77. 嵐2日目
「ムフフ......さぁタツキ君?早く来なさい。」
「あぁぁぁ......恥ずかしい...」
「あんたねぇ...自分で蒔いた種でしょうが。シャキッとなさい。」
「んっ......苦しい......暑っ......」
朝......かどうかは分からないが、とにかく蒸し暑くて目が覚めた。外はまだ嵐が収まっておらず、むしろ勢いが増している気がする。
「とにかく...朝ご飯の準備を…......うん?」
体がピクリとも動かない。首も足も腕も......まるで全身を縄で縛り上げられてるような感覚。
(待て......目の前にある山はなんだ?背中にあたる柔らかい感触は?)
意識がはっきりとするにつれて樹生の背中に嫌な汗が流れる。
「むにゃ......タツキしゃん...」
耳もとでルビアの声が聞こえた瞬間、全身に冷や水をかけられたように鳥肌が立つ。
(まずいまずいまずいまずい......16の精神衛生に良くなさすぎる!!)
目だけ動かし何とか状況を理解しようとして......
「ジー--…......」
「や、やあクウ?おはよう?すぐご飯作るから助けてくれると…...」
「ワフッ(馬鹿)」
プイッとそっぽを向いたクウは去ってしまった......
(なぜ!?)
「ク、クウ?待って......助け...」
ムギュッ......ギュゥゥ......
「ムグ!」
「.........しらないもん」
クウはまだ寝ているフウナさんの元へと帰っていったのだった。しかし純情な乙女の心を弄ぶとは…九条樹生、罪な男である。
ちなみに目を覚ましたルビアにかなり強烈なビンタを食らった樹生。もう二度と同じ過ちを繰り返さないとリーシェルさんを睨みながら心に誓うのだった。
「ふふふ......タツキ?後で話し合いよ。」
「マスター......少し、ほんの少しですが引きました。」
「まったく、あんた何やってるのよ…」
「所詮バカマスターって事ね。いい?面白いこと教えてあげるわ!」
そう言いながらキシーがカタカタと動く。
「女を誑かせて泣かせた男ってのは......ろくな死に方をしないわよ♪」
「はい......肝に免じます。」
ショボーンと気を落としながら、鍋をかき混ぜる樹生。中には以前作り置きにしておいたクラムチャウダーが入っていた。朝食べようと作って置いたものだが結局食べず保管庫に入れっぱなしになっていたもの。
(味は......大丈夫だな。あの時暖かいまま入れておいたけど冷めてないってことは本当に時間が止まってるんだな。)
後はパンを......
「あ!マジか......」
保管庫を見るとあれだけあったパンが無くなりかけていた。
「とりあえずは足りるけど.........また会えるかな?」
異世界に来て初めて食べた物がこのパン。樹生にとってはかけがえのない物なのだ。
「あら?このパンもっと無いの?」
フウナさんがパクパクと食べながら聞いてくる。
「そうなんだよ。暫くはホワイトマーケットで代用しておくか。」
ホワイトマーケットを開き色々なパンを購入したのだが...
「やっぱり異世界のパンのが旨い......何故だ?」
こう言うのって日本のパンふわふわ~とか、こんな真っ白のパン食べたこと無いとか…そんな展開なんじゃないか?
「あの人何者なんだ?」
日本の大企業の努力をも軽く凌駕するお姉さんの実力に驚愕するのだった。
そんなことを考えながら、ちらりとクウを見る。普段ならご飯と聞けば飛び付いて来るのに…そんなに今朝の事が気にくわないだろうか?
「なぁ?クウ?俺が悪かったから。機嫌直してくれない?」
「.........知らないもん。」
「知らないかぁ......あれは不可抗力っていうかさぁ。」
「ふん!お兄ちゃんなんて知らないもん。」
「そう言わないでくれよ......」
樹生とクウが"会話"しているのをフウナさんは口をあんぐりと開けて見ていた。そして立ち上がるとゆっくりこちらに来る。
「ね、ねぇクウ?ママも許してあげて欲しいなぁ~って思うんだけど...」
「ママうるさい!」
テシテシと地を叩く。可愛いなと思うが、いかんいかんと気を引き締める。そこで樹生もある事実に気づく。
「私もギュッとしてくれなきゃヤダ!」
「「うん?」」
フウナさんと樹生は顔を合わせる。そして......
「「しゃ、喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」
「え、え?いつから!?」
「そ、そうよ......ママに言ってくれれば…」
ワタワタと慌ただしい2人だが何処か嬉しそうであった。そんな2人を見てクウは意地を張るのも馬鹿馬鹿しいと思った。
「......ちょっと前からかな?まだまだだけど...」
確かにフウナさんやアーサー程流暢では無いが、それでもきちんと喋れていた。
「......お兄ちゃん。」
「ど、どうした?」
「意地悪してごめんなさい......」
クウがペコリと頭を下げる。樹生は不可抗力とは言え罪悪感がものすごかった。
「クウ......俺もごめんな。」
樹生がそう言うとクウは抱っこのポーズを取った。抱き上げ暫く抱き締めていた。一方その様子をルビアは遠目で眺めており…
「羨ましい......はっ!わ、私は何を...」
等と顔を赤らめていたのだった。
「今日はどうしますか?」
全員で円を描くように座り今後の話をしていた。外はまだ嵐が続いていた。アーサーやフウナさん曰く明日には収まるそうだが......
「暇ね......私は寝ていようかしら?」
「そうですね。」
フウナさんとアーサーはゆっくりしていると言っていた。
「私は......お兄ちゃんと一緒にいる。」
「ならタツキ、昨日の続きやっちゃいましょうよ!」
「そうだね......終わらせちゃおうか。」
樹生、シルエル、クウは荷物の整理。
「では私達も手伝いましょうか。ね?ルビア様?」
「え?あ、はい!タツキさん私も手伝います!」
どうやらルビアとリーシェルさんも手伝ってくれるようだ。
「ありがとう。じゃあフウナさん!アーサー!」
樹生が呼び掛ける。
「お昼何食べたい?」
「美味しいものだったら何でもいいわ。」
「マスターのセンスに任せます。」
なんとも難しい答えが帰って来たものだ。
「ははは......わかりました。」
そう言いながら頭を悩ませるのだった。
「よし!取り敢えず仕込みしながら持ち物を整理しようか。」
バッと立ち上がると樹生は朝ごはんの片付けを終わらせるのだった。
そして......
「さぁ!お昼は!......キュウ...」
ぶっ倒れるのだった。唐突である。全く神様達も樹生の身体を労って欲しいものだ。咄嗟に飛び込んだクウがいなければ頭を打っていたのだから......
「お兄ちゃん!!」
ぶっ倒れるタツキの頭の下にクウがダイブ!!
「......大丈夫?」
「..................」チーン
「はぁ...............手のかかるお兄ちゃんだなぁ...」




