モブキャラは主人公たちから逃げ切りたい
...俺は南林組というマフィアに所属している。
借金の取り立てや企業秘密の情報売買、そして人身売買などを行っている闇の組織だ。
ここにいるきっかけは...どうでもよいだろう。
突然だが、今俺たちの事務所は襲撃を受けている。
武闘家の娘一人と、男剣士一人だ。
やつらの目的は、先日ボスが召し上げた奴隷の奪還らしい。
どこからここの情報を突き詰めたのかは知らないが、、敵はたった二人。たいしてこちらは何十人もいる。
飛んで火にいる夏の虫とはこのことだろう。
しかもやつらは二手に分かれている、俺たちも手分けして武闘家と剣士の討伐に動いた。
俺は武闘家の娘を仕留めるために、西側建物の3Fに向かった。武闘家は1Fのバリケードを破って、2F,3Fへと上がっているらしい。
俺たちの作戦は、3Fにある会議室に武闘家を誘導して、全員でミンチにすることだ。
愚かにも、武闘家は好戦的で、見かけたマフィアを徹底的に攻撃しているらしいので、誘導することは容易い。
俺が会議室に到着したころには、既に10人くらいのマフィアが武闘家を囲っている状態だった。
だが、奇妙なのは10人に囲われても武闘家がピンピンしていることだ。
まるでアニメに出てくる能力者VS雑魚戦のように、まわりのマフィアたちを蹂躙している。
マフィアA「おりゃー」
マフィアB「この!」
武闘家の娘「遅い!」
[バシッ]
マフィアA「ぐはっ」
マフィアB「ぐふっ」
武闘家の娘は、マフィアたちをまるでバッタや蚊を蹴り飛ばすかのように倒していく。
しかし、マフィアたちもただやられているわけではない。
マフィアC「死ねぇい!」
(キンッバキっ)
武闘家の娘「くっ!?」
マフィアC「おっと、大人を舐めるなよ..!」(キンッ)
武闘家の娘「くそっ!」
(バキッ、ドカッ、ボコッ)
マフィアCは小物類の扱いが上手いと噂されている実力者だ。ナイフを巧みに使い、確実に武闘家の娘の隙を突いていく。
対する武闘家は防戦一方だ。
さらに、マフィアたちは四方八方から襲いかかることで、武闘家を追い詰めていく。
(ドタッドタッ)
マフィアD「はぁ……そろそろ疲れてきただろう。」
マフィアE「可愛い娘だ、たっぷり可愛がってやろう」
武闘家の娘「フッ...」
マフィアDとEが同時に襲いかかるのを見抜いた格闘家は、体をしゃがて二人の攻撃を同時に交わす。そして、
[ゴン!]
マフィアE「おうふ。」
マフィアD「痛ってええええええ!! ...バタン」
俺「あちゃ~何やってんだ...」
武闘家の娘「てめーら、まとめてぶっとばす!」
武闘家は二人のマフィアの頭を掴んで、そのまま頭をコンクリートの柱にぶつけた。
俺の仲間だったはずの二人は、ピクピクしながら床に倒れていく。
全員が一瞬怯む。
その隙を逃さず、武闘家の娘はナイフを持ったマフィアCの懐に入り、そのままの勢いでナイフを奪い、
武闘家の娘「おらー!!」
(ザクッ)
マフィアC「ぎゃぁぁぁ!」
マフィアCから奪ったナイフでそいつの急所を斬り裂いた。
(ちょっとヤバそうだな。。)
俺は間合いを取ることを怠らないようにながら、少しずつ格闘家に近づく、
無傷の味方だけでもまだ5人はいる。まだまだ数ではこちらが有利。
だが、ここからは慎重にいくべきだろう。
武闘家の娘「来ないなら、、こっちからいくよ!」
武闘家の娘は俺に向かってくる。おお、まじか。
俺は一歩引きながら受け身の体制をとり、全神経を集中させて格闘家の攻撃をかわす
そのまま俺は格闘家の腕を一瞬だけ掴むが、すぐに格闘家の回し蹴りが飛んできて、俺の手は派手に離されてしまう。
しかし、格闘家の攻撃はそれで終わりではなかった。
なんと俺の腹めがけて、蹴りを入れようとする瞬間の足の動作をしている。
(やべえ、強いな。)
だが、俺が注意を引いているすきに周りのマフィアたちが格闘家の腕をつかむ。
格闘家は俺への攻撃を一時中断して向こうを振り向く。
俺はその隙に間合いをとり、格闘家の動きを観察する。
マフィアF「よし、腕を掴んだぞ!」
マフィアG「いいぞ、(銃を構えて格闘家に向ける)」
格闘家の娘「ちっ!」
マフィアG「悪いな、動くと殺す。」
格闘家の娘「くっ、くそっ!」
(ズドっ、ドンッ)
格闘家の娘は、腕を掴んでいるマフィアごと腕を振り回して、それを他のマフィアたちに向けて投げつける。
マフィアG「なに!(バン!)」
マフィアGの放った銃弾がどこに飛んだかわからないが、投げつけられたマフィアに巻き込まれて、銃を手放してしまう...
だが、俺は今の隙を見逃さなかった。
格闘家は今、完全に俺に背中を見せている。
俺は消音映画の再生のごとく音を殺して、1歩,2歩と格闘家に近づく。
3歩目で格闘家の背中にたどり着き、そのまま腕を彼女の首に巻き付けた。
格闘家の娘「?!」
格闘家は流石の反射速度でこちらに振り返る。だが、もう遅い!
俺は腕に全体重をかける代わりに両足を浮かせ、そのまま格闘家の脇に足をくるめる。
その結果、俺は格闘家の正面に俺は抱き着く形になった。
格闘家の娘「うぐっ!?....離れなっ..さい!」
格闘家は俺の腕を掴み、引き剥がそうとする。だが、俺はその腕を片手で押さえる。
格闘家の体は俺より数cm小さいくらいだが、とても引き締まっていて、正直女の体という感じはしない。
だが、俺の胸と密着している彼女の胸からは、しっかりと柔らかさを感じる。
ムチムチしていてやや熱い、正直好みではある。
格闘家は俺に巻き付かれたまま体を暴れさせる、俺は落ちそうなるところを必死に耐えるが、体もそこまで大きくない娘にしがみつくのはなかなかに安定しない。
格闘家の娘「このっ!……ハァ、ハア」
マフィアF「おりゃ」
格闘家の娘「ぐはっ!」
マフィアFが格闘家の背中を両手グーにして叩きつける。敵は俺だけじゃないからな。こっからどうするか、見物だ。
格闘家の娘「はあああ!」
(バキッ)
武闘家の娘は俺に巻き付かれた状態でも足をけり上げて、マフィアFの横腹を突く。
...ちなみに両腕は俺が抑えているから彼女が自由に使える部位は今、片足しかない。
マフィアF「ぐふっ」
だが、格闘家はそのまま回し蹴りを連発して、立っているマフィアを次々に蹴り飛ばす。やけくそだろう。
だが、うちのマフィアたちは格闘家の動きに圧倒されて防戦一方だ。俺という人間一人の体重を背負い、かつ両腕を封じられた状態でまだマフィアたちと互角にやり合っている。
俺は格闘家の体を抱きしめたまま、足を彼女の足に絡めて身動きを封じるが、彼女は俺の腕を掴みながら暴れ続ける。
(ブン!)
武闘家の娘「うわっ!」
(ドサっ)
マフィアF「な!?……」
俺(うおっ!……あっぶねー。)
武闘家の娘は俺を巻き込んで倒れこむ、俺が彼女にのし掛かる形だ。彼女の腕を抑えていた俺の手は解けてしまったが、格闘家の娘は俺に馬乗りにされている状態であり、依然として俺の方が有利だった。
格闘家の娘「アグッ!はぁ、はぁ!」
(ドガっ!)
武闘家の娘は、俺にのし掛かられながらも、俺の腹を殴り続ける。この体勢で殴れられるというのはなかなかに辛いものがあったが、やがて彼女は力尽きた。
格闘家の娘「はぁ……はぁ……」
(ガッ)
俺「ぐぉ」
(ドサっ)
俺は武闘家の娘の肩を掴み、そのまま床に押し付けて動きを封じた。武闘家は苦しそうにしている……
俺「はぁ、はぁ……これで逆転だな」
格闘家の娘「……くっ!」
俺が押さえつけていた手を離すと、彼女は力無く床に寝転がった。そして彼女はこちらに顔を向ける
格闘家の娘「くっ……殺せ……」
...俺は顔を彼女の耳元に近づけて、周りには聞こえないように小さくつぶやく
俺「ひとつ交渉しないか?」
格闘家の娘「…なに?」
俺「俺は知っている。あんたの連れの剣士は... あんたより強い化け物だろう?」
俺「十中八九、剣士のほうをやりに行ったマフィアは全員死んでるだろう」
俺「たぶん、そいつがボスを殺して、ここに来るのも時間の問題だ。」
俺「そこでだ、俺の要求はこうだ」
俺「俺の命の保証をしてもらいたい。この先剣士と出会ったときに俺を殺さないように守ってくれ。俺を人質として抱えたまま、このフロアを脱出してほしいんだ。」
格闘家の娘「……」
格闘家の娘「そんなことをして、何の得がある?」
俺「組織と一緒に滅びるのは御免だ。あと、あんたに抱っこして貰うのはなかなかに良い体験だった」
格闘家「……わかった」
格闘家は、10秒ほど休憩した後、俺を抱えて起き上がった。
周りのマフィアたちは、何人かまだ立っているものの、満身創痍で格闘家に向かいに来るものはいなさそうだ。
格闘家の娘「……スーー。ハー。」
格闘家は俺を片手で抱えたまま、一人歩き始める……その時だった!
(ドスっ)
武闘家の娘「うぐっ!」
俺の仲間が後ろから飛び蹴りを喰らわせてくる。
そういえばマフィアFはまだ戦えたな。
武闘家の娘「がはっ!」
(ドン!ガラッ)
格闘家は俺を片手で抱えたまま、後ろに振り返ったその瞬間に蹴りを喰らって倒れる。
俺の仲間は倒れた格闘家の顔面を踏みつける。
俺を抱えたまま……結構痛いんだが?
武闘家の娘「うぐっ!、く、くそが!」
っち、もう少し仲間を消耗させてから交渉するべきだったか。
なんて俺が考えていたその時、別の声がこの空間に響き渡る。
剣士「...おい」
(バキッ)
とても低い重圧と冷たさを感じる声。周囲の空気が一気に重たくなる。
マフィアF「誰だ!?」
俺「来たか..」
剣士「...ティアラ。大丈夫か。」
ティアラというのは、たぶん格闘家の娘の名前だろうか。格闘家の娘は剣士の質問に答える。
ティアラ「うん、、なんとか」
ティアラ「それより、こいつを早く殺してよ。」
剣士は格闘家の娘に返答せず、マフィアに視線を向けている。どうやらさっさと片付けたいようだ……怖いな。
マフィアF「まさか、お前が剣士か。なぜここに!?東側にいた仲間は全滅したのか?ボスは?」
剣士「ボスならこれだ(ボスの首を見せる)」
マフィアF「な、、、あ、、?」
(ドカッ)
(ズザっ、バギッ!!)
(ドン!ガシャン!グサッ!!)
マフィアFの質問が終わった瞬間に、彼は一瞬にして蹴り飛ばされて壁激突し、そのまま床に倒れて動かなくなった。
マフィアA「あ、、あ」
マフィアB「なんだ、あいつ..!」
すでに満身創痍で倒れていたのマフィアたちも、剣士のヤバさを感じ取ったらしい。彼らは最後の力を振り絞って剣士から距離を取ろうとした。
だが、武闘家の娘がいるため逃げられない。
ティアラ「逃がさない!」
ティアラは逃げ行くマフィアの行く手を阻む。
そしてマフィアたちの後ろには剣士が迫る!!
俺は見ていた。
剣士はマフィアの蹴りをいとも簡単にかわして、そのままの勢いでマフィアAの顔面に拳で一撃を入れたのだ。
これが剣士だ。いや、やつの名前は、ソルド。
かつて、この町にあったもう一つのマフィア、北林組を1人で壊滅させた伝説の男だ。
うちも、とんでもない奴を敵に回したものだ。おかげで、南林組も今日で全員殺される。
周りにいたマフィアたちは15秒もなく、全員串刺しか首を斬られて死んだ。
残りは、本当に俺だけである。
ティアラ「ソルド!フェイは無事に助けられたの?」
ソルド「...ああ、ギリギリな。ここのボスがフェイを屋上から落としたときはヒヤッとしたが、なんとか寸前で拾い上げた。」
ソルド「気絶しているから、今は屋上の倉庫で休ませている」
ソルド「ティアラ、お前はフェイを拾って先にここから逃げろ」
ソルド「俺は、マフィアの残党を狩ってくる」
ティアラ「了解、でもソルドも一緒に……」
ソルド「……そうしたいのは山々だが、掃除をサボると後が面倒くさいからな。」
ティアラ「うん……わかった。じゃあ先に逃げるね」
さて、主人公たちの感動の再会はおいておいて、俺は今修羅場にいる。
ティアラは約束を守ってくれるのか。守ってくれなかったら俺は確実に死ぬ。
ちなみに今の俺は、流石にティアラに抱き着いてはいない。それをしたら確実に死ぬから。
だが、ソルドが来た最初のタイミングではまだ抱き着いていたので、ソルドからすれば何かしら思うところがあるだろう。
ソルド「おい、そこのお前……」
俺(うおっ!こえぇ……)
(ゴクリっ)思わず唾を飲む。俺の命運はこの男に握られている。それを俺は改めて認識した。
だが、男は意外な言葉を言ったのだった。
ソルド「……いや何でもない」
(スタスタ)
俺(え?なに、怖……)
まるで何事もなかったかのように、ソルドは北林組の死体を片付け始めた。俺に何もしてこないのか?いや、そうは思えないが……とりあえず助かったか?それともこれから殺されるのだろうか……?
ティアラ「ねえ」
(ギュっ)
俺「え?……」
俺は、いきなりティアラに抱き着かれていた。俺は一瞬、思考停止してしまう……だが、すぐに再起動する!
(ギュウ)
俺「く、苦しいんですけど」
(ギチギチ)
あ……これ死ぬやつだわ。俺がそのことに気づいた時には、ソルドはすでにこちらを見ていた。
俺「ちょっと!ティアラ..さん?!苦しい!」
(ギチギチ)
あ、これマジで締まってるわ……本当に死ぬやつだわ。俺は死を覚悟して目を閉じるが、一向に意識は消えない。俺は恐る恐る目を開けてみると、そこにはティアラの足が地面についていた。
ティアラ「え……あれ?君、大丈夫?」
あ……死んだわこれ。本当に殺されるやつだわ、マジで苦しいし痛いしヤバいぞこれ。
ソルド「……お前何やってるんだ」
ティアラ「いや、なんか抱き着いたら苦しそうだったから」
ソルド「……それは、多分こいつの息がもう止まっていたからだ。」
(パッ)
俺「……はぁ……はぁ……た、助かっ……」
ティアラ「ごめん、大丈夫?」
俺「……大丈夫だ」
ソルド「……」
こいつは、おそらく俺を心配しているのではなくただ単に疑問を抱いているだけだろう。
ソルド「なんだか知らんが、そいつはなんなんだ?協力者か?」
ティアラ「そうなの、彼……が居なかったら、私捕まってたかもしれないの」
ソルド「そうなのか、それは助かった。礼を言う。」
(助かったーーー!ティアラさん約束守ってくれたよおおお)
そういいつつ、彼はこちらを睨んでいるようにも見えた。
一応お礼は言われたけど怖いなこいつ……俺は早くこの場から立ち去りたいのだが……
(ゴソゴソ)
ティアラ「ちょっと待って、この人は私が背負ってくよ」
(ヒョイ)
俺(え!?……ちょい待ち!……この状態で彼女から抱きつかれながら密着されるのは色々とまずいぞこれえええ!!)
(スッー、クイッ!ギュウウゥ、グイッ)
俺「……」
(ピキッ!ピキッ!!)
ソルド(あいつの表情が死んでいるな……そしてあの足の動きは、ティアラの拘束から離れようとしているのか?)
俺「ちょ、ちょっと待ってくれえええ!」
(バッ!!!)
俺は思わず彼女を振りほどいて、走って逃げた!!
ティアラ「あ!ちょっと!」
ソルド「……なんなんだ」
(スタスタ)
結局のところ、俺はソルドには殺されず、無事に生還することができた。
ティアラともう少し戯れたかったところはあるが、ソルドがいると怖いし、彼女自体もかなり力加減を知らないしな。。
と、いうか、ティアラの考えがまるで読めない。
あの娘は何がしたかったんだ?突然抱き着いてきて、殺す気だったのか、愛情表現なのか、、はたまたソルドが嫉妬して俺を殺すことを期待していたのか、、
南林組は壊滅してしまったので俺はブラック経歴有の無職だ。ぶっちゃけ路頭に迷うのも辛いな。
あーあ、ティアラとの交渉に、仕事の紹介も含めるべきだったかなあ。
でもまあ、生きてりゃなんとかなるっしょ。
(完)