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DRAGON SEED 2  作者: みーやん
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欲望の交錯

主な登場人物


ロナード(ユリアス)…召喚術(しょうかんじゅつ)と言う稀有(けう)な術を(あつか)えるが(ゆえ)に、その力を()が物にしようと(たくら)んだ、(かつ)ての師匠(ししょう)に『隷属(れいぞく)』の呪いを掛けられている。 その呪いを()(ため)、エレンツ帝国(ていこく)を目指している。 漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な美青年。 十七歳。


セネト(セレンディーネ)…エレンツ帝国(ていこく)皇女(こうじょ)。 とある事情(じじょう)から(のが)れる(ため)、シリウスたちと行動(こうどう)を共にしている。 補助(ほじょ)魔術(まじゅつ)得意(とくい)とする魔術(まじゅつ)()。 フワリとした癖のある黒髪(くろかみ)琥珀(こはく)色の大きな(ひとみ)特徴的(とくちょうてき)な女性。 十九歳。


シリウス(レオフィリウス)…ロナードの生き別れていた兄。 自身は大剣を自在(じざい)(あやつ)る剣士だが、『封魔(ふうま)(がん)』と言う、見た相手(あいて)魔術(まじゅつ)の使用を(ふう)じる、特殊(とくしゅ)(ひとみ)を持っている。 長めの金髪(きんぱつ)に紫色の双眸(そうぼう)を持つ美丈夫(びじょうぶ)。 二二歳。


ハニエル…傭兵業(ようへいぎょう)をしているシリウスの相棒(あいぼう)鷺族(さぎぞく)と呼ばれている両翼人(りょうよくじん)。 治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)薬草学(やくそうがく)得意(とくい)としている。 白銀(はくぎん)長髪(ちょうはつ)と紫色の双眸(そうぼう)を有している。 物凄(ものすご)い美青年なのだが、笑顔(えがお)を浮かべながらサラリと(どく)()く。


ティティス…セネトの(はら)(ちが)いの妹。 とても傲慢(ごうまん)自分勝手(じぶんかって)な性格。 家族内で立場の弱いセネトの事を見下(みくだ)している。 十七歳。


ルチル…帝国(ていこく)第三(だいさん)騎士団(きしだん)隊長(たいちょう)(つと)めている女性。 セネトと幼馴染(おさななじみ)。 今はティティスの護衛(ごえい)(にん)()いている。 二十歳(はたち)


ギベオン…セネト専属(せんぞく)護衛(ごえい)騎士(きし)。 温和(おんわ)生真面目(きまじめ)な性格の青年。 二十五歳。


ルフト…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)(ちょう)サリアを母に持ち、魔術師(まじゅつし)の一家に生まれた青年。 ロナードたちとの従兄弟(いとこ)に当たる。 二十歳。


ナルル…サリアを(あるじ)とし、彼女とその家族を守っている『獅子族(シーズーぞく)』と人間の混血児(こんけつじ)。 とても社交的(しゃこうてき)な性格をしている。


ネフライト…第一側(だいいちそく)()息子(むすこ)でティティスの同腹(どうふく)の兄。 皇太子(こうたいし)地位(ちい)にあり、現在(げんざい)、次のエレンツ帝国(ていこく)皇帝(こうてい)の座に(もっと)も近い人物(じんぶつ)


エルフリーデ…宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)をしている伯爵(はくしゃく)令嬢(れいじょう)で、ルフトの婚約者(こんやくしゃ)。 ルフトの母であるサリアの事をとても(した)っている


カルセドニ…エレンツ帝国(ていこく)第一(だいいち)皇子(おうじ)でセネトの同腹(どうふく)の兄。 寺院(じいん)(せい)騎士(きし)をしている。 奴隷(どれい)だったシリウスとハニエルを助け、自由の身にした人物。


アイク…ロナードの専属(せんぞく)護衛(ごえい)をしている寺院(じいん)暗部(あんぶ)所属(しょぞく)していた青年。 気さくな性格をしている。


 セネトは私室(ししつ)で、ある人物と会っていた。

「ああ。 殿下(でんか)。 お会い出来(でき)て光栄です」

 この男は、サルヴェール伯爵(はくしゃく)の長男で、(かつ)てセネトから婚約式(こんやくしき)をボイコットされ、新たな婚約者(こんやくしゃ)と噂されているロナードを逆恨みし、宮廷(きゅうてい)(ない)乱闘(らんとう)(さわ)ぎを起こし、セネトへの接近(せっきん)禁止(きんし)され、宮廷(きゅうてい)の出入りを禁止(きんし)された人物である。

 彼の母、サルヴェール伯爵(はくしゃく)夫人(ふじん)ルネッタは、その事に対して強い不満(ふまん)と憤りを抱き、セネトと共に領内(りょうない)視察(しさつ)(おとず)れたロナードを(ほうむ)る事を画策(かくさく)

 彼女の所為(せい)で、セネトとロナード、ルチルの三人は数日間、崩壊(ほうかい)した坑道内(こうどうない)に取り残され、ロナードを(かば)い岩の下敷(したじ)きになり、怪我(けが)を負ったセネトは一時、命をも危ぶまれた。

 結局(けっきょく)、ルネッタ計画は失敗(しっぱい)に終わり、(くち)(ふう)じの(ため)にロナードたちを襲撃(しゅうげき)したが、ギベオン()によって防がれてしまった。

 この(さわ)ぎで、魔物(まもの)と化したルネッタにより、彼女の夫で領主(りょうしゅ)であるサルヴェール伯爵(はくしゃく)は石にされてしまい、絶命(ぜつめい)

 管理者(かんりしゃ)(うしな)った帝国(ていこく)随一(ずいいち)鉱山(こうざん)(だれ)に任せるべきか、セネトの父であるランサイト皇帝(こうてい)の最近の頭痛(ずつう)の種は(もっぱ)らそれである。

「……何故(なぜ)、ここへ呼ばれたか、理解(りかい)していて、その様な事を言っているのか?」

一番奥にある一人掛けのソファーに座っていたセネトは、組んでいる足を変えながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で問い掛ける。

勿論(もちろん)御座(ござ)います」

サルヴェール伯爵(はくしゃく)子息(しそく)ナデルは、愛想(あいそう)(わら)いを浮かべながら答える。

「ほう」

セネトは、冷ややかな視線(しせん)を彼に向けながら(つぶや)く。

(わたし)との婚約(こんやく)を考え直して下さったからで御座(ござ)いましょう?」

ナデルは満面(まんめん)の笑みを浮かべ、セネトにそう言い放った。

(は? コイツ。 ガチで何言ってるの?)

その言葉を聞いて、セネトの(となり)(ひか)えていたルチルは、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべながら心の中でそう(つぶや)いた。

(その自信は何処(どこ)から来るのか、不思議(ふしぎ)でならないな……)

同じく、セネトの(となり)(ひか)えていたギベオンも、心の中でそう(つぶや)くと軽い眩暈(めまい)を覚えた。

何故(なぜ)……その様な考えに(いた)るのか……理解(りかい)に苦しむのだが?」

当のセネトも、ナデルがそう思ったのか、理解に苦しんでいる様で、自分の(ひたい)片手(かたて)()え、特大(とくだい)溜息(ためいき)を付いてから、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

(ちが)う……のですか?」

ナデルは、自分の予想(よそう)とは(こと)なる反応(はんのう)(しめ)すセネトに、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「当たり前だ。 そもそも何故(なぜ)(ぼく)がお前と婚約(こんやく)しなければならないのだ?」

セネトは、溜息(ためいき)を付いてから、淡々とした口調(くちょう)で言い返した。

「それは勿論(もちろん)(わたし)ほど殿下(でんか)をお(した)いしている者が居ないからです」

ナデルは満面(まんめん)の笑みを浮かべながら、サラリとそう言い放った。

((ころ)そう)

ナデルの言葉を聞いて、一緒(いっしょ)に居たギベオンは殺意(さつい)を覚え、心の中でそう(つぶや)くと、思わず自分の腰に下げている剣の(つか)(つか)んだ。

「ほう。 ならば聞くが、お前は(おのれ)の命の危険(きけん)(かえり)みず、躊躇(ちゅうちょ)も無く、(ぼく)を助ける事が出来(でき)るのか?」

ナデルの言葉に、セネトもイラッとした様で、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべながら、引き()った笑みを浮かべて問い掛けた。

殿下(でんか)が、そうお望みなのでしたら、(よろこ)んで」

ナデルは、満面(まんめん)の笑みを浮かべながら、(かん)(ぱつ)()かずにそう答えたが、その言葉に誠実(せいじつ)さは感じられず、口先(くちさき)だけで、紙の様に(うす)いモノのように思えた。

 彼は、容姿(ようし)こそ平凡(へいぼん)だが、帝国(ていこく)最大(さいだい)鉱山(こうざん)を要するサルヴェール伯爵(はくしゃく)子息(しそく)である彼に、言い寄る女性は数多(あまた)()るのだろう。

 (おんな)(あそ)びが(ひど)い事で有名だ。

 多くの女性が、彼の爵位(しゃくい)財力(ざいりょく)魅力(みりょく)を感じているとは思っていないのか、どうも自分の容姿(ようし)過剰(かじょう)の自信を持っている様で、自分がニッコリ微笑(ほほえ)めば、落ちない女性は居ないと思っている(ふし)がある。

 残念(ざんねん)ながら、ロナードを見慣(みな)れているセネトには、(まった)効果(こうか)が無い様だ。

(キモっ!)

満面(まんめん)の笑みを浮かべるナデルの顔を見て、ルチルは何とも言えぬ嫌悪感(けんおかん)を覚え、全身に鳥肌(とりはだ)を立て、心の中でそう絶叫(ぜっきょう)した。

「まあ……口で言うのは(だれ)でも出来(でき)る」

セネトは、溜息(ためいき)()じりで言う。

「そんな! (わたし)は本当に心から殿下(でんか)をお(した)(いた)しております! 私以上に殿下(でんか)を想って居る者など、この帝国(ていこく)では居ないと自負(じふ)しております!」

ナデルは物凄(ものすご)必死(ひっし)形相(ぎょうそう)で、自分の胸元(むなもと)片手(かたて)()え、セネトにそう(うった)える。

(……こんな茶番(ちゃばん)を見せられる(ため)(わたし)は態々、呼ばれたのか?)

同席していたシリウスは、心の中でそう(つぶや)きながら、冷ややかな視線(しせん)をナデルに向ける。

「……そう思うのは勝手だが、だからと言って、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)危険(きけん)(さら)して良い理由にはならないぞ」

セネトは、特大(とくだい)溜息(ためいき)を付いてから、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で語る。

「な、何の事でしょうか………」

セネトの言葉を聞いた途端(とたん)(だれ)の目から見ても明らかに、ナデルの顔から血の気が引き、引き()った笑顔(えがお)を浮かべながら、しどろもどろに答えた。

(とぼ)けるな。 お前が侍女(じじょ)に命じてカナデ王子を(そそのか)し、侍女(じじょ)と協力して(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)不当(ふとう)()()し、危害(きがい)を加えた挙句(あげく)、国外へ連れて行こうとしたと、カナデ王子が(すべ)自供(じきょう)したぞ」

セネトは、冷ややかな視線(しせん)を彼に向けながら、冷たい口調(くちょう)で言い放った。

「なっ………」

セネトの言葉を聞いて、ナデルの顔から益々血の気が引き、表情を(こお)り付かせる。

「この間の宮廷(きゅうてい)(ない)で起きたボヤ(さわ)ぎも、お前の所の侍女(じじょ)がしたと自供(じきょう)した」

セネトは、追い打ちをかける様に、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でナデルに語る。

「ご、誤解(ごかい)です! (すべ)ては侍女(じじょ)とカナデ王子が勝手にした事です! その様な(おそ)ろしい事を命じる訳が御座(ござ)いません!」

ナデルは(あわ)てふためきながら、そう弁明(べんめい)するが、

「どうだかな。 お前は随分(ずいぶん)と私の弟に、婚約者(こんやくしゃ)の座を奪われた事を根に持っている様じゃないか」

シリウスが冷ややかな視線(しせん)を彼に向けながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)指摘(してき)する。

「そ、それは………先程(さきほど)も申した通り、(わたし)は本当にセレンディーネ様の事をお(した)いしていたので……。 なかなか割り切る事が出来(でき)ないのです」

ナデルは、しどろもどろになりながらも、(あせ)りの表情を浮かべ、全身に冷や汗を流しながら答えた。

「ものは言い様だな」

セネトは、冷ややかな口調(くちょう)で言うと、(となり)に居るルチル(うなず)き、

(まった)くだわ」

嫌悪(けんお)に満ちた表情を浮かべ、冷たくそう言い放った。

「お前が欲しかったのは、殿下(でんか)結婚(けっこん)する事で得られる名誉(めいよ)地位(ちい)だろ」

シリウスは、自分の胸の前に両腕を組み、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)指摘(してき)する。

「そ、そんな事は!」

シリウスの言葉を聞いて、ナデルは益々焦りの表情を浮かべつつも、そう反論(はんろん)する。

「お前の母親、サルヴェール伯爵(はくしゃく)夫人(ふじん)ルネッタが、(ぼく)と共に領内(りょうない)(おとず)れた、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)始末(しまつ)する事に失敗(しっぱい)したと知り、お前は(かね)てから計画していた事を実行する事にした訳だ」

セネトは淡々とした口調(くちょう)でナデルにそう語ると、一連(いちれん)事件(じけん)調査(ちょうさ)詳細(しょうさい)が書かれた報告書(ほうこくしょ)を、テーブルの上に差し出した。

(まった)く……。 母子(ぼし)(そろ)って、(わたし)の弟に手を掛けようとすとは……つくづく救えんな」

シリウスは、特大(とくだい)溜息(ためいき)を付きながら、(あき)れた表情を浮かべながら言ってから、

(今直(います)ぐ、ぶつ切りにしてやろうか)

心の中でそう付け加えた。

「見ての通り、(ぼく)婚約者(こんやくしゃ)の兄である、ノヴァハルト伯爵(はくしゃく)本家(ほんけ)のアルスワット公爵(こうしゃく)は、この一件(いっけん)に対して(ひど)立腹(りっぷく)している。 この一件(いっけん)黒幕(くろまく)であるお前に対し、連名(れんめい)で責任と賠償(ばいしょう)を求めるそうだ」

セネトは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、ナデルに状況(じょうきょう)を説明すると、彼の顔からサーッと血の気が引く。

「しょ、証拠(しょうこ)は!」

ナデルは、(あわ)てふためきながら、セネトにそう問い掛けると、

「お前が関与(かんよ)した証拠(しょうこ)なら山ほどあるぞ。 あまり、(わたし)()めない方が良い」

シリウスが、その手に持っている、ナデルが関与(かんよ)した事を裏付(うらづ)ける報告書(ほうこくしょ)が入った封筒(ふうとう)をチラつかせながら、淡々とした口調(くちょう)で言う。

「……だそうだ。 今回の一件(いっけん)に関して、キッチリと(つみ)(つぐな)って(もら)うぞ」

セネトは、淡々とした口調(くちょう)でナデルにそう言い放ってから、

罪人(ざいにん)を連れて行け」

側に居たギベオンにそう命じた。

「はっ!」

ギベオンが敬礼(けいれい)をし、そう返すと、部屋に(ひか)えていた兵士たちがナデルに元に歩み寄り、彼の両脇(りょうわき)を抱え、座っていた彼を無理矢理(むりやり)に立ち上がらせる。

「お、お、お待ち下さい殿下(でんか)! (わたし)は本当に殿下(でんか)の事をお(した)いして………」

ナデルは(あせ)りの表情を浮かべ、顔色を赤くしたり青くしたりしながら、必死(ひっし)にそう(うった)える。

戯言(ざれごと)は、相手(あいて)を選んで言え。 (ぼく)がその様な言葉に(まど)わされるとでも?」

セネトは、物凄(ものすご)く冷たい視線(しせん)をナデルに向けながら、氷の様に冷たく言い放った。

(ちが)うのです殿下(でんか)! あの様な男をお側に置くのは、殿下(でんか)威厳(いげん)に関わります! 殿下(でんか)(かせ)になるだけで御座(ござ)います!」

ナデルは、自分の両脇(りょうわき)を抱えている兵士たちの手を振り(ほど)こうとしながら、必死(ひっし)にセネトにそう(うった)える。

「ほう。 (わたし)の弟が、殿下(でんか)評価(ひょうか)を下げる事しか出来(でき)ない無能(むのう)だと?」

それを聞いたシリウスが、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべ、殺気(さっき)を放ちながら、冷たい口調(くちょう)でそう(つぶや)くと、ジロリとナデルを(にら)み付けると、彼は一瞬(いっしゅん)(いき)をする事を忘れてしまった。

(あ、コイツ死んだわ)

シリウスの反応(はんのう)を見て、ルチルは心の中でそう(つぶや)いた。

「そうではありませんか! 見目が良いだけの、何も出来(でき)ない若造(わかぞう)が!」

シリウスの突き()すような視線(しせん)(ひる)みつつも、ナデルはそう言い返した。

「……流石(さすが)に、何も出来(でき)なくはないですよ」

シリウスと共に居たハニエルが、ニッコリと笑みを浮かべながらそう指摘(してき)すると、

「その気になれば、お前くらい簡単(かんたん)(ころ)せるぞ」

シリウスも(うなず)きながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「自分が前に、ロナードに返り()ちにされた事、もう忘れちゃったのね?」

ルチルも、苦笑(にがわら)いを浮かべながらナデルにそう指摘(してき)すると、(たちま)ち彼の表情は(こお)り付いた。

瀕死(ひんし)殿下(でんか)(おのれ)危険(きけん)(かえり)みずに、光の治癒(ちゆ)魔術(まじゅつ)(もち)いて助けましたし、今回の一件(いっけん)(ぞく)も彼が(つか)まえた様なものです。 (じゅつ)()としても、兵としても、とても優秀(ゆうしゅう)な方だと自分は思いますが」

ギベオンが落ち着き払った口調(くちょう)でそう語ると、セネトもウンウンと何度も(うなず)いている。

「何より、セティ(この)みの顔だしね」

ルチルが意地(いじ)の悪い笑みを浮かべながら言うと、

一言(ひとこと)余計(よけい)だ!」

セネトは(たちま)ち顔を真っ赤にして、思わず声を(あら)らげながら、彼女にそう言い返す。

(あきら)めた方が良いと思いますよ。 何処(どこ)を取っても、貴方(あなた)が勝てる要素(ようそ)は無さそうですから」

茫然(ぼうぜん)としているナデルに向かって、ハニエルがにっこりと笑みを浮かべながら、そう言い放った。

「ってか、セネトの事を想ってるって点でも、アンタより上だと思うけど? アンタは口先(くちさき)だけだけど、ロナードは(すで)に行動で(しめ)してるし」

ルチルはチラチラとセネトを見ながら、ニヤニヤと笑みを浮かべ言うと、

「そうだな。 殿下(でんか)への気持ちが無ければ、あんな危ない事はしなだろう」

ギベオンも(うなず)きながら、落ち着いた口調(くちょう)で言う。

「なっ………。 お、お前たち何を言って……」

二人の言葉を聞いて、セネトは(あせ)りの表情を浮かべながら言い返す。

「は? アンタそれ、マジで言ってるの?」

セネトの反応(はんのう)を見て、ルチルは(あき)れた表情を浮かべながら言う。

「ああまでしたのに、理解(りかい)されないとは……ロナード様が気の(どく)でなりません」

ギベオンも軽く溜息(ためいき)を付いてから、『やれやれ』と言わんばかりにそう言った。

「お前、人の弟をその気にさせておいて、それは無いだろ……」

シリウスも、『信じられない』と言った様子(ようす)でセネトに言うと、(となり)に座っているハニエルも何度も(うなず)いている。

「なっ……」

彼等(かれら)反応(はんのう)に、セネトは戸惑(とまど)いの表情を浮かべている。

「はあ……」

部屋の(すみ)でセネトの様子(ようす)を見ていたアイクは、思わず(ひたい)片手(かたて)()え、溜息(ためいき)を付き、

(まだまだ先は長そうですよ。 (あるじ))

心の中で、療養中(りょうようちゅう)(ため)この場に来る事が出来(でき)なかったロナードに対して、そう言った。


 後日……。

結局(けっきょく)、サルヴェール伯爵家(はくしゃくけ)爵位(しゃくい)剥奪(はくだつ)、ロナードへの賠償(ばいしょう)として全財産(ぜんざいさん)没収(ぼっしゅう)の上、取り(つぶ)しね……」

ルチルは、裁判(さいばん)結果(けっか)が記された報告書(ほうこくしょ)に目を通しながら、何処(どこ)(なっ)(とく)がいかないと言った様子(ようす)(つぶや)く。

「それはそうだろう。 母子(ぼし)(そろ)って、あんな真似(まね)をしたのだ。 (むし)ろ、極刑(きょっけい)にならない方が不思議(ふしぎ)なくらいだ」

ソファーに座り、紅茶を(すす)りながら、シリウスは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で返す。

「ホントですよ。 (あるじ)にあんな真似(まね)しといて、この程度(ていど)だなんて! オレが直々(じきじき)始末(しまつ)してやりたいくらいですよ」

ロナードが横になっているベッドの側にある椅子(いす)に座り、リンゴの皮を()いていたアイクが、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべながら言う。

()めておけ」

上半身(じょうはんしん)を起こした格好(かっこう)で、彼らの話を聞いていたロナードが、落ち着いた口調(くちょう)でアイクを(いさ)める。

「でも……」

アイクは、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、口を(とが)らせながら(つぶや)く。

「お前の手を(よご)させる(ほど)価値(かち)も無い(やつ)だ。 爵位(しゃくい)(うしな)い、財産(ざいさん)も失ったアイツが今後、どの様に生きていくのか、見物(みもの)じゃないか」

ロナードは、落ち着いた口調(くちょう)でそう言うと、アイクが切り分けたリンゴを口に運ぶ。

「そんな悠長(ゆうちょう)な事を言って良いんですか? もし、(あるじ)にまた危害(きがい)を加える可能性(かのうせい)だってあるんですよ?」

アイクは、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべたまま、美味(おい)しそうにリンゴを頬張(ほおば)っているロナードに言う。

「そうしたくても、人を(やと)う金すら無い。 そもそも、(やつ)自身(じしん)(すで)に、ロナードに返り()ちにされているしな」

奥のソファーで(くつろ)いでいたセネトが、落ち着いた口調(くちょう)で言うと、用意された焼き菓子(がし)に手を伸ばす。

皇帝(こうてい)陛下(へいか)も、何か考えがあっての事だろう。 (おれ)はその判断(はんだん)(したが)うまでだ」

ロナードは、落ち着いた口調(くちょう)で言うと、

(おそ)らくですが……陛下(へいか)は真の黒幕(くろまく)は別に居るとお考えなのでしょう」

セネトの側に影のように(ひか)えているギベオンが、落ち着いた口調(くちょう)でそう指摘(してき)する。

「つまり、サルヴェール伯爵(はくしゃく)子息(しそく)は、そいつに利用されたって事?」

テーブルを(はさ)んで、セネトの向かいのソファーに腰を下ろし、彼女と一緒(いっしょ)に焼き菓子(がし)頬張(ほおば)っていたルチルが、その手を止めてギベオンに問い掛ける。

「そうだ」

ギベオンは、落ち着いた口調(くちょう)で返す。

「真の黒幕(くろまく)を突き止める(ため)に、敢えてサルヴェール伯爵(はくしゃく)子息(しそく)を泳がせる魂胆(こんたん)だな……」

セネトも落ち着いた口調(くちょう)で言うと、紅茶を(すす)る。

「カナデだったかしら? アイツも何時(いつ)の間にか無罪(むざい)放免(ほうめん)になって、釈放(しゃくほう)されているものね……」

ルチルは真剣(しんけん)な表情を浮かべながら指摘(してき)すると、

状況(じょうきょう)からして、サルヴェール伯爵(はくしゃく)侍女(じじょ)と共に、極刑(きょっけい)を言い(わた)されても可笑(おか)しくなかったが、無罪(むざい)放免(ほうめん)になったと言う事は、それ相応(そうおう)の力が働いたと見て良いだろう」

シリウスは、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちでそう指摘(してき)すると、

「まあ、そんな真似(まね)をする(やつ)(だれ)なのか、大体(だいたい)は分かっているけれど、それを追求(ついきゅう)出来(でき)(ほど)の材料が今の所ないと言うのが現状(げんじょう)ね」

ルチルは、淡々とした口調(くちょう)でそう語った後、溜息(ためいき)を付いた。

「もどかしいですね」

アイクが、不満(ふまん)そうな表情を浮かべながら言う。

「アイツ()は昔からそうだ。 母親や親戚(しんせき)縁者(えんじゃ)権力(けんりょく)財力(ざいりょく)にモノを言わせ、自分たちにとって都合(つごう)の悪い事は()み消してきた」

セネトは、表情を(けわ)しくし、嫌悪(けんお)に満ちた口調(くちょう)(つぶや)く。

「そんな事が出来(でき)るのも最早(もはや)時間(じかん)の問題だ。 近い将来、その地位(ちい)から引きずり()ろしてやる」

シリウスが不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言うと、

「何事も程々(ほどほど)にして下さいよ」

ハニエルが苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シリウスに念を押す。

「どうした? ロナード? さっきから深刻(しんこく)な顔をして……」

先程(さきほど)から、上の空と言った様子(ようす)で話に加わって来ないロナードに、セネトは(おもむろ)にそう声を掛ける。

「あ、いや……。 (おれ)は別の事がずっと気になっている」

セネトに声を掛けられ、ロナードはハッとした表情を浮かべると、彼は何処(どこ)神妙(しんみょう)面持(おもも)ちでそう答えた。

「別の事?」

セネトは小首を(かし)げながら、ロナードに問い掛ける。

「ルネッタ伯爵(はくしゃく)夫人(ふじん)一緒(いっしょ)に現れたあの老婆(ろうば)……。 もしかすると以前、ベオルフ宰相(さいしょう)の所に居た魔女(まじょ)かも知れない……」

ロナードは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で答えると、

「えっ……」

彼の言葉を聞いて、セネトは戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

「フードを深々(ふかぶか)(かぶ)っていたから、顔をハッキリと見た訳では無いんだが……。 なんとなく、(まと)っている雰囲気(ふんいき)魔力(まりょく)、声の感じなどが()ている気がするんだ」

ロナードは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべたまま、そう続けた。

「その魔女(まじょ)とは、()くなっていたリディアの(たましい)を、彼女に良く()せた人形に定着(ていちゃく)させて、(あやつ)っていたというネクロマンサーの事か?」

シリウスが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、ロナードにそう問い掛けると、彼は真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返す。

貴方(あなた)から聞いた(かぎ)り、様々(さまざま)禁術(きんじゅつ)に手を出している様子(ようす)でしたが……」

ハニエルは、自分の(あご)片手(かたて)()え、神妙(しんみょう)な表情を浮かべながら(つぶや)く。

「そんな危険(きけん)(やつ)を、寺院(じいん)野放(のばな)しにしいるとは思えないけど……」

ルチルが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言うと、

「そう認識(にんしき)されていなければ、監視(かんし)のしようも無いだろう」

ギベオンが落ち着いた口調(くちょう)でそう指摘(してき)すると、

「確かに……」

ルチルは、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで呟く。

貴方(あなた)が身に着けている物と同じ()道具(どうぐ)を使えば、魔力(まりょく)外部(がいぶ)()れる事を防ぐ事が出来(でき)ます。 完全ではありませんが、寺院(じいん)にとって脅威(きょうい)ではないと認識(にんしき)する程度(ていど)にまで、制御(せいぎょ)する事は可能(かのう)です」

ハニエルが落ち着いた口調(くちょう)で説明する。

「でも、その()道具(どうぐ)簡単(かんたん)に手に入る物では無いわよ?」

ルチルが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで指摘(してき)すると、

禁術(きんじゅつ)に手を出している様な(やつ)だ。 感知(かんち)の目を誤魔化(ごまか)す事くらい造作(ぞうさ)も無いだろう」

セネトが、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で答えた。

「……」

 彼等(かれら)の間に、何とも言い(がた)重苦(おもくる)しい空気が(ただよ)い始める。

 ロナードは、物凄(ものすご)く不安そうな顔をして押し黙っており、そんな彼を心配そうにアイクは見守(みまも)っている。

「それが事実(じじつ)だとしたら、色々とヤバイな……」

シリウスが、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら(つぶや)く。

(ぼく)から、兄上にそう言った危険(きけん)人物(じんぶつ)が、帝国(ていこく)本土(ほんど)に居ると言う事を伝えておこう」

セネトが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう提案(ていあん)すると、

「それが(よろ)しいかと」

ギベオンが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、ルチルも(うなず)く。

(ぼく)()(さが)し出すには、色々と限界(げんかい)があるが、各地(かくち)支部(しぶ)があり、潤沢(じゅんたく)人手(ひとで)がある寺院(じいん)ならば、その魔女(まじょ)(さが)し出して()らえる事も、そう(むずか)しい事では無いだろうからな」

セネトは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで語ると、

(たの)む」

シリウスが、何時(いつ)になく真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう返した。

(物凄(ものすご)く、(いや)予感(よかん)がする)

ロナードは、不安に満ちた表情を浮かべながら、心の中で(つぶや)く。


「セレンディーネっ!」

若い娘の金切り声が部屋中に(ひび)(わた)り、陶器(とうき)のようなモノが(かべ)か何かに(はげ)しくぶつかり、(くだ)()る音が続けざまに(ひび)(わた)った。

 居合(いあ)わせた侍女(じじょ)たちは、自分たちに矛先(ほこさき)が向く事を(おそ)れ、(そろ)って部屋の(すみ)で小さくなり、身を(ふる)わせている。

「この役立(やくた)たず!」

ティティス皇女(こうじょ)は、自分が手に持っていた扇子(せんす)で、自分の向かいのソファーに座っていたカナデを思い切り叩いた。

 カナデは思わず、自分の顔を(かば)う様に両手で(おお)い、大人しくティティス皇女(こうじょ)から(たた)かれる(ほか)なかった。

 武芸(ぶげい)(うと)いカナデではあるが、成人(せいじん)男性(だんせい)がティティスの皇女(こうじょ)の様な小柄(こがら)な女性を、素手(すで)制圧(せいあつ)する事など造作(ぞうさ)も無いが、居合(いあ)わせたネフライト皇太子(こうたいし)と、彼の護衛(ごえい)無言(むごん)(あつ)を掛けて来て、そうする事を(ゆる)さなかった。

(まち)で、(きたな)らしい(なり)彷徨(さまよ)っていたお前を拾ってやったと言うのに、とんだ期待外(きたいはず)れだわ!」

ティティス皇女(こうじょ)は、カナデをそう(ののし)りながら、扇子(せんす)が折れそうな(ほど)に、思い切り彼を叩き続ける。

((むし)ろ、こんな稚拙(ちせつ)なやり方で、どうして上手(うま)くいくと思ったのか、(ぎゃく)に聞きたい)

カナデは、ティティス皇女(こうじょ)(たた)かれながらも、心の中でそう(つぶや)きながら、(ひど)く冷めた視線(しせん)を彼女に向ける。

 サルヴェール伯爵(はくしゃく)()侍女(じじょ)と共に、セレンディーネ皇女(こうじょ)婚約者(こんやくしゃ)であるロナードを誘拐(ゆうかい)し、国外へ連れ出そうと(こころ)みたが見事(みごと)失敗(しっぱい)し、サルヴェール伯爵(はくしゃく)()侍女(じじょ)と共に、投獄(とうごく)されていたのだが、彼の口から自分たちが関わっている事を告げられる事を危惧(きぐ)し、ネフライト皇太子(こうたいし)が裏で根回(ねまわ)しをして、(すべ)ての(つみ)をサルヴェール伯爵(はくしゃく)()侍女(じじょ)と、その(あるじ)であるサルヴェール伯爵(はくしゃく)子息(しそく)のナデルに着せ、彼を助け出した。

「このっ! このっ!」

ティティス皇女(こうじょ)は腹の虫が収まらないのか、(さら)(はげ)しくカナデを扇子(せんす)(たた)いている。

(馬鹿(ばか)無駄(むだ)権力(けんりょく)(あた)えるのも考え物だな。 自分の(しり)に火が付いている事に、(まった)く気が付いていない様だ)

ティティス皇女(こうじょ)(たた)かれながら、カナデは冷静(れいせい)に心の中でそう(つぶや)く。

 今回の一件(いっけん)、サルヴェール伯爵(はくしゃく)子息(しそく)私情(しじょう)から引き起こされた事件(じけん)として処理(しょり)されたが、()たして、セレンディーネ皇女(こうじょ)やロナードが、それで納得(なっとく)しているかどうか……。

 何より、事件(じけん)直接(ちょくせつ)(かか)わったにも(かかわ)らず、無罪(むざい)放免(ほうめん)釈放(しゃくほう)されたカナデの事を、不審(ふしん)に思っているに違いない。

裏で権力(けんりょく)(しゃ)が動いたと、(だれ)でも思うだろう。

 その権力(けんりょく)(しゃ)(だれ)であるのか。

 彼等(かれら)はそれを突き止めようとして来る(はず)だ。

 それを、ネフライト皇太子(こうたいし)もティティス皇女(こうじょ)も、分かっているのだろうか。

「落ち着け。 (ちから)(わざ)駄目(だめ)なら、別の方法を取ればいいだけの話だ」

ネフライト皇太子(こうたいし)は、紅茶を(すす)りながら、落ち着いた口調(くちょう)でティティス皇女(こうじょ)に言った。

「別の方法?」

ティティス皇女(こうじょ)は、扇子(せんす)でカナデを(たた)くのを止め、兄の方へ振り返りながら問い掛ける。

「お前が彼に近づいて、セレンディーネから(うば)い取れば良いじゃないか」

ネフライト皇太子(こうたいし)は、ニッコリと笑みを浮かべながら言った。

 それを聞いた瞬間(しゅんかん)、カナデの頭の中が真っ白になった。

(本気で言っているのか?)

カナデは心の中でそう(つぶや)くと、思わずネフライト皇太子(こうたいし)の方を見る。

「こんなに(あい)らしいお前に言い寄られて、その気にならない男は居ないだろう。 お前がちょっと甘い言葉で(ささや)けば、イチコロだろ」

ネフライト皇太子(こうたいし)は、何を根拠(こんきょ)にそこまでの確信(かくしん)が持てるのか不思議(ふしぎ)なくらい、自信に満ちた表情を浮かべながら言った。

 確かに、彼の言う通りティティス皇女(こうじょ)はとても可愛(かわい)らしい(ひめ)(ぎみ)だ。

 だが、人の(この)みと言うのはそれぞれだ。

 ティティス皇女(こうじょ)が、ロナードの(この)みで無かったら成立(せいりつ)しない話ではないか。

「それもそうね」

兄の言葉を聞いてその気になったのか、ティティス皇女(こうじょ)不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言う。

「待って下さい! 彼はセレンディーネ皇女(こうじょ)(こん)(やく)している身です。 そんな簡単(かんたん)(ほか)の女性に(うつつ)をぬかしていては、(かれ)自身(じしん)信用(しんよう)問題(もんだい)(かか)わります。 最悪、婚約(こんやく)破棄(はき)にもなりかねません」

カナデは、(あわ)ててそう警告(けいこく)すると、

「それが目的なのだから、何の問題があると言うの? (わたくし)は、セレンディーネに自分が如何(いか)無能(むのう)であるかを思い知らせたいだけなの。 (わたくし)よりも(すぐ)れている事は(ゆる)されないのよ。 皇女(こうじょ)の中で一番なのは(わたくし)でなくてはならないの」

ティティス皇女(こうじょ)は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、カナデにそう言い放った。

 彼女の言葉を聞いて、カナデは軽い眩暈(めまい)を覚えた。

「セレンディーネを(おとし)めれば、同腹(どうふく)の兄であるカルセドニの株も下がる。 (わたし)皇太子(こうたいし)であり続ける(ため)にも、セレンディーネは無能(むのう)であって(もら)わねばならないのだ」

ネフライト皇太子(こうたいし)は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、そう付け加えた。

((なる)(ほど)。 他者(たしゃ)蹴落(けお)とす事で、自分たちの地位(ちい)を守ろうという事か)

カナデは、嫌悪感(けんおかん)に満ちた表情を浮かべつつ、心の中でそう(つぶや)く。

「そうと決まれば早速(さっそく)、彼を呼び出さなくてはね」

ティティス皇女(こうじょ)は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながらそう言った。


「お茶会(ちゃかい)?」

ロナードは、読んでいた本から顔を上げ、ギベオンの方へと目を向ける。

「はい。 何でも謹慎(きんしん)()けたので、ティティス皇女(こうじょ)(さま)とネフライト皇太子(こうたいし)殿下(でんか)正式(せいしき)謝罪(しゃざい)がしたいとの事です」

ギベオンは、事務的(じむてき)口調(くちょう)でそう言ってから、招待状(しょうたいじょう)が入った白い封筒(ふうとう)をロナードに差し出した。

 ギベオンから差し出された封筒(ふうとう)を受け取り、(ふう)を切って内容を確認したロナードは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ、

(わな)……だろうな」

「その可能性(かのうせい)が高いかと……」

ギベオンも、何とも言い(がた)微妙(びみょう)な表情を浮かべながら答えた。

「セネトは何と言っている?」

ロナードは、招待状(しょうたいじょう)封筒(ふうとう)の中に仕舞(しま)いながら、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでギベオンに問い掛ける。

 セレンディーネ皇女(こうじょ)勿論(もちろん)だが、ロナード()てに(とど)く手紙などは全て、使用人(しようにん)たちが一旦(いったん)(ふう)を開けて中に危険(きけん)な物は無いか確認をしてから、当人(とうにん)手元(てもと)(わた)る。

 それは、手紙と一緒(いっしょ)呪詛(じゅそ)(たぐい)などが入っている可能性(かのうせい)があるからだが、こう言った直接的(ちょくせつてき)な事をして来るのはあまり無い。

それでも、(ねん)には念をと言う訳である。

殿下(でんか)は、このお茶会(ちゃかい)招待(しょうたい)されていません。 あくまで、謝罪(しゃざい)するのはアルスワット公爵(こうしゃく)一門(いちもん)に対しての様です。 ですので、流石(さすが)殿下(でんか)も口出しする事を躊躇(ためら)われている様です」

ギベオンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら、ロナードの問い掛けに答える。

「……」

ギベオンの言葉を聞いて、ロナードは神妙(しんみょう)な表情を浮かべながら、(しばら)くの間、口を(つぐ)む。

大方(おおかた)、アルスワット公爵(こうしゃく)一門(いちもん)殿下(でんか)の関係が(ちぢ)まっている事に危機感(ききかん)を覚え、両者(りょうしゃ)の間に(くさび)を打つ事が、ネフライト皇太子(こうたいし)たちの大まかな目的なのでしょう」

ギベオンは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ、何やら思慮(しりょ)している様子(ようす)のロナードに、自分の見解(けんかい)を語る。

「気が進まないのだが……」

ロナードは、(かる)溜息(ためいき)を付いてから、ギベオンにそう言った。

 通常(つうじょう)、自分よりも身分(みぶん)が高い者からの招待(しょうたい)(ことわ)るのは、とても無礼(ぶれい)な事だとされており、余程(よほど)の理由が無い限り、招待(しょうたい)を受ければ参加(さんか)するのが礼儀(れいぎ)だ。

「それは(むずか)しいでしょうね。 あの一件(いっけん)(もっと)被害(ひがい)を受けられたのはロナード様ですから。 ロナード様が参加(さんか)しないとなると、お茶会(ちゃかい)自体(じたい)がなくなる可能性(かのうせい)があります」

ギベオンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら答える。

「それは、アルスワット公爵(こうしゃく)一門(いちもん)にとっては、あまり良い事では無さそうだな……」

ギベオンの返事を聞いて、ロナードは苦々しい表情を浮かべながら(つぶや)く。

 公爵家(こうしゃくけ)であるアルスワット家が、ティティス皇女(こうじょ)たちのお茶会(ちゃかい)(ことわ)った程度(ていど)で、どうにかなる様な事は無いだろうが、自分が欠席(けっせき)する事で、両者(りょうしゃ)の関係が悪くなるのは、ロナードも()けたいところだ。

 特に、普段(ふだん)から世話(せわ)になっているサリアやルフトの、宮廷内(きゅうていない)での立場が悪くなるのは(いただ)けない。

「まあ、そうですね……」

ギベオンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら答える。

「……サリア達と話し合う必要がありそうだ」

ロナードは、軽く溜息(ためいき)を付いてからそう言った。

 彼としては、自分の婚約者(こんやくしゃ)であるセレンディーネ皇女(こうじょ)(うと)んで、(おさな)(ころ)から(いや)がらせをして来る相手(あいて)と、仲良(なかよ)くお茶など飲みたくはないのだが……。

「そうなさって下さい。 (よろ)しければ、此方(こちら)参加(さんか)有無(うむ)を知らせて下さると助かります。 殿下(でんか)も心配されていますので……」

ギベオンは、落ち着き払った口調(くちょう)でロナードに返した。


「何で今頃(いまごろ)になって、お茶会(ちゃかい)をするんだろう。 大体(だいたい)、ネフライト皇太子(こうたいし)たちが、イシュタル教会の聖女(せいじょ)(あやつ)られて、島で(ぼく)たちと(ひと)悶着(もんちゃく)あったのって、何カ月も前の話だよ?」

宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)たちの詰め所に、久々に出勤(しゅっきん)したロナードは、昼休みの時間を利用して、ティティス皇女(こうじょ)のお茶会(ちゃかい)の事について、同僚(どうりょう)で、アルスワット家の子息(しそく)であるルフトに意見(いけん)を求めると、彼は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべながらそう言った。

「そうね。 謹慎(きんしん)(ちゅう)だったとしても、(だれ)かに会ってはいけないと言う制約(せいやく)があったとは、聞いていませんもの」

同僚(どうりょう)で、ルフトの婚約者(こんやくしゃ)であるエルフリーデも、不審(ふしん)そうな顔をしてそう言った。

(あや)しさ満点(まんてん)だね」

ルフトは、自分たちで用意した、薬草(やくそう)()りのお茶を一口飲んでから、思わずそう(つぶや)いた。

(おれ)もそう思う」

ロナードもそう返してから、茶を一口(ひとくち)(すす)る。

「ギベオンが言う通り、(ぼく)等とセレンディーネ様が、これ以上仲良(なかよ)くならない(ため)にって言うのもあるだろうけど……。 それだけが理由じゃなさそうな感じだよね……」

茶請(ちゃう)けに用意したナッツを()まみながら、ルフトは不信感(ふしんかん)に満ちた表情を浮かべながら(つぶや)く。

「もしかすると、ティティス皇女(こうじょ)貴方(あなた)婚約(こんやく)を取り付けるつもりなのかも知れなくってよ?」

エルフリーデが何気(なにげ)ない口調(くちょう)でそう言うと、

「は?」

それを聞いて、ロナードは思わずそう(つぶや)くと、戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

「いやいや……。 婚約式(こんやくしき)こそまだだけど、二人が婚約(こんやく)(せん)誓書(せいしょ)(すで)に、皇帝(こうてい)陛下(へいか)や関係する部署(ぶしょ)提出済(ていしゅつず)みだからね? それを無かった事にしてティティス皇女(こうじょ)とって……無茶苦茶(むちゃくちゃ)じゃない?」

ルフトは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、エルフリーデに言い返す。

「でも、書類(しょるい)(てい)(しゅつ)しただけで、(おおやけ)にはなってないのだから、撤回(てっかい)のしようはありましてよ?」

エルフリーデは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう指摘(してき)すると、

「……どう思う?」

ルフトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、ロナードに問い掛ける。

(いや)だが」

ロナードは、物凄(ものすご)(いや)そうな表情を浮かべ、そう即答(そくとう)した。

「それは分かってるよ」

ロナードの反応(はんのう)に、ルフトは苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

貴方(あなた)(いや)でも、結局(けっきょく)(いえ)同士(どうし)の問題ですもの。 サリア様が了承(りょうしょう)すれば、殿下(でんか)との婚約(こんやく)破棄(はき)しなくてはならなくなりますわよ? アルスワット公爵(こうしゃく)一門(いちもん)からしてみれば、皇族(こうぞく)縁続(えんつづ)きになれば良いのですから、相手(あいて)皇女(こうじょ)が誰であろうと、大した問題では無いと思いますわ」

エルフリーデは、落ち着き払った口調(くちょう)でそう指摘(してき)する。

「まあ、ぶっちゃけてしまえば、そうだけど……」

ルフトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言う。

「強く(せま)られたら、流石(さすが)のサリア様も(ことわ)れないかも知れませんわ」

エルフリーデは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「いや、そこは(ことわ)って(もら)わないと困るんだが……」

ロナードは、物凄(ものすご)く困った様な表情を浮かべながら言う。

「そうよねぇ……」

エルフリーデは、溜息(ためいき)()じりに(つぶや)く。

「よし。 こうしよう。 今から君は、魔力(まりょく)欠乏症(けつぼうしょう)悪化(あっか)して寝込(ねこ)む」

すると、ルフトがポンと手を(たた)き、突然(とつぜん)、その様な事を言い出した。

「そんな無茶苦茶(むちゃくちゃ)な……。 (おれ)全快(ぜんかい)しつつあるのは、(まわ)りに居る(だれ)もが知っている事だ。 万が一、仮病(けびょう)だと知られたら苦しい立場に立たされるのは此方(こちら)だぞ。 それに、(おれ)体調(たいちょう)回復(かいふく)するまで待つと言われたら、それまでの話じゃないか」

ルフトの提案(ていあん)に、ロナードは戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言う。

「そうですわよ。 そんな子供(こども)()みた理由が(まか)り通る(はず)がなくってよ」

エルフリーデも、(あき)れた表情を浮かべながらルフトに言い返す。

「だよねぇ……」

ルフトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら呟く。

三人(さんにん)(そろ)って、何をそんなに深刻(しんこく)な顔をしているの? そんな空気じゃあご飯を美味(おい)しく食べられないわよ?」

そこへ、何時(いつ)の間に来たのか、宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)(ちょう)でアルスワット公爵家(こうしゃくけ)当主(とうしゅ)であるサリアが、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、(そろ)って深刻(しんこく)そうな顔をして話していた、ロナードたち三人にそう声を掛けた。

「サリア様……」

「母上……」

思いがけぬサリアの登場に、エルフリーデとルフトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら彼女を見る。

(れい)の……お茶会(ちゃかい)の事です」

ロナードは、ウンザリした様な表情を浮かべ、溜息(ためいき)()じりにサリアに答えると、

「あ~。 あれね」

サリアは、物凄(ものすご)く軽い口調(くちょう)で返す。

「ええ」

ロナードは、ゲンナリした表情を浮かべながら言うと、

(ことわ)ったから」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべ、サラリとそう言い放った。

「はい?」

ロナードは、あまりに思いがけない言葉に、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、思わずサリアの方を見る。

「それ、本気で言ってる?」

ルフトも、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、サリアに問い掛ける。

「何か問題でも?」

二人が、物凄(ものすご)(おどろ)いた顔をしているので、サリアも戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い返す。

「あ、いや、だって相手(あいて)皇族(こうぞく)……」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、サリアにそう言うと、

「確かにそうだけど、あんな馬鹿(ばか)(きょう)(だい)相手(あいて)なんて面倒臭(めんどうくさ)いでしょ? だから『そんな(ひま)はありません』って言ってやったわ」

サリアは、キョトンとした表情を浮かべながら、実にサラリと言って退()けた。

「つよ……」

サリアの言葉を聞いて、ルフトは苦笑(にがわら)いを浮かべながら(つぶや)く。

当然(とうぜん)でしょ? あの馬鹿(ばか)(きょう)(だい)(かか)わるだけ、時間と労力(ろうりょく)無駄(むだ)よ」

サリアは、ウンザリとした様な表情を浮かべ、溜息(ためいき)()じりに言うと、

「そんな事をして大丈夫(だいじょうぶ)なのですか? 宮廷内(きゅうていない)での立場とか悪くなる様な事は?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、心配そうにサリアに問い掛ける。

大丈夫(だいじょうぶ)。 大丈夫(だいじょうぶ)。 あの馬鹿(ばか)皇太子(こうたいし)()してるのって、第一側(だいいちそく)()親戚(しんせき)縁者(えんじゃ)か、利用してやろうって思ってる連中(れんちゅう)くらいで、()(とも)貴族(きぞく)(だれ)()しちゃいないわよ。 あんなのが皇帝(こうてい)になったら帝国(ていこく)(かたむ)いちゃうわ」

心配をするロナードを他所(よそ)に、サリアはヘラヘラと笑いながら、そう言って退()けた。

「確かに……」

ルフトは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「うんうん」

エルフリーデは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)く。

「それじゃあ、三人が頭を(かか)えていた問題は解決(かいけつ)って事で、折角(せっかく)だし、ちょっと(まち)へご飯に行かない?」

サリアはニッコリと笑みを浮かべ、三人にそう提案(ていあん)する。

「はい! 是非(ぜひ)!」

エルフリーデは、物凄(ものすご)(うれ)しそうな表情を浮かべ、サリアにそう即答(そくとう)した。

丁度(ちょうど)、行ってみたいお店があるのよ。 でも、一人じゃあ入り(づら)いでしょ? だから付き合って」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべたまま、戸惑(とまど)っているルフトとロナードに言うと、

「そう言う事でしたら、(よろこ)んで」

ロナードは、ニッコリと笑みを浮かべながら答え、

「まあ、母上がそこまで言うのなら……」

ルフトは、『仕方(しかた)がないな』と言う様な顔をしながら、サリアに返した。


「あの……ここって、予約(よやく)しても一か月待ちはざらだって言われている、今、とても人気のあるカフェですよね?」

エルフリーデは、サリアに連れて来られた店の二階にある、(いく)つかある個室の一つに通されると、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、(おもむろ)にサリアに問い掛ける。

「その様ね?」

サリアは、()れた様子(ようす)で部屋の一番奥の席に腰を下ろしながら、そう答える。

「『その様ね?』って……。 大体(だいたい)予約(よやく)も無しにいきなり来て、()ぐに席に通される様な所では無いでしょうに……」

エルフリーデは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言う。

 しかも、二階の個室では、一日(ついたち)数組(すうくみ)限定(げんてい)でランチやディナーが食べられるなど、流行(はやり)敏感(びんかん)なエルフリーデですら知らなかった。

大丈夫(だいじょうぶ)よ。 このお店に出資(しゅっし)しているの、(わたし)だから」

戸惑(とまど)っているエルフリーデに、サリアはニッコリと笑みを浮かべながら答えた。

「ええっ!」

サリアの言葉に、エルフリーデは目を丸くして、思わず(おどろ)きの声を上げる。

「まあ、これは(わたし)趣味(しゅみ)みたいなものよ。 お店を出したくても出せない、将来(しょうらい)有望(ゆうぼう)そうな若い職人(しょくにん)投資(とうし)をしているの」

サリアはニッコリと笑みを浮かべながら、戸惑(とまど)っているエルフリーデに言う。

(すご)いですね」

ロナードはそう言いながら、扉から一番手前の席に腰を下ろす。

「だって、良い物や(すぐ)れた物は、ちゃんと世の中に広めるべきでしょう?」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべながら言う。

(サリア様が、やり手なのは知っていたけれど……)

エルフリーデは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、心の中でそう(つぶや)くとサリアを見る。

「この事業(じぎょう)(いず)れ、貴女(あなた)に引き()いでもらおうと思っているのよ。 エフィ」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべながら、自分を見ていたエルフリーデに向かって言うと、

「わ、(わたくし)がですか?」

サリアの思いがけぬ言葉に、エルフリーデは困惑(こんわく)(かく)せない様子(ようす)で言うと、

当然(とうぜん)でしょ? ルフトと結婚(けっこん)すれば、貴女(あなた)公爵(こうしゃく)夫人(ふじん)なのよ? ウチの娘になるんだから、(わたし)の持つノウハウを受け継いで(もら)わなきゃ。 それに良いお小遣(こづか)(かせ)ぎになるのよ。 (かせ)いだお金は全て貴女(あなた)が好きに使って良いのよ」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべ、困惑(こんわく)して居るエルフリーデに言う。

(わたくし)などが、(つと)まるでしょうか」

エルフリーデは、不安そうに言うと、

大丈夫(だいじょうぶ)。 大丈夫(だいじょうぶ)。 貴女(あなた)が自信を持てるまで、(わたし)がしっかりと教えてあげるわ。 これからの時代、女性も積極的に社会に出なくてはね」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべながら言う。

有難(ありがと)御座(ござ)います。 サリア様のご期待(きたい)沿()えるよう頑張(がんば)ります」

エルフリーデは、感激(かんげき)した様子(ようす)でサリアに言うと、

「そんなに気負(きお)わなくて良いのよ。 これはあくまで(わたし)趣味(しゅみ)一環(いっかん)なのだから」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべ、(やさ)しい口調(くちょう)でエルフリーデに言う。

(ぼく)たちを此処(ここ)へ連れて来たのは、エフィにその話をするだけでは無いですよね?」

ルフトが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでサリアに問い掛けると、

「まあねぇ……」

彼女はニッコリと笑みを浮かべながら、そう答えてから、

「これからの、アルスワット公爵家(こうしゃくけ)についての作戦(さくせん)会議(かいぎ)ってところかしら?」

真剣(しんけん)な表情になり、そう言った。

(おれ)が、その会議(かいぎ)参加(さんか)しても良いのですか?」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでサリアに問い掛けると、

「何を言っているの? 貴方(あなた)立派(りっぱ)なアルスワット公爵家(こうしゃくけ)一門(いちもん)の人間でしょ? 次の世代(せだい)(にな)う者として、ルフトと一緒(いっしょ)一門(いちもん)を盛り立ててくれないと困るわ」

彼女は苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、ロナードは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、思わずルフトの方へと目を向けると、彼はニッコリと笑みを浮かべながら(うなず)き返す。

「まずは、とても良い知らせよ」

サリアはニッコリと笑みを浮かべ、そう切り出すと、鉄をベースに金や銀で装飾(そうしょく)(ほど)された、蓋付(ふたつき)(つつ)を、ロナードに差し出す。

「中を拝見(はいけん)しても?」

ロナードは、如何(いか)にも高そうな(つつ)戸惑(とまど)いながらも、サリアにそう問い掛けると、

是非(ぜひ)貴方(あなた)の目で確認して頂戴(ちょうだい)

彼女はニッコリと笑みを浮かべ、そう答えた。

 ロナードは丁重(ていちょう)(つつ)(ふた)を開け、中に入っている高級そうな紙を取り出すと、それほ広げ、内容を確認する。

(おれ)が……伯爵(はくしゃく)?」

戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、思わずそう(つぶや)いた。

「良かったですわね」

「それは(すご)いね」

彼の言葉を聞いて、エルフリーデとルフトは(そろ)って嬉しそうに言ったが、驚かない所を見ると、二人は先にこの事を知っていた様だ。

「妖光花の一件(いっけん)で第一側妃だけでなく、宮廷内(きゅうていない)(がい)の多くの女性たちを(すく)った事に加えて、建国(けんこく)祝賀(しゅくが)(さい)での獅子族(シーズーぞく)暴動(ぼうどう)(けん)とか、(ほか)にも色々と助けたご褒美(ほうび)として、皇帝(こうてい)陛下(へいか)から『リュディガー』の家名(かめい)(たまわ)ったの」

サリアはニッコリと笑みを浮かべ、伯爵(はくしゃく)地位(ちい)(あた)えられた経緯(いきさつ)簡単(かんたん)に説明した。

「まあ一番の理由は、皇女(こうじょ)であるセレンディーネ様の婚約者(こんやくしゃ)が、爵位(しゃくい)が無いのは格好(かっこう)がつかないと言ったところだろうね」

ルフトは、少し意地悪(いじわる)くそう言うと、

「それは一言(ひとこと)余計(よけい)ではなくって? 爵位(しゃくい)(たまわ)ったのは純粋(じゅんすい)に、ユリアスがこれまでやって来た事に対しての対価(たいか)よ」

エルフリーデは、ムッとした表情を浮かべ、ルフトにそう言うと、

有難(ありがと)う。 エルフリーデ」

自分に対して、気遣(きづか)いを(しめ)してくれたエルフリーデに、ロナードは素直(すなお)に礼を述べた後、

「けれど、ルフトが指摘(してき)した事も、かなりの割合(わりあい)(ふく)まれている事は、(おれ)自身(じしん)が一番良く分かっているよ」

苦笑(にがわら)いを浮かべながら、エルフリーデにそう返すと、彼女は少し不満(ふまん)そうな表情を浮かべる。

「そう謙遜(けんそん)しないで。 その爵位(しゃくい)に見合うだけの実力が貴方(あなた)にはあると、皇帝(こうてい)陛下(へいか)(ふく)めて、多くの人達が認めていると言う証拠(しょうこ)なのだから、もっと胸を張りなさい」

サリアは、苦笑(にがわら)いを浮かべながらロナードに言う。

有難(ありがと)御座(ござ)います」

ロナードは、ちょっと気後(きおく)れしている様子(ようす)で言う。

「それに(ともな)っての事だけれど、貴方(あなた)の兄レオフィリウスは侯爵(こうしゃく)になったわ。 まあ、これは(わたし)陛下(へいか)諸侯(しょこう)たちに働きかけたからだけれど……」

サリアは、苦笑(にがわら)()じりにロナードに説明すると、

「サルヴェール伯爵(はくしゃく)()が取り(つぶ)しになって、領地(りょうち)爵位(しゃくい)(へん)(かん)されたからね。 それで、次にその領地(りょうち)(だれ)(おさ)めるかって事になって……。 母上がレオンを()したんだ」

ルフトが事務的(じむてき)口調(くちょう)でそう補足(ほそく)する。

「サルヴェール(りょう)では、貴方(あなた)もセレンディーネ殿下(でんか)と共に、とても危険(きけん)な目に()ったし、その後もサルヴェール伯爵(はくしゃく)子息(しそく)誘拐(ゆうかい)されたりと、一番(いちばん)被害(ひがい)を受けもの。 その位の対価(たいか)があっても良いと思わない?」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべながら、ロナードに言うと、

(おれ)には、サルヴェール伯爵(はくしゃく)()の者たちがやった事が、どの程度(ていど)(つみ)相当(そうとう)するのか分かりかねます」

彼は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答える。

(まった)く。 (よく)のない子ね」

ロナードの言葉を聞いて、サリアは苦笑いを浮かべながら言う。

「変に貪欲(どんよく)よりかは良いよ。 身丈(みたけ)に合わない(よく)を持つと、当人(とうにん)も周り人達も不幸にするからね」

ルフトも、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、サリアに言うと、エルフリーデも(だま)って(うなず)く。

「レオンは変わらず、『ノヴァハルト』の家名(かめい)名乗(なの)るそうよ」

サリアは、事務的(じむてき)口調(くちょう)でロナードに言う。

「『リュディガー』は、君の祖父であるオルゲン将軍(しょうぐん)が、エレンツに居た(ころ)に使っていた家名(かめい)だよ」

ルフトがニッコリと笑みを浮かべ、ロナードにそう説明する。

「そうだったのか……」

ロナードは、感慨深(かんがいぶか)そうに呟く。

「これで少しは、オルゲン将軍(しょうぐん)義理(ぎり)()たせたんじゃない?」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべ、優しい口調(くちょう)でロナードに言うと、

「そうだと良いですが……」

ロナードは、何とも言えない複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら(つぶや)く。

「何にしても、目出度(めでた)い事だわ」

エルフリーデは(うれ)しそうに言うと、ロナードは(かす)かに口元を(ほころ)ばせ、(うなず)き返した。

帝都(ていと)にあるノヴァハルト家の邸宅(ていたく)を、そのまま受け()ぐ事になるのだけれど……。 ちょっと問題があって……」

サリアは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言う。

「?」

ロナードは、不思議(ふしぎ)そうな顔をして小首を(かし)げる。

「どうも家令(かれい)が、ノヴァハルト家の資産(しさん)を何年も前から、横領(おうりょう)している様なの」

サリアは、深々と溜息(ためいき)を付いてから、ゲンナリとした表情を浮かべながら語ると、

「それ、ノヴァハルト侯爵(こうしゃく)は知って居まして?」

エルフリーデは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、サリアに問い掛ける。

「知ったのは、(わたし)も彼も最近よ。 レオンは仕事で屋敷(やしき)を空ける事が多いから……。 それで、主人が屋敷(やしき)(ほとん)ど居ないのを良い事に、好き放題(ほうだい)していたらしいわ」

サリアは、両手で自分の頭を抱えながら、ゲンナリとした表情を浮かべながら言う。

「とんでもないね!」

その話を聞いて、ルフトは(いきどお)りを(かく)せない様子(ようす)で言う。

家令(かれい)は、主人に代わって資産(しさん)などを管理をするのが仕事でしょうに! その家令(かれい)がよりによって横領(おうりょう)をするなんて! (ゆる)されませんわ!」

エルフリーデも、(いきどお)りを(かく)せない様子(ようす)で言う。

当面(とうめん)、その家令(かれい)動向(どうこう)(さぐ)り、証拠(しょうこ)を集める事が、新たにその屋敷(やしき)当主(とうしゅ)となった(おれ)の仕事と言う事でしょうか?」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)で、サリアに問い掛けると、

貴方(あなた)宮廷(きゅうてい)魔術師(まじゅつし)の仕事があるから、四六時中(しろくじちゅう)その家令(かれい)見張(みは)る事は無理(むり)だと思うの」

サリアが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「そうですね。 (おれ)留守(るす)をしている間に、屋敷(やしき)の者たちの動向(どうこう)(さぐ)(すべ)を持ちませんので」

ロナードは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答えると、

「じゃあ、どうするの? このまま野放(のばな)しにしておくの?」

ルフトが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、サリアに問い掛けると、

「安心して。 その(ため)人材(じんざい)確保(かくほ)して来たわ」

サリアがそう言うと、部屋の(すみ)(ひか)えていた給仕(きゅうじ)に目で合図を送ると、その中年(ちゅうねん)給仕(きゅうじ)(おもむろ)に、部屋の扉を開いた。

 部屋に入って来た人物を見て、ロナードは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、

「カナデ……」

そう(つぶや)いた。

「この前は……申し訳ありませんでした。 ですが、私の様な立場の弱い者は、(したが)う以外の選択肢(せんたくし)がなかった事を、ご理解(りかい)(いただ)けると(さいわ)いです」

カナデは、バツの悪そうな顔をしながら、自分を見ているロナードに言う。

正気(しょうき)なの? コイツはユリアスを誘拐(ゆうかい)した実行犯(じっこうはん)の一人じゃないか!」

ルフトは、カナデを指差(ゆびさ)しながら、強い口調(くちょう)でサリアに抗議(こうぎ)する。

「人を指で()すものではないわよ。 ルフト」

サリアは、(いきどお)っているルフトに対し、苦笑(にがわら)いを浮かべながらそう(たしな)める。

「今は、そんな事はどうでも良いでしょ!」

ルフトは、ムッとした表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でサリアに言い返す。

「彼が無罪(むざい)放免(ほうめん)になった理由は、そう言う事なのですね?」

ロナードは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、サリアに問い掛ける。

「そんなところよ」

サリアは、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら答える。

「オレは反対(はんたい)です! 信用なりません!」

何処(どこ)からかアイクが(あらわ)れ、ロナードを(かば)う様にカナデの前に立ちながら、強い口調(くちょう)でサリアに言う。

「心配しないで。 彼は、ユリアスに危害(きがい)を加えたり、裏切(うらぎ)る様な真似(まね)出来(でき)ないから」

サリアは、ニッコリと笑みを浮かべながら言うと、

制約(せいやく)魔術(まじゅつ)……ですか?」

ロナードは(かす)かに眉を(ひそ)め、(おもむろ)にサリアに問い掛けると、

「そうでもしなければ、流石(さすが)貴方(あなた)も理解を(しめ)してはくれないでしょう?」

彼女は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに言う。

「だったら、彼では無くても良いでしょうに」

ロナードは、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべながら言うと、

「……貴方(あなた)は、カナデを自分の側に置く事が不服(ふふく)なのか、それても、私が制約(せいやく)魔術(まじゅつ)で彼を(しば)った事が不満(ふまん)のなのか……。 何方(どちら)なのかしら?」 

サリアは、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、ロナードにそう問い掛ける。

「両方に決まっているでしょ! ユリアスを(あぶ)ない目に()わせた(やつ)に、制約(せいやく)魔術(まじゅつ)を使ってまで、側に置こうと考えた母上の頭の中がどうなっているのか、是非(ぜひ)とも知りたいよ!」

ルフトは、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でサリアに抗議(こうぎ)する。

「……これが、レオンだったら何も言わないくせに」

サリアは、ちょっとムッとした表情を浮かべながら言うと、

「あんな鼻につく、性悪(せいあく)ゴリラ野郎(やろう)がどうなろうと、(ぼく)の知った事じゃないですけど、ユリアスをアイツと一緒(いっしょ)にしては駄目(だめ)でしょ!」

ルフトは声を(あら)らげながら、サリアにそう力説する。

(性悪(せいあく)……ゴリラ……)

ルフトの言葉を聞いて、ロナードは心の中でそう(つぶや)くと、思わず吹き出しそうになった。

何故(なぜ)? ユリアスは貴方(あなた)が言う、鼻につく性悪(せいあく)ゴリラ野郎(やろう)の弟なのよ?」

サリアは、不思議(ふしぎ)そうにルフトに問い掛ける。

(たと)えアイツと血の(つな)がった弟でも、ユリアスはアイツとは(まった)(べつ)種類(しゅるい)の人間だ! 見た目からして(すで)(ちが)うでしょ」

ルフトは、物凄(ものすご)真剣(しんけん)な顔をして、強い口調(くちょう)で説明をする。

 それには、一緒(いっしょ)に居るロナードとエルフリーデもドン引きしている。

()(かく)家令(かれい)の事はカナデに任せて大丈夫(だいじょうぶ)だから」

サリアは、落ち着いた口調(くちょう)で言うが、皆一様に不安に満ちた表情を浮かべている。

「そんなに心配なのでしたら、其方(そなた)護衛(ごえい)殿(どの)(わたし)殺生(せっしょう)権限(けんげん)(あた)えて下さい」

カナデは、ニッコリと笑みを浮かべ、アイクの方を見ながら、落ち着き払った口調(くちょう)でそう言った。

「なっ……」

その言葉を聞いて、ルフトは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、思わずカナデを見る。

「少しでも、(わたし)不審(ふしん)な動きをした時は、遠慮(えんりょ)なく(ころ)して下さって結構(けっこう)です」

カナデは、戸惑(とまど)っているアイクに向かって、ニッコリと笑みを浮かべ、そう言い放った。

正気(しょうき)か?」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、カナデに問い掛ける。

(わたし)(いた)って真面目(まじめ)に言っています。 その位の事をしなければ、貴方(あなた)の側に居る事を、サリア様を(のぞ)いて此処(ここ)に居る(だれ)一人(ひとり)納得(なっとく)はしてくれそうにないですから」

カナデは落ち着き払った口調(くちょう)で、ロナードの問い掛けに答える。

「好きにしなさい」

サリアは、軽く溜息(ためいき)を付いてから、(なか)(あきら)めた様な口調(くちょう)で言った。

「そんな無責任(むせきにん)な!」

ルフトは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、サリアに言い返す。

「何にしても、これは決定(けってい)事項(じこう)よ。 変更(へんこう)は無いわ」

サリアが、淡々とした口調(くちょう)で言い放つと、(おもむろ)に席を立つ。

「母上!」

それを見て、ルフトも席を立ち、そう言って引き()めようとするが、サリアはそのまま部屋を後にしてしまった。

「何を考えてるんだ……」

ルフトは、力なく椅子(いす)に腰を下ろすと、両手で頭を(かか)えながら、ゲンナリとした様子(ようす)(つぶや)く。

「これはサリアの意志(いし)ではなく、皇帝(こうてい)陛下(へいか)諸侯(しょこう)らと取引(とりひき)していく中で、そう言う風になったのだと考えるべきだろうな……」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつも、落ち着き払った口調(くちょう)で言う。

「そうだとしても、これは(ことわ)るべきだ!」

ルフトは、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、強い口調(くちょう)で言う。

(ことわ)れなかった事情(じじょう)があるのよ。 きっと」

エルフリーデは、落ち着いた口調(くちょう)でルフトに言うと、

「そんなの、ユリアスには関係の無い事だろ!」

ルフトは、強い口調(くちょう)でエルフリーデにそう言い返すと、彼女はムッとした表情を浮かべると、(きゅう)に彼の(ほお)(つね)り、

一旦(いったん)、落ち着きなさい!」

エルフリーデはそう言うと、思い切りルフトの(ほお)(つね)る。

「いだだだっ! いきなり何をするんだよ! エフィ!」

エルフリーデに思い切り(ほお)(つね)られ、ルフトは目元に()っすらと(なみだ)を浮かべ、(いた)そうに顔を(しか)めながらそう抗議(こうぎ)する。

「エルフリーデの言う通りだ。 (おれ)にはアイクやナルルが居る。 そう心配するな」

ロナードは、落ち着いた口調(くちょう)でルフトに言うと、

「この前、コイツに誘拐(ゆうかい)された君に言われても、説得力(せっとくりょく)に欠けるよ」

ルフトは、ムッとした表情を浮かべながらロナードに言うと、彼は思わず苦笑(にがわら)いを浮かべる。

(たと)え、それが(わざ)とだとしても、そんな危険(きけん)(きわ)まりない事は、(ぼく)到底(とうてい)容認(ようにん)できないよ」

ルフトは真剣(しんけん)な表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でロナードを(しか)り付ける様に言ってから、

「エフィや母上が、君の真似(まね)をしたらどうするつもりだよ」

ポツリとそう(つぶや)いた。

「ルフト……」

彼のつぶやきを聞いて、エルフリーデは感激(かんげき)した様な表情を浮かべる。

「ち、(ちが)う! (ぼく)は心配なんてしてないんだからね!」

ルフトは、ハッとした表情を浮かべると、(あわ)ててそう言い()えたが、(すで)(おそ)かった。

(まった)く。 素直(すなお)じゃないな」

ロナードは肩を(すく)め、意地(いじ)の悪い笑みを浮かべながら、そうルフトをからかうと、

「う、五月蠅(うるさ)いな! 今は、そんな事はどうでも良いでしょ!」

ルフトは、()ずかしいのか顔を真っ赤にして、強い口調(くちょう)でロナードに言い返す。


(何て事だ)

白髪(しらが)()じりの髪をオールバックにし、丁寧(ていねい)(しわ)を伸ばしたジャケットに白のワイシャツ、ジャケットと同色のズボン、茶色の革靴(かわぐつ)に身を包んだ、初老(しょろう)の男は(あせ)りの表情を浮かべていた。

彼は、元・ノヴァハルト伯爵(はくしゃく)家の家令(かれい)だ。

 今まで、(あるじ)屋敷(やしき)留守(るす)にしがちなのをこれ幸いに、屋敷(やしき)の維持費や私兵(しへい)たち、使用人(しようにん)たちの給料(きゅうりょう)金額(きんがく)などを、帳簿(ちょうぼ)記載(きさい)した金額(きんがく)よりも少なく支払(しはら)い、自分の(ふところ)に入れていた彼は、この屋敷(やしき)(あるじ)が代わる事に強い危機感(ききかん)を覚えていた。

 何せ、今度の(あるじ)宮廷(きゅうてい)(づと)め。

 緊急(きんきゅう)な事でもない限り、毎日(まいにち)屋敷(やしき)(もど)って来る。

 私兵(しへい)たちや使用人(しようにん)たちと(せっ)する機会(きかい)も、(おの)ずと増えるだろう。

 そんな中で、彼等(かれら)給与(きゅうよ)に対しての不満(ふまん)などを(うった)えれば、新しい(あるじ)帳簿(ちょうぼ)を確認するかも知れない。

(マズイ。 マズイぞ!)

家令(かれい)の男は、(ひたい)()っすらと冷や汗を浮かべ、先程(さきほど)から落ち着かない様子(ようす)で、廊下(ろうか)を行ったり来たりしている。

 何せ、(あるじ)が代わった事も、新しい主がもう()到着(とうちゃく)する事も、ついさっき知ったのだ。

 この数日、使用人(しようにん)たちが忙しくしている事は知っていたが、大方(おおかた)、レオフィリウスが仕事から戻って来るからだろうと勝手に判断(はんだん)し、その理由を彼等(かれら)に聞かなかった。

 使用人(しようにん)私兵(しへい)たちも、伯爵(はくしゃく)()資産(しさん)(にぎ)っている立場である彼が、給与(きゅうよ)を受け取る側である自分たちを見下す態度(たいど)を度々とっていた事もあって、多くの者が彼を毛嫌(けぎら)いしていた(ため)(だれ)もその事を態々教えたりはしなかったのだ。

「さっきから、何であんなにソワソワしているの? あの人」

「さあ」

玄関(げんかん)にある大きな花瓶(かびん)に花を生け替えている侍女(じじょ)たちが、不思議(ふしぎ)そうな顔をして、先程(さきほど)から落ち着かない様子(ようす)で、廊下(ろうか)を行ったり来たりしている家令(かれい)の男を見ながら(つぶや)く。

「新しいお(やかた)(さま)は、前の伯爵(はくしゃく)さまの弟君なんでしょ?」

「そうらしいわね」

「もうイケメンなのは確定(かくてい)ね!」

「確かに! 前の伯爵(はくしゃく)さまは(こわ)かったけれど、顔だけは文句(もんく)なしだったものね」

若い侍女(じじょ)たちは口々にそう言いながら、まだ見た事も無い新しい屋敷(やしき)(あるじ)が、どんな人物なのか想像を(ふく)らませている様であった。

「ご到着(とうちゃく)されたぞ!」

外に待機(たいき)していた、男性の使用人(しようにん)玄関(げんかん)の扉を開け、中に居た者たちに告げる。

 屋敷(やしき)の門の前に横付けされた、黒塗(くろぬ)りの馬車の中からまず(あらわ)れたのは、長めの()げ茶色の髪を後ろで一つに(たば)ねた、中肉(ちゅうにく)中背(ちゅうぜい)、年の(ころ)は二十代前半と思われる、(かしこ)そうな青年。

 その後に続いて、護衛(ごえい)と思われる全身黒づくめの、灰色(はいいろ)()かった黒い短髪(たんぱつ)琥珀(こはく)(いろ)双眸(そうぼう)を有した、中肉(ちゅうにく)中背(ちゅうぜい)ではあるが、その身体は(きた)え抜かれているものの、無駄(むだ)筋肉(きんにく)が付いてないしなやかな肢体(したい)を持つ青年が下りて来た。

 その後に、闇夜(やみよ)に溶け込みそうな(ほど)見事(みごと)な黒髪を有した長身(ちょうしん)細身(ほそみ)の青年が下りて来て、紫色の美しいドレスに身を包んだ貴婦人(きふじん)に手を差し伸べ、とても綺麗(きれい)所作(しょさ)でその貴婦人(きふじん)をエスコートしている。

 髪の色や体付きなどは全く(こと)なるし、顔立ちすらも(ちが)うのだが、何処(どこ)となく前の屋敷(やしき)(あるじ)であるノヴァハルト侯爵(こうしゃく)()ていた。

「若っ!」

「お、弟君って(いく)つ? 侯爵(こうしゃく)様とかなり年が(はな)れてない?」

彼を一目(ひとめ)()侍女(じじょ)たちが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

 (ほか)使用人(しようにん)使用人(しようにん)たも(ほとん)どが、似通(にかよ)った事を感じていた。

 てっきり、前の(あるじ)の様に気難(きむずか)しい顔をしていて、近づき(がた)雰囲気(ふんいき)を放っているだろうとばかり思って居たが、何の事は無い。

 流石(さすが)に、前の(あるじ)の弟と言うだけあって、目鼻立(めはなだ)ちは整ってはいるが、他者(たしゃ)威圧(いあつ)する様な雰囲気(ふんいき)ではなく、穏やかな雰囲気(ふんいき)を纏った、二十歳になるかならないか位の好青年であった。

「初めまして。 ユースティリアス様。 執事(しつじ)(ちょう)をしておりますモリスと申します。 これから(わたくし)(ふく)使用人(しようにん)たち一同(いちどう)誠心(せいしん)誠意(せいい)(つか)(いた)します」

白髪(はくはつ)をオールバックにし、白い(はな)(ひげ)を生やした、燕尾服(えんびふく)に身を包んだ、温和(おんわ)そうな初老(しょろう)の男が歩み出て、とても丁寧(ていねい)口調(くちょう)で馬車から降りて来た相手(あいて)に向かってそう言うと、深々と頭を下げた。

「初めまして。 私はカナデと言います。 家令(かれい)見習(みなら)いとして参りました。 (いた)らぬ点も多々あるかと思いますが、どうかご指導とご鞭撻(べんたつ)(ほど)(よろ)しくお願いします」

一番最初に馬車から降りて来た青年は、好感(こうかん)の持てる笑顔(えがお)を浮かべながら、(おだ)やかな口調(くちょう)でそう挨拶(あいさつ)を返してきた。

此方(こちら)こそ、宜しくお願い(いた)します」

執事(しつじ)(ちょう)のモリスは、少し恐縮(きょうしゅく)した様子(ようす)でそう返すと、ニッコリと笑みを浮かべた。

(あるじ)専属(せんぞく)護衛(ごえい)をしています。 アイクと言います。 もう一人護衛(ごえい)が居るのですが、後で合流(ごうりゅう)して来ますので、その時にまた紹介(しょうかい)します」

次に馬車から降りてきた、護衛(ごえい)と思われる青年も、とても丁寧(ていねい)口調(くちょう)挨拶(あいさつ)をして来た。

(おれ)が、ここの新しい(あるじ)となったユースティリアス・フォン・リュディガーだ。 突然(とつぜん)の事で戸惑(とまど)っている者も多いだろうが、(よろ)しく(たの)む」

貴婦人(きふじん)をエスコートしながら、此方(こちら)にやって来た黒髪の青年は、(おだ)やかな笑みを浮かべ、穏やかな口調(くちょう)でそう言って来た。

(前の(あるじ)とは、(まった)(べつ)人種(じんしゅ)だ!)

(緊張(きんちょう)して(そん)した!)

((やさ)しそうな人で良かった)

新しい(あるじ)言動(げんどう)に、使用人(しようにん)侍女(じじょ)たちは心の中でそう思った。

此方(こちら)は、(おれ)婚約者(こんやくしゃ)である、セレンディーネ皇女(こうじょ)殿下(でんか)だ。 これから度々、此処(ここ)(おとず)れる事があるだろう。 丁重(ていちょう)にもてなして欲しい」

新しい主は、穏やかな口調(くちょう)で、自分がエスコートしている女性を、使用人(しようにん)たちに紹介(しょうかい)する。

(は? 皇女(こうじょ)(さま)婚約者(こんやくしゃ)?)

(前のお(やかた)(さま)より(すご)いんじゃ?)

(いや、もう、将来(しょうらい)安泰(あんたい)じゃないか)

新しい主の言葉に、使用人(しようにん)侍女(じじょ)たちは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、それぞれに心の中で呟いた。

(どんなのが来るかと思えば、まだ子供(こども)じゃないか。 これならば、上手(うま)く言い(ふく)められるぞ)

ロナードの様子(ようす)を見て、家令(かれい)の男は心の中でそう(つぶや)くと、ニヤリと笑みを浮かべた。

「あの男が、(れい)の……」

出迎えた人々の中に、サリアが言っていた家令(かれい)の男が居て、此方(こちら)を見ている事に気が付いたアイクが、小声でロナード達に言った。

間違(まちが)いありません。 前もって手に入れていた情報と特徴(とくちょう)(がっ)()します」

カナデが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、小声でロナード達に言う。

(きゅう)な事で(あせ)っているに(ちが)いない。 証拠(しょうこ)(いん)(めつ)されてしまう前に手を打て」

ロナードは、自分を見ている家令(かれい)見据(みす)えつつ、落ち着いた口調(くちょう)でアイクたちにそう命じる。

御意(ぎょい)

「お任せを」

アイクとカナデは(そろ)って、真剣(しんけん)な表情を浮かべながらそう返した。


「今日はお(つか)れでしょう。 お早めにお休み下さいませ」

モリスは(おだ)やかな口調(くちょう)で、夕食を終え、私室(ししつ)のソファーの上で寛ぎながら、本を読んでいたロナードに声を掛ける。

「モリス」

ロナードが不意に声を掛けると、

「はい?」

モリスは不思議(ふしぎ)そうな顔をして、ロナードの方へと振り返る。

「この屋敷(やしき)(つと)めて何年になる?」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(きゅう)にそう問い掛けると、

「そうですね……。 先のお(やかた)(さま)が、伯爵(はくしゃく)になられた時からですので、かれこれ五年はなるでしょうか」

モリスは戸惑(とまど)いながらもそう答えると、

「その間に、給料(きゅうりょう)などの待遇(たいぐう)はどうだった?」

ロナードは更に、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで問い掛ける。

「どうとは……」

モリスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、ロナードに問い返すと、

「ちゃんと、勤続(きんぞく)年数(ねんすう)(おう)じた報酬(ほうしゅう)を受け取れていたかと言う事だ」

ロナードは、真剣(しんけん)な表情を浮かべながらも、落ち着いた口調(くちょう)で言った。

「そうですね……。 このお屋敷(やしき)に来る前は、アルスワット公爵家(こうしゃくけ)本邸(ほんてい)執事(しつじ)をしておりました。 その(ころ)に比べれるのもどうかと思いますが、お給金(きゅうきん)はさほど高くは無いと思います」

モリスは少し考えてから、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら語る。

「この最近、賃金(ちんぎん)は上がったか?」

ロナードは(さら)に、その様な事まで問い掛けて来たので、モリスは戸惑(とまど)ったが、

「上がってはいませんね。 正直、このお屋敷(やしき)で働き始めた(ころ)と、そう大差(たいさ)が無いように思えます。 それが不満(ふまん)()めた者も少なくありません」

落ち着いた口調(くちょう)で、素直(すなお)に答えた。

「やはりそうか……」

ロナードはそう言うと、深々と溜息(ためいき)を付く。

「『やはり』……とは?」

ロナードの言動(げんどう)に、モリスは戸惑(とまど)いながら言う。

「いいや。 こっちの話だ。 兄がそう言った事に頓着(とんちゃく)が無くて済まなかったな。 これからはもう少し、屋敷(やしき)で働いてくれてい者たちの事を気に掛ける様にするよ」

ロナードは、落ち着いた口調(くちょう)でそう言うと、(おだ)やかな笑みを浮かべた。

「それは、()(がた)い事です」

モリスは戸惑(とまど)いながらも、そう返した。


「困ります! (わたし)相談(そうだん)も無く、賃金(ちんぎん)を上げる様な事を(おっしゃ)られては!」

数日後、家令(かれい)(すご)い勢いで執務室(しつむしつ)の扉を開き、そこで書類(しょるい)(にら)めっこをしていたロナードに向ってそう言い放った。

何故(なぜ)?」

ロナードは、ノックも無しに部屋に入って来た家令(かれい)に対し、()して(おどろ)様子(ようす)も無く、落ち着いた口調(くちょう)で問い掛ける。

資産(しさん)管理(かんり)しているのは、この私ですよ?」

家令(かれい)相当(そうとう)頭に来ているのか、ドンとディスクを(たた)くと、声を(あら)らげ、ロナードに言った。

「お前、この屋敷(やしき)侍女(じじょ)たちの格好(かっこう)を見て、何も思わないのか?」

ロナードは、軽く溜息(ためいき)を付くと、(きゅう)にその様な事を言い出した。

「はい?」

思いがけぬ言葉に、家令(かれい)(はと)豆鉄砲(まめでっぽう)を食らった様な顔をして、思わず問い返した。

「彼女たちは色褪(いろあ)せたり、草臥(くたび)れてしまっても、その制服(せいふく)を着る事を余儀(よぎ)なくされている様だ。 お前と(ちが)ってな」

ロナードは、淡々とした口調(くちょう)でそう言うと、

当然(とうぜん)です! 何の取り柄も無い一介(いっかい)侍女(じじょ)と、資産(しさん)の管理をしている(わたし)が、同じであって良い(はず)が無いのですから!」

家令(かれい)は『意味(いみ)不明(ふめい)』と言った表情を浮かべつつも、強い口調(くちょう)反論(はんろん)する。

「良く言う。 その服の生地(きじ)はどう見たって、一介(いっかい)家令(かれい)が普段、仕事で着る服に使う様な物ではないだろ」

部屋の中央にテーブルを囲む様に配されているソファーの一つに腰を下ろし、侍女(じじょ)が出した紅茶を呑気(のんき)(すす)っていたセネトが、冷ややかな視線(しせん)家令(かれい)に向けながら、淡々とした口調(くちょう)で言った。

「こ、これは……今日は、たまたま偶然(ぐうぜん)に着ているだけです!」

セネトの指摘(してき)に、家令(かれい)は焦りの表情を浮かべながらも、そう言った。

「ふぅん」

セネトは不敵(ふてき)な笑みを浮かべながらそう言うと、再び紅茶を(すす)る。

「そう言う事にしといてやるか」

ロナードは、(なか)ばどうでも良さそうな口調(くちょう)でそう言うと、再び書類(しょるい)視線(しせん)を落とす。

「なっ……。 何が言いたいのですか! あなた方は!」

二人の態度(たいど)にカチンと来て、家令(かれい)は思わず声を(あら)らげた。

「それは、自分の胸に問質(といただ)してみれば、分かる事なんじゃないのか?」

ロナードは、書類に視線(しせん)を落としたまま、淡々とした口調(くちょう)で答えた。

「問い質したところで、この手の人間が反省(はんせい)するとも思えませんよ。 (あるじ)

そこへ、何処(どこ)からかアイクが現れ、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

 この護衛(ごえい)、何の前触(まえぶ)れもなく、(けむり)の様に現れるので、後ろめたいことがある家令(かれい)は、何時(いつ)何処(どこ)で彼と遭遇(そうぐう)するか、気が気でなかった。

同感(どうかん)です。 自分の正当性(せいとうせい)主張(しゅちょう)するだけでしょうね」

カナデも静かに部屋に入って来ると、落ち着いた口調(くちょう)で言う。

「なっ……」

家令(かれい)は、彼等(かれら)の言い様に戸惑(とまど)いの表情を浮かべていると、アイクは(おもむろ)に背負っていた布の大きな袋をドンとディスクの上に置くと、

「はーい。 コイツの部屋クローゼットから出て来た服の数々~」

そう言いながら、(ふくろ)を逆さまにして、中に入っていたものをぶちまけた。

「うわぁ………」

それを見たカナデは、思わずドン引きしながら、そう呟く。

「こんなチカチカしたのを、何処(どこ)へ着ていくんだ? 趣味(しゅみ)が悪いな」

スパンコールの様な物が、衣服(いふく)全体(ぜんたい)(ちりば)められた、ド派手(はで)な服を見て、ロナードは思わず苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

「これ着て、娼館(しょうかん)のお姉さんたちでも口説(くど)いていたんですかね?」

アイクも、苦笑(くしょう)しながらそう言うと、

随分(ずいぶん)と、豪遊(ごうゆう)なさっていた様ですね?」

カナデがニッコリと笑みを浮かべながらそう言うと、分厚(ぶあつ)い紙の(たば)を、ロナードに差し出した。

 それは、家令(かれい)がほぼ毎週の様に通っている、高級娼館(こうきゅうしょうかん)領収書(りょうしゅうしょ)(ひか)えだった。

一介(いっかい)家令(かれい)がどうて、こうも頻繁(ひんぱん)高級娼館(こうきゅうしょうかん)なんぞに出入り出来(でき)るのか……。 是非(ぜひ)ともその金の出所(でどころ)を知りたいものだ」

セネトが不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、家令(かれい)に向かってそう言うと、彼の顔はみるみる青ざめる。

「ノヴァハルト家の資産(しさん)をちょろまかして、その金で高級娼館(こうきゅうしょうかん)通いとは、良いご身分(みぶん)だな」

ロナードは、高級娼館(こうきゅうしょうかん)領収書(りょうしゅうしょ)の控えを適当(てきとう)(めく)りながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言う。

「ご、誤解(ごかい)です! 私はノヴァハルト侯爵(こうしゃく)さまに付いて行っただけです!」

家令(かれい)は青い顔をしながら、そう弁明(べんめい)する。

「ふぅん。 この日はどう考えても、兄上は帝都(ていと)に居ない(はず)なんだが」

ロナードは、領収書(りょうしゅうしょ)(ひか)えに書かれた日付を指差(ゆびさ)しながら、淡々とした口調(くちょう)指摘(してき)する。

「そ、それは……。 その……」

家令(かれい)は、青い顔をしながらそう呟く。

(ほか)にも証拠(しょうこ)沢山(たくさん)ある。 じっくりと話を聞かせて(もら)おうじゃないか。 兄上と一緒(いっしょ)に」

ロナードはニッコリと笑みを浮かべながら、家令(かれい)に向かってそう言うと、彼の顔からみるみる血の気が引き、そのまま後ろに()()るように、床の上に倒れ込んだ。

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