91. リルとの語り合い
「リーブルカイザー......水の女神の差し金ですかね?」
「うむぅ......わしゃあ違うと思うがな。」
「しかもイレギュラーですか。随分とあの男に都合が良いですね。」
「ほっほっほ!戦女神よ、"運"を舐めたらいかんぞ。」
「この海老......凄いな。大きさもそうだけど、身質がよすぎるだろ。」
「むふふ......私の大好物の1つカイザーシュリンプだよー!他にもキングクラブにエンジェルジァイアントクラム......あとブラックロブスターも外せないよねー!」
「聞けば聞くほどわかる高級食材感…...こいつなんていくらするんだ?」
真っ黒のアワビ。もはや黒すぎてダークマター見たいなやつなのだが...
「あー...何だっけそれ。確か........."ブラックジュエル"見たいな名前だった気がする!」
「ブラック......ジュエルかぁ。とんでもなく贅沢な食べ方な気がするよ。」
そう言いながらブラックジュエルにバターを1掛けと醤油をちょびっと垂らす。
「ふわぁぁ......!めっちゃ、いい匂い!!食べていい!?」
「もうちょっと待っててな。あっ、そう言えばリルって嫌いな物とかある?」
樹生の質問にリルはキョトンとしながら答える。
「無いよ?肉も魚も海藻も何でも食べられるよ♪」
「それは良かった。野菜とかも沢山使うからさ。」
焚き火にかけてある巨大な薄い鍋の蓋を取る。フワッと魚介の香ばしい香りとパプリカの甘い香りが広がる。
「絶対旨いやつだな。このサイズのパエリア初めて作ったけどうまく行って良かったよ。」
火から遠ざけ蓋をして少し蒸らしておく。
「さてと......後はアイギスとメアが目覚めるのを待つだけだな。」
「そうだね…...。そうだ!暇だしタッツーの話聞かせてよ!」
「うん?俺の話?」
うんうんとリルは頷きながら、樹生を見つめてくる。
「だってこんなに料理上手だし、ワダツミにも啖呵きれる勇気もあるし......気になるでしょ!!」
「そう言って貰えると嬉しいよ。そうだな......俺が料理をやり出したのは小学生......10歳位のときだな。」
真っ赤になった海老をひっくり返しながら樹生は昔を思い出した。
「初めて作ったのはカレーって料理だったんだ。学校の行事で林間学校......いわゆる野外キャンプ?があったんだ。指も切ったし、火傷もしたよ。野菜はぐちゃぐちゃだったし肉の量も少なかったなぁ。でも、カレーって最終的に美味しくなるんだよな。それが、めちゃくちゃスゲーってなったのが料理にはまる切っ掛けだったな。」
「へぇ~、カレーって言うのがよく分からないけどそんなに美味しいの?」
「そりゃもちろん.........作ろうか?」
「へっ?い、いやぁ...そう言う訳じゃぁ...」
「よだれ垂らしながら言っても説得力無いぞ。時間もあるし作るか。」
ホワイトマーケットでポチポチと野菜を購入。カレールーはもちろん中辛である。
「その日から、お母さんの夕飯作りを手伝ってね。色んな料理本も読んでたし、最後の方は夜ご飯とかお昼の弁当とかも俺が作ってたんだよね。懐かしいなぁ...」
「............」
「将来は料理人になって自分の店を持つんだー!!って息巻いてたけど気づいたらこの世界に来てたんだよね。」
「...............タッツーはさ」
「うん?どうした?」
リルの方を見ると、少し悲しそうな顔をしていた。
「タッツーは召喚された訳じゃん?元の世界に帰りたいと思わないの?家族とか......私は居ないから分からないけど、きっと大切なんでしょう?」
「..................」
ジューっと野菜や海鮮達が焼ける音が満天の星空の下静かに響く。
「そりゃあ心配だよ?何も言えずに突然消えたわけだし。神隠しでももうちょっと前兆とかあるもんだと思うよ?日本にいる家族も心配してるだろうしさ。でもさ...この世界に連れてこられた事を恨んだりしてないよ?フウナさん達との旅は危険だしめちゃくちゃ怖いけど......楽しいからね。おっ!いい感じに野菜が煮えてきたな。そこにカイザーシュリンプの剥き身と臭みを飛ばした小さめの二枚貝を入れて、もうひと煮立ちだな。」
コトコト煮えるカレーを混ぜながら樹生は思う。自分は恐らく日本には帰れないだろう。それに、もし帰れるとしても......
(多分帰らないだろうな。あーでも、手紙くらいは送りたいな。元気だよーって。)
「そっか......なんかごめんね?変な事聞いちゃって。」
「いいよ。それよりも...アイギス?」
「......むっ、バレてましたか。」
「盗み聞きは感心しないよ?」
カタカタと動くとスーッと樹生に近づく。
「ご無事で何よりです。マスター。」
「アイギスもありがとうね。お陰で生き残れたよ。」
「そうそう!アイちゃんのお陰でタッツー守りきれたからね!」
「貴方は......なるほど。理解しました。......アイちゃん?」
アイギスは困惑しながらもメアを起こす。
「にゃにゃ!ここはあの世かにゃ!?」
「メア!目が覚めたのですね。」
「あにゃ?アイギスも死んじゃったかにゃ!?」
「死んでないですよ。ほら、マスターもいますから。」
メアの前では大振りの海老に塩を振っている樹生がいた。
「...........................う」
「う?」
「旨そうにゃぁぁ~!!!」
タタタッとメアは駆け出し、ピョンとドラム缶グリルに飛び乗り...
「アッツーー!!」
「ちょっ!メア!?何やってるの?火傷大丈夫!?」
樹生を困らせていた。
「いや......メア、本当に何してるの?」
「テンションがおかしくなってたにゃ......いたたにゃー。」
「本当本当!メアチー、テンション上げすぎでしょ!」
「メ、メアチー?僕の事かにゃ?」
「そうそう、メアちゃんだから略してメアチー。良いっしょ?」
「そ、そうにゃね......良いと思うにゃ。略してるかにゃ?」
困惑しながらメアは樹生に向き直る。
「どうした、メア?」
「......にゃぁ」
スリスリと樹生の足に体を擦り付けるメア。樹生は何も言わずに頭を撫でて上げる。
「よかったにゃぁ......本当に...良かったにゃぁ...」
しくしくと泣き始めるメアに優しく微笑みながら、海老を焼く樹生であった。
「あの猫......羨ましいわね。」
「何を言うかと思えば......お嬢様が送り込んだんでしょう?」
「それは......そうだけど...」
「うだうだ言ってないで、もてなしの準備始めますよ!もう少しで来ちゃいますから。」




