88. 新たなる島へ
「長い間申し訳ないことをしていましたね。宝珠アイギス。」
「お主が、武具を気にするとは珍しいのぉ。」
「黙りなさい鍛冶神。これでも武具は大切に扱いますよ?」
「多分......これに登れば良いってことかな?」
目が覚めると6時間ほど経過しており、影の位置は動いていなかった。太陽が眺める先とは影の方向だろうと予測。
「恐らくは。マスターは木登りの経験は?」
「あるよ。なんなら得意な方だよ。」
そう言うと、樹生はヤシの木にしがみつきすいすいと登っていく。
「にゃにゃ...意外な特技にゃね。運動音痴にゃと思ってたけど、そんなこと無いにゃね。」
「この世界の人達がヤバいだけで、俺ぐらいは普通だよっと...」
ガシッと葉っぱに掴まると、グイッと上半身を持ち上げる。
「意外と......疲れたな。寄る年波には勝てないか...」
「何を言ってるんですか?マスターまだ未成年...ですよね?」
「そうだよ。今16だからね。」
「16?ならば成人済みですね。」
どうやら、この世界での成人は16らしい。
「うん?なら酒飲めるってこと?」
「はい。合法です。」
「そっかぁ......合法か...。いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない!何か変化は......」
改めて周りを見渡すと、今までは見えていなかった物がはっきりと見えた。
「別の島だ!アイギス、見える!?」
「はい!はっきりと!!」
樹生とアイギスが指を指しながら話をしていると下からメアの声が聞こえてくる。
「にゃにゃ!?でっかい島が見えるにゃ!!」
どうやらメアも見えるようになったようだ。
「それで?どうやって向かうにゃ?」
メアは島を眺めながら聞いてくる。そんなに離れていないとは言え、泳いで渡れる距離でもない。
「だからこそ、俺の出番だね。いでよ!水上バイク!!」
ボンっと浜辺に水上バイクが現れる。
「にゃにゃ!?いきなり何かでてきたにゃ!」
「これは...小さな船ですか?」
樹生はバイクにまたがり、エンジンをかける。
「メア!アイギス!おいで!」
ピョンと樹生の頭の上にメアが乗り、背中にアイギスが寄り掛かる。
「それじゃあ、行くよ!吐きそうになったら海にぶちまけてね!!」
ゴーグルをかけアクセルをにぎり樹生達は次の島えと向かう。
「凄い速度にゃ!!タツキ凄いにゃね!」
「自転車感覚だと舐めてたけど…結構厳しいな!」
波はそこまで高いわけではないが、初めてと言うこともあり正直かなり怖い!
「むっ!マスター!何か来ます!!」
アイギスが叫ぶとパシャパシャと何かが前から突っ込んでくる。
「なんだあれ......飛び魚?」
「ソードフィッシュにゃ!」
ザバッァ!!
「なんだこいつ!!」
「にゃぁぁぁ!」
どでかい半魚人が現れる。俗に言う海坊主と言うやつだろう。
「うぉぉぉぉ!!」
振り下ろされる左手を避けるように右に急ハンドルを切る。樹生もメアも振り落とされないよう必死にしがみつく。
「急いで離れないと...!!」
迫り来る波から逃げるように、アクセル全開でぶっとばしていた。
「にゃにゃ!アイツ死んだにゃ!!」
メアが海坊主を見ながら叫ぶ。腹に無数の穴を空け倒れると同時に真っ二つに裂けてしまった。
「うぷっ......」
「なっ!ソードフィッシュ...聞いた事はありましたがまさかこれ程とは!!」
水上バイクの側面からソードフィッシュが突っ込んでくる。
「マスター!急ぎ移動を!私が......守ります!」
3倍程の大きさになったアイギスが樹生達を守るように側面に展開する。
「うぉぉぉ!!」
ズカンズカンとアイギスにソードフィッシュが激突している。
「もう少しにゃ......」
「メ、メア!そう長くは耐えられませんよ!」
詠唱を始めるメアにアイギスが叫ぶ。アイギスといえどソードフィッシュの大群から攻撃を受け続ければ、消耗が激しいようだ。
「んにゃにゃにゃ......出来たにゃ!!」
「んくっ!マスター...申し訳ありません…」
アイギスはもとの大きさに戻ってしまう。すると待っていたかのようにソードフィッシュが速度を上げる。
「アイギス!よく耐えたにゃ!!」
メアの目が怪しく光る。
「スリプルロアー!発動にゃ!!」
メアが叫ぶとソードフィッシュは徐々に数を減らし、最終的に一匹もいなくなった。
「はぁはぁ......殺意高すぎだろ。」
「死ぬかと思ったにゃぁ...」
「私も魔力が少なくなって......」
ザバァァァァァァン!!!!
「ガァァァァァァァァァァァ!!!」
「「「うわぁぁぁぁぁ!」」」
いきなり真っ黒の巨大な怪物が現れる。樹生はアクセル全開で島へ向かう。後ろがどんどん青く発光し始めるが、振り返らず全速力で離れる。
「............マスター!」
視界が青白く染まるなか、咄嗟の判断でメアを抱きしめ水上バイクから飛び降りる。アイギスに呼び掛けられたのを最後に意識がとんでしまった。
「グルルルル......」
巨大な化物は木っ端微塵に吹き飛んだ水上バイクを見ながら満足そうに海の底へと帰っていった。
(マスター...メア...信じて...ま...す...)
魔力ぎれをおこしアイギスは元の宝珠に戻ってしまう。樹生とメアは深い深い海の底へと沈んでいってしまうのだった。
後書き
「お嬢様!?どうするんですか!異世界人くん死んじゃいましたよ!?」
「サロメうるさい...」
「ど、ど、どうしましょう......ハデス様に知られたら...」
「大丈夫よサロメ。あの人はこの程度じゃ死なないわよ。」




