003 これが俺の切り札だ!
初日は複数話投稿いたします。
でかい。
俺は本能的に恐怖を覚えた。
高校生とはいえ俺の身長は大人と引けを取らないのだが、俺以上にでかく肩幅が広いのだ。
だが、一瞬の恐怖の後、俺はあることに気づいたのだ。
ムキムキの筋肉を誇示するように申し訳程度に胸を隠すだけのブラジャー。下半身を覆うものは邪魔だと言わんばかりにホットパンツのような短いズボンだけをはいたムキムキの足。
この人間は女だ! と。
銀色の髪。ボサボサで手入れもしていない。肌は日に焼けていて、片目に眼帯をしている。鍛え上げられた胸筋と引き締まった尻にぴったりと張り付いたパンツ。俺がこれまで見てきた女とは全く違う生き物だ。
「おうおう、よく見たら童貞じゃねえか。こいつはうまそうだ。いや、高く売れるぜ」
淫蕩な笑みを浮かべてペロリと舌なめずりをする女。
普段ならドキリとして目を奪われる、そんな仕草だったが――
「童貞じゃねぇっ!」
俺は反射的にそう答えていた。
もちろん嘘だ。完全なるチェリーボーイ。だけど俺の魂が、心がそれを認めるのを拒んでいる。誰に聞かれてもそうだ。同級生の友人に聞かれてもそうだ。もちろん好きな女の子に聞かれてもそう答えるだろう。漢としてこれ以外の回答を持ち合わせちゃぁいねえ!
「嘘を言ってるんじゃぁねえよ。俺達女には分かるんだよ。男が童貞かどうかなんてな。だから嘘を言ってもすぐに見破れる。まあ童貞を守りたい気持ちも分からんことはないが、無駄な努力ってもんだ」
「う、嘘じゃねえ。俺は童貞じゃねえっ!」
「ほーう、それもオレ息子ときたか。男っぽくはないが、まあ、オレ息子としての需要もないわけじゃない」
そんな問答をしているうちに、辺りの茂みからガサガサという音がいくつも聞こえ始めて、そして、ガラの悪い、どうも見ても野盗の相貌をしたやつらがゾロゾロと現れた。
目の前の銀髪眼帯の女と同じく、全員が女。同様にガタイがいい。手には鈍く光る刃物をもっているヤツもいる。
「ズィードのおかしらぁ、どうしましたい?」
「見つかっちまったかい。ちょうど旨そうな獲物を見つけてな」
「おお、童貞の男じゃないすか! とっ捕まえて売っちまうんで?」
「そうだ、それにオレ息子ときたもんだ」
「オレ息子ですかい。俺はもっと男らしい触れたら折れそうな男が好きでさぁ」
「ばぁか、そこがいいんじゃねえか。そんな男らしい男なんで食い飽きただろ」
よく分からないことを言ってるが、こいつら俺を値踏みしてやがる。
この場にいてはまずい。逃げなければ確実にひどい未来がまっている。
俺は踵を返して逃げ去ろうとした。
だが、その瞬間ゾクリとする何かを感じて、足を止めて、振り返ってしまった。
「なに逃げようとしてんだぁ? か弱い男が、逃げられるはずないだろ?」
ゆっくりと迫ってくる女。
捕食するものと捕食される者。圧倒的な力の前にこの法則は崩れることはない。
俺は言い知れぬ恐怖を感じて後ずさり、何かに足を取られてドサリと地面に尻もちをついた。
胸を圧迫するどす黒いもの。鉄の重りに心が押しつぶされているような感覚。
だけど俺は無理やりに歯を食いしばった。
ファースト村人が野盗で、即奴隷コースだと!?
あのクソ女神ヤロウ! 絶対に許さねえ!
恐怖に押しつぶされそうになる所を無理やり自分を鼓舞して耐える。
女神許すまじ、という思いを強く胸に刻み込んだ、その時――
――ピロリン
既視感のある音が頭の中で響いた。
俺はにんまりと笑う。
俺のチートスキル……こんな状況を打開するために授かった勇者のための能力だ!
お読みいただきありがとうございます。
お約束の野盗との遭遇。でもなんか違う。