「そもそもは、『魔法(まほう)帝国(ていこく)崩壊後(ほうかいご)、ランティアナ大陸から逃れた亜人(あじん)たちを始末(しまつ)する(ため)、イシュタル教会の者が最初に召喚(しょうかん)したと言われている」

エルフリーデの祖父は、淡々とし口調(くちょう)で付け加えると、

「……(げん)(じゅう)召喚(しょうかん)するには召喚者(しょうかんしゃ)必要(ひつよう)です。 この話が本当だとすれば、(だれ)かが故意(こい)にその幻獣を召喚(しょうかん)していると言う事になりますが……」

ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言う。

「君の言う通りだよ。 しかも前回、ティアマト大老子(だいろうし)がしっかり封印(ふういん)した(はず)なんだよね。 (わし)も同行して見ていたから間違(まちが)いは無いのだけれど……どう言う事なんだろうね?」

エルフリーデの祖父は、落ち着いた口調(くちょう)で説明する。

「……自然に封印(ふういん)()けたのか、(だれ)かが意図(いと)的に封印(ふういん)を解いたか……」

ロナードは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で語る。

「まあ、何にしても、これって寺院(じいん)の落ち度だと思わない?」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

「……貴方(あなた)は、寺院(じいん)(わざ)とそれを見逃(みのが)したと、お考えなのですか?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛けると、

確信(かくしん)は無いよ。 けれど(わし)はそう思っている。 ()てるんだよね。 『鷹族(たかぞく)』の時と。 その時もやっぱり、封印(ふういん)されていた(はず)なのに、何故(なぜ)だか()けちゃったんだよ」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま語る。

「『鷹族(たかぞく)』……ですか?」

ロナードは、エルフリーデの祖父が、思いもしなかった亜人(あじん)の種族の名を()げた事に(おどろ)いた。

 (つばさ)を持ち、空を飛ぶ能力(のうりょく)を持つ亜人(あじん)総称(そうしょう)して『両翼人(りょうよくじん)』と呼ばれる事もあるが、その種は大きく分けて三つだ。

 ランティアナ大陸(たいりく)の北西部、カナン王国の通称(つうしょう)沈黙(ちんもく)の森』と呼ばれる、深い森の奥に住んでいると言われ、『呪歌(じゅか)』と呼ばれる、特殊(とくしゅ)な力が込められた歌を歌う力を持ち、(すぐ)れた治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)(あつか)えるが、(たたか)(すべ)(ほとん)ど持たないと言われている『鷺族(さぎぞく)』。

 風の力を自際(じさい)(あやつ)り、ランティアナ大陸(たいりく)各地(かくち)に大小の里を持ち、独自(どくじ)情報網(じょうほうもう)と、(すぐ)れた織物(おりもの)技術(ぎじゅつ)を持ち、人間に織物(おりもの)を伝えたとも言われている『烏族(からすぞく)』。

 (けわ)しい山岳地(さんがくち)に住み、その強靭(きょうじん)な翼と、巨大(きょだい)(たか)に身を変化(へんか)させ(するど)い爪と(くちばし)を武器に戦う『天空(てんくう)王者(おうじゃ)』の異名(いみょう)を持つ、『両翼人(りょうよくじん)』の中で(もっと)好戦的(こうせんてき)で、高い戦闘(せんとう)能力(のうりょく)を持つ『鷹族(たかぞく)』。

 どの種族も魔法(まほう)帝国(ていこく)(ほう)(かい)し、人間たちによる魔女(まじょ)()りの被害(ひがい)に遭(3)い、大幅(おおはば)にその数を減らしている種族ではあるが、その中でも特に、最後まで人間たちと(たたか)姿勢(しせい)を崩(hr@)さなかった『鷹族(たかぞく)』は、魔法(まほう)帝国(ていこく)と命運を共にした者が多く、その生き残りは(わず)かだと言われている。

通称(つうしょう)『アルバスタの背骨(せぼね)』と呼ばれる、大陸(たいりく)を南北に隔てる大山脈の(ふもと)に、獅子族(シーズーぞく)と同じくらい昔から住んで居る亜人(あじん)なんだ」

エルフリーデの祖父は、落ち着いた口調(くちょう)でロナードに説明する。

(『鷹族(たかぞく)』生き残りが居るとは聞いた事はあったが……まさか、アルバスタ大陸(たいりく)に居たとは……)

ロナードは、(おどろ)きを(かく)せない様子(ようす)で、心の中で(つぶや)いた。

(わたくし)も居るとは聞いた事はありますけれど……お(とぎ)(ばなし)だとばかり……」

エルフリーデも、(おどろ)きを(かく)せない様子(ようす)(つぶや)く。

「そうだね。 人間たちの間ではもう伝説と言うか、お(とぎ)(ばなし)の中の住人に(ひと)しい存在(そんざい)なんだけど……。 (わし)がまだ若かった頃に、彼等(かれら)の住まう里の近くにその魔物(まもの)が現れてね。 ただ『亜人(あじん)』と言う理由だけで、当時の寺院(じいん)皇帝(こうてい)も何もしなかったんだよ。 今回みたいにね」

エルフリーデの祖父は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつ、驚いて居る二人に語る。

「酷い……」

祖父の話を聞いて、エルフリーデは沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、そう言った。

「そうだよね。 (わし)もそう思ったけれど、まだ駆け出しの修道士(しゅうどうし)だったから、上に意見(いけん)出来(でき)なくてね……見かねたティアマト大老子(だいろうし)封印(ふういん)したのは良かったけど、もう後の祭りでね。 里は滅茶苦茶、大地は瘴気(しょうき)を放つ毒に汚染(おせん)されて、とても人が住める様な状態(じょうたい)じゃ無くなってしまったんだ」

エルフリーデの祖父は、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で語る。

「そんな……」

エルフリーデは、ショックを(かく)せない様子(ようす)(つぶや)く。

「……一度ならず二度も、封印(ふういん)()けるなんて……そんな事があり得るのか?」

ロナードは、思い切り眉間(みけん)(しわ)を寄せ、不審(ふしん)そうにそう(つぶや)いた。

「そう思うよね? 普通(ふつう)封印(ふういん)()けない様に、より厳重(げんじゅう)封印(ふういん)(ほどこ)すと思うのだけど……。 そもそも何で『封印(ふういん)』なんだろうね?」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「そうよね。 何故(なぜ)やっつけてしまわないのかしら……」

エルフリーデも、()に落ちないと言った様子(ようす)(つぶや)く。

「やっつけてしまっては、都合(つごう)が悪い……と言う事だろう」

二人のやり取りを聞いて、ロナードは落ち着き払った口調(くちょう)でそう指摘(してき)する。

「『都合(つごう)が悪い』って……(だれ)にとって? そいつ、現れたって悪さしかしないのよ? (だれ)(とく)なのよ?」

ロナードの発言を聞いて、エルフリーデは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、彼に問い返す。

「それがね、そうでもないんだよ」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「?」

エルフリーデは不思議(ふしぎ)そうに小首をかしげる。

鷹族(たかぞく)の里の話には続きがあってね。 里があった場所の近くで、良質(りょうしつ)鉱石(こうせき)が取れる事が判明(はんめい)したんだよ。 それからは(こわ)い位に早かったよ。 皇帝(こうてい)肝入(きもい)りで採掘(さいくつ)事業(じぎょう)が立ち上がると、寺院(じいん)協力(きょうりょく)の下、あっと言うのに汚染(おせん)された土地が浄化(じょうか)されて、(おそ)ろしい速さで坑道(こうどう)(いく)つも出来(でき)たんだ。 これを単なる偶然(ぐうぜん)と言ってしまうには、あまりにも出来(でき)()ぎた話だと思わないかい?」

不思議(ふしぎ)そうな顔をして自分を見て居る孫に、エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)混じりに語る。

「確かに……」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつ、(つぶや)く。

「つまり、鷹族(たかぞく)の里を魔物(まもの)(おそ)ったのは、人的だとお(じい)(さま)はお考えなのね?」

祖父の話を聞いて、エルフリーデは落ち着いた口調(くちょう)でそう指摘(してき)すると、

(だれ)とは言わないけれど、(よく)に目の(くら)んだ(やから)がその土地を手に入れる(ため)に、(わざ)と『鷹族(たかぞく)』の里に魔物(まもの)を放った……。 寺院(じいん)はその者たちとグルだったのではないかと、(わし)は未だにそう思って居るよ」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、静かに自分の考えを付け加えた。

「……」

ロナードは、何とも言えぬ、少し考え込んで居る様子(ようす)で、二人のやり取りを聞いて居る。

「じゃあ、獅子族(シーズーぞく)の里にも鉱脈(こうみゃく)が?」

エルフリーデは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、祖父に問い掛ける。

「それは分からないけれど……。 鉱脈(こうみゃく)なんて無くても、獅子族(シーズーぞく)は我々人間よりも何倍も頑丈(がんじょう)で、タフだからね……。 彼等(かれら)労働(ろうどう)(りょく)として()しい所は沢山(たくさん)あるんじゃないかな……」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、自分の見解(けんかい)を語る。

何故(なぜ)獅子族(シーズーぞく)の里だけを(ねら)って、近くの人間たちの村や町を(おそ)わないのか、不思議(ふしぎ)に思って居たが……。 そう言う事ならば色々と合点(がってん)がいく」

二人の話を(しばら)(だま)って聞いて居たロナードが、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ(つぶや)く。

「まあ、これはあくまで(わし)推測(おくそく)に過ぎないから、ちゃんと確認をしなきゃいけないけれど……。 でも、(かぎ)りなく(あや)しいでしょ?」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナード達に言う。

「ええ」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返す。

(あや)しいって程度(ていど)じゃないわよ。 事実(じじつ)だとしたら大問題でしてよ」

エルフリーデも、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、やや語気(ごき)を強めて言った。

「でもね、寺院(じいん)何処(どこ)までが(から)んでいるかは分からないから、君やエフィが首を突っ込んで良い事では無いよね?」

エルフリーデの祖父は、苦笑(にがわら)いを浮かべながらそう指摘(してき)すると、

「うっ……それを言われますと……」

痛い所を()かれ、エルフリーデは言葉を詰まらせる。

 もし、寺院(じいん)全体でしている事だとすれば、その秘密(ひみつ)を守る(ため)に、(さぐ)りを入れる(やから)は、(だれ)であろうと容赦(ようしゃ)なく、そして周囲(しゅうい)(さと)られぬ様に上手(うま)く消すだろう。

 寺院(じいん)は、それだけの事を秘密(ひみつ)()に行うだけの武力(ぶりょく)財力(ざいりょく)もある。

「そうですね。 この話は(わたし)(あに)経由(けいゆ)でカルセドニ殿下(でんか)報告(ほうこく)し、どうするべきか相談(そうだん)してみます」

ロナードも、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつ、エルフリーデの祖父に言った。

「それが良いよ。 (くわ)しい事は書面(つら)にしているから、周囲(しゅうい)にそれと気付かれない様に、(わし)(わた)す本や資料(しりょう)()ぜて持ち帰り、折りを見てお兄さんに渡しなさい」

エルフリーデの祖父は、ニッコリと笑みを浮かべ、穏やかな口調(くちょう)でロナードに言った。

「はい」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返した。


 その後、エルフリーデの祖父と意気投合(いきとうごう)したロナードは、時間が()つのを(わす)れる(ほど)に話し込んでしまい、彼の好意(こうい)により、夕食まで御馳走(ごちそう)になる事になった。

「何か、オレまで申し訳ないです」

ロナードの護衛(ごえい)として一緒(いっしょ)に来ていたアイクが、目の前に食事を並べられているのを見ながら、申し訳なさそうに、エルフリーデと彼女の祖父に言った。

「気にする様な事では無いよ。 息子(むすこ)夫婦(ふうふ)たちは(みや)(づと)めで帰りが遅いから、何時(いつ)も夕食はエフィと二人だからね。 たまには(にぎ)やかに食べたいじゃないか」

エルフリーデの祖父は、ニッコリと笑みを浮かべながら、恐縮(きょうしゅく)した様子(ようす)のアイクに優しい口調(くちょう)で言う。

 エルフリーデの祖父は孫娘(まごむすめ)とは違い、本当に温和(おんわ)な性格で、そのほんわかとした温かい雰囲気(ふんいき)に、警戒(けいかい)(しん)(はる)彼方(かなた)へ吹き飛んでしまう。

「ハルディン様。 一つ、お(うかが)いしても?」

侍女(じじょ)たちが(いそが)しく夕食を並べて居るのを横目で見ながら、ロナードは(おもむろ)にエルフリーデの祖父にそう声を掛ける。

「何かね?」

ロナードの事をすっかり気に入った彼は、優しい口調(くちょう)で問い掛ける。

「その……ハルディン様は()獣使(じゅうつか)いであるにも関わらず、何故(なぜ)(ほか)血族(けつぞく)にその知識(ちしき)や技術をお伝えにならないのですか?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、エルフリーデの祖父に問い掛ける。

 召喚(しょうかん)()(ほど)希少性(きしょうせい)は無いにしろ、()獣使(じゅうつか)いもかなり特殊(とくしゅ)で、召喚(しょうかん)()と同じく血筋(ちすじ)起因(きいん)する所が大きく、なろうと思って(だれ)でもなれるものでは無い。

 そんな特殊(とくしゅ)な力を何故(なぜ)息子(むすこ)や孫に伝えないのか、ロナードは不思議(ふしぎ)でならなかったのだ。

息子(むすこ)単純(たんじゅん)才能(さいのう)に恵まれなかったからだが……。 エフィの場合は同年代に召喚(しょうかん)術を使える、ティルミット公爵(こうしゃく)のお姫様がいらっしゃったのだよ。 ()獣使(じゅうつか)いと召喚(しょうかん)()は同じ召喚(しょうかん)(じゅつ)だからね。何かにつけて、可愛(かわい)孫娘(まごむすめ)が彼女と比較(ひかく)される様な事があっては、(わし)も気分が悪いし、エフィもやり辛いと思って(あえ)えて教えなかったのだよ」

エルフリーデの祖父ハルディン老は、穏やかな口調(くちょう)でロナードの問い掛けに答えた。

(なる)(ほど)……」

ロナードは、納得(なっとく)した様子(ようす)(つぶや)く。

「しかし今思えば、ちょっと気にし過ぎた感が(いな)めないよね。 そのお姫様も幼い頃に行方(ゆくえ)()れずになってしまったし……」

ハルディン老は、苦笑(にがわら)いを浮かべながらそう付け加えた。

 そうして、(おもむろ)にフォークとナイフを手に取ると、目の前の食事に手を付け始めた。

 どうやら、食事をしながら話そうと言う事の様だ。

 それを見て、エルフリーデやロナード達も食事を始めた。

(うう。 こう言うの、苦手(にがて)なんだよなぁ)

テーブルマナーなどとは無縁(むえん)の生活を送って来た(ため)悪戦苦闘(あくせんくとう)しながらアイクが、困惑(こんわく)した表情を浮かべながら、心の中で(つぶや)く。

「そんなに肩に力を入れず、普段(ふだん)(どお)りに食べなさい」

アイクが四苦八苦(しくはっく)して居るのを見て、ハルディン老は優しい口調(くちょう)で言った。

(そうは言っても……)

アイクは心の中でそう(つぶや)くと、チラリと(となり)の席に座っていたロナードへ目を向ける。

 彼は(となり)四苦八苦(しくはっく)して居るアイクを横目に、綺麗(きれい)所作(しょさ)で上品に食事をしている。

大丈夫(だいじょうぶ)。 どんな食べ方をしても、五月蠅(うるさ)く言う様な(やから)此処(ここ)には居ないよ」

ハルディン老は、不安そうにしているアイクに言うと、ちょっと行儀(ぎょうぎ)(わる)く、手で適当(てきとう)に二つに千切(ちぎ)ったパンに塩コショウで焼いた肉を挟み、バーガーの様にして大きく口を開けて頬張(ほおば)る。

「こう言う食べ方も、悪く無いよね」

口の中に詰めた分を飲み込んでしまうと、ニッコリと笑みを浮かべ、戸惑(とまど)って居るアイクに言った。

(凄く良い人だな)

アイクは、自分に気遣って、テーブルマナーなど無視(むし)し、好きなように食べて見せてくれたハルディン老に対し、素直(すなお)好意(こうい)を抱き、彼の優しさに感謝(かんしゃ)した。

 それからは、アイクも(みょう)気負(いお)う事も無く、楽しく食事をする事が出来(でき)た。


「それにしても、君は若い頃のリャハルトに良く()ているね」

ハルディン老は、穏やかな表情を浮かべながら、ロナードに言う。

「祖父を……ご存知(ぞんじ)なのですか?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い返す。

勿論(もちろん)だよ。 彼は(わし)の親友であったし、当時、寺院(じいん)(つか)えていた者で、(せい)騎士(きし)団長(だんちょう)だった彼を知らない者は居ないよ」

ハルディン老は、穏やかな口調(くちょう)で答える。

「祖父は、(せい)騎士(きし)団長(だんちょう)だったのですか……」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、(さら)に問い掛ける。

「そうだよ」

ハルディン老は、落ち着いた口調(くちょう)で答える。

「知らなかったの?」

エルフリーデが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながらロナードに問い掛ける。

「ああ……。 祖父はあまり、自分の昔話(むかしばなし)をする人では無いんだ。 話せない事の方が多いからかも知れないが……」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で答える。

「まあ、彼からしてみれば、帝国(ていこく)に居た頃……特に寺院(じいん)所属(しょぞく)していた頃の事は、思い出したくない物の方が多いのかも知れないね……」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら、重々しい口調(くちょう)で語る。

「……祖父が何故(なぜ)帝国(ていこく)を去ったのか、その理由はご存知(ぞんじ)ですか?」

ロナードは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、ハルディン老に問い掛ける。

「……簡潔(かんけつ)に言うと、寺院(じいん)を信じられなくなったのだよ。 そして、何もかも嫌になってしまったのだろう。 娘を連れて、逃げる様に出て行ってしまった……」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべたまま、重々しい口調(くちょう)で答える。

「……」

彼の答えに、ロナードは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、押し(だま)る。

「別に、リャハルトが(つみ)(おか)したと言う訳ではないよ」

ハルディン老はそう語ると、苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「それは分かっています。 祖父が、その様な事をするとは思えませんから」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)で返す。

「そうだね。 リャハルトは本当に(せい)騎士(きし)団長(だんちょう)として素晴(すば)らしい人だった。 だから彼を(した)う者も多くいた。 それだけに当時、彼が寺院(じいん)見限(みかぎ)り、帝国(ていこく)を去った事に対し、多くの人達が強い衝撃(しょうげき)を受けた。 (わし)もその中の一人だった」

ハルディン老は、とても複雑(ふくざつ)な表情を浮かべたまま、淡々とした口調(くちょう)で語る。

「原因は、何だったんですか?」

アイクは、食事をする手を止め、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで問い掛ける。

寺院(じいん)内の(みにく)権力(けんりょく)(あらそ)いに巻き込まれ、事故(じこ)奥方(おくがた)を亡くされたんだ。 正確には、事故(じこ)と見せ掛けて(ころ)されそうになったんだよ。 リャハルトも一緒(いっしょ)にね」

ハルディン老は、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で語る。

「そんな!」

それを聞いたエルフリーデは驚愕(きょうがく)の表情を浮かべ、思わず声を(あら)らげる。

(さいわ)い、リャハルトは一命を取り()めたけれど、残念(ざんねん)ながら、奥方(おくがた)は助からなかった……」

ハルディン老は、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべたまま語る。

「……」

ロナードも、何とも言えぬ表情を浮かべ、ハルディン老の話に耳を(かたむ)ける。

寺院(じいん)は、リャハルトが去った理由を『(いっ)身上(しんじょう)都合(つごう)』としたけれど、(だれ)もが()ぐに、リャハルトが寺院(じいん)見限(みかぎ)り、帝国(ていこく)を捨てる(ほど)の事を寺院(じいん)がしたのだと(さっ)したよ。 リャハルトは(だれ)にも何も()げずに突然(とつぜん)、居なくなってしまったからね」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、溜息(ためいき)()じりにそう語った。

「命の危険(きけん)があった……と言う事ですか?」

アイクは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、ハルディン老に問い掛ける。

「その通りだよ」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべたまま、簡潔(かんけつ)に返してから、

「当時、寺院(じいん)内には(いく)つかの派閥(はばつ)があって、その中にはリャハルトの妻……つまりは、君の祖母を次の大老子(だいろうし)()一派(いっぱ)もあった。 けれど、リャハルトは勿論(もちろん)彼女(かのじょ)自身(じしん)もそんな気は毛頭(もうとう)なかった。 けれど、権力(けんりょく)(しゅう)(ちゃく)する者って、本当に疑心(ぎしん)に満ちた、(みにく)い心を持っている者が多くてね……」

複雑(ふくざつ)な表情を浮かべたまま、そう説明を付け加えた。

「つまり、そいつ等から命を(ねら)われたと言う事ですね?」

アイクは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、ハルディン老に言うと、彼は真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返し、

「ああ。 彼等(かれら)(さい)疑心(ぎしん)に駆られるのも無理(むり)らしからぬ事だとは思う。 リャハルトは(せい)騎士(きし)団長(だんちょう)と言う、決して無視(むし)出来(でき)ない地位(ちい)権力(けんりょく)もあり、そして何よりも実力(じつりょく)人望(じんぼう)もあったからね」

複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で答えた。

「確かに。 そんな人を無視(むし)する事は出来(でき)ないわね……」

祖父の話を聞いて、エルフリーデは神妙(しんみょう)面持(おもも)ちでそう(つぶや)いた。

奥方(おくがた)は家庭に入り、寺院(じいん)とは直接(ちょくせつ)(かか)わる事は無くなり、表に出て来る事は無くなったが、それでも、彼女の事を(した)っている人たちが一定(いってい)(すう)()た。 それも、彼等(かれら)疑心(ぎしん)を抱かせるには十分すぎたのだろう」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべたまま、重々しい口調(くちょう)で語る。

「うわぁ……最悪(さいあく)状況(じょうきょう)ですね」

アイクは、かなりドン引きした様子(ようす)(つぶや)く。

「リャハルトも普段(ふだん)から気を付けてはいた。 けれど、彼等(かれら)はリャハルトの想像(そうぞう)を超え、あまりに単純(たんじゅん)露骨(ろこつ)な手段に出たと言う訳だ」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で続ける。

「何て事……」

エルフリーデは表情を険しくし、(つぶや)く。

「リャハルトは常々、ティルミット家の血を引く娘の身を心配していた。 何時(いつ)か、寺院(じいん)権力(けんりょく)(あらそ)いの火種(ひだね)になるのではないかと……。 だからこそ、自分たちは大老子(だいろうし)と言う地位(ちい)興味(きょうみ)が無い事を、周囲(しゅうい)発信(はっしん)し続けて来た。 けれど、それがかえって彼等(かれら)の目には不自然(ふしぜん)に見えたのだろう」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で自分の見解(けんかい)を語る。

「そんなの、(うたが)いだしたらキリがないわ」

エルフリーデは、表情を(けわ)しくし、怒りに満ちた口調(くちょう)指摘(してき)する。

「その通りだよ。 彼等(かれら)は、リャハルトと言う人間を自分たちの願望(がんぼう)にも似た、(ゆが)み切った偏見(へんけん)に満ちた目で見ていたんだ」

ハルディン老は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべたまま、重々しい口調(くちょう)で語る。

(ひど)い話ですね……」

アイクは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべながら言う。

「まあ結局(けっきょく)、そこまでしてリャハルトを追い出した連中(れんちゅう)も、(かつ)神輿(みこし)が居なくなってしまったから、自ずと寺院(じいん)内での力を失って、解体(かいたい)されたのだけれどね……」

ハルディン老は、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、やるせないと言った口調(くちょう)で言うと、

「その様な事情(じじょう)があったのですね……」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら(つぶや)く。

()(かく)寺院(じいん)の者を暗に信じてはならないよ。 特に君は」

ハルディン老は、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、ロナードにそう忠告(ちゅうこく)する。

「ご忠告(ちゅうこく)、心に刻みます」

ロナードは真剣(しんけん)な表情を浮かべ、ハルディン老にそう返した。


「ふむ……。 これは由々しき事だな」

エルフリーデの祖父から聞いた事を、ロナードが詳細(しょうさい)(まと)めた報告書(ほうこくしょ)とハルディン老の手記(しゅき)をシリウスから受け取り、それに目を通していたカルセドニ皇子(おうじ)は、溜息(ためいき)()じりにそう(つぶや)いた。

「ティアマト大老子(だいろうし)(かぎ)って、封印(ふういん)に手を抜くなど有り得ませんから……。 (だれ)かが故意(こい)に、封印(ふういん)()いたと考えるべきでしょう」

予め、その報告書(ほうこくしょ)を読んでいるハニエルは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう言うと、

「確かに。 あの(ばあ)さんが、そんな阿漕(あこぎ)な事をするとは思えん」

シリウスも頷きながら、そう言った。

(ばあ)さんって……。 あの方も一応(いちおう)、お前の身内(みうち)だぞ? レオン」

カルセドニ皇子(おうじ)は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シリウスに言う。

「だからこそだ。 あの(ばあ)さんは(わたし)などより、ユリアスや死んだ母に近い気質(きしつ)だ。 自分の事は二の次。 他人(たにん)の事を優先(ゆうせん)する様なお人好しだ」

シリウスは、ティアマト大老子(だいろうし)に抱いた感想を率直(そっちょく)に語った。

「お前は時々、自分の弟を美化(びか)する(ふし)があるな。 ユリアスはティアマト大老子(だいろうし)ほど、純心(じゅんしん)では無いだろう? 人並(ひとな)みに狡猾(こうかつ)さを持ち合わせているだろう」

シリウスの言葉に、カルセドニ皇子(おうじ)苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、そう返した。

「確かに、ロナードは良い子ですが、時々、流石(さすが)貴方(あなた)の弟だなと思う時がありますよ」

ハニエルも苦笑(にがわら)いを浮かべ、シリウスに言うと、

悪巧(わるだく)みを考えている時の顔がそっくりだ……とかな」

カルセドニ皇子(おうじ)(うなず)きながら、少し意地悪(いじわる)な表情を浮かべ、そう言ってシリウスをからかう。

一言(ひとこと)余計(よけい)だ」

シリウスは、ムッとした顔をして、そう言い返した。

「まあ、ティアマト大老子(だいろうし)はこの一件(いっけん)に関しては、関与(かんよ)していない可能性が高いだろうし、そもそも、老子(ろうし)たちがちゃんと対処(たいしょ)してくれていると、思っているに(ちが)いない」

カルセドニ皇子(おうじ)は、軽く溜息(ためいき)を付いてから、困った様な表情を浮かべながら、自分なりの見解(けんかい)を語った。

「確かに。 まさか、自分の命令を無視(むし)して、老子(ろうし)たちが何もしていないとは、思わないだろう」

シリウスも真剣(しんけん)な表情を浮かべ、そう答える。

「これを()寺院内(じいんない)大掃除(おおそうじ)を始めた方が良さそうですね」

ハニエルは、(おだ)やかな口調(くちょう)で二人にそう言うと、

同感(どうかん)だ」

シリウスは、真剣(しんけん)な表情を浮かべたまま、そう言って頷いた。

「だがその前に、獅子族(シーズーぞく)の里を()らしている魔物(まもの)退治(たいじ)する方が先だ。 何をするにもまず、それ相応(そうおう)実績(じっせき)と信頼を勝ち取らねば、協力者も得られないだろうからな」

カルセドニ皇子(おうじ)は、苦笑いを浮かべながら言うと、

「お供致します」

ハニエルは、ニッコリと笑みを浮かべながら言った。

寺院(じいん)内部に溜まった膿を取り除くには、大仕事だろうからな」

シリウスも、軽く溜息(ためいき)を付いてから、淡々とした口調(くちょう)でカルセドニ皇子(おうじ)に言う。

「頼りにしている」

カルセドニ皇子(おうじ)は、フッと笑みを浮かべ、二人に向かってそう言った。


「久しいな。 聖女(せいじょ)のお披露目(ひろめ)パーティーで会った以来(いらい)か」

砂漠(さばく)(わた)()(せん)(みなと)で、数日振りに会ったカルセドニ皇子(おうじ)は、にこやかな笑みを浮かべながら、アイクとナルルを護衛(ごえい)に伴いやって来たロナードにそう声を掛けた。

「ご無沙汰(ぶさた)しておりました。 殿下(でんか)。 殿下(でんか)とご一緒(いっしょ)出来(でき)る事を光栄(こうえい)に思います」

ロナードは、自分の側に歩み寄って来たカルセドニ皇子(おうじ)に対し、そう挨拶(あいさつ)をすると(こうべ)()れた。

他人(たにん)行儀(ぎょうぎ)挨拶(あいさつ)不要(ふよう)だ。 ユリアス。 頼りにしているぞ」

カルセドニ皇子(おうじ)は、兄のシリウスと(ちが)い、自分に対して敬意(けいい)を払うロナードに対し、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

殿下(でんか)のご期待(きたい)沿()えるよう、最大限(さいだいげん)、努めます」

ロナードは相変(あいか)わらず、堅苦(かたくる)しい(もの)()いで返す。

 そんな様子(ようす)遠目(とおめ)で見ていた、寺院(じいん)兵士(へいし)たちの一人がロナードを見ながら、

「誰かと思えば、魔道(まどう)大会(たいかい)でズルをした(やつ)じゃないか」

そう(つぶや)いた。

「ズル?」

近くに居た別の兵士(へいし)が、キョトンとした表情を浮かべながら、そう問い掛ける。

「知らないのか? 魔道(まどう)大会(たいかい)(われ)寺院(じいん)上級(じょうきゅう)魔術師(まじゅつし)三人相手(あいて)取って、魔術(まじゅつ)無詠唱(むえいしょう)で吹っ飛ばしたって話」

別の兵士(へいし)が、苦笑(にがわら)()じりにそう説明をすると、

「そ、そうなのか?」

問いかけをした兵士(へいし)が、物凄(ものすご)(おどろ)いた表情を浮かべながら言った。

 それから彼等(かれら)は口々に、何も知らない兵士(へいし)に向かって、何処(どこ)からか聞いたロナードの噂話(うわさばなし)をし始めた。

「どうやら、()道具(どうぐ)(かく)し持っていて、それを使ったって話だ」

「はあ? 何て卑怯(ひきょう)(やつ)だ!」

「それなのに、宮廷(きゅうてい)魔術(まじゅつ)()(ちょう)に持て(はや)されて、次期、宮廷(きゅうてい)魔術(まじゅつ)()(ちょう)と言われているらしいぜ」

「何て(やつ)だ!」

「しかも、何番目かの皇女(こうじょ)様の婚約者(こんやくしゃ)だって話だ」

「いやいやいや。 みんな(だま)され過ぎだろ」

面識(めんしき)も無い相手(あいて)噂話(うわさばなし)面白(おもしろ)可笑(おか)しく語り、ここぞと言わんばかりにボロ(くそ)に言う兵士(へいし)たちを、遠目(とおめ)で見ていたハニエルが、

「何と言うか……人の想像(そうぞう)(りょく)(ゆた)かさには感心しますね……」

ポツリと、自分の(かたわ)らに居たシリウスに言った。

(まった)くだ」

シリウスは、良く知りもしない弟の事を悪く言われ、今にも切り捨ててやりたい気持ちを必死(ひっし)(おさ)えながらも、不快(ふかい)さを露わにしながら言った。

「大方、お前の弟に手も足も出なかった、寺院(じいん)上級(じょうきゅう)魔術(まじゅつ)()たちが腹癒(はらい)せに、広めた事だろう」

そんな二人に、ロナードに挨拶(あいさつ)を交わし、戻って来たカルセドニ皇子(おうじ)苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「何とも陰湿(いんしつ)ですね」

ハニエルは、(さら)不快(ふかい)さを露わにしながら、そう(つぶや)いた。


 その後、ロナードたちは獅子族(シーズーぞく)の里を()らしている魔物(まもの)討伐(とうばつ)の為、獅子族(シーズーぞく)の里へ向かっていた。

 帝都(ていと)周囲(しゅうい)砂漠(さばく)が広がっている(ため)、『()(せん)』と呼ばれる、風を利用して進む帆船(はんせん)移動(いどう)する。

 ロナードは、()(せん)に乗るのは二回目だが、最初は船酔(ふなよ)いと長旅(ながたび)などの(つか)れからダウンしてしまい、部屋から出る事が無かった。

 とは言え、周囲(しゅうい)は何もない、景色(けしき)も代わり映えしない砂漠(さばく)が延々と続いているだけだが。

何故(なぜ)寺院(じいん)の者ではない者を、聖女(せいじょ)様はご指名(しめい)なさったのか……」

(まった)くだ。 魔道(まどう)大会(たいかい)の時だって、きっと()道具(どうぐ)を使ってズルを決まっている。 そうでなければ、あのお三方があんな簡単(かんたん)に負ける(はず)が無い」

「妹君の婚約者(こんやくしゃ)だからって、団長(だんちょう)団長(だんちょう)だ」

同行(どうこう)して居る寺院(じいん)兵士(へいし)たちは、甲板(かんぱん)の上に来て、外の様子(ようす)(なが)めているロナードを遠目(とおめ)で見ながら、口々にその様な不満(ふまん)()らす。

 彼等(かれら)は、カルセドニ皇子(おうじ)の部下たちと、魔物(まもの)討伐(とうばつ)(ため)急遽(きゅうきょ)(あつ)められた者たちだ。

部下の多くが、(せい)騎士(きし)(だん)団長(だんちょう)である、カルセドニ皇子(おうじ)の事を(した)っている者が多いが、どうやら今回の事だけは納得(なっとく)がいかない様だ。

何せ、聖女(せいじょ)リリアーヌが直々に指名(しめい)した、リュディガー伯爵(はくしゃく)宮廷(きゅうてい)魔術(まじゅつ)()たちだけでなく、婚約者(こんやくしゃ)であるセレンディーネ皇女(こうじょ)まで連れて来たのだから。

彼等(かれら)にはもう、ロナードが旅行(りょこう)気分(きぶん)で来ている様にしか見えなかった。

しかしながら、セネトはそう言った理由で赴く訳ではない。

獅子族(シーズーぞく)たちの里の現状(げんじょう)と、魔物(まもの)討伐(とうばつ)に関する事を皇帝(こうてい)報告(ほうこく)する役割(やくわり)と、皇帝(こうてい)に代わって寺院(じいん)に助力する役割(やくわり)を担っている。

皇帝(こうてい)として、ここまで大事になっているのに、何も知らないのは問題であると思ったのだろう。

「出しゃばって来なくても、魔物(まもの)くらいオレたちで片付(かたづ)けられるっての」

宮廷(きゅうてい)の中で魔術(まじゅつ)の研究に(いそ)しんでりゃ良いのによ」

「良いよなぁ。 コネがあるお方は」

白地に赤の縁取(ふちど)りが(ほどこ)された、フード付きのローブを着ているのが、寺院(じいん)所属(しょぞく)している魔術師(まじゅつし)たちである。

 彼等(かれら)は、自分達の(そば)を横切ろうとしていたロナードに(わざ)と聞こえる様に言った。

「……」

ロナードは、これと言った表情を浮かべる事無く、何も言わずに通り過ぎようとしたのだが……。

「おやおや。 異国人(いこくじん)はオレたちの言葉が分かりませんかぁ?」

寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)の一人が、ロナードの行く手を(はば)む様に、前に出て来ると、ニヤニヤと馬鹿(ばか)にした様な笑みを浮かべ、そう言った。

「顔が良いと得ですねぇ? その顔で皇女(こうじょ)殿下(でんか)(たら)し込んだのですか? それとも体でご奉仕(ほうし)されているのでしょうか? あ、済みません。 両方ですか?」

別の寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)も、馬鹿(ばか)にした様な口調(くちょう)でロナードに言う。

「お前等(まえら)っ!」

彼等(かれら)言動(げんどう)に、アイクが額に青筋(あおすじ)を浮かべ、苛立(いらだ)ちを顕わにする。

皇女(こうじょ)殿下(でんか)婚約者(こんやくしゃ)殿(どの)腰巾着(こしぎんちゃく)も大変だな?」

「こんな、顔だけ良い異国人(いこくじん)のご機嫌(きげん)(うかが)いなんて、お前は帝国(ていこく)人としてのプライドが無いのか?」

憤っているアイクを(さら)(あお)る様に、寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)たちは、更にそう言った。

「取り合うな」

ロナードは落ち着いた口調(くちょう)で、(いきどお)って居るアイクに言った。

「おや。 これは(おどろ)いた。 帝国(ていこく)言葉が(しゃべ)れたのか」

寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)の一人が、小馬鹿(こばか)にした様にロナードに言った。

「どうせ、一言(ひとこと)二言だろ。 オレたちの言う事なんざ、(ほとん)ど分かりゃしないよな?」

別の寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)も、馬鹿(ばか)にした様な口調(くちょう)で言う。

「アンタ達の方こそ、能力(のうりょく)も無く、コネも無く、顔もイマイチで大変だな」

ロナードは軽く溜息(ためいき)を付いてから、冷ややかな目を彼等(かれら)に向け、淡々とした口調(くちょう)で言い返した。

「なっ……」

ロナードの思いがけぬ反論(はんろん)に、寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)たちは表情を(けわ)しくする。

(良いぞ(あるじ)! 言ったれ!)

アイクは嬉々とした表情を浮かべ、心の中で(つぶや)いて居ると、突然(とつぜん)彼等(かれら)が乗っていた()(せん)船体(せんたい)が大きく()らいだ。

「なんだ?」

「岩に乗り上げたか?」

近くに居た寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)たちは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、口々にそう(つぶや)く。

 だが、彼等(かれら)予想(よそう)(はん)し、なおも船体(せんたい)は大きく()らぎ、直ぐに立っていられなくなった。

 ズーンと大きな音共に、船体(せんたい)が大きく上下し、甲板(かんぱん)の上にいた多くの者が一瞬(いっしゅん)、体が宙に浮き、そのまま甲板(かんぱん)の上に強く体を叩き付ける羽目(はめ)になった。

「いたた……」

アイクがそう(つぶや)き、甲板(かんぱん)にぶつけた背中(せなか)を摩りながら、徐に身を起こそうとした瞬間(しゅんかん)(となり)体勢(たいせい)(くず)して蹲っていたロナードの足元に何か物凄(ものすご)く太いロープの様な物が勢い良く延びて来て、そのまま(すご)い勢いで、ロナードを船尾(せんび)の方へと引き()って行った。

(あるじ)!」

アイクは慌てて立ち上がると、危うくバランスを崩しかける。

 甲板(かんぱん)の上と思って居た場所は、船体(せんたい)(ふち)で、どう言う訳か、彼等(かれら)が乗っていた()(せん)船体(せんたい)を横向きにした格好(かっこう)で、広大な砂漠(さばく)の上にあった。

 多くの人たちは、砂の上に体を放り出されており、頭から砂を(かぶ)っている者たちも沢山(たくさん)いたが、大半(たいはん)の者たちが頭上を見上げたまま、固まってしまっている。

 アイクも、船体(せんたい)とは(こと)なる(おそ)ろしくデカイ影に戸惑(とまど)いつつ、頭上を見上げた途端(とたん)、あまりの事にそれを凝視(ぎょうし)したまま、場に固まってしまった。

 彼等(かれら)の前に(そび)え立っていたのは、全身が毒々しい(せき)褐色(かっしょく)(うろこ)(おお)われた、彼等(かれら)が乗っていた()(せん)よりも大きな、三つ首を持つ巨大(きょだい)(へび)だった。

 その金色に(かがや)双眸(そうぼう)は、危険(きけん)な色を()びており、口の間から時折(ときおり)(のぞ)く舌は黒に近い紫色……口からは(うす)らと紫色の(けむり)の様な物が出ている……。

「なっ……」

思いがけぬ場所で、思いがけぬタイミングで、彼の想像(そうぞう)(はる)かに()えた化け物の出現(しゅつげん)に、アイクは表情を(こお)り付かせ、絶句(ぜっく)した。

 多くの人達は彼と同じ様に、目の前に突然(とつぜん)(あらわ)れた巨大(きょだい)(へび)の化け物を見て、動けずにいた。

「ロナードっ!」

そんな彼等(かれら)の耳に、セネトの悲痛(ひつう)な声が聞こえた。

 アイクは慌てて、巨大(きょだい)すぎる(へび)の方へと目を向けると、真ん中の(へび)が人を(くわ)えているのが見えた。

 その人物は足を(くわ)えられ、逆さ吊りの状態(じょうたい)で持っていた剣で、必死(ひっし)(へび)の口から自分の足を解放(かいほう)しようと(あらが)っている。

「セネト。 コイツに身体(しんたい)強化(きょうか)の術を付与(エンチャント)しろ」

カルセドニ皇子(おうじ)に同行していたシリウスが徐に、自分の側に居たナルルを指差(ゆびさ)しながら、セネトにそう言った。

何故(なぜ)?」

セネトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛けるが、

「良いから、早くしろ」

シリウスの有無(うむ)も言わせぬ圧力(あつりょく)に負け、セネトはナルルに身体(しんたい)強化(きょうか)の術を付与(エンチャント)した。

 そして次の瞬間(しゅんかん)、シリウスは何を思ったのか、自分の側に居たナルルの首根っこを(つか)むと、彼女をそのまま勢い良く、今にもロナードを丸呑(まるの)みにしようとしている、三つ首の(へび)の化け物に向かって投げ付けた。

「ふへ?」

ナルルは訳の分からぬのまま、砲弾(ほうだん)の様に勢い良く飛んで行き、ゴスッと言う(にぶ)い音を立て、三つ首の(へび)の化け物の腹に、頭から突っ込んだ。

 その音の通りに、物凄(ものすご)衝撃(しょうげき)を受けたらしく、三つ首の(へび)の化け物は悲痛(ひつう)な声を上げ、大きな体が揺らいだ。

 その瞬間(しゅんかん)見逃(みのが)さず、ロナードは自分の足を咥えている三つ首の(へび)の化け物に向かって、風の魔術(まじゅつ)見舞(みま)った。

ロナードからの攻撃(こうげき)真面(まとも)に食らい、(へび)の顎が真っ二つに裂けると、紫色の毒々しい血を()き散らしながら、三つ首の(へび)の化け物は悲痛(ひつう)に満ちた声を上げながら、のた打ち回っている。

 (へび)の体から飛び散った血が降り注いだ辺りは、シュシュウ……と言う音と、白い(けむり)、何とも表現し(がた)(ひど)い匂いを放ち、血が触れた部分がドス黒く変色してしまっている。

「な、なんなんだ?」

近くで、砂が黒くなったのを見て、アイクの近くに居た寺院(じいん)魔術師(まじゅつし)が表情を引き()らせながら声を上げた。

身体(しんたい)強化(きょうか)! 加速(かそく)付与(エンチャント)!」

アイクから少し離れた所から、セネトの声がした瞬間(しゅんかん)、シリウスが、弾丸(だんがん)の様に飛び出していくと、上から落ちて来たロナードを何とか上手(うま)具合(ぐあい)に抱き止めた。

 シリウスに抱き止められたロナードは、左足に大きな火傷(やけど)の様な傷があり、血が飛び散った際に触れたのか、他にも腕などにも同様(どうよう)怪我(けが)を負い、(へび)の口から出ていた如何(いか)にも吸込んだら悪そうな(けむり)の様な物も吸込(すいこ)んだのか、先程(さきほど)から(はげ)しく咳き込んでいる。

大丈夫(だいじょうぶ)か?」

セネトが、地面(つら)の上にゆっくりと下ろされたロナードの下へ駆け寄ると、持っていた(かわ)水筒(すいとう)を差し出した。

「あ……(あるじ)っ!」

アイクも血相(けっそう)を変えて駆け寄った。

「口の中を(ゆす)いで下さい」

駆け寄ったハニエルず、かなり酷い怪我(けが)を負い、その場に座り込んだまま動けずにいるロナードの肩に手を()え、彼の体を支えながら、落ち着いた口調(くちょう)で声を掛ける。

「はあ……はっ……ゴホッ! ゴホッ!」

ロナードはハニエルに言われた通りに、口の中を(ゆす)ぎ、含んでいた水を()きだすと、苦しそうに呼吸(こきゅう)を繰り返してから、(はげ)しく咳き込む。

(あるじ)!」

側に居たアイクは(あわ)てて身を(かが)め、(はげ)しく(せき)き込んでいるロナードの背中(せなか)を優しく(さす)る。

「……は? (やつ)……は?」

ロナードは、(かす)れた声で近くに居たセネト()に問い掛ける。

大丈夫(だいじょうぶ)だ。 お前の一撃(いちげき)で姿を消した」

シリウスが、ロナードの背中(せなか)を優しく(さす)りながら、落ち着いた口調(くちょう)で答える。

 彼の言う通り、強い日差しを遮って居た巨大(きょだい)(へび)の影は何時(いつ)の間にか消えてしまっている……。

 (へび)周囲(しゅうい)には、降り注いだ血を浴びた者たちが、(ひど)火傷(やけど)の様な傷を負い、(うめ)き声をあげて(うずくま)っており、治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)を使える術師(じゅつし)達が急いで負傷者(ふしょうしゃ)たちの側へ駆け付けている……。

 その中でも取り分け、ロナードは(ひど)くやられており、足は魔物(まもの)瘴気(しょうき)(ただ)れ、自力では立ち上がる事もままならない。

「急いでテントを張れ! 負傷者(ふしょうしゃ)をその下に運び込むぞ」

カルセドニ皇子(おうじ)が、周囲(しゅうい)に居た者たちに向かって毅然(きぜん)とした態度(たいど)で、そう命令を下すと、突然(とつぜん)巨大(きょだい)(へび)の化け物の襲撃(しゅうげき)にすっかり動転(どうてん)してしまっていた者たちは、ハッと我に返り、彼の命令に従う為に急いで動き出した。

「どう言う事? あんな大勢いた中で、ロナードを(ねら)うなんて……」

ルチルは、(ひど)い傷を負い、グッタリしているロナードを見ながら、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ言った。

「えっ……」

ルチルの言葉を聞いて、アイクは戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

「ああ。 明らかに、アイツはロナードを(ねら)っていたな……」

セネトも、神妙(しんみょう)な表情を浮かべながら(つぶや)く。

「それも気になりますが、()(せん)を起こさぬ限り、我々はこの砂漠(さばく)のど真ん中で野宿(のじゅく)をする羽目(はめ)になります」

ギベオンが落ち着いた口調(くちょう)でセネトたちに言った。

 その(かたわ)らで、シリウスに抱き抱えられたまま、(つら)そうにしているロナードの状態(じょうたい)を、ハニエルが心配そうに見ている。

 ロナードは、意識はあるもののグッタリしており、先程(さきほど)から呼吸(こきゅう)(おん)可笑(おか)しく、何度も(はげ)しく(せき)き込んでいて(つら)そうだ。

「で、殿下(でんか)! 上を見て下さい!」

そんな中、不意(ふい)に誰かの叫び声がしたので、セネト()は驚いて上空を見上げると、背中(せなか)に羽を生やした、ガタイの良い男たちが数人、空の上に佇んで、此方を見下(みくだ)ろして居るではないか。

 見た目こそ烏族(からすぞく)に似ているが、その体付きは彼等(かれら)より二回りは大きく、とても筋肉質(きんにくしつ)で、背中(せなか)には鷹の様な強靭(きょうじん)な羽を生やし、(みんな)、緑を基調(きちょう)とした衣服(いふく)に身を包み、その上から革製(かわせい)防具(ぼうぐ)を身に付けている。

鷹族(たかぞく)?」

セネトは、日差(ひざし)しを背に受け、自分らを静かに見下ろしている者達を(あお)ぎ見ながら、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(つぶや)いた。

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