98. リル
「ちょっと!あれ!」
「なるほど......!リリアちゃんナイスだわ!」
「ならば私は......」
「これは、リル様の魂。そのものです。」
ガタッ!
イスを大きく揺らしながら樹生は立ち上がり、未だ燃え上がる青い魂を見つめていた。
「肉体はライーナ様が修復してくれました。......後は肉体にこの魂を入れるだけです。」
リリアの言葉に樹生は震える声で
「じゃ......じゃあリルは生き返るのか?」
「はい。」
「くっ............良かった...」
下を向き拳を固く握りしめながら両の肩を震わせていた。
「良かったにゃ。これで残るはアイギスだけにゃね。」
「ああ、必ずもとに戻してやるぞ。」
樹生とメアの目には覚悟の火が爛々と輝いており、ついさっきまでの悲壮感はもはや何処にも見られなった。
「樹生様、改めて......この度は我々の不手際でこのような事になってしまい申し訳ありません。」
「申し訳ありません。」
「本当に......ごめんなさい。」
メフィスさん、サロメさん、リリアの3人が頭を下げる。
「皆さん......分かりました。謝罪を受け取ります。だから、俺に力を貸してください!改めて俺からも...よろしくお願いします!」
バッと頭を下げる。隣を見るとメアも静かに頭を下げていた。
「樹生様、本当に貴方と言う人は......承知しました。このメフィス、最後まで力を貸す所存です。」
「私も全力で援護いたします。」
「わ、私は......」
リリアは小さくうつ向いていたが、覚悟を決めたように言った。
「最後まで貴方の側で戦います!」
これより、アイギス救出作成が始まろうとしていた。だがその前に...
「早速ですが、リル様を復活させます。こちらに」
サロメさんに導かれるまま、屋敷の庭にでる。多種多様な花や草が生えているが、全体的に色が暗かった。黒や灰色、黒に近い青など。だが...樹生の目にはとても美しく見えた。
「綺麗だな......」
「そうにゃね。戻ってきたって感じたにゃ。」
メアはそう言いながら近場にあった灰色のバラをちょんちょんと弄っていた。
「中央にある泉まで向かいます。」
そう言うサロメさんに付いていくと、庭園の中央にかなりの大きさ泉があった。
「この屋敷の下には巨大な地下水が流れているんです。そしてこの水は膨大な魔力を含んでいます。飲んでみます?」
渡されたコップで軽く掬って口に含む。
「柔らかい......日本でもここまで飲みやすい水は早々無かったぞ。」
「樹生、身体に異変は無いかにゃ?」
「うん?特に無いけど...」
「そうかにゃ。それなら良いにゃ。」
「?」
突然メアがそんなことを言うもんだから、この水がヤバい物に感じてきた。
「リリア?これ飲んで大丈夫なんだよね?」
リリアを見ると驚愕に目を見開いていた。
「な、な......本当に大丈夫...何ですか?」
「え?え?その反応は予想してなかったと言うか......サロメさん?俺に何飲ませんですか?」
サロメさんを見るとどこか納得した顔をしていた。
「申し訳ありません。陥れるつもりはありません。むしろ......確信を持てましたから。」
サロメさんが言葉を切ると話を始めた。
「タツキ様、まずは自信のステータスをご覧になってください。」
「ステータス......」
九条樹生
職業...探求者
スキル...ホワイトマーケット
加護...ウェンディの加護、リヴィエの加護、リリアの加護、アレスの加護
「はっ?」
加護?
「心当りがあるはずですよ?」
「.........確かに、いや...でも」
魔術職じゃないのに魔法が無詠唱で使える。異常なまでの運転技術、どんな危機でも最善の行動が思いつき疑いもせず実行する気概......他にも色々
「加護の影響だったのか。でもいつの間に?」
「聖剣を手にした時、聖布を授かった時、ナイトメアキャットと契約を結んだ時、アイギスが目覚めた時......こんな所でしょうか?」
サロメさんはさらっと言うが、神様達からは何も言われていない。
「そもそもタツキ様......の職業、"探求者"。実は創造神様しか知らない職業なんです。どういった効果があるのか、戦闘向けか、支援向けか、終わりはあるのか、そもそも何を目的として産み出されたのか......一切が不明なんです。」
リリアの言葉を聞いて樹生はゾッとした。
「俺は......自分の事すら何も知らずに、生きてこれたのか......」
まさに神がかりの運であった。
「創造神様が何かしてるとは思いますけど......おじいちゃん、何考えてるか分からないです。」
リリアはスカートの端をキュッと握っていた。
「まぁまぁ...今わかった所で特に意味は無いと思うよ?リリアのおじいちゃん…...創造神様も馬鹿じゃないだろうしね。」
「創造神様を馬鹿呼びですか......流石ですね。」
「サロメさん?真に受けないで下さい。本当に馬鹿だとは思ってないですから。」
嫌な汗がほほを伝う。
「それよりも!これの正体は何なんですか!?」
「地下水は地下水ですが......竜の血が含まれた、非常に魔力量が高いものです。普通は人間が1滴でも飲めば、身体中の穴という穴から血を吹き出して死ぬものです。」
「なんて事だ......俺は死ぬのか?」
「大丈夫にゃよ。タツキにはそれだけの加護があるにゃ。今さら魔力過剰程度で死ぬことはないにゃ。ただ外側はそこらの子供よりも弱いにゃ。自分がゴブリン以下だと言うことを忘れちゃダメにゃよ?」
「肝に免じます!」
やはりビビりなくらいがちょうど良いのだ。これまでも、これからも......
「いやいや、何の話してるんだ?とにかくリルを蘇らせないと...」
「はっ!そうでしたね...では......」
完全に忘れてただろと言う樹生からの鋭い視線を受けながらサロメさんは呪文を唱える。
すると泉の下からリルの身体が浮かび上がってきた。同時にリリアが持つリルの魂も輝きを増し始めた。
「リリア様、魂を...」
サロメさんの言葉にリリアが頷く。手に持つ鳥籠を開けるとふわふわと身体の方に近づいていく。
「タツキ様...下がっていてください。」
リリアは一息つくと…
「"迷える魂よ 汝の主の命の元 再び顕現し もう一度その生を享受せよ" リヴァイブ!!」
激烈な光が辺りを照らす。あまりの明るさに目を伏せる。どれくらい経っただろうか?聞き慣れた声が耳に届き樹生は目を開けた。
「あっ!タッツー!!見て見て!でっかい泉!!一緒に泳ご~!!」
「リル.........あぁ!泳ごうか!」
「僕も行くにゃー!リル!背中貸すにゃ~!!」
ポロポロと涙を流しながら樹生とメアはリルに抱きつくのだった。
「なになに~?そんなに寂しかったの?お姉さん......嬉し泣きしちゃうよー?」
リルも叶わないはずの再開が喜ばしいのだろう。ポロポロと大粒の涙を流しながら一人と一匹を抱きしめた。
「完全に出るタイミングを失ったのぉ、アレス...!」
「良かった......本当に...良かった...」
「ふむ...お主の涙など久しぶりに見たわ......」




