おねえちゃん、やめます。というおはなし。(子育て支援エッセイ)
先日、「おにいちゃん、やめます。」という童話を書きました。
この物語は、3歳のたっくんのおうちに妹が誕生し、新米おにいちゃんとなったたっくんが、赤ちゃんの妹や父母に感じる複雑な心情……嫉妬心や育まれる愛情などを、たっくん目線から表現しました。
筆者は日頃、子どもと関わる仕事に就いていますので、「おにいちゃん、やめます。」は、子どもたちからいつも教えてもらっていることを種にして、それを膨らませた作品となりました。
このエッセイでは、最近起きた出来事をお話したいと思います(個人情報保護の観点から加工しています)。
筆者の仕事の一つは、子どもの心と体の健康支援です。
いつもどおり、私はとある職場にやってきました。
チームで一緒に働く同僚のベテラン歯科女医さんが、笑顔で私に話しかけてきました。
「聞いてくださいよ~、うちの孫の話」
「ああ先生、あの元気な女の子さんですよね?」
「今ね、やきもちで。も~大変なのよ」
私は女の子さんとは会ったことはありませんでしたが、よく先生からその初孫さんのエピソードを聞いていました。たしかまだ2歳で、保育園には入ってなかったなあ。とっても活発で利発な、元気なお子さんだったっけ。
なんだかほとほと困っている様子です。
「やきもち、ですか?」
「先月、下が生まれたの! そしたら、今大変でね? ママが赤ちゃんを抱っこしたら『ここ(床)に置いて』っていうし、おっぱいをあげようとすると「あげないで」ってママの服をしまおうとするし……もうすごいのよ」
先月生まれたばかりだとすると、ママも二人目で慣れているとはいえ、新生児のお世話にてんてこまい。出産直後で体力的にもキツイ。そしておねえちゃんは二歳で、まだまだ目が離せないし手もかかる時期。一人目のときより二人の子育ては忙しい。ママはおねえちゃんの言動に胸を痛めているかもしれないなあ。
「パパにお手伝い、お願いできるんですか?」
「育児休暇が取れてるんだけど、でも来週からもう出勤しなくちゃいけないのよ。私もね、近いから手伝いにいけるけど、ほら歯医者の仕事もあるでしょ?」
歯医者さんも朝から晩まで忙しい。おそらく休みの日か、夜に顔を出す位。
私は、平日、おねえちゃんに対応しながら赤ちゃんのお世話をするママさんを想像しました。赤ちゃんのお世話をするたび、おねえちゃんはママに、「ここに置いて」「おっぱい飲ませるな」と言うのかもしれません。保育園に入ってるわけではないから、朝から晩までママとおねえちゃんと赤ちゃんと、ほとんど同じ部屋で過ごす、ずっと一緒の生活。おねえちゃんが嫌がっても、どうしたってお世話しなくちゃいけないし。元気なおねえちゃんで、主張がはっきりしてるから、ママははっきり言われちゃうぶん、ちょっぴり辛いかも。でもそこはお世話しなくちゃ仕方ない。でもおねえちゃんの気持ちは痛い程よくわかる、だけれども……
おねえちゃんの気持ちは受け止めつつ、そこは割り切ってやるしかないのだけれど……
考えを巡らせていると、先生が訊ねてきました。
「来月には、おさまってるかしら?」
わかります。大人は困っちゃいますからね。早くおさまって欲しいのです。
「うーん、時間はかかると思いますよ……。おねえちゃんにも乗り越える時間が必要なんですよ。パパは、お仕事始まったところで大変でしょうけど、パパ、そして先生もなるべくお手伝いしてあげてください。ママ、結構しんどいと思います。お手伝いするときは、今はなるべくパパや先生が赤ちゃんの様子を見て、おねえちゃんはママと過ごすようにしてあげてください。それと、どうしても上の子は経験することだから、大人はあんまり胸を痛めすぎないようにしてくださいネ」
ママのストレスも心配です。あまり根詰めているようであれば、ママも休息が必要だけれど、状況を伺うとそこまでではないらしいので、今は見守っておくこととします。
私の声かけはあくまでも対応の基本方針です。もし本格的にご相談に乗る場合は、子どもも家族も、その置かれた状況もさまざまですので、ケースバイケース、どうしたらよいかを一緒に考えていきます。
きょうだいのいるご家庭ならば、皆さん経験することですし、成長してしまったら、いつのまにかそんなこと忘れてしまったなあという体験なのだろうと思います。
でも、今現実に、そこに直面して困っている方たちもいる。
当事者たちは本当に大変です。
そして中には、自分一人で対応しなくてはならない方もいらっしゃるでしょう。
誰かに頼れる人も、そうでない人も、もしどうしたらよいかわからない時は、ぜひ地域の保健師さんなどに気軽に相談してみてくださいね。何か手立てを一緒に考えてくれるでしょう。
誰かの力、誰かの知恵を借りながら、力をあわせて乗り越えていく。これが大切なのだと思います。
作品を書いたのが五月の中旬。
どこかの家庭で繰り返されているだろう内容ですが、こんなに近くで、あまりにタイムリーにお話を聞くとは思っていませんでした。
でも幸い、先生のお宅はいまのところなんとかなりそうです。私は後日、先生に様子を聞いてみようと心の中で思いました。状況によっては助けが必要になるかもしれませんから。
「おねえちゃんだから、しっかりしてほしいんだけど」
会話ついでにそう漏らす先生。
二歳の孫にそれは難しいと、先生は充分わかっているのです。でも対応に苦慮する大人の本音が出てしまいます。本人を前にしていないからこそ、言えることもあります。
ですから先生の顏には、『わかってるんだけどね』、とそう書いてありました。
「そう思っちゃいますよねえ。まあでもそれはもうちょっとおねえちゃんになってから、ですよねえ」
私は先生にそう返して、お互いに目と目を合わせながら頷きあいました。
了
お読みいただきどうもありがとうございました。
本文に「今は」とルビがありますが、時期やお子さんの状況により対応も異なります。
童話「おにいちゃん、やめます。」は、子ども側が感じる心情を大人に知ってほしいと丁寧に綴りました。ぜひ目を通していただけますと嬉しいです。おかげさまで大変多くの方に共感していただきまして、作者も驚くと同時に感謝しております。
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