008 このお話はR15です
初日は複数話投稿いたします。
「お、お頭、いけませんぜ! こいつは童貞のまま売るって決めたじゃないすか!」
うるさい、死にたくなければ引っ込んでろ! と怒鳴られて、見張りの盗賊はすごすごとこの場を後にしていった。
残されたのは牢に入った俺と、目が血走って、息を荒らげている大女。
はぁはぁという荒い息をしながら牢の入口の閂を抜いて入口を開けようとしているが、酔っぱらっているのかうまく外せなかったようで、「じゃまだ!」と吠えたかと思うと、バキリと力で閂をぶち折ってしまった。
「お、俺をどうするつもりだ!」
実はお頭の気が変わって美少女ポジションの俺(自分でいうな)をこっそり逃がしてあげる、というイベントが起こる可能性もあるが、発情した野生の熊を思わせる目の前の女を見るとその可能性は低そうだ。
「ひひひ、決まっているだろ。お前の初めてをいただくのさ!」
酒臭いにおいが鼻から脳へと達する。
気づいた時には途方もない力で引き倒されていて……そんな俺にズィードは馬乗りになっていて。
「せいぜい可愛い声で鳴きな!」
そして俺は思い描いていたシチュエーションとは全く異なる場面で童貞を失ったのであった。
◆◆◆
「あっちゃー、やっちまった!」
酒が抜けて素面に戻ったのか、汗と体液でぐちゃぐちゃになった身体の銀髪ゴリラ女が頭を抱えている。
俺はぐったりとしてその様子を眺めているだけだ。
正直死ぬかと思った。いや、半ば死んでいる。すごい勢いで搾り取られて、抵抗しても力でかなうはずもなく。
獣のような笑みを浮かべて襲い来る場面がフラッシュバックしたので頭を抱えてうずくまる。
「お、お頭? あれ? 男は童貞のままじゃねえっすか。さすがにお頭も思いとどまってくれたんですね!」
牢番の女盗賊が戻ってきたが、なにやらおかしなことを言っている。
俺はもう童貞は卒業した。望む望まないは別にして、俺はもう卒業したのだ……。
「はぁ? お前なに言ってんだ? ん? 本当だ? こいつ童貞のままだ」
「あうちっ!」
力を失ってしまった俺の息子に衝撃を受けて、たまらず叫んでしまう。
「不幸中の幸いだ! 奴隷商人の所に行ってこい。童貞奴隷を売るってな!」
◆◆◆
そうして俺は奴隷商人に売られた。
やってきた奴隷商人は顔をフードで覆っていて目だけが見えている。めちゃめちゃ怪しく、いかにも悪事を働いていますよ、という風貌。
ズィードほどではないが高身長であり、つまりは女なんだろう。
普通は目立たないように背の低い男を遣わせるほうがいいはずだが、おそらくあれだ。男は童貞を識別できないという制約だ。
童貞の奴隷は価値が高い。その童貞情報を見て取れる女でなければ奴隷の売人としては成り立たない。
もし売人が男だったのなら逃げ出すことも出来ただろうが、俺はもうこの世界での女の力を知ってしまっている。
野盗だから強いとかそんな話じゃない。女だから強く、男は従わざるを得ないのだ。
そんな諦めから、俺は落ち着いて事の成り行きを見守っている。奴隷落ちは確定したのだから。
奴隷商人とズィードがもめはじめて、ズィードは舌打ちしながら金を受け取った。
金額はわからないが、どうやら俺は安く買いたたかれたみたいだった。
顔の見えない売人女に連れられてしばらく森を歩かされる。
どこへ行くのか、との問いかけにも答えてくれず、ずっと無言のまま歩くことしばらく。
人が通りそうな道に出ると、仲間だろうか、同じくフード&目出し帽の人間が乗った馬車が用意されていた。
ずっと歩きかと思っていたので、わずかに喜んだ。
小さな馬車の中はすし詰めだった。俺と同じく奴隷として売られた人たちだろう。男だけではなく女もいた。誰もかれもが暗い顔をして俯いており、一言もしゃべることはなかった。
まあしゃべろうとすると合流したもう一人のフードの男の逆鱗に触れるからなんだが。
そして馬車は石壁に囲まれた街へと入り、裏通りにある大きな石造りの建物へと入った。
そこで馬車から降ろされた俺たちは一列に並べられた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル後半の伏線開始です! 勘のいい方はもうお分かりかもしれない。