006 ヒロイン大活躍 その2
初日は複数話投稿いたします。
俺の顔に生温かい液体が飛んでくる。それは突き刺さった彼女の体から流れ出たもの。
「ちいっ、ジャイアントエビルスネークがなんでこんなところに! もっと森の奥にいるはずだろっ!」
「お前ら! この場に居たらみんな死んじまう。あいつらが食われてるうちにずらかるぞ!」
視界の端で野盗たちが散り散りに逃げて行く。
「あうっ……!」
救いの女神(俺のヒロイン)の美しい顔が痛みで歪む。
なんとかしなくては。という思いはある。だけど恐怖で体が動かないのだ。
特別な力があれば、と思った所で思い出したのはスキル【選択肢】の事。
だけど祈っても気合を入れても、うんともすんとも言わない。
状況を打開できない中、蛇はぶんぶんと頭を振っている。
牙が貫通してもまだ生きている獲物の傷口を広げて、体力を奪おうとしているのだ。
「くっ……、こ……このっ!」
だけど彼女もやられっぱなしではなかった。
手に持った剣を巨大な蛇のぐりぐりと突き出た目に思いっきり突き刺すと、そこから稲妻のような電流が走り、大蛇の全身を瞬時に焼き払った。
断末魔を上げようとしたのか、大蛇が口を開いたため、彼女は牙から解放され、そのまま力なく地面に落下した。
大蛇はのたうち回っていたが、じきに動かなくなった。
急に金縛りが解けたかのように、俺の体は動くようになった。
地面に倒れ、目を閉じてぐったりとしている女の子に近づいた。元々の肌の白さなのか、その顔からは血の気が引いている。それもそうだ、彼女が手で押さえている腹の部分や鎧ごと体を貫通している部分から大量の血が流れているからだ。
だが俺はまだこの状況を受け止めきれていなかった。
未だにゲームのような回復呪文を使えば彼女がきっと元気になると思っていたからだ。
もちろん俺も試してみた。右手に力を集中して「ヒール」、接触させないとダメなのかと思い、手を彼女に触れて「リカバリー」、キーワードが違うのかと思い、「回復呪文」や「蘇生」やら手当たり次第に叫んでみた。
だが、何の効果も表れなかった。
俺はどうしていいのか、どう言葉をかけていいのか分からず、あうあうと言葉にならない言葉を発することしかできなかった。
「よかった……、あなたが……ぶじで……」
うっすらと目を開いた彼女がそう言った。
「そんな……かおを……しない、でくだ……さい。わたくしの……いのちが……つきるのは……わたくし、が……みじゅ、くだった……から。……おねえ……さま……もうしわけ……ございません……」
何かを言わなくてはならないと思った。だけど声が出なかった。
「さいご、に……おねがいが……あり、ます……」
俺は命尽きようとしている彼女の手を取り、かすれていく声の中、彼女の最後の願いを聞いた。
彼女の名前はシャニー・グレン・ヴァンデルヴァッシュ。ヴァンデルヴァッシュ家の四女で、家宝の武具を許可なく持ち出して家を飛び出していた。そのため、死後、身に着けている武具を家に戻して欲しいと言うのが彼女の願いだ。
俺の手の中には小さな円筒状の飾りのついたネックレスがある。彼女の家の家紋が入ったものだ。これを見せれば話を聞いてくれると言う事だ。
小さく細いネックレスをぎゅっと握りしめる。
「まじか! あの女、やりやがったのか」
「へっ、しゃしゃり出てきておいて死んじまうなんてな。どうせ貴族の女だったんだろ。高そうなもん着てたからな」
「おうよ、あれをうっぱらえば結構な金になるにちげえねえ」
重い俺の心をあざ笑うかのように、にやけた声が聞こえてきた。
様子を窺うために戻って来た盗賊だ。
お読みいただきありがとうございます。
ヒロインの名前を出すか出さないかで作者に葛藤があったのは秘密。