63. 蟹鍋
「にゃにゃ!!出口にゃ!!」
僕は明かりに向かって走り出す。その先にはきっと暖かい日差しがあると願って。
「やっと出れたにゃ~!!………………………?」
ヒュゴォォォ………………
「…………………にゃ、にゃんだと?」
私の名前はルビア。
生まれは平凡な家庭。優しい両親とおてんばだけど可愛い弟が一人の普通な家庭。村の人たちも皆優しくて幸せな毎日だった。……………狂ってしまったのはなぜだろうか?
「ルビア!!ロイを連れて逃げなさい!!」
今でも思い出す母親の最後………………ゴブリンの大群から私達を逃がすために囮になった。その後は知らない。
「いいかい?ルビアはお姉ちゃんだ。これから辛いことも多いだろうけどロイと一緒に頑張って生きるんだよ。」
父親は追ってきたスケルトンの大群との闘いの最中に私達を崖から海に落とした。落ちていく最中、父親は最後までこちらに笑顔を見せていた。
「………………………オ、オ、オネェ……チャン」
弟はグールになった。あいつに出くわし魔力を流し込まれ弟は変わってしまった。そしていつも夢はそこで終わる。
「…………………何で…………こんな」
樹生はそっと女の子の頭を撫でてあげる。さっきからずっとこの調子で泣きながら魘されていた。小さく震えており相当な悪夢を見ているのだろう。
「………………………アリスさんの時もそうだけど、もしかして俺に似た奴が悪事でも働いてるのかねぇ?」
雷光のアリスさんが俺に攻撃してきた理由も「俺に似た男に
故郷を滅ぼされた」と言ってたし。
手鏡を見ながら少し考える。
黒髪黒目、the日本人と言える顔立ち。
正直わからないが…‥‥‥もし同郷の人間が起こしている惨事ならば関係無いとは言えない。それにあの国なら過去にも同じように召喚の儀式をやっている可能性もある。
「うーん………俺バカだからなぁ……そういう事はわからないし………今考えてもしょうがないか!!とりあえず蟹食べるか!」
鍋を開けようとしたその時
「う、動くな…………くそ野郎。」
彼女が目を覚まし剣を向けていた。
それに対し樹生は両手を上げた。
「とりあえず…………落ち着こう?争ってもいいこと無いと思うよ?」
「どの口が言うのですが!幾つもの村や街を滅ぼした異端者!それが貴方でしょう!異世界人タツキ!!」
まだ体力が回復しきってないのだろう。呼吸は荒く剣を持つ手も震えていた。
「その首を差し出しなさい!そうすれば一撃で終わらせて……」
グゥゥゥ~…‥……‥
洞窟内で響き渡る謎の音。まるで猛獣の唸り声のようだが……正体はずっと可愛いものだった。
「つっ………\\\」
顔を真っ赤にしてもうつ向く女の子。どうやらお腹が減っていたようだ。
「積もる話もあるみたいだし………食べますか?」
鍋の蓋を開けると蟹の香ばしい香りがふわりと広がる。
ああ…………旨そう。
「だ、誰が………そんな……もの。」
蟹を取り分け渡す。すでに目は蟹に釘付けだった。
どうやら彼女の正義は食欲に屈したようであった。
「ハフハフ………それは本当ですか?」
パクパクと蟹を食べながらルビアさんはそう言う。
「うん、俺が召喚されたのは1ヶ月前だからね。残念だけど異端者では無さそうなんだよね。……………蟹うま。」
パクパクと蟹を食べる。鍋だけでは飽きたらず七輪を購入し焼き始めていた。
「だから、その"タツキ"と俺は別人だよ。同郷の可能性はあるけどね。はい、焼けたよ。」
「ありがとうございます。……………そうでしたか。私達はとんだ勘違いをしていたようですね。」
ペコリと頭を下げるルビアさん。
「………………ここまで言っておいて何だけど、俺の事疑わないの?君の事を騙してるとか……」
樹生がそう言うとルビアさんはキョトンとした後笑いだした。
「あはは……何を言い出すかと思えば。貴重な食糧を敵だった私にこんなに沢山振る舞うお人好しの貴方を疑うわけ無いでしょう?それに……‥」
ごそごそと何かの機械を取り出した。
「これは嘘発見器です。貴方が一つでも嘘をつけばこれが反応するのですが…………問題も無いようですし。」
さらっと恐ろしい物を出してくる。よくよく見ると小さく「シリラ」という銘が打ってあった。
「…………………‥…なるほど。それは信頼できますね。」
背筋がゾッとした。
「ふふ、面白い人ですね。…………パクっ、美味しい~♡」
(……………フウナさん達はどうしてるだろうか?多分探してくれてると思うけど……)
「思ってたより早かったわね。」
カチャカチャと孵化装置の最終調整を行いながら純正魔鉱石をはめる。どうやらフェニックスを迎える準備は整ったようだ。
「後はタツキ君の帰りを待つだけだけど.…………嫌な予感がするわねぇ。」
コーヒーをすすりながらシリラさんはフェニックスの卵を見つめていた。
卵はとんでもない熱を放出し続けており、孵化の時は着々と近づいていた。
「なるほど………ルビアさんは今リーシェルという人を探しているんだね。」
樹生はルビアと二人で洞窟内を進んでいた。歩き出して数十分といった所だが人の気配はない。
「はい。腕の立つ方ですから。ゴブリンやオーク程度にやられるような人ではないですから。……………っと、お出ましですね。」
「グルルルルッッッ…………………」
のそりと暗闇からオークが現れる。手に持っている棍棒には血がべっとりとこびりついていた。
「近くで見ると…………結構怖いですね。」
最強の武具をもってしても心までは強くなりそうにない樹生であった。
何とか異端者疑惑は晴れた樹生君。しかし、一難去ってまた一難という言葉があるように…………まだまだ苦労が絶えなそうですね。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!




