74. 嵐1日目
「ねぇ...貴方の聖剣自我芽生えてない?」
「.........知らない。そんな事知らない!」
「怪しいわね......」
「タツキ......起きなさい。」
「うぅん......フウナさん?ふぁぁ...おはよう」
フウナさんに小突かれて樹生は目を覚ます。ルビアやリーシェルさんは既に起きていた。どうやら一番のお寝坊だったようだ。
「朝ごはん......すぐに作りますね。」
「その前に移動しましょう。嵐が来るわ......」
フウナさんが遠くを見つめていた。確かに曇り空ではあるが...
「相当荒れそうね......」
「マスター雨具の類いはありますか?あるならば準備を。」
シルエルとアーサーも心配そうだった。一体どれだけ荒れるのだと言うのだろうか?
「ワフッ!(急ごう!)」
「そうね.........どこか隠せる場所があればいいのだけど。」
そんなフウナさん達にリーシェルさんが提案した。
「ならばこの先の渓谷に向かうのはどうでしょう?身を隠せる洞窟ならいくらでもあるはずです。」
「......分かったわ。それじゃあアーサー!」
「どうしましたか?」
「2人をお願い。私がタツキを乗せるわ。」
「それは聞けません。私がマスターを乗せます。」
「「............」」
バチバチとフウナさんが帯電を始め、アーサーは自身の回りに炎を纏う。一発触発の危機であった。
「あの時は仕方なかったとは言え貴方に譲りましたよね?」
「何を......年長者は譲るべきでは?度量の広さを見せるべきですよ?」
お互いに煽りあいさらにバチバチと牽制しだした。ルビアとリーシェルは完全に怯えきっており震え上がっていた。
「ちょっと!タツキ、何とかしてよ。」
「うぅー(お母さん...)」
シルエルもクウも困り果てていた。キシーはというと...
「............」
沈黙を貫いていた。我関せず......か。
「はぁ......」
樹生が重い腰を上げフウナさんとアーサーの元に向かう。
「貴方とは1度戦って見たかったのよ!」
「奇遇ですね......!」
今......最強同士がぶつかり、世界が崩壊する!!
「せい!」
「あいた!」
「むっ......」
事はなく、樹生の介入によって争いは終了した。だが......
「2人とも?ちょっと......話そうか?」
ゴゴゴ......
普段怒らない人が本気で怒ると怖いとは言うが......
「エンシェントウルフとフェニックスに対して説教ができる人間なんてタツキさんぐらいですね......」
「そうよ...タツキは怒ると結構怖いからね。」
ルビアとシルエルは額に筋を浮かべガチギレする樹生を眺めていた。
一方リーシェルさんとクウはというと...
「貴方は止めにはいらなくていいのですか?」
「ワフッ!(お母さんが悪い!)」
遠くで雷が鳴り始めるなか、こっちでは樹生が雷を落としていた。
「全く......」
「ごめんなさいね......」
「申し訳ありません。」
現在渓谷へ向けて走っていた。樹生はフウナさんの上におり、アーサーはルビアとリーシェルさんを運んでいた。
「......普段頼りになるのにどうしてポンコツになるかなぁ?」
「しょうがないじゃない......」
フウナさんはしょげているが、もっと酷く落ち込んでる者がいた。
「な、何かごめんなさい?」
「............別に...構わないですよ...」
アーサーは今にも泣きそうなか顔をしながら飛んでいた。フウナさんにとってはタツキは恩人であり、アーサーに取っては産みの親でもある。だからこそお互いに譲れないのだ。不毛な争いであることは理解しているが......
「まぁ......今は渓谷を目指す事を考えよう。」
不穏な雷雲が既に近づいているのを樹生は不安そうに見つめるのだった............
「もう......これ!ヤバイ!......ああああ!!」
「タツキ......さん...もう少しです!」
滝のような雨、地表をめくり上げる暴風、全てを粉砕せんとする雷......そこは正に地獄であった。
「フウナ!もっと速度上げられる!?」
シルエルは対風障壁を張りながら声をあげる。
「ふふ...私を誰だと?この程度!!」
「フウナ!貴方は大丈夫かも知れませんがマスターは......あれ?」
樹生には聖剣と神布レーヴェの加護がついているお陰で何とかなっていた。それでも衝撃はあるわけでかなり辛そうであった。
「ワフッ!(何かいる!)」
「これは......我が手に宿れ 光の矢 天まで届け! シャイニングアロー!」
リーシェルさんの手から光の矢が放たれる。闇を切り裂き雷雲に突き刺さる。
「ギィィィィ!!」
すると翼に傷をおったサンダーバートが現れる。
「いつぞやの親子丼ー!!デッカぁぁあ!!」
翼を合わせたら5メートルはあるだろうか?
「ピィィィィィィィ!!」
アーサーに襲いかかるサンダーバート。
「アーサー!タイミングを合わせます!」
「はい......!」
アーサーはサンダーバートの突進を、回避し頭を掴む。そのまま握りつぶしフウナさんに向かって投げる。
「ちょちょちょ......なにしてんの!!」
「タツキ!行くわよ!」
まさか......あんたら......
「せい!」
フウナさんがジャンプしてサンダーバートをキャッチ。察して保管庫にぶちこんだ。
「ナイスパスよ。アーサー」
「そちらこそ…良いシュートでした。」
こんな暴風雨の中何やってんだよ......
案外余裕に突き進む樹生一行であった。そして目的地の渓谷に到着。ちょうどいい洞窟を見つけ暫くは滞在することが決まったのだった。
「暇ね......」
「そうね......」
「アゥゥ...(暇ぁ)」
「.........ふむぅ」
まったく...リーシェルさんとルビアは疲れ果てて寝ていると言うのに...
「皆は元気だね......」
樹生は骸となったワイバーンの山を見る。
「レッサーワイバーン......どうすんのこれ?」
この渓谷にはレッサーワイバーンの巣があり最初は楽しそうに狩りをしていたが途中から駆除になっていた。
「タツキ~!暇ぁぁぁ...」
シルエルがふらふらと......そのままポスッと樹生の元に来る。
「どうしたの?」
「むふふふ......」
樹生はあぐらをかいてホワイトマーケットをポチポチと弄っている最中だった。
「......何してるの?」
「色々と買いたい物がね......そうだ!シルエル今暇?」
「暇よ...だからここに来たのよ。」
樹生はホワイトマーケットを保管庫に切り替える。そこには沢山の金銀財宝や伝説の武器防具、魔獣の素材や鉱石などが無造作に突っ込んであった。
「これを整理したくてね......」
「へぇー...以外と色々あるのね!分かったわ、手伝うわ!」
シルエルは快諾。断られるものだと思ったが...
「呪いとか魔術とか色々、危ない物があったりするからね。それに案外好きなのよこう言うの。」
そう言いながら綺麗な石を拾い感嘆の声を上げていた。
樹生にはあの石の価値は分からないが、かなり良いものなのだろうか?
「それじゃあ財宝系から終わらせようか!」
樹生とシルエルは煌めく財宝を一つ一つ手に取り仕分けを始めるのだった。
最初に目に入ったのは真っ黒の水晶のような物。こんな物あったっけ?などと思いながら手に取る。
「............!!タツキ!!」
シルエルが驚愕しながら声を上げる。
「これ?何だっけこれ?」
禍々しいオーラを放つ水晶のようなもの。中を見るとどす黒いオーラが渦巻いていた。
「タツキ!貴方これ持ってたの!?」
シルエルが奪い取ると、何やら封印のような物を施した。
「だ、大丈夫なの?」
「大丈夫なわけ無いじゃない!!」
シルエルが樹生の手を見る。とても焦っているようで冷や汗をかいていた。......しかし、樹生には何も起きてはいなかった。
「あ、あれ?......あのレベルの呪いの塊よ?なんで......」
焦ったように樹生の顔を見上げるシルエル。不安と驚愕と安堵と......色々な感情がぐちゃぐちゃになった表情をしていた。
「大丈夫だよ?多分"これ"のおかげだけど......」
首元に巻かれた水色のマフラーを触る。神布レーヴェ。痴女神......違う違う!えっと......あ!そうそう、女神リヴィエ様から頂いた神器である。
「薄々気づいてたけど......状態以上無効化かな?とにかくこれさえあれば......シルエル?」
「.....................バカァァァア!」
うつ向いてプルプル震えていたシルエルが泣きながら胸に飛び込んでくる。
「バカバカバカバカぁぁぁ!!!!」
嗚咽混じりの罵倒にタツキも申し訳なる。
ファフニールの一件以降シルエルは樹生の身をよく心配していたのだ。なのにも関わらず危険物を触らせてしまったという事実がシルエルを苦しめてしまった。
「............ごめんね。」
「ぐすっ......バカ...」
暫くの間涙を流すシルエルを樹生は優しく慰めていた。
「全く......もう少し用心しなさいな。」
遠くで欠伸をしながらフウナさんがそう呟く。クウやアーサー、ルビアにリーシェルさんは既に寝てしまっていた。嵐は弱まる所を知らずゴウゴウと轟音を立てていた。それでも...
「あ!これなんて高く売れるわよ!」
「そうなのか?よく分からん......」
仲直りしたシルエルと樹生は宝石類の仕分けを進めていくのだった。
「結局あれって何だったの?」
「ドラゴンゾンビの核よ。忘れちゃった?」
「あああ!アイツか!うぇぇ......思い出しただけでも鳥肌が。あれ?でも大丈夫だって…」
「指輪に比べたらね。......これに懲りたら無用心なことはしないことね」




